《國民的歌手のクーデレとのフラグが丈夫すぎる〜距離を置いてるのに、なんで俺が助けたことになってるんだ!?》第19話 正

「あの、今日のメールのことなんだけど……」

控えめな聲が隣から聞こえてくる。

山田さんは前を向いているので、前髪で隠れていまいち表は見えない。

「さっきも気にしてたよね。どうかした?」

「本當に見えてなかったの?」

「え、うん。全然。一瞬だったしね」

実際は件名だけは見えていたが、そこはれない方がいいだろう。実際知られたくないみたいだし。

こっちとしてもそこまで山田さんが隠したいと思うものを知りたくはない。

本人の隠してるを知っちゃうパターンとか、どう考えても距離が近づくきっかけになりかねない。

山田さんは「……そう」と返事をして、それ以上深掘りしてくることはなかった。

これ以上、この話題を続けるのは嫌な予しかしない。

丁度昨日はシャートンの新曲をリピートし続けたので、その辺りなら山田さんも今の話題を忘れてくれるだろう。

「そういえば、俺昨日ずっとシャートンの新曲聴いてたんだけど、やっぱりあの曲いい曲だよね」

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山田さんの肩がぴくっと震える。前を向いていた顔がこっちを向く。レンズの奧の瞳に街燈が寫り、僅かにる。

「ほんと、シャートンって天才だと思う。全部曲調違うのに、どれもいい曲とか最強すぎ。まじで大好きだわ」

「えっと……」

「はぁ。ほんとサインしい。サイン貰えるならいくらでも貢ぐのに。神様じゃなくてシャートンに祈りを捧げるレベルで好きなんだよね。近くにシャートン來ないかなー」

「え、ねえ」

「ん?」

適當に間を埋める意味で熱く語っていたので、山田さんの様子を見逃していた。

山田さんが急に立ち止まるので、俺も慌てて止まる。隣を見ると、暗くてはっきりとは見えないが、薄く桜が頰に差している。

「やっぱり、神楽くん。私の正に気付いてるよね?」

「え……?」

急に立ち止まったかと思えば、一なにを言い出すのだろうか。

ただ、真剣に真っ直ぐにこっちを見つめる山田さんはふざけているように見えない。

「正って?」

「惚けないで。クラスの人とか、高校の人には隠してる私のこと、気付いてるんでしょ?」

問いかける眼差しに、一つだけ心當たりがあった。

中學時代の山田さんは明るくもっとお灑落な格好をしていたという。

山田さんの言う正とはそのことだろう。……今、急に聞き出してきたのはあまりに脈絡がなさすぎる気がするけど、それ以外には考えられない。

山田さんの地元を知っている風な発言はしていたのでその時に気付いたのだろうか?

「えっと……うん。そうだね」

ゆっくり顔を縦に振る。あまりに真剣なので誤魔化すことは出來なかった。

「やっぱり」

強張っていた山田さんの顔がしだけ緩む。引き結ばれていたが解け、一息がれ出る。

「……まあ、安心してよ。山田さんが何を隠していようと別に気にしないし、誰かにバラすとかする気もないから」

「うん、ありがとう」

突き放すような発言をしたけど、特に山田さんは気にした様子はない。

一先ずはこれでいいだろう。山田さんがどうして地味な格好しているとか、目立たないようにしているとか、気にならないわけではないけど、そこにれるのは悪手だ。

隣の席の人。それ以上でもそれ以下でもない。

山田さんが正を隠す事とかそういう大事なとか知ったら、もう後戻りが出來なくなる。そんなことには絶対になってなるものか。

「……よかった。バレたのが神楽くんで」

「そう?」

「神楽くんなら、他の人に言わないって信用できるから」

「まあ、わざわざ人のを言いふらす趣味はないからね」

「絶対言っちゃだめだから」

「わかってるよ」

ダメ押しをしてくる山田さんにきちんと頷く。話すわけがない。それに話したところで、そこまで周りの注意を惹くようなことだろうか?

確かにお灑落をした山田さんが可かったなら、男子の注意は惹きそうだけど。そこまで警戒することなのだろうか。

まあ、誰にも話すつもりはないからいいか。

「でも、ちょっと意外かも」

山田さんはリュックの肩紐をきゅっと握る。

「ん? なにが?」

「私の正を知ったら、もっと驚くと思ってた」

「なんで?」

「なんでって……。神楽くんの大好きなシャートンの正が私だったんだよ。同級生が憧れのアーティストだったら私なら驚くと思う」

「…………え?」

思わず耳を疑った。今、なんて言った?

山田さんは俺が驚いていることに驚いているようで、ぽかんと口が開いている。

「……シャートンの正が誰だって?」

「私だけど?」

「ん? え?」

「え?」

互いにぽかんとしたまま見合う。ぱちぱちと瞬くタイミングまで一緒だ。

「ちょっと待って……え、山田さんがシャートンなの?」

「え、私の正に気付いてなかったの?」

「気付くわけないじゃん」

同級生が憧れのアーティストだと誰が想像出來るというのか。自分の大好きな歌い手が同じ學校の人、それもクラスも一緒で隣の人とか、どんな確率だ。

目の前が一瞬真っ白になった。意味が分からなさすぎる。

「じゃあなんで私の正を知ってるって言ったの?」

「山田さんが中學の時、もっと明るい格好してたって話聞いてたから。その話なのかと」

「……そっち?」

山田さんも揺を隠せていないようで、瞳が慌ただしく揺れている。顔まで右を向き、左を向き、と忙しい。と思ったらぴたっときが止まった。

「え、じゃあ、待って。私、自分からを打ち明けたってこと?」

「うん、そういうことになると思う」

顔を両手で覆い、俯く山田さん。よほどショックなのだろう。「うそ、え?」と獨り言がこっちまで聞こえてくる。

10秒ほど俯いた唸ると、大きく息を吐いた。覆っていた手を外して、ゆっくり顔を上げる。

「……忘れて」

微かに瞳は潤み、涙目な上目遣いがこっちを向く。薄く染まった桜の頰が恥じらいを告げている。

「いや、流石に……」

忘れられるものなら忘れてあげたい。こんなとびっきりのを知ってしまうなんて、こっちだって勘弁願いたい。

山田さんのなんて知りたくない、そうさっき思っていたばっかりだというのに。

どんな表をすればいいのかと分からず、曖昧に言葉を濁すことしかできない。衝撃が強すぎて、いまいち頭が回っていないのだ。

山田さんは両手でリュックの肩紐を両方ともぎゅっと握りしめる。向き合っていたを駅の方に向ける。

「と、とにかく、忘れて。じゃ、じゃあ」

それだけ言い殘して、ぴゅうっと走り出して消えてしまった。山田さんの小さな背中はすぐに見えなくなる。

俺はなにも考えられないまま、その背中を見送ることしかできない。

暗闇の道端でただただ立ち盡くし、漸く頭が回り出す。

「…………え? まじ?」

憧れの國民的歌手であるシャートンの正が、隣の席の山田さんだったらしい。

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