《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第三十話 花見
花見をしましょう、と提案したのは、晴香だった。
4月の初め。しずつではあるが、気溫が上がってきたため、木々が徐々にづきはじめた。それは、桜も例外ではなく、しい花を枝にいくつも咲かせていた。
特に、皇居の周辺には桜の名所が多い。おそらく、片手どころか両手の指でも足りないほどあるんじゃないだろうか。
俺たちが、花見の場所に選んだのは北の丸公園。しでも混雑を避けるために、有休を取得して、平日に決行することにした。朝のほうが空いているらしいが、そこまでする気にはならなかったため、晝頃に一緒にその場所へと向かった。
「うわぁ、平日なのに人いっぱいですね」
晴香が楽しそうに足を弾ませながら歩く。
田安門のまえの道に、桜が咲き誇っていた。左右の柵の外から、しはみ出すような形で枝がびている。実里は、スマホで寫真を撮っていた。
「ほんとにきれいです。桜はやっぱりいいです」
「そうだな。仕事をさぼって來るとまた格別だ」
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「尼子さん……」
今頃、中嶋さんも瀬尾もパソコンの前に向かっているだろう。
一つ目の門をくぐると、奧に武道館の屋がそびえているのが見える。右に曲がってもう一つの門を抜けたところで、緩やかに蛇行した道につながる。武道館の橫をぐるっと回るような形で進んでいく。
途中で右に折れて奧に行くと、し開けた場所に出た。
「どこか場所を探しましょう。人が近くにいないところがいいですね」
「うん。これだけ人がいるから、贅沢は言えないけど」
やがて、歩いているうちに、池のそばの広場がよさそうだという結論に至った。持ってきたレジャーシートを広げて、腰を下ろす。
雲一つない晴天だ。桜だけではなく、いろんな種類の木々が植えられている。もみじと思しき木もあるから、秋にはまた違ったしさがあるのだろう。三日月のような形をした池がを照り返していた。
持ってきたバスケットを開けると、なかにはサンドイッチやおにぎり、ドーナツなどがっている。今日の午前中に作っておいたものだ。
「どうぞ」
水筒から紙コップにお茶を注いで、晴香が渡してくれる。ビールを持ってこようか、迷ったけれどさすがに自重しておいた。未年の前では不健全だ。
「「「乾杯」」」
こつんと當てて、三人でそう言う。
おにぎりでも食べようと思って、一番手前のものをとったところで実里が「あ」と不満そうな聲をらした。
「それ、晴香が握ったやつです。尼子さんは自分が握ったやつも食べてくださいよ」
「……さぁ、よくわからないな」
今日持ってきたおにぎりは、晴香だけでなく俺や実里も手伝った。料理に慣れている晴香のおにぎりが一番まともで、実里が及第點というじだ。しかし、俺は不用なので、おにぎりと言えるかあやしいほど形が崩れていた。
「これですかね、ひどい……」
「ラップ開くと、ぼろぼろこぼれてくるんですけど……」
罪悪を吹き飛ばすように笑っておいた。
「ハハ、食べようと思えば食べられるから大丈夫大丈夫」
「こんなことになるなら、無理に一人でやろうとしないでほしかったです」
「いいんだよ。たまには自分だけでやってみたかったんだ」
今までの人生でおにぎりを作ったことがなかった。やってみると意外と難しく、力を加えたそばから、手の隙間からはみ出してまとまらない。結局、塊にするよりまえにラップに強引にくるんでおくしかなかった。
嫌そうに晴香が口にするが、食べてすぐ「なにこれ……」と眉をしかめていた。
「もしかして、尼子さん。べったべたに水つけて握りましたか?」
「じゃないと手にくっつくだろ」
「限度というものがあるんです。こんなにまずいおにぎり初めて食べました。あと、塩をほとんどかけていないですよね」
「あー、忘れてたかも」
「一応、梅干しがっていますけど、ずいぶんないので味がありません」
実里も晴香も、一つだけ無理やり食べてくれたが、それ以上食べようとはしなかった。當然、殘りは全部俺に押しつけられることになる。ちなみに、俺は食べてすぐギブアップした。晴香や実里が作ったものと比べると雲泥の差だ。
「あー。口直しのサンドイッチおいし~」
「んー。口直しのドーナツもうまいな~」
「……正直、申し訳なかったと思っている」
俺が作った數は4つなので、被害総數はなくて済んだ。殘り2つは、あとで処分するしかない。とても人間が食べられるものじゃない。ちなみに二人の言う通り、口直しのサンドイッチもドーナツもたいそうおいしかった。
「尼子さん、他には手を加えてないですよね」
実里が心配そうに口をゆがませている。
「安心しろ。今日はおにぎりに悪戦苦闘して、他に関與する暇はなかった」
「今度は晴香に教えてもらってくださいね。常軌を逸しています」
あまりのひどさゆえに、夢に出てきそうなレベルだと自分でも思う。
「そうだな。俺一人じゃ無理みたいだし、今度頼むよ」
「わかりました」
食べているうちに眠くなってきた。気溫がちょうどいいし、風も凪いでいる。そびえたつ桜の影が、芝生に広がっていた。
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