《モテないキャ平社員の俺はミリオンセラー書籍化作家であることを隠したい! ~転勤先の事務所の3人がWEB作家で俺の大ファンらしく、俺に抱かれてもいいらしい、マジムリヤバイ!〜》141 (茜視點)溫泉旅館 ~それぞれの想いと願い~⑥
張してきた。
おかしいなぁ。この前の橫浜出張の時の展示會のような……100人、200人が聴講していようとも怖じせずにいられるのにたった1人と話すだけでこんなにも張してしまう。
それほどあなたは特別な方なのでしょう。
「茜さん、今日は気持ちがいい夜になりそうですね」
「……はい」
浴姿の花村さんがにこりと笑う。
ああ、本當に花村さんの笑顔はステキだなぁ。
會えば會うほど虜になってしまうようだ。
今、こうやって2人きりなのは妹の支援があってこそである。
し前、夕食を取った後に葵が聲をかけてきた。
「花村さんを呼び出したから2人で會ってきて」
元々葵には今回の旅行で私が花村さんに告白することを話している。
というよりこの旅行自がそのためのものだ。
……同じ會社でない私が彼に想いを告げるチャンスはとてもない。
だからきっかけを作りたかった。
「他の3人は私が引き付けておくから全部吐き出して來て」
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妹の支援の元、私は片想いしている花村さんとご一緒している。
「溫泉良かったですよねぇ。……後でまたるかなぁ」
「この後はみんなで創作合宿ですね。花村さんも執筆してみてはいかがでしょうか」
「……自分は創作シナイ方針デスノデ」
とても棒読みで言葉を吐かれた。
「それでお話というのは……」
唐突に花村さんから話を振られどきっとする。
そうか、葵から私が大事な話があるってことで呼び出してもらったんだっけ。
うぅ……。
みんなはどんな風に勇気を出して告白するんだろう。
言い淀んでいると先に花村さんが口を開いた。
「會社事なので詳細は言えないんですけど……実は俺、年が明けたら大きなアクションプランを部長クラスが揃う會で発表するんです」
「すごいじゃないですか!」
「所長やみんなと企畫資料を練っている所で……実はきっかけが茜さんなんですよ」
「え、私ですか?」
急な言葉に意表を突かれてしまう。
花村さんはくすりと笑った。
「この前の橫浜出張の時の茜さんがほんとかっこよくて、……俺もあんな風になりたいと思ってプレゼンターをかって出たんです」
私がきっかけ?
その言葉が嬉しくて……心が凄く溫かくなる。
「俺は茜さんのようになりたいです」
もう……そんなこと言われたらますます好きになってしまう。
ああ、あなたの側でプレゼンテーションのやり方とは……という名目で一緒にいたい。
真夏の時のデートのように……、あなたの側であなたと一緒に……過ごしたい。
だから私は……今日はあなたに好きだと伝えたいです。
「花村さん……」
「はい」
「私……」
そして私はフラれてしまう。
分かっているんです、花村さんが誰を好きなのか。
あなたと彼は気づいてなかったと思いますけど……、さっきお二人でゲームコーナーにいましたよね。
2人で仲睦まじく話して、そしてから手が出るほどしい、あなたからの贈りをけ取っていた。
気付いてましたか……あの瞬間、作さんも九寶さんもいたんです。
私も含めて3人、凄く寂しそうな顔をしてしまいました。
これがが葉わなかった者達の顔つきなのですね。
いつもは飄々としている葵がオロオロしてしまうくらいなのですから……。
あの後花村さんを呼び出して何かしてたみたいですけど。
もしこれが學生だったら……想いが伝わるまで待つことも一つの徳なんででしょう。
でも私も良い歳だ。2回目のに10年も20年もかけるわけにはいかない。
……決著をつけたい。
「……涙?」
ああ、フラれるって分かってるから何か涙が出てきた。
花村さんがオロオロしちゃってる。
「あ、茜さん」
「好きなんです」
