「ねえ、晴くん……起きてますか？」

聞こえてきたのはユキの聲と、部屋の中にってくる足音だった。俺は被っていた布から顔を出す。

眠用の薄暗いライトに照らされるユキの姿。

可い柄のパジャマを著ている彼が立っていた。

「ユキ……？」

「晴くんも起きてたんですね。ごめんなさい、なんだか今日は眠れなくて」

「あ……ああ。俺もなんだか寢付けなくてさ」

「もし良かったら、一緒に寢ませんか？」

「寢るって俺のベッドで……か？」

「はい」

ユキはそう返事をした後、俺のベッドの真橫に歩み寄る。

高鳴るを抑えながら俺はユキから目を逸して背中を向ける事にした。またあの妖艶な笑みを浮かべているのかと思って、今この狀況で彼のそんな表を見たら興のあまり心臓がから飛び出してしまいそうだった。

「お邪魔しますね……」

囁くような小さな聲が聞こえて、ユキは俺の被っていた布へと手をばしていた。めくられる布。そして布の中に彼がゆっくりとってくる。

狹いベッドにユキと二人きり。高まっていく鼓。それがれ聞こえていないか、心配に思った時だった。

「ふふ。晴くん、すごいどきどきしてる」

「あ……っ」

俺のに小さな手を當てながら、ユキは背を向ける俺を抱きしめていた。もう何もかもが彼には筒抜けだった。高まる心臓の音もどきどきと脈打つも、ユキはそれを全でじるように俺を強く抱きしめる。

「晴くん、あったかい。ずっとこうやって一緒になりたかったんです」

「そ、そうだったのか……」

「はい。恥ずかしくて出來なかったけど、今日は……その、勇気を出してみようと思って」

「勇気を出してみようって、だって今日のユキはそもそも――」

――待てよ。

よく考えて見ろ。ユキが以前に俺の背中を洗ってくれた時もそうだった。彼はとても恥ずかしがりながら、それを俺には気付かれないように振る舞っていた。そして今日のユキはまるで小悪魔のようで、妖しく笑みを浮かべながら俺の事をしていた。

けれどあの妖艶な笑みの向こう側でも、本當は恥ずかしがっていて、それを隠して振る舞っていたとするなら？　彼は勇気を出して小悪魔のふりをしていたのなら――妖しく笑むユキも、今こうして俺を抱きしめているユキも、包帯を巻いていた頃と変わらない優しくて健気な、俺の知っているユキだった。

ユキに背を向けていた俺はゆっくりと寢返りをうって彼の方に振り向いた。そして俺はユキの寶石のような青い瞳を覗き込む。薄暗い明かりの中で、それでも彼が小さな吐息をこぼしながら頬を赤くしているのが分かった。

「ユキ、今日は楽しかったよ。水族館にってくれてありがとう」

「晴くん……あたしも楽しかった」

彼は優しい微笑みを浮かべて瞳を見つめる。

靜かで幸せな時間が流れていく。

俺はユキの事を抱きしめた。

俺の腕の中に収まったユキ、らかいの子の、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。ユキも俺の背へと手をばして抱きしめ返していた。ユキの溫もりをじていると心地が良くて安心する、今までの張が急にほどけていって、だんだんと瞼が重くなってくる。

それはユキも同じだったようだ。

彼は瞼を閉じて、小さな寢息が聞こえてきた。

今日のユキは早起きして、豪華なお弁當を作って、出かける為の支度にも時間をかけて、俺との一日が楽しくなるよう一杯頑張ってくれた。その後も俺との距離をもっとめようと勇気を出して小悪魔のように振る舞って、いつもとは違う事をたくさんして疲れてしまったのだ。

明日は家でゆっくり休もうな、ユキ。

一緒にご飯を作ったりゲームをしたり、ネットで映畫を見たり、一緒にのんびりと二人だけの時間を楽しもう。

俺はユキの頭をそっとでる。目を閉じて靜かに眠るユキ、らしくて優しい彼の溫もりをじながら、ゆっくりと目を閉じてそのまま夢の世界へと落ちていった。