《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第十八話 鍋
周囲を見渡すと、冷蔵庫は、キッチンのすぐそばにあった。人の長ほどの高さがある。
「野菜は、全部ここにれてもらっていいですか?」
野菜室がちゃんとついていて、今日買った野菜以外もいくらかあった。運ぶのに使ったビニール袋は、晴香が預かってくれた。
「まだ夕飯まで時間があるので、好きにしていただいて大丈夫です」
うなずく。
悪いと思いながらも、つい、平川家のなかを見渡してしまう。
俺の部屋は1Kだけれど、ここにはもう一室あるようだった。リビングは、化粧臺や本棚が設えられているが、どちらも両親の使っていたもののようだったから、普段はもう一つの部屋で暮らしていたのかもしれない。
姉妹が、別のところを見ている間にあるものを手に取り、スマホのカメラで撮影した。その後、それをもとの位置に戻す。
「じゃ、用意ができたら呼んでくれ」
俺は、自分の家に戻ることにした。
2時間後。窓の外も暗くなってきたころに、切り分けられた食材を手に二人が來た。
「お待たせしました」
テーブルのうえに野菜やをのせると、てきぱきと晴香がく。土鍋に水を注ぎ、買ったキムチ鍋の素を投して、食材と一緒に煮込みはじめる。10分くらいで、いいじになった。
全員分の小皿を並べて、おたまで一人分ずつすくっていく。米はすでに炊いてあったので、それも全員の前に置いた。
「いただきます」
カセットコンロの火は弱めておいた。ときおり鍋の水面が揺れるのを見ながら、口に運ぶ。
うまい。素を使っているから、今回は晴香というよりメーカーの努力によるものだろう。正直、辛さは足りないが、これ以上辛くすると二人が食べられなくなる。
「ハムちゃんにはもうご飯あげたんですか?」
「ミミな。いつも同じ時間に與えてるけど、もうちょっと後だ」
「そうなんですね」
飼育ケースは、テーブルから1メートルくらい離れた位置にある。二時間くらい前に起床したミミは、匂いにつられたのかガラスにへばりつきながらこっちの様子をうかがっていた。
「ふふ、ミミちゃんも食べたいみたいですね」
俺は首を橫に振る。
「だめだ。今日の飯は絶対に食べさせないほうがいい。辛いがまず論外だし、野菜もハムスターにふさわしくないものがってる。結構繊細だから、余計なものを與えちゃいけない。一回きゅうりを與えてしまって、調を崩したこともあった。それ以來は、ミックスフード以外を與えないようにしているんだ。このミックスフードは栄養バランスがいいし、これを食べて調が悪くなったことは一度もない。なんにせよ、キムチ鍋は絶対だめだ」
「……尼子さん。晴香も本気で食べさせようとはしてないですよ」
「すごい剣幕です……」
ついやってしまった。たまにハムスターへのが重いと言われることがある。
「言い過ぎた。気にすんな」
「いえ、わたしも余計なことを言ってすみませんでした」
そんなことを言っている間に興味を失ったのか、ミミは奧に引っ込んでいった。前足でホイールを揺らしている。気まぐれなやつだ。
「ミミちゃんは購されたんですか? いくらくらいするものなんでしょう」
ハムスターに興味を持ったのか、晴香がそんな質問をする。俺は、指を三本立てた。
「その手はなんですか?」
「3300円だ。だからミミなんだぞ」
「えぇ……安直……」
「実里。名前をつけるなんて、結局勢いだ。俺は結構気にってる」
「響きは確かに悪くないですけど」
値段から名前をつけるのは俗っぽいじがする。それに、名前を呼ぶたびに3300円という値段が脳裏をよぎることもある。実里の言いたいことはわかる。だが、もうつけてしまったものは仕方がない。
「あ!」
そのとき、急に晴香が聲を上げた。なにごとかと思うと、カセットコンロの火が消えていることに気がついた。
「ああ……。ガスが盡きてしまったみたいですね」
レバーを何度もひねっているが、まったく火がつかない。諦めるしかなさそうだ。
「すみません……。替えは持っていないんです。このままじゃ冷めちゃいます」
鍋にはまだ半分くらい殘っていた。俺は、おたまでかきまぜながら言った。
「別にいいさ。さっさと食べちゃおう。いざとなれば、キッチンで溫めなおせばいい」
「冷めてきたら、そうしましょう。家から持ってきたので、古かったみたいです。新しいのを買わないといけないですね」