「え……」
「私、花村さんのことが好きなんです。私らしくいられなくなるくらい……好きなんです」
「茜さん……」
初めての告白、花村さんは目を見開いて口を噤んだ。
そうだよね、やっぱり……私の好意分かってたよね。
妹から聞いてたのかな。
「ありがとうございます。茜さんのような心から尊敬できる方に好きだと言ってもらえて……本當に嬉しいです」
花村さんは淀みなく答える。
その言葉は準備していたのかな。でも心から尊敬しているなんて言われて嬉しくて舞い上がってしまいそう。
もしかしてなんて想いが浮かんでしまう。
「だけど……俺は」
そう、そこで逆転勝利はありえないのだ。
分かっている。分かっているんだ。
「花村さん!」
でもその言葉を言われたくなかった。言われると分かっていて、覚悟をしていたのにやっぱり無理だった。
私は勢いよく飛び出して、花村さんの両腕を摑む。
そのまま戸う彼のにキスをした。
「っ!」
もっと経験があれば……舌を絡ませたことだろう。
初カレともまだキスは未経験だったので……これが私のファーストキスである。
初めてキスの味は……正直頭が真っ白で覚えていない。
をくっつけ合いそっと離れる。
涙はまだし流れたままで視界が歪む。
し前へを押し出せば……またキスできる距離でそっと呟く。
「花村さんの好きな人……知ってますから」
「っ……」
「報われないって分かっているので……許してください」
私はばっと花村さんから離れて立ち去る。
……素敵な思い出をありがとう。短い間だけどあなたを好きになれてよかった。
全力で駆けだしていく。
止まってしまうともっと泣いてしまいそうだった。
「お姉ちゃん」
私の前に現れた妹の姿を見て、飛びつくように抱きしめた。
「……言えた?」
葵の言葉に私は頷く。
「そっか……良かったね」
妹も察してくれたのだろう。
……でも彼にキスをしたことは妹にも黙っていようかな。
「邪魔……らなかったよね?」
「え?」
妹の言葉に聲が出る。
「作さんと九寶さんは足止めできたんだけど……いつのまにか仁科さんがいなくて……側に來てないよね?」
◇◇◇
「はぁ……」
屋外で佇む花村飛鷹は何度もに手を當てる。
(らかかった……。風俗で経験済だったけど……やっぱ違うな)
淺川茜から突如として奪われたに対して飛鷹は慨深く思っていた。
作や葵ですら口付けは許していない。お店での口付けを除けば紛れもなくファーストキスだろう。
(淺川姉妹は……どっちも凄すぎる)
飛鷹は振り返って、茜が立ち去った方とは逆に進む。
(茜さんは勇気を振り絞って告白してくれた。正直心に滅茶苦茶響いた。心から尊敬しているからだろうな……。思わず頷いてしまいそうだった)
それでも頷くわけにはいかない。
飛鷹にはすでに想いを寄せている人がいるのだから。
飛鷹は歩き出す。
(決著をつけよう。もうバレなんて……どうでもいい。葵さんにバレた以上時間の問題だ。俺も勇気出す!)
飛鷹は先まで進んだ後、停止する。
何か気付いたように地面をじっと見つめた。
そこは建の影で先ほどの飛鷹と茜のやりとりがよく見える所だった。
「これは……」
地面に落ちていたそれはキーホルダー。
そう、先ほど飛鷹がクレーンゲームで手にれたものだった。
それは紛れもなく仁科一葉に渡した出世大名を象ったもので間違いなかった。
捨てられたというよりは落としたというじだろう。衝撃的なシーンを見た弾みだったのかもしれない。
偶然か必然か……。もし必然なら。
(仁科さんがさっきのやりとりを見ていたことになる)
仁科に飛鷹、そして淺川姉妹の想いが差する溫泉旅行は終わりを迎えることになる。
そしてすぐに……飛鷹は想い人が関係する最大の危機に直面することになる。
次話より全14話のラストエピソード 【君を絶対に手放さない①】が始まります。
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