「ええ、姉には困っています。昔はあんなんじゃなかったんですけど」

笑っていた。セ、セーフなのか。

家族にも緒にしてる作家も多いのにうかつな発言をしてしまった。

妹さんもやっぱり馴染ざまぁについて思う所はあるのだろう。

「長編もエタってバンバン新作や短編出すし……馴染を斷罪するためだけに創作するからそうなるんです」

あれれ、雰囲気が変わったぞぉ？

ふわふわなじだった淺川さんに暗雲が立ちこめる。

「もう、花むっちゃん責任取ってよ」

「え？　なんで」

「やはり小説というのは一作魂なわけです。発なんて愚の骨頂」

「あ、あの淺川さん？」

淺川さんはスマホを取り出して提示した。

「私は青い語というペンネームでみなさんと同じ所で創作しています。みなさんとは同じ先を志す者として流させてもらっていますよ」

青い語……？

それはまったく知らない。

お姉さんの紅の葉は有名なWEB作家だったけど、妹さんの方はそうでもないようだ。

スマホを覗いてみると淺川さん（妹）の投稿作は1作のみ……『慧可斷臂な勇者の伝説』……やべぇなんて読むか全然わかんねぇ。

へぇ110萬文字かぁ……結構な大作じゃないか。すごい……って違う！！

これ1100萬文字だ!?

「す、すごいですね……」

「そうでもないですよ。1日5千文字を365日続ければ180萬文字くらいになります。それを約6年分続けただけですよ」

「いやいや……そんなの無理ですから！」

潛在も含めてそれなりに書籍化してる俺でも合計してもそんないかんわ！

1年180萬文字って結構な量だぞ！　この人どれだけ書いてるんだ。

あらすじに構想上の3割執筆済って一生かける気かな!?

「仁科さんのことは好ましく思っていますが……小説に対する姿勢だけは許せません。あんなテンプレハイファンタジーでニワカどもを釣って何が楽しいんですか」

「た、楽しいですもん！　淺川さんの小説なんて誰もついていけてないじゃないですか」

「良いのです。1人でも見てくれる方がいれば……私はその人のために書き続けます」

ああ、ようやく分かったわ。

やっぱこの人、淺川さんの妹だわ。

姉妹共々想いが重い。

「小説はテンプレなど不要。本格的ファンタジーこそ……原點にして頂點なのです」

淺川さんがすっげー勢いでまくし立てている。

馴染を斷罪している時のお姉さんにそっくりだった。

仁科さんがジト目で俺を見る。

「こうなるから小説の話題は嫌だったんだよ……」

「所長みたいに淺川さんと舌戦しないの？」

「淺川さんに対抗できるのは所長だけだから……。葵ちゃんだったら泣いちゃうよ」

確かに……それはじる。

それから30分、淺川さんが満足するまで俺と仁科さんは待つしかなかったのである。

ああ……なんつーか、何で俺のまわりに急にWEB作家が増えだしてくるのか。

そして何より。

「のWEB作家ってみんなクセ強いのかな」

「よく聞こえなかったけど、何であたしの目を見て言ったのかな？　ちょっと花むっちゃん、お話しよっか」

この後仁科さんがとても冷たかった。

冷たい彼もそれはそれで目新しかった。

良き。

◇◇◇

家に帰った俺はのんびりゲーミングチェアに腰かけ、スマホを眺める。

えっと慧可斷臂(えかだんぴ)な勇者の伝説。青い語さんの作品だ。

1話あたり5000文字のそこそこボリュームをほぼ毎日更新。それで1100萬文字もつぎこんだのか。

すげぇ……。

俺も書籍化作をそこそこ書いているがせいぜい2，300萬くらいじゃないかな……。

しかも同じ作品だもんな。どうやったらこんなにネタが続くんだ……？

地の文が80%くらいあるんだが……死ぬほど読みづらい。

地の文に酔っているってこーいうのを指すんだろうな。これを最後まで読んだ人は神かな。

非テンプレって堂々と書いてるけど、この世で溢れかえってそうな題材なのは何も言うまい。量書けてるのはすごいと思うけど。

「むっ」

ぱらぱらっと1000話以上も続く各話を覗いていると興味深い話のタイトルが見つかった。

俺が『宮廷スローライフ』でやろうとしていた作りと同じ題目の創作話だったのだ。

俺は1萬文字くらいで軽く終わらせたが、この人は10萬文字くらいに渡ってたった1つの事に注力している。

「ふむむ、これはすごい」

話は容は絶的につまらないが、資料として非常によくまとまっている。

引用の原典も書いてるし、その原典を參考資料として購してみるか……。

キャラ達がコミカルなやりとりをしながら1つ1つを作る工程を描いているのだ。

そこには功と失敗が重ねられていた。相當調べて書いているのだろう……。

下手なＷＥＢ資料よりも分かりやすい。語としてでは無く教育資料としてもっと広まるべきな気がする。

やり方を変えれば異世界設定資料集として売りに出せるレベルだぞ、これ。

「でも淺川さんの作品、良い參考書ですねって言ったらブチ切れられるんだろうな」

顧客擔當の人雙子姉妹。

びっくり仰天の重さを持つ人達だった。

そしてその2人とはすぐにまた出會うことになる。

作者も1100萬文字書けるように頑張ります！

そんなわけで次回「人雙子姉妹とデートの休日①」さっそく淺川姉妹とエンカウント。お楽しみ頂ければと思います。