《國民的歌手のクーデレとのフラグが丈夫すぎる〜距離を置いてるのに、なんで俺が助けたことになってるんだ!?》第25話 山田さんの気持ち

『山田視點』

神楽くんに正を知られた時、もっと神楽くんが聞いてくると思った。

けれど、屋上で念押ししたあの日以降、一週間が経ち神楽くんから積極的に話しかけてくることはなかった。

「ほんとうに話題に出すのはやめてね? 変に親しくなるのも。私たちは隣同士なだけ。前にも言ったけどそれだけだから」

「分かってるよ」

あの時の念押しが効いているということだろうか。とにかくシャートンの話題を神楽くんの口から聞くことはなくなった。

私がんだ通り、神楽くんは私を隣の席の人として扱って、変に絡んだりしない。たまに必要なことについて話すことはあったけれどそれだけ。

私と神楽くんの関係は、が知られる前とほとんど変わっていない。

「それじゃあ、今日はここまでな。テストに出るからちゃんと覚えておけよー」

數學の先生がチャイムの音と共に告げる。

最後に重要なことを殘していくのはやめてしい。急いで黒板が消される前にノートに書き記す。

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來週からテストが始まる。復習は順調だけれど、自信があるかと言われると微妙だ。不安を打ち消すように復習用のノートを開く。

椅子が引かれる音が隣から聞こえた。席を立つ気配がして、遠ざかっていく。

ふと隣を見ると空席の神楽くんの席。視界の端には、友達の元へと向かう神楽くんの姿が映る。

(そういえば、全然話してない……)

この一週間、神楽くんとほとんど話していないことに気付いた。

元々そこまで沢山話すことはなかったけれど、全く會話をしないことはなかった。

どうりでずっと勉強ばっかりしていると思った。休み時間は勉強を過ごすことが多いのは確か。でも、この一週間は特に多かった。理由は他の時間がなくなったからだ。

……自分が思っていた以上に、神楽くんと話している時間は多かったらしい。

と話すのを避けていたはずの自分がそんなに神楽くんと話していたなんて。

確かに神楽くんは悪い人ではないけれど。ううん、優しくて良い人だと思う。々助けてくれたり庇ってくれたし。

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遠目に見える神楽くんは友達と話していて楽しそうだ。くしゃっと笑う橫顔が見え隠れする。

(楽しそう。なに話してるんだろ)

そんな疑問が頭に浮かびながら、自分の機に向かい直した。

♦︎♦︎♦︎

テスト週間の最終日、ようやくテストが終わった。手ごたえはまあまあ。酷い點數は取っていないと思う。

テストが終われば、あとは帰るだけなのでリュックに筆箱類をれる。教科書はテストなのでしまったままだ。

リュックを背負い、席を立つ。隣の神楽くんのつむじが見える。神楽くんはまだ準備中らしい。

「……神楽くん、また明日」

「え? ああ、また明日ね」

聲をかけると神楽くんがこっちを向いてくれた。切れ目の瞳と目が合い、僅かに優しく細められる。

ひらひらと軽く手を振って、教室を出た。

下駄箱で靴を履き、家に向かって出発する。既に他の學年も終わったようで、下校する人達が多い。ぞろぞろと人の流れに乗って家へと歩く。

外は快晴で青空が天井一杯に広がる。夏の日差しはじりじりと蒸し暑い。けれど、テストが終わったとしてはとても清々しい気分。

テストが終わったので、あとはテスト返卻を待って夏休みを迎えるだけ。夏休みはシャートンのイベントがいくつかあるので、その準備で忙しい。気合をれないと。

そういえば、神楽くんはどれかには來てくれたりするのかな? さっきまでの神楽くんのことを思い出す。

(……あれから全然話せてないんだよね)

がバレたあの日以降、神楽くんとほとんど話していない。必要に迫られて授業中に話した時くらい。それ以外はまったく會話はなかった。

理由は分かってる。神楽くんが休み時間に隣にいることが無くなったから。休み時間の度に、友達の元に行って仲良く話している。

楽しそうに話している神楽くんの橫顔を何度も見た。

楽しそうな神楽くんを見るのは良い気分だけど、どうして急に席を立つようになったのか。

思い當たる節は一つしかない。きっかけを考えると、私の一言が原因だと思う。

「ほんとうに話題に出すのはやめてね? 変に親しくなるのも。私たちは隣同士なだけ。前にも言ったけどそれだけだから」

あの念押しの私のセリフが理由としか思えない。

神楽くんは私が男子を苦手としているのを察していた部分が元からあった。

そこに今回の私のセリフ。距離を置いてしいと捉えられても仕方のないことだと思う。

男子と會話をしなくて済むようになることは、私が願っていたことなのに。別に話せなくなったからって気にする必要はないはずなのに。

(なんであんなこと言っちゃったんだろ……)

