《モテないキャ平社員の俺はミリオンセラー書籍化作家であることを隠したい! ~転勤先の事務所の3人がWEB作家で俺の大ファンらしく、俺に抱かれてもいいらしい、マジムリヤバイ!〜》139 溫泉旅館 ~それぞれの想いと願い~④
あー、素晴らしい溫泉だった。
湯量富な浴槽に様々な種類の溫泉。天風呂は外の寒さとお湯の溫かさの差が良い。景観の良さも熱海の地によく合っているように思う。
一人で溫泉ってのも悪くはない。
気兼ねなく、りたい浴槽を選ぶことができるし、サウナも自己の判斷でったり出たりすることができる。
やっぱ一人は良い。
一人は……。
はぁ。
いつもより長くったつもりだったが集合場所に陣はまだ來ていなかった。
「俺はもうちょっと好きを表に出した方がいいのかな」
今回は特別な貸し切り風呂を借りて、陣はそちらにっている。
ここは貸し切り風呂であれば混浴することができて、5人と一緒にることができる。
葵や所長はしきりにってくるもんな……。
他の3人はさすがに慌てていたじゃないか。
いやでも……あの5人と一緒にれる機會なんて今後あるはずないし、全でるわけもなく、湯著もあるのでそれを使ってみんなで仲良くってもよかったのかもしれない。
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湯著姿でも十分目の保養になる。
紳士ぶって俺はりませんと言い張ったが……もう、俺がドスケベクソ野郎なのは葵がバラしまくってるわけだし素直になるべきだった。
でも茜さんや葵さんには社會人花村飛鷹の姿の方が常だと思うし、それを崩してしまうのは……なぁ。
俺は集合場所の近くにあった、旅館特有の小さいゲームコーナーへ足を運ぶ。
「あ、昔やってたスロットの臺があるじゃないか」
大學時代に泊まった宿では稼いだ分を宿代から割り引きできるみたいなやつがあったよなぁ。
結局負けて宿代を稼ぐ所かマイナスになったのも良い思い出だ。
時間つぶしにやるとしよう。
両替機でコインに変えて、どっと椅子に座る。
浴姿でスロットを打つのも乙と言えよう。
球技は苦手なので卓球などやらん!
「遊んでるね~」
「ほわっ!?」
急に聲をかけられて、びっくりする。
もちろん聲をかけられたくらいではびっくりしない。
びっくりする理由はただ一つ。
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聲をかけてきたのは仁科一葉という同期ので……想いを寄せている人だったからだ。
飴の髪を結っており、風呂上がりの姿はっぽい。
浴姿も魅力的で……本當に可い子だなって思う。
お、落ち著くんだ、俺。
「お、お、お風呂上がったんだ」
「うん、みんなはまだ支度してるから、先に上がらせてもらったよ」
そう言って仁科さんは俺の座っている橫長椅子にちょこんと座る。
し小さい椅子のため仁科さんのが著してがときめいてしまう。
何度も深呼吸すればいつも通りでいられるはず……落ち著け俺。
「ふう、貸し切り風呂どうだった?」
「すっごくいい所だったよ~。でも種類はないから明日の朝は大浴場に行きたいな」
「へぇ、そりゃいいなぁ」
「そっちはどうだった?」
「天風呂は大きくて良かったよ。サウナった後の水風呂が最高だね」
「そっかぁ。みんな上がったら牛飲むぞー!」
風呂上がりの牛はいいよな。
飲むならコーヒー牛がいいな。
ふと仁科さんと目が合う。
そのくりくりとしたらしい瞳に心を貫かれてつい、目を反らしてしまう。
じ悪いことをしてしまったと思い、恐る恐る視線を戻すと仁科さんもまたし慌てた様子で視線を外してしまっていた。
意識し合ってる? なんて思ってしまったらダメだろうか。
「あ、ああ~」
仁科さんが甲高い聲を上げる。
「花むっちゃん、スロットやるんだ、意外だね」
「大學の時に教えてもらったんだ。だからつい見たらプレイしてみたくなる」
「楽しいの?」
「俺はパチスロの才能は無かったよ。時間つぶしって所かな」
「ふーん、そうなんだ」
仁科さんがぐいっと近寄ってくる。
スロットの筐の演出畫面を覗いているのだろう。
彼が側に寄れば寄るほど張してくる。
仁科さんを尊重する元とか、同期のみんながをしてしまいそうな小顔とか……好きになってしまうポイントは本當に多い。
やっぱり俺は明確に仁科さんのことが好きのようだ。
「あ、揃ったよ」
「え?」
気付けばスロットの回転がリーチにり、7が3つ橫並びになろうとしていた。
演出が開始されて、効果音の音量が大きくなる。
これは熱いイベントだ。
「これはチャンスだ!」
「ど、どうすればいいの!?」
仁科さんは多分知らないんだろうな。
ま、ここまでいけば基本見てるだけなんだけど……。
げんを擔いでみたい。
「仁科さん、祈ってくれ! パワーをくれ!」
「う、うん!」
「おぅ!?」
スロットのボタンを押そうとする俺の右手に仁科さんが両手をくっつけてきたのだ。
溫かみのあるスベスベの手のひらが手の甲に広がる。
さらに近づくことで風呂上がりの優しくて甘い香りが俺の心拍數を上げていく。
もしかして祈るって直でれることで効果があると思っているんだろうか。
だけど……この仁科さんの手にいつまでも包まれたい。
「當たれ!」
演出は終わり、回転している7がゆったりと降りてくる。
「ああ……」
2つ7が揃ったロールの最後の1個が通り過ぎてしまう。
仁科さんの落膽の聲が上がる。
しかし、この狀況は……。
そう、通り過ぎた7のロールが戻ってきて、3つ7が揃ったのだ。
それはつまり大當たりだ。
「來たっ!」
「え? これ……大當たりなの?」
「そう、やったぞ!」
スロットの筐がり輝く、大當たり演出が開始されてる。
「仁科さんの祈りのおかげだな」
「えへへ、やったね!」
仁科さんと両手を合わせて喜びを分かち合う。
誰かと喜びを分かち合うってとてもいいなぁ。
こうやって両の手のひらを合わせて……合わせて。
「あ……」
仁科さんから聲がれる。
ばっと手を外されてしまった。
「ご、ごめんね、テンション上がっちゃって」
照れる様も本當に魅力的でが焦がれてしまう。
そんな姿をもっともっと見続けたい。
「え……と大當たりしたらどうなるのかな」
いつのまにか大當たり演出は終わっていて、メダルがジャラジャラと出てきた。
このメダルの枚數で景品と換できるようだ。
換のレートは……え、特別クレーンゲーム1回券?
