《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第三十一話 記念寫真

周囲には家族連れやカップルの姿も見える。今の俺たちはどういう風に見えているんだろうか。もし、なにか訊かれたら兄妹ということにしようと決めていた。

「もうおなかいっぱいになっちゃいました」

「ちょっと作りすぎたかもね。殘りは、夜に食べればいいんじゃない?」

バスケットには、主にドーナツが殘っていた。やはりドーナツは結構重たい。

「そうですね、そうしましょう」

「ちなみに、ここで寢ちゃだめですよ。寢たら置いていきますから」

「わかってるよ。ただ、目を閉じているだけだから」

らかなに當たりながら寢転がること以上に幸福な時間はない。

それから10分くらいは、ときおり會話しながらのんびりしていた。実里も晴香も穏やかな表を浮かべて、高校での出來事などを話していた。そこにはもうりは殘っていない。殘念ながら、ミミをここに連れてくることはできなかったので、その點だけが心殘りだった。

寢そうになっていた俺を起こした晴香が、ふと思いついたように言った。

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「そうだ。三人で寫真を撮りませんか?」

「ああ、いいね」

俺もうなずく。周囲の景を何枚か撮ったが、記念寫真ようなものまでは撮っていない。

まずは、姉妹の組み合わせで。次に俺と実里。最後に俺と晴香の組み合わせでカメラに収めた。久しぶりにこういう寫真を撮るとどういう表をしていいかわからなくて、不自然に口角をあげた顔が畫面に映されることになった。

「尼子さん、変な顔してる」

「もともとそういう顔だからな」

「確かにイケメンではないです」

「はいはい」

あとは三人で映った寫真もしい。自撮り棒なんて持っていないので、誰かに撮ってもらうしかない。ちょうど近くに老夫婦がいたので、その人たちにお願いしたところ、快く引きけてくれた。

「若くていいわね。ご兄妹?」

「そうです。歳がはなれていますが、兄妹です」

「顔があんまり……。あ、いえ、ごめんなさいね」

わかっている。姉妹の顔立ちは整っているのに、俺は普通だ。両親のどちらに似ているかで顔立ちが異なることも珍しくないため、適當に苦笑いしておいた。

桜の木のそばに三人が並ぶ。俺が真ん中。そのし前方に二人が立つ形だ。

「人のよさそうなお婆さんなのに、遠回しに俺の顔をディスられてしまった」

「ふふ。確かに似ているってことはないですね」

「いちいち気にしすぎ……」

十メートルくらい離れた位置に老夫婦が立っていた。俺が渡したスマホを橫に傾けて、畫角を調整している。意外とスマホの扱いに慣れているらしく、特に困っている様子はなかった。

「尼子さん」

実里が、前を見據えながらそう聲をかけてきた。首をかさずに、「ん?」と尋ねる。

「わたしはいま、幸せなんだと思います」

の髪の一本一本まで視認できるほどの距離。薄ピンクの花をつけた枝が、視界の片隅でしだけ揺れていた。

「尼子さんと會って、尼子さんに助けられて、尼子さんに教えてもらって、今、こうやって、楽しい毎日を送れています」

俺は二人の肩に手を置く。姉妹の長は同じくらいで、俺よりも15センチほど低い。だから、並んで立つとずいぶんと小さくじられる。

自然と、俺の顔が微笑みをたたえているのがわかった。

俺にとっても、この出會いは大きかったのだと思う。うまくかみ合わないときもあった。困るようなこともあった。でも、普段の生活に二人が加わったことが、俺にとっても彩りを與えてくれた。

だから、言う。

「俺も、楽しいとじているよ」

ここからだと表が見えないけど、二人も笑っているのがじられた。

スマホのカメラを構えた老夫婦が、「行きますよー」と聲をかける。

そして、俺たちの姿をデータとして記録する音が、ほんのわずかに聞こえてきた。

老夫婦に何枚か撮ってもらったが、どの寫真もきれいに映っていた。

「ありがとうございました」

お禮を言うと、手を振って老夫婦が去っていく。すべての寫真データを二人のスマホにも送ると、二人とも喜んでいた。

「わあ、あの人寫真撮るの上手です」

「桜の映りかたもいいじ」

ほかの人は映り込んでいないし、日と被らないように調整してある。申し分ない出來だ。

と、晴香がいたずらっぽく笑ってきた。

「尼子さんが笑うとこんなふうになるんですね。アルカイックスマイルというやつでしょうか」

「ほめてねえだろ」

「ほめてますよ。ただ、面白くもあるというだけです」

口を引き結んで目を細めている姿は、そう見えなくもない。

なんにせよ、この寫真の扱いは厳重にしないといけない。一サラリーマンが子高生と仲睦まじくしている証拠寫真である。言い訳ができない。パソコンにデータを移して、スマホのデータは消したほうがいいかもしれない。今の時代、自衛が必要だ。

「ちょっとトイレに行ってくる」

俺は、いったんその場を離れることにした。

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