《モテないキャ平社員の俺はミリオンセラー書籍化作家であることを隠したい! ~転勤先の事務所の3人がWEB作家で俺の大ファンらしく、俺に抱かれてもいいらしい、マジムリヤバイ!〜》143 君を絶対に手放さない②
仁科さんの異命令?
聞けば1月かららしい。急すぎるし、そもそもありえない。
「仁科さんを追いだしたくせにまた呼び戻すってことですか!? そんなバカな!」
「そうね、その通りだと思うわ」
「いったい何で!?」
「表向きはbeet修正のフォローだけど、真実は設計者の仁科に直させたいんでしょうね」
「バカげてる!?」
「私も同よ。すぐに部長に掛け合ったわ。……だけど決まったことって取り合ってもらえなかった。どっちかというと部長陣も困ってるらしいわ」
営業部の部長陣よりも所長の方が強いって噂だもんな……。
僕に言われても困るよーなんて言って日和った自所屬の部長の姿が目に浮かぶ。
「報シスアド課の吉名課長が強く言ってるみたいね」
「……そんなにその人は偉いんですか。課長なのに」
「そうね。beetシステムの運用開始でフォーレスは売り上げ、利益が倍増したからね。その果を上げた報シスアド課は最も社で権力があると言われている」
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所長は吉名課長について話をしてくれる。
吉名課長は40代中盤の男社員。前にも話したが激家で何人もの社員が彼によって心を壊して辭めているパワハラの強い社員だ。
だけど必要な資格などを持っており、あの人の代わりがいないため重役達も何も言えずに野放しとなっている。
男は耐えきれず辭めてしまうため、課には社員しかいない。
に対しては甘さが出るようで……お気にいり達をはべらかせているとか。
仁科さんの教育者である有坂さんはその筆頭で、beetシステムの果は全て有坂さんとなり、それを取りまとめた吉名課長がのし上がることになる。
同期から総務の報シスアド課はやりたい放題だと聞いている。
予算を食いにし、他の課では許されないこともやっていると聞く。
仁科さんへの細かな嫌がらせが止まらないのもその権力を笠にしているものだと思う。
「期間限定の異とか、リモート作業とかも聞いてみたけど全部はね除けられたわ」
「そんな……」
「もう……分からず屋ども! 私が何のために仁科を育てあげたと思っているの。奪われてたまるものですか」
「俺に出來る事はありますか! 何でもやります!」
「出來る事はまだあるわ。でも……正直かなり厳しいと思う。それが分かっているからあなたに話したってのもあるし」
そうだろう。
いくら所長が優秀といえど人事に口出しする力は足りない。
それが社で最も権力のあの相手であれば……尚更だ。
「仁科さん……が話を聞いたら」
「責任の強い子だから戻るでしょうね」
「beetシステムは俺達も重寶してますからね。俺達のために仁科さんはくでしょう。でも……彼が古巣に戻ってアップデートして不合が良くなったら」
「多分……辭表を出すでしょう」
取れる報を全て抜き取った上でぞんざいな扱いをけるのが予想できる。
仁科さんは東京生まれの子だ。向こうに行ってしまったらもう……會うチャンスもなくなる。
そんなの絶対に……嫌だ。
「來週、本社に行って吉名課長に直談判してくるわ」
「所長」
「説得は無理でしょうね。でも相手が無能な激家だったら仁科などいらんって言わせられるかもしれない」
確かにそういう手を使わせるのはアリだ。
ワンマン系な人間なほど一度吐いた言葉を撤回しないものだ。
仁科さんの異を無しにすると言わせることができれば……それが一番いい。
だけど、そうなると所長の出世コースにも響いてくる。
「だったら俺も行きます」
「花村くん?」
「2人の方がいいでしょう。それに相手は男に厳しい人ですし、そっちの方がいいかもしれません」
俺は出世できなくても支障はない。
仁科さんがいなくなることに比べたらよっぽどマシだ。
幸い來週は本社に行く要件もある。所長の合わせて出向くことも可能だ。
「分かったわ。やれる手を打っておきましょう。この件は仁科には伏せておくように、葵にもね」
「はい、分かってます」
「異の話は上長から話すものだから……。本社勤務の場合、仁科は実家暮らしだし……ギリギリまで引っ張れるでしょう」
絶対に負けるわけにはいかない。
◇◇◇
次の週、俺と所長は本社へと出向く。
まず前提としてアポイントメントは簡単に取れた。
無理だったら吉名課長が絶対いる日を確認し、その日に突撃する予定だったので無駄にならなくてよかった。
穏便に済めばいいんだけど……おそらくは無理だそう。
俺も所長も本社での仕事を終え、夕方近くに本社ビルの報シスアド課のフロアへとった。
側にいた人に課長を呼び出してもらった所、1人の社員が現れた。
……誰だろう。
「こんにちは浜山SOの作所長。お久しぶりです」
「ええ、こんにちは。有坂さんでよかったかしら」
「ええ、そうですよ」
この人が有坂さん!