ああ、この橫にあるやつか。
攜帯ゲーム、ぬいぐるみなどそこそこ高価なものが置かれている。
數がないからゲームコーナーの商品引き換え券みたいなものか。
「クレーンゲームって苦手なんだよね……。摑んだと思ったら全然力が足りなくて」
「今、アームの力を調整できるからね。でも案外いけるかも」
目の前のクレーン筐はかなり古そうだし、そういった機能はないかもしれない。
でも失敗したらもったいなぁ……。
まぁいいか。
店員さんに引き換え券として特別なコインをもらい、クレーンゲームに投した。
2つのボタンを作してゆっくりとアームをかしていく。
狙いはゲーム……はいらない。
ぬいぐるみも位置的にきついな。
……だったら。
アームの力合が分からないので取りやすい所を狙う。
狙いは……近くにあるキーホルダー。
「あ、かかった!」
仁科さんの聲に力がる。
アームが狙いのキーホルダーを摑み取り、そのまま持ち上げた。
アームの力はそこそこ強いな。これならぬいぐるみでも良かったかもしれん。
後で……コインを稼いで換しようかな。
摑んだキーホルダーは見事に回収することができた。
「わぁ~花むっちゃん上手いね!」
「アームが強かったおかげだね。小さいものなら場所を間違えなきゃ取れると思う」
俺はキーホルダー、浜山のマスコットキャタクターを象った出世大名のキーホルダーを仁科さんに渡した。
「仁科さんの祈りのおかげだし、あげるよ。出世できるかもよ」
「ありがとう~! 所長より出世してみんなを顎で使おうかな」
「そのためにはテスモの仕様の決定のミスを減らさないとね」
「もーー! この前あたしが間違えたからってもー!」
やっぱり変に意識せずに會話するととても楽しい。
仁科さんはキーホルダーをに當てる。
「ありがと。花むっちゃんからのプレゼント……嬉しいな」
「う、うん」
やばい、またドキドキしてきた。
やっぱり可すぎるんだよな……。何かもうどうでもよくなってきた。
この想いを彼に伝えたい。
……どこかで時間を取れないか。
「おやおや~~~、お二人とも楽しそうですね」
そんなこと考えてた所に葵さんの間延びした聲が聞こえる。
葵さんが浴姿で側まで來ていた。
「お二人とも楽しそうですね~」
葵さんの奧には所長、葵、茜さんも來ていた。
みんな風呂から上がったのか。
「あ、えっと……うん」
「スロットで盛り上がってしまいましたよ」
この冷めやまないのドキドキを抱えたまま言葉を返すことにした。
「ふーん、なるほど! あ、花村さん……ちょっと男手がしいので來てもらっていいですか? 仁科さん、花村さんをお借りしてもいいですか?」
「な、なんであたしに……」
「俺は構いませんよ」
ちょっとクールダウンしたかったし、ちょうどいい。
葵さんに連れられ、みんなから離れていく。
導かれるように連れて行かれ……いったいどこへ行くというのか。
男手ってのも意味が分からない。駐車場とも違う方向だし。
尚も歩く葵さん、いつのまにか人がまったくいない屋外にまで來ていた。
「あ、あの……葵さん、何を」
「ちょっと花村さんに聞きたいことがありましてぇ」
「何ですか? 俺で良ければお答えしますよ」
「書籍化ってどういう風に打診が來るんですか?」
「え」
「ああ、言い忘れました。昨日も書籍が重版されたって言ってましたよね。おめでとうございます」
その言葉に頭が真っ白になる。
口が自然と開いてきた。
葵さんの笑顔だけが目に映る。
「花村さん。いえ……お米炊子先生♪」
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