《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第十一話 新生活

一人の大人の力が、これほど大きいとじたことはなかった。逆に言えば、未年とはいかに社會的能力がない存在かを思い知らされる。今まで姉妹が思い悩んできたことが、俺の協力だけで続々と解決されていく。

たとえば、家の問題があった。契約が両親とされているので、姉妹が追い出されそうになっていた件だ。名義貸しという形にはなるが、俺の名義で部屋の借りれを継続する了承を得ることができた。大家の爺さんにはかなり渋られたが、先に12か月分の家賃を前払いする約束で無理やり納得してもらった。

また、お金がなければなにもできない。実は彼たちは、さまざまな料金に対する支払いを滯らせていた。攜帯電話・プロバイダ契約・電気熱費など、預金口座からの引き落としではなく直接振り込む形に変更したことで、無事に継続させることができた。

當然のことながら、俺にのしかかる負擔は多い。かなり貯金をしていたからなんとなっているものの、これまで以上に仕事を頑張る必要がある。殘念ながら、未年者が働くには、両親や後見人の承諾が必要となるため、現在の狀況でアルバイトをさせることはできない。後見人になる手続きが面倒だし、両親がそのうち見つかる可能も考慮して、特に変更はしないこととした。

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なにからなにまで面倒を見ている俺に、姉妹は大きな引け目をじているようだった。

二人とも、恩をけたまま逃げるような強かさなどなく、申し訳なさで消え行ってしまいそうなくらい恐していた。繰り返し、見返りを求めているわけではないこと、俺が放っておけないから勝手にしていること、ひとまずは健やかに生活してほしいことを告げたが、いつも俺に対してなにかできないか模索しているようなところがあった。

* * *

朝。寢ぼけ眼の俺の前にいるのは、平川晴香だ。

俺の部屋の小さなテーブルには、やたらと豪華な朝食が並んでいる。ハムエッグ、炊き立てのお米、みそ、サラダ。普通であれば朝食は抜くのだけど、ここ最近は料理を作って持ってきてくれる。ちなみに、平川実里は、俺の橫で眠そうにあくびをしている。

「尼子さん!」

朝に弱い俺にとって、晴香の元気な聲はなかなかきつい。

「今日もお仕事頑張ってください! 夜ご飯はなにを食べたいですか⁉」

「なんでもいい……」

「あと、殘業するときは教えてください! じゃないと溫めなおす時間が」

「うん」

學生のときを思い返す。そこまでする必要はないのに。

あの日以來、晴香はやたらと俺の世話を焼こうとする。アルバイトで金を稼げない以上、俺にできることがこれしかないと思っているのだろう。自墮落な俺としては助かるのだが、もうし肩の力を抜いてほしい。

「ごめんなさい、尼子さん……。晴香は、結構面倒くさいんです」

実里は目の下をこすっていた。二人とも高校に復帰したらしく、制服姿だ。はっきり言って、二人が俺の部屋にいるのは非常によくない。とはいえ、恩を著せてしまった以上、関係を斷つわけにもいかない。

「姉さんもしは手伝って。なんで、尼子さんの隣でのんびりあくびしてるの? わたしたちは、尼子さん専屬の家政婦として恩を返すしかないんだから」

「無理に押しかけてすることじゃないでしょ。やりすぎると迷になる」

「どうなんですか、尼子さん?」

二人の視線がかちあう。以前に見たような悲壯に満ちた瞳ではない。

「ありがたいよ。でも、たまにご飯を作ってくれるだけで十分だ」

「わたし、このまえ時給換算したんです。多めに時給1500円と換算しても、尼子さんにすべてお返しするまでに4000時間かかります。一日5時間費やして、2年半で返せる計算となります。まだまだ全然足りません」

「そうかい」

「はい! なので、尼子さんの家事をすべて引きけます。もちろん、それですべて返しきれるとは思いませんから、他にも手伝えることがあれば教えてください!」

「ほら、面倒くさい……」

ちなみに、目覚まし時計が鳴る前に押しかけてくるため、早起きの習慣がに著いた。部屋が散らかっていると勝手に片付けはじめる。クレームをつけようとするとすごく殘念そうな顔をするから、なにも言えなくなってしまった。

ご飯を食べ終えると、晴香が食を片付けてくれる。一人暮らしのはずなのに、まるで同居しているのかと思うくらい一緒にいる時間が長い。

職場での晝休み。食堂から戻ってくると、スマホが震えた。

はるか:尼子さん。よかったら、今度お弁當も作らせてください

既読をつけたくなくなったので、通知で現れたメッセージをスライドする。と、背後に人の気配をじて、あわてて振り返った。

「……なに。お化けでも見たようなリアクション」

中嶋さんだった。どうやら、ちょうど席を立ったところらしい。

「ちなみに、畫面は見えていないから大丈夫よ。お弁當?」

「見えてるじゃないですか……」

死んだような目をしているのに、意外と視力がいい。タンブラーを手に持っているから、休憩室で熱湯を汲もうとしているところなのかもしれない。俺がスマホを隠そうとすると、顔を近づけてきた。

「彼? 隠そうとすることないでしょ」

「プライベートです。ちなみに、彼ではありません」

「彼でないなら、逆に問題よ?」

あの文面をすべて見られたのだとするとそのとおりだった。しかし、彼とごまかすのも非常に問題である。なにせ、相手は子高生だ。

「俺の姪っ子が料理の練習をしているんです。だから、毒見役をしてほしいってことですよ」

「姪? 兄弟がいるの?」

「兄が一人。近くに住んでいるので、たまに會うことがあるんです」

近くに住んでいることは噓じゃない。ただ、めったに會うことはない。

「でも、尼子君の姪って料理できるほどの年齢? だいぶ歳が離れているのね」

「姪はめちゃくちゃしっかりしているので」

ちなみに、兄の子供は男で3歳である。料理なんてできるわけがない。あまり納得できていないのか、中嶋さんは訝しげに首をかしげている。ぼさぼさの長い前髪。丸まった背中。本當にお化けなんじゃないかというくらい不気味だ。

「てっきり、ハムスターにしか興味がないと思っていたわ。さっきの話が噓かどうかわからないけど、楽しそうでなによりよ」

「ペットのことしか考えてない獨りの男ってやばい……」

「最近、なにか思いつめてる様子だったから、し心配していたわ。杞憂だったようで安心ね」

「え?」

そういえば、姉妹の借金を知ってから、そればかりを気にしていた。なるべく表に出さないようにしていたつもりだったが、案外、周囲に気取らせてしまっていたのかもしれない。

「先週なんて、の気が引いたような表をしていたじゃない。仕事で重大なミスをしたじでもなかったから、よけいに気になっていたわ」

「すみません……。調があまり良くなかったので」

「わたしが言うのもなんだけど、たまには休んだらどうかしら。姪っ子と一緒に料理の練習をしたらいいじゃない」

「一か月前に有休とりましたが、まだまだ余ってますからね……」

たしかに、ここ最近は仕事も落ち著いてきている。あの二人と一緒に過ごそうとは思わないが、有休をとることも考えておこう。

中嶋さんは、ふらふらとした足取りで休憩室に向かって行った。2分くらいして戻ってきたときに、タンブラーにったインスタントコーヒーをがぶ飲みしている姿を見て、この人こそ休んだほうがいいよな、なんてことを思うのだった。晝休みなのに、ロボットと見まがうくらい無表で、カタカタとメールを打ちつづけていた。

ストック盡きました。

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