4月1日の初出勤日、スーツに袖を通し、ネクタイもしっかりと締めて家を出る。

本社にいた時は結構適當だったが、今回なくとも1ヶ月はしっかりを引き締めていこう。

地方のオフィスは緩いことも多く、私服で事務所に來て仕事著に著替えることも多い。

しかし俺が行く浜山S(セールス)O(オフィス)は子だけの事業所となる。

まずだらしない格好で行けばそれだけでNGだ。ただでさえけしない容姿の俺がだらしないなんて思われたら仕事を教えてもらえなくなる可能がある。

転勤早々嫌われ者になるだけは避けたい。

そしてもう一つは所長が作(みまさか)凜音《りおん》であることだ。

作所長の直屬の上司の部長と話した時も作さんにはまったく敵わないって言ってたから力関係は逆転してるのだろう。

格きつくって、帝という噂もあるくらいだ。

下手すればいびり殺されるかもしれん。

でも3月下旬に一度ドキドキしながら作所長に連絡した時は……。

「あなたが花村くんね。あの裝置のこと、開発チームのあなたに詳しく教えてもらうわ。みんな……待ち遠しくしているわよ」

すっげー綺麗な聲だった。

仕事が出來るってじの言葉使いだ。

寫真で見たあの貌であんな聲で話かけられたらうっとり赤面してしまいそうだ。

みんな待ち遠しいという言葉に違和がある。

同期の仁科さんはまだしも、作所長は聲だけ。後輩の九寶さんなんて1度として會ったことがない。

本社にいた時、新人の歓迎會で會ったかもしれないけど……わざわざ子に話しに行く気概はないので多分會ってないだろう。

そして同期の仁科さんから指定された場所へ到著した。

浜山SOからは歩いて5分の距離でそろそろ現れるはずだ。

「あ、やっほー。花むっちゃん！」

一人、人目を惹く容姿をしたスーツのが俺のあだ名を呼んでいた。

仁科(にしな)一葉(かずは)。俺の同期にして……絶大な人気を誇る子社員である。

彼の伝説は新人研修から伝わっているが……とにかく容姿端麗であることが隨一と言えるだろう。

また綺麗になってる……。心を落ち著かせろ。俺は仕事モードで対応するんだ！

「おはよう、仁科さん。久しぶりだね」

「うんうん！　あれ花むっちゃん、太った？」

「うっ、去年は社業務が多かったからね……。そ、それより2年前の本社合同研修の時以來かな」

「だね！　もうそんなに経つんだ。早いよね～。でも、これからは同じ事務所の同僚だし、一緒に頑張っていこうね！」

その明るい笑顔に絆されてしまう。なんてしい……神様かな。

朝のダークな気持ちが吹き飛んでしまいそうだ。

肩までばした飴の髪にくりくりとした瞳、スタイルもめちゃくちゃいいんだよな。

同期の全員がしてしまいそうなほど仁科一葉は可かった。

お、俺は……高嶺の花すぎて何もできやしなかったけど……。

「所長も葵(ひなた)ちゃんも待っているから行こっか」

仁科さんだけでもドキドキなのに……作所長に初対面の九寶さんだったり……俺はどうなってしまうんだろうか。