期待するみたいに、俺の表をうかがってきた。意図が理解できた俺は、しだけ笑う。
「そうだな。また鍋をするのも悪くない」
晴香は目を輝かせたあと、俺の言葉に大きくうなずいた。俺をまっすぐ見つめて言う。
「はい! ぜひまたやりましょう!」
隣で実里も楽しそうに笑っていた。
リターン・トゥ・テラ
かつて地球で行われたラグナレク戦爭。 約100年にも及ぶその戦爭の末、大規模な環境汚染が進み、人々は宇宙への移民を余儀なくされた。 地球に、幾多の浄化裝置を殘して…… それから約1000年の時が経とうとしていた。 浄化が終わった資源の星、地球をめぐって地球國家と銀河帝國は対立し、ついに大規模な戦爭が始まろうとしていた……
8 117【書籍化】 宮廷魔術師の婚約者
★角川ビーンズ文庫さまより2022/06/01発売予定★ 今まで數多くの優秀な魔術師を輩出してきた名門スチュワート家に生まれたメラニー。 しかし、彼女は家族の中で唯一魔力の少ない、落ちこぼれだった。 人見知りの性格もあって、いつも屋敷の書庫に篭っているようなメラニーに、婚約者であるジュリアンは一方的に婚約破棄を申しつける。 しかもジュリアンの新しい婚約者は、メラニーの親友のエミリアだった。 ショックを受けて、ますます屋敷に引き篭もるメラニーだったが、叔父で魔術學校の教授であるダリウスに助手として働かないかと誘われる。 そこで発揮されたメラニーの才能。 「メ、メラニー? もしかして、君、古代語が読めるのかい?」 メラニーが古代魔術を復元させて作った薬品を見て、ダリウスは驚愕する。 そして國一番の宮廷魔術師であるクインも偶然その場に居合わせ、異形の才能を持ったメラニーを弟子に誘うのだった。
8 101【書籍化】婚約者が明日、結婚するそうです。
王都から遠く離れた小さな村に住むラネは、五年前に出て行った婚約者のエイダ―が、聖女と結婚するという話を聞く。 もう諦めていたから、何とも思わない。 けれど王城から遣いがきて、彼は幼馴染たちを式に招待したいと言っているらしい。 婚約者と聖女との結婚式に參列なければならないなんて、と思ったが、王城からの招きを斷るわけにはいかない。 他の幼馴染たちと一緒に、ラネは王都に向かうことになった。 だが、暗い気持ちで出向いた王都である人と出會い、ラネの運命は大きく変わっていく。 ※書籍化が決定しました!
8 103自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十數年酷使した體はいつのまにか最強になっていたようです〜
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって來ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして來たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様。アルファポリス様でも連載中
8 186都市伝説の魔術師
ゴールデンウィークが明け、六月。『事件』後、家族と仲睦まじく暮らしていた柊木香月とその妹夢実。 彼の本業である學生生活と、『裏の仕事』も順風満帆に進んでいた。 彼の裏の仕事は魔術師だった。それも魔術師として優秀な存在であった。 最強の魔術師にも弱點はある。 「私は……仕方がない。都市伝説に『殺されても』仕方ないのよ……!」 「そうであったとしても、罪を裁かれようとしても……女性が涙を流している。それだけで助ける理由には充分過ぎると思うのだが?」 魔術師柊木香月は都市伝説から彼女を守るべく、取った行動とは――! 「……どうしてお兄ちゃんは毎回のように女の子を助けてくるのかな? もうこれで數えきれない程の回數なのだけれど。お兄ちゃん、慘殺か虐殺、どっちがいい?」 「ちょっと待ってくれ夢実! いつから君はヤンデレになったんだ! 頼むからそのコンパイルキューブを仕舞ってくれ! なあ!? 頼むから!!」 現代に生きる魔術師とその爭いを描く、シリーズ第二弾登場!
8 85サウスベリィの下で
罪深いほどに赤く染まった果実の下、人生に背を向けて破滅へと向かう青年小説家と彼の最愛の”姉”は再會する。古び、色褪せた裏庭にて語られる過去の忌々しい事件と、その赤色の記憶。封じられた蔵書の內奧より拾い上げた、心地よく秘密めいた悪夢幻想の手記。
8 62