仁科さんの教育係で仲が良くなかったと言われていた人か……。
あまりいいはないが、先観で人を判斷することは良くない。
所長だって思うところはあるだろう。冷靜にいこう。
「どうしてあなたがここに? 吉名課長の元へ案して頂ける方……ってわけではないわね」
「要件は察していますよ。仁科さんのことでしょう?」
「ええ……」
有坂さんは微笑む。
何か腹に持っているような笑みだ。
同期の話だと結構やり手だと聞く。実務よりも社政治向きってじなのかもな。
「仁科さんは私が教育した子ですからね。仲良くはなかったですけど」
「……それは認めるんですね」
口を出してみる。
「あなたは? たまに本社で見る子よね」
「今は浜山にいる花村です。本社時代は開発・設計チームにいました」
「ふーん、そう」
あまり興味がなさそうなじだった。
本社にいた時はと関わることはなかったし、報シスアド課と直接関わるようなこともほぼなかった。
名前を聞いたことがあるくらいなものだろう。
つっこんだことを聞いてみるか。
「beetシステムの不合。いつになったら直るんですか?」
「今、解析中よ。あのシステムはなかなかやっかいなの。外部の人間には分からないだろうけど」
「……そうですよね。仁科さんが作ったものを奪った人がうまく扱えるわけがない」
「……」
有坂さんの微笑みが揺らいだ。
だが、すぐにクスリと笑う。
「ふふ、あの噂を信じているのね。困るわ。beetシステムを構築したのは私なのに彼が噓をバラまいたせいで……迷してるのよ」
「噓って……よくそんなことが」
「あなた浜山にいるんだっけ。そっか。仁科さんを好きになっちゃったか。あの子は昔からそう。男を惹きつけるのが得意な子。あの顔とでどれだけの子を騙してきたのかしらね」
「くっ」
「あなたみたいな子……彼が転勤した時によく出てきたわ。みんなあの子の香に騙されたのね。かわいそう」
有坂さんは続ける。
「beetの不合は私が知らない所で発生してるの。もしかしたら仁科さんが転勤する前に弾をしかけてたのかもね。あの子、私のこと嫌いだっただろうし」
「仁科さんはそんな子じゃない!」
「そんな子よ。あの子のことはよく知っている……。だって教育係だもの」
噓を言っているじじゃない。
もしかして思い込んでいるのか。beetを作ったの自分であると……そう信じ込んで、仁科さんを噓つき呼ばわりしたというのか。
「花村くん、抑えなさい」
「でも!」
「私達の目的は仁科の異を何とかすることよ。beetを誰が作ったか今更どうでもいい」
そうだ。そうだった。
俺は冷靜になれてなかった。
何より必要なことは浜山に仁科さんがいてくれることじゃないか。
俺が出來る事は……。
「失禮なことを言いました。すみません」
「分かってくれたのならいいわ」
ここで有坂さんを怒らせてもメリットはない。
でも絶対化けの皮を剝いでやるからな!
「それじゃ……吉名課長の下へ案してもらえるかしら」
「ええ、こちらにどうぞ」
俺と所長は覚悟を持って挑む。
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