《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第二十九話 涙

そのとき、俺の後ろにいた実里の様子がおかしいことに気がついた。右のかかとのあたりをおさえながら、うずくまっている。あわてて俺は、実里のもとに駆け寄った。

「どうした?」

「ちょっと、今日、足を痛めてしまったみたいです……」

小さな聲だった。聞くところによると、今日のランニングの終わり際、足をひねってしまったらしい。徐々に痛みが強くなってきたということだった。

そういえば、晴香も実里も歩くペースが遅かった。実里が足を痛めていることを知っているから、わざとゆっくり歩いていたのかもしれない。

早く気付くべきだった。こうやって、我慢をして、俺の知らないところで苦しい思いをしていたことが、他にもあったのだろうか。そして、そのたびに甕(かめ)にため込んで、吐き出せずにいたのだろうか。

俺は言った。

「なんで教えないんだ」

実里は、答えなかった。顔をしかめて、痛みをこらえているだけだった。

歯がゆさを覚える。頼りにされたときの苦労と、頼りにされない悔しさを天秤にかけたら、迷わず前者を選ぶことだろう。

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捻挫してしまったみたいで、るとし腫れていた。これ以上歩くことは難しそうだ。

――こんな狀態で、どうして痛みを我慢してしまうんだ。

俺は、すぐに実里の前で腰をかがめた。

「おぶされ。家まで運んでいく」

「え、でも」

「いいから。ランニングで鍛えた足の筋力をなめるなよ」

渋々といったじで、実里の重が俺の背中に乗せられた。そこまで重くじない。宣言通り、アパートまで持ちそうだと思った。

一歩一歩進んでいく。実里の溫が、直に伝わってくるようだった。タクシーを呼んでもよかったが、半ば俺の意地でそうすることを選んだ。タクシー料金のことを考えても、実里が斷れないのはわかっていた。

しずつが冷えてきた。寒さが戻ってくるが、お互いの溫が和らげているのをじた。

「ごめんなさい……」

実里の消えるような聲が、耳元に聞こえてきた。俺は言う。

「謝ることじゃないだろ。これくらいのことで、なんでそんなことを言うんだ」

「でも、いつも尼子さんにばかり負擔をかけていますから……」

「前にも言っただろ。甘えてもいいんだって」

まだ、足りていなかった。晴香にも伝えておくべきだったし、実里の心をこじあけるのにも不十分だった。

「俺は、迷なんて思っていない。二人だから助けたいって今は思うんだ。苦しいときは苦しいでいいんだよ」

時間がゆっくりと流れている。隣に立つ晴香は、ぐっとなにかをこらえている表だった。

首の前で絡む実里の腕に力がるのがわかった。

もう一度言う。

「頼りたいときは、頼ってほしい。そのほうが俺もうれしい」

寄りかかる実里の吐息が、背中に吸い込まれている。顔を背中に押しつけているのだろう。

「実里?」

呼吸に熱が混ざってきたのをじてそう問いかけると、突然、言った。

「――尼子さんは、どこにも行かないですよね?」

「え?」

実里の右手が、左腕を覆うウェアを握りしめていた。

頭が、追いつかなかった。

俺の足が、かなくなった。

つい聲をらしたまま、口が開いたままになった。

すぐにっぽい聲がつづく。

「急に、どこかに消えたりしないですよね? いなくならないですよね……?」

鼻をすする音が聞こえた。

さらに強く、背中に顔が押しつけられた。

自分の腕に重みをじたので橫を見ると、晴香が袖をつかんでいた。

そして言う。

「……嫌です。もうあんな目に遭うのは……」

そこで、急に、自分のなかですべてのことがつながったようなじがした。

「あ……」

そういう、こと、だったのか。

二人を縛っていたもの正が、ようやく、理解できた。

一度味わった苦い経験が、人に頼ることを恐れさせていた。くわえて、俺に負荷をかけることで、いつか嫌になってしまうんじゃないかという不安もあったのだ。

か細いところで支えられていた俺たちの関係。

そこには、こんなが眠っていたなんて。

まだ、二人のことを理解しきれていなかった……。

「なに、言ってんだよ……」

の奧が熱くなり、昂るが俺の聲を震わせた。

「俺は、どこかに行ったり、しない。二人から、いきなり、離れたり、しない」

が自分のものではないみたいだった。一つ一つの言葉が、口にこびりつくようだった。

「そんな心配、するんじゃないよ。絶対、絶対に、そんなことはしない」

二人の肩が震えている。

実里が、ぎゅっと腕を抱えて涙まじりに言った。

「尼子さん……」

「何度でも言う。絶対だ」

「……っ」

二人は、聲を殺し、涙を流し、淺い呼吸を繰り返して、泣いた。

夜の道。風が、靜かに流れていた。星のない夜空が、頭上を覆っている。先ほどまで見えていた雲が、いつのまにかほとんど見えなくなっていた。一秒一秒が、緩やかに、なだらかに、過ぎ去っている。

俺が本當に向き合うべきものは、これだったのだ……。

回り道をして、何度も會話を重ね、ようやくそこにたどり著くことができた。

もうしで二章も終了です。近いうちに話が大きくきます。

あと、明日の晝の更新は休止します。

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