《モテないキャ平社員の俺はミリオンセラー書籍化作家であることを隠したい! ~転勤先の事務所の3人がWEB作家で俺の大ファンらしく、俺に抱かれてもいいらしい、マジムリヤバイ!〜》31 (葵視點)わたしはあなたを知っています①

わたしが花村さんと出會ったのを思い返せば高校生の頃に遡る。

彼はわたしのことを知らないけど、わたしは彼を知っている。

まだ父の會社が奪われることもなく、存続していて、わたしが社長令嬢のままの時の話だ。

通っているお嬢様學校ではそれなりにやれていたと思うが、九寶さんはしすぎて近寄りがたいとか意味の分からない理由で遠まきにされていた。

わたしはわたしで気弱で世間知らずの箱り娘だったからいい距離だったし、1人でいることは思考に耽るのに好都合でありがたかった。

高校3年の時に會社を乗っ取られて沒落するなんて思いも寄らず、のほほんとしている高校2年生の頃の話だ。

い頃から小説が大好きだったわたしは放課後に學校近くの自然公園のベンチで本を読むのが習慣だった。

昔は文學作品などを好んでいたが昨今のインターネットの発達により大衆文學を好むようになっていた。

同學生が最近のラノベは面白いよーなんて話を耳にして、実際に本屋で購したのが始まりだ。

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家にはあまり帰りたくなかった。母とは仲良いが父がとにかく嫌いだった。

橫暴で我が儘で気分屋で言っていることがコロコロと変わる。

よくまぁこんな調子で社長なんてやれてるものだと思う果てである。

まるで今読んでいる小説に出てくる貴族令嬢をいじめている悪役令嬢みたいだ。

だから私は夕方に家へ帰るのを避けている。父は夜にパーティとかで出て行く。帰ってくるのはいつも翌朝だ。

晝過ぎまで寢ていて、2回目になるがよく社長を続けていられるなと思っている。

名家と呼ばれた九寶家の長男ゆえだろう……。男の子を産めなかった母は大層いびられ、わたしの扱いもいいものではなかった。

できるだけ人のない所で創作の世界に思いを馳せる。それがわたしの趣味であった。

そんなわたしの思考のひとときを邪魔をする人がいる。

それはとある男であった。

毎日決まった時間にわたしのお気にいりの自然公園のベンチの前を通りかかる男が視界にる。

スポーツトレーナーにを包み、毎日毎日ランニングコースを走って行く。

浜山にある大學の學生さんで陸上部の活でランニングコースを約1時間ほど走っているらしい。

春夏秋冬、わたしがこの場所に來る時はいつも走っているのを見かけたのでしずつ報を得ていくものだ。

慣れしていないわたしが話かけられるはずもなく、その人も何回か目が合うことはあったが一度として話かけられることはなかった。

もしかしたらあの男が苦手だったのかもしれない。

そんなある日のことだった。

冬になるとじっとして本を読むのは寒くて震えてくる。

なのでランニングコースを散歩することにするのだが……こうやって視野を広げると見えてくるものが変わっていく。

今日は例の男が子供達に囲まれて、高い木に引っかかった風船を取っていた。

「お兄さん、大丈夫?」

「木登りは得意だからな、任せろ」

ある日は……。

「掃除を手伝ってくれてありがとね」

「いつも使ってますからね、當然っすよ!」

そしてこの日は。

「よいっしょ! おっけー、これで通れますよ!」

「さすが若いね。にーちゃんいくつだよ」

「鍛えてますからね。今年で22になります」

ランニングコースの上に倒れてしまった大木を片付ける手伝いをしていた。

ただ本を読んで帰るわたしと違い、その人は何かしら手伝いに汗を流していたのだ。

多分とても良い人なのだろう。一度そういう視點になってしまうとベンチで座ってるわたしの前を通りかかるこの人の印象も変わってくる。

何か、目指してるんですか?

今日はどんなお手伝いをされるんですか?

大學ってどんなじですか?

聲をかけてみたい。そんな願が生まれてくる。

だけど……結局わたしは一度として聲をかけることができなかった。

そんなある日、ランニングコースを散歩するわたしはさっきまで読んでいた小説の余韻にひたっていた。

ああ、やっぱり小説はいい。自分でも書いてみようかなと思い始めていた。

「あれ……なんだろ」

わたしの前を歩く、初老の男がふらふらしていることに気付く。

すると、コースの上で苦しそうにを押さえてしまったのだ。

でその男が危機的狀況であることが分かった。

急いで駆け寄ったけど、どうすればいいか分からない。

「ど、どうしたら」

「大丈夫か!」

大學生のその人が現れ、すぐに駆け寄ってくれた。

その時、その人を顔を見て……すごく安心できた。話したことないのに心の奧底で信頼していたんだと思う。

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