《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第四十話 來訪

10分くらいはそうしていたと思う。酔いはいっこうに冷める気配はなく、ずっと視界がぐるぐると回っていた。そのとき、急に俺のスマホが震えた。

見ると、メッセージが屆いていた。

――晴香と一緒にそっちに行ってもいいですか?

理由がわからなかったが、反的に、俺は「いいよ」と返した。

それから、數分でドアがノックされる音がして、俺はふらふらしたままドアを開けた。

「もしかして、尼子さん酔っていますか?」

二人ともモコモコしたルームウェアを著ている。以前、実里に勉強を教えたときと同じ格好だ。こういう時間にうろつくなよ、という言葉が出かけたが、すぐに酔いに消されてしまう。

「急にどうした。悪いが、もうなにもないと思って酒飲んじまったぞ」

「それでいいです」

無防備にも、俺の部屋にり込んでしまう。俺自は椅子に腰かけて、二人はベッドのうえに座らせることにした。飲みを渡そうと思ったが、水道水くらいしかない。自販機でお茶でも買っておけばよかったと後悔する。

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「お水、飲みますか? もしそうなら買ってきます」

「いい。俺は、水道水で十分だ」

あんまりふらふらさせたくない。さっさと用件を聞いてしまおうと思った。

立ち上がろうとした実里は、座りなおしてから言った。

「こんな時間にすみません。もう寢ているかもしれないと思っていましたが、起きていたみたいなのでよかったです」

「まぁ、もう寢ようとはしていたけど。もしかして、後と飲んでいる間にも、こっちに來ようとしていたのか?」

「いえ、ついさっき行こうと思ったんです」

実里の聲はかすれていた。今日、大聲を出したせいで疲れてしまったのかもしれない。

隣に座る晴香の目は腫れている。夜ご飯を食べたあとも泣いていたのだろうか。

思考能力が低下するまで酒を飲んだことを後悔する。まさか、こんな時間に來るなんて考えていなかった。

「それで? 話なら聞くけど、時間が時間だ。今日は疲れただろうから、早く寢たほうがいい」

「……実は、こんな時間だからこそ來たんです」

実里がベッドのうえで膝を抱えた。子供みたいな仕草だと思った。

「こんな時間だから?」

「はい。一緒に寢てほしいんです」

頭痛がしたが、酔いのせいか、突拍子のないことを言われたせいかわからなかった。

どう斷ろうか考えていると、急に晴香が、ぼそりとつぶやいた。

「ごめんなさい。わたしが、言い出したんです」

膝のうえに握られた手をじっと見つめている。

「目をつむると、どうしてもいろいろ考えてしまうんです。だから、尼子さんにそばにいてもらいたくて……」

「だからってさ……」

「お願いします」

普段一緒にいるから、俺にもがあることを忘れているんじゃないだろうか。しかし、弱っている二人を追い出す気にならなかった。その時點で、俺の負けが決まっていたのだろう。

「わかった。じゃあ、俺はここに座っているから、二人はベッドで寢てくれ」

「尼子さん、それで寢られるんですか?」

「さあな」

「そういうのはダメです。尼子さんもベッドでちゃんと寢てください」

「俺のことは気にするな」

「気にします。それに、尼子さんもベッドにってくれないとあまり意味がないです」

「こんなに狹いベッドで? 普通に考えて、無理だろう」

「詰めれば無理じゃないです。絶対に三人がいいです」

だ。こういうとき、晴香が絶対に譲らないのを俺は知っている。

――正直、そっちのほうが寢られそうにないんだけど。

結果的に、ベッドの左右を実里と晴香が、その真ん中に俺が寢そべる形となった。俺が壁際に寄りたかったが、二人がそれを許してくれなかった。

俺は、雑念を振り払い、腹のうえで両手を組んだ。常夜燈にして目をつむった。

「尼子さん、起きていますか?」

実里が話しかけてきたので、すぐに目を開ける。

「寢られるわけがないだろう」

「無茶なお願いをしてすみませんでした。でも、甘えていいって前に言っていたから」

「さすがにこれは想定外だ」

視界に天井以外を映さないよう心掛ける。常夜燈の淡いだけが俺の味方だった。

しだけ、お酒のにおいがします」

今度は、晴香から聲が聞こえてきた。俺は、ため息をつく。

「そりゃ飲んでいたからな。嫌だったら自分の部屋に戻ってくれてもいいんだぞ」

「戻りません。これくらいは我慢します」

また部屋のなかが靜まりかえり、シーツのこすれる音や外を走る車の音が浮かび上がってくるようになった。しずらすと、腕や足が姉妹にれてしまう。もともとベッドにあった二つの枕は、姉妹に渡しているから俺の頭だけがマットレスに直接當たっている。かけ布団は三人に屆いているものの、俺の都合で簡単にかすことはできない。心臓から駆け巡る流をじた。目が充しているせいか、瞬きするたびにかすかな痛みが走る。アルコールで火照った顔が、しずつ冷めていくのを待つしかなかった。

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