しだけ足が重くなる。清々しい青空だったはずが、今はその暑い日差しが蒸し蒸しして鬱陶しい。慣れたはずの駅までの道のりが遠くにじる。

じんわり汗が滲むのをじながら駅まであと半分といったところまで進んだところで、忘れを思い出した。

テスト前の休み時間にどうしても気になる英単語があって電子辭書で調べた。その後ロッカーにしまったまま、持って帰るのを忘れてた。

このまま帰りたいところだけどあいにく明日は土曜日。流石に3日間電子辭書を使えないのは不便だ。

それに一応は高価なものだし、ロッカーにそのまま放置するのはまずいと思う。を反転させて學校に戻ることにした。

學校に著くと既に人はまばらになっていた。大部分の人はもう學校を出たのだろう。校門へと向かう人たちとは逆に向かって足をかす。

私が教室を出た時とは違って、廊下も人気が減っている。私の靴跡が廊下に響く。

長い廊下を進んで、ようやく自分の教室にたどり著いた。中からは人の気配がする。

誰がいるかは分からないけれど、このタイミングでるのはしだけ張する。一息吐いて教室の扉に手をかけた。

「潤。今回なんか凄い勉強頑張ってたみたいだけどなんかあるの?」

「あー、それ思った。めっちゃんな人に聞き回ってたじゃん」

「……っ」

思わず息を呑む。中に神楽くんがいるらしい。扉にかけていた手をゆっくり離す。

どうしよう。思いがけない事態に息を潛めて固まっていると、教室からさらに聲が聞こえてくる。

「大したことじゃないよ。夏休みにシャートンのサイン會があるんだけど、テスト悪くて補講になると被るんだよね」

「……機は相変わらずシャートンなのね」

神楽くんがサイン會に來る。え、ど、どうしよう。嬉しいような恥ずかしいような。

訳もわからず廊下で一人、周りを見回してしまう。

このまま聞いていていいのか、悪いのか。迷っていたけれど、次の話題に思わず耳を傾けた。

「勉強頑張るなら隣の席の山田さんに聞けば一番いい気がするけど、全然話してなかったよね?」

「っ!」

クラスの人たちも気付いていたなんて。そんなに目立っていたんだろうか。と、とにかくその話題は気になる。

「あー、それね。よく山田さんと話してないって分かったね」

「そりゃあ、俺の推しカップルだからね」

「……え?」

(え?)

神楽くんの聲と自分の気持ちが重なった。あまりに想定外。市川くんは何を言ってるんだろうか。

「二人、お似合いだと思ってるからさ。俺の勘は、二人は付き合うと告げているんだよね」

「……そんな役立たずな勘は捨ててくれ。山田さんとは何もないよ」

神楽くんの言葉は私が予想していたものと同じだった。神楽くんが私のことをなんとも思っていないのは分かっている。……うん、分かってる。

「今回については、気を遣った結果」

「へー、なに?」

「山田さんの勉強時間を奪うのは忍びなくてね。あれだけ自分の勉強を頑張っている人に、何回も勉強のことを聞くのは迷でしょ?」

「あー、なるほどねー」

市川くんと同様、私もすごく納得した。

だから、他の人のところに聞きに行っていたんだ。わざわざ私に気を遣って。ほんと、優しい人。

でも、別に私に聞いてくれてもいいのに。神楽くんに教えるのは嫌じゃないんだから。

なんとなく気持ちが楽になって、そっと廊下の壁に背中を預ける。リュックがくしゃっと小さく音を立てる。

「まあ、山田さんのためを思っての行だったなら良かったよ。てっきり山田さんのこと嫌いになったのかと」

「……まさか。嫌いになんてなるわけないよ。寧ろ良い人だと思ってるくらいだし」

そっか。嫌われてたわけじゃないんだ。よかった。

ここ最近ずっとに引っかかっていたものが取れた気がする。廊下からのぞく空がさっきよりも青々としているように見える。

--私の顔に笑みが浮かんでいることは、私自まったく気付いていなかった。

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