飛鷹に完全に抱き寄せられてしまう。

男の人に抱かれてるってこんなじなんだと、ちょっと貴重な験にがときめく。

「ぐぅ……」

酒がったら１ミリもかないんじゃなかったの……。

まさか寢相が悪いとは思ってもみなかった。

でも……まぁ、抱かれるのは悪くない。溫かいし、力強いし、……ちょっとドキドキするし。

「ひゃん！」

なんだかムズムズがして聲がれてしまう。

視線を向けると飛鷹の手のひらが思いっきり私のを鷲づかみしていた。

「ね、ねぇ！　起きて」

「ぐぅ……」

本當に寢てるんでしょうね！　でも飛鷹は寢たふりしてるタイプには思えない。

ガチで寢相が悪いということだろう。

全力で飛鷹の拘束を解こうとする。

「……やばい、解けない」

男との力の差に歴然とする。

そもそも私は小柄な方だし、飛鷹は１７０中盤の男にしてはがっしりしている方。

全力で手をどかそうとするがびくともしない。

「うむ……むにゃ……もっと」

「どんだけりたいのよ！　店行け、店！」

飛鷹のタッチが全を駆けめぐり、変な気持ちになってくる。

やばい、やばい、やばい……。

その時、飛鷹がおかしなきを始める。

飛鷹が私の左腕を思いっきり上に持ち上げたのだ。

何が何だかわからない。

飛鷹は顔を左腕の方へ向けていく。

そして私の左腋の方に口を近づけ。

「ま、まさか……」

ペロリ

「んぐっ！」

左腋をペロリと舐められて、くすぐったさと気持ち悪さが全を駆けめぐる。

あまりの不快に私ののリミッターが外れたようだった。

「いい加減にしろーーーーっ！」

飛鷹の拘束を解き放ち、私はまくらで飛鷹の脳天に強力な一撃を與えた。

「ぎゃあああああああ！」

飛鷹は悲鳴を上げる。

「な、な、なんだよ、いったい！」

「あなたね！　やっていいことと悪いことがあるわよ！」

「な、な、なんの話ですか所長」

記憶が混濁しているのか前の呼び方に戻っている。

それはいい。

顔が熱い……。顔を真っ赤にしていたと思う。

「人の腋を舐めておいてよく冷靜にいられるわね！」

「いい!?　そ、そんなことした覚えは！」

「あなたは寢ぼけて、私の腋を舐めたのよ！　腋舐め大好きお米炊子！」

「ぐっは！ それだけは……それだけは言われたくなかった！」

飛鷹は致命的なダメージをけたかのように仰け反った。

しまった、敬するお米炊子先生を腋舐め星人であるだけを理由に侮蔑の言葉にしてしまった。

反省しないと……。

「も、申し訳ありません」

「まったく……」

飛鷹は土下座をして私に謝る。

ハグだけだったら許したのに全おりに腋舐めって……わいせつ罪で突き出したいくらいだわ。

「まぁ……いいわ。寢ぼけてたってのは分かってたし」

「……」

「あなたさっきから口をモゴモゴさせてどうしたの？」

「舌のを思い出せないかなと思って」

「ちょっと仁科と葵に注意喚起しておくわ」

「お願いします！……それは許してくださいーーーっ！」

◇◇◇

休憩する気分でもなくなったので私と飛鷹はラブホを出ることにした。

どっと疲れてしまう。

一番、ここにいるのが疲れてしまうなんて……。

いやまぁ、ラブホってそういうものだと思うけど。

「あ、あの……お姉さま」

「なんで令嬢風なのよ」

「いや、何となく」

飛鷹も相當気落ちしていたのか訳が分からない言葉遣いになっていた。

ふぅ……。ここは姉として導いてあげなきゃいけないわね。

「もういいわよ」

「あ、ありがとう姉さん」

「ただし、他のにはしないこと。私じゃなかったら通報されていてもおかしくないんだから」

「自重します」

俯く、飛鷹に聲をかける。

「そんなに腋を舐めるのが好きなの？」

「むひょっ！」

「まぁ……よくある癖だと思うけどね。まさかお米炊子先生と同じ癖とは……世界は狹いわね」

「アッアッアッ」

飛鷹は今にも反吐を吐きそうなくらい白目をむいていたが、これぐらいで許してあげるとしよう。

「じゃあ……帰りましょうか」

「はい……」

私は飛鷹に手を差し出した。

「昔みたいにお姉さんが手を引っ張って帰ってあげる」

「い、いや……それはさすがに恥ずか」

「腋」

「はひっっ！　一生ついていきます」

ガタイよく長した彼が弱々しく手を差し出してくるのでその手を摑んで引っ張り、前を歩いて行く。

お姉ちゃんとして馴染の弟をどこまでも連れていく。

４歳の時……心に帰るんだ。

私と飛鷹の両親のいる料理店に戻るとタイミングよく母と飛鷹のお母さんが外に出ていた。

「凜音、飛鷹くん。ちょうど良かったわ」

「ええ、じゃあ帰ろっか」

「あらあらあらあらあら」

飛鷹のお母さんが口に手を當て、私と飛鷹を見てほくそ笑む。

あっ、手を繋いだままだった。

「あなた達……まさかいつのまにかそんな仲になったの？」

「い、いえ、そういうわけでは」

「ふふ、飛鷹……２０年ぶりの願いが葉うわね！」

「は？　何言ってんだよ、母さん」

飛鷹のお母さんは言った。

「飛鷹ったら、大きくなったらお姉ちゃんと結婚するって言ってたもんね」

「っ!?」

「おまっ！」

慌てて振り返り、飛鷹を見る。飛鷹もわけがわからないようで違っ！　と言いながら慌てていた。

そんな時に私の母が口出してくる。

「あなた達、いつ結婚するの！」

「しないわよ！」

「しません！」

まるで息ぴったりのように私と飛鷹は口を揃えるのであった。

……まったくもう。

……でも聞きたいな。お姉ちゃんと結婚するってまた言ってくれないかしら。

例によってカクヨム版はちょっとだけ描寫を増してます。良ければどうぞ！

次回から葵編の始まりです。本作で作者が書きたかったお話の一つで盛り上がる予定ですので編の最後まで読んで頂けると幸いです。