《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第二十八話 本當の姿

道すがら、俺たちの間に會話はなかった。公園からアパートまで、20分以上かかる。だから、歩いている途中、なにか話題がないかを考えていた。

日は完全に沈み切っている。高架下の鎌倉橋を通っていると、神田川の暗い川面が見えた。

すぐ後ろを歩く、晴香が言った。

「尼子さん」

立ち止まり、首を後ろに回した。しかし、あとにつづく言葉を持っていないようで、晴香は口を閉ざしたままだった。

「どうした?」

「いえ……」

すると、その視線が泳ぐ。高架に上部を遮られているので、不気味なくらいにがない。近くにいないと見失いそうなほどだとじた。

やはり、あの質問がよくなかっただろうか。今の二人は、神的に不安定になっているように見えた。先ほどから足取りが遅く、なかなか前に進んでいない。このままだと20分どころか、さらに時間がかかりそうだ。

「待ってるから、言いたいことがあるなら言っていいよ」

首都高速を走る自車の音が、俺たちの聲を遮っている。暗闇に埋もれるように立っていた晴香が顔を上げた。それから言う。

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「なんでもありません。今日の夜ご飯をどうしようかと思っていただけです」

「そう。途中、スーパーに寄っていく?」

「たぶん、材料はあるから大丈夫です。すみません……」

腹が減ってきているのは事実だ。なんとかそれで會話をつなごうと思った。

「このまえ作ってくれたグラタンがすごくうまかったな。俺じゃ絶対に作れないから、いつも本當に助かってるよ」

「……はい」

「あと、俺も料理練習してみたいから、今度教えてくれよ。たまには、俺も作らないと負擔がでかいだろうしさ。いろいろ試してみたいやつがあって……」

「……」

だが、しゃべればしゃべるほど空振りするばかりだった。足音と自車の走行音が混ざりあっている。橋を渡り、高架下を抜けると周囲が明るくなった。大きな差點のまえに立つと、四隅にそびえるビルから白いが放たれた。ゆったりとしたスピードで、タクシーが外堀通りを走っていた。

「――だし、ランニングするようになってから、健康面についてだいぶ意識が変わったんだ。だから、もっといろいろ考えようと思って。こういう風に考えられたのも、二人のおかげだと思っているよ」

信號が赤なので、しばらく待つしかない。

晴香の後ろを歩く実里は、さらに進むのが遅い。普段であれば、二人ともこんなに気を遣わせるような態度をとることはなかった。こんなことは初めてで、俺はどうしたらいいのかわからなくなってしまった。それと同時に思う。

――ああ、そうか。

腑に落ちた覚があった。なんで気づかなかったのだろうと不思議になるくらいだった。

――これが、もしかしたら、本當の二人の姿なのかもしれない。

當たり前だ。普通に生きて、學校に行って、部活をしていた二人に、突然あんなことが起きたわけだ。気持ちの整理なんて、簡単につけられない。一か月、二か月と月日が積み重なっても、そのときの苦しみを忘れることができないのだろう。

俺に迷をかけすぎないように、せめて明るく振舞っていた。自分のなかにあるいろんなものを見ないふりでやりすごして、負のエネルギーをその側にためつづけていた。今は、その甕(かめ)いっぱいに満たされたものが、こぼれつつある狀態なのかもしれなかった。

信號が青に切り替わる。

俺が足を踏み出すのにあわせて、二人もついてくる。

またなにか話そうとしたが、後ろの二人の表を見て口を閉じた。

――俺にできることなんてあるのか。

橫斷をはじめた人たちが、かつかつと一斉に靴を鳴らす。

――どんな言葉をかければいいのかわからない。

無理に話しかけても、負擔をかけるだけなのではないかという気がした。元気づけることが、正解とは限らない。落ち込みたいときに落ち込ませることも必要だ。

――だけど、いつかそこから解放されなければならない。

こうやって、一緒にいて、時間を共にすることで傷は癒えるのだろうか。前に、実里が、「俺と一緒だから耐えられる」と言ってくれた。でも、耐えるだけでいいのか。それは、その傷を引きずったまま殘すということにつながらないだろうか。

しずつ、姉妹と仲を深めて、そういったものも改善していると考えていた。本當は、後ろに下がっていなかっただけで、なにも前進しないまま、奧深くに眠るものを滯らせたまま、やり過ごしていただけなのかもしれない。

もっと、姉妹の力になりたいと思う自分がいた。生活を守るというだけでなくて。奧底にある暗い部分にも手を差しべて、引きずり出してやりたかった。取り繕うための笑顔ではなく、もっと純粋に楽しそうな、うれしそうな笑顔をもっと見てみたかった。そして、過去のことなど関係なく、築きあげてきたものだけが殘るような形にしたいと思った。

――それくらい、俺にとっても大事な存在になりつつあるんだ。

この2か月間が、濃くて大きい。よりよい未來をまずにはいられなかった。

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