《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第8話、席替え②

隣の席にユキがいて、前に秋奈がいるという學校生活は、俺が思っていた以上に幸せなものだった。

授業中に真剣な眼差しで授業をけるユキの姿。教科書のページをめくりながら長くて綺麗な白銀の髪をかきあげる、その仕草はとても絵になって見ていると鼓が高まるのをじた。俺が黒板の容を書き寫すのを忘れてユキの姿に見惚れていると、それに気付いた彼はこちらを見て微笑んでくれる。

前の席にいる秋奈は『教科書は忘れてないか、課題の方は大丈夫か?』と休み時間になると心配してくれて、俺が教科書を忘れた事に気付いたら新品の教科書を取り出した時は心底驚いたものだ。秋奈は萬事に備えていると言っていたけど、流石にあれは真似出來そうにない。

教師に當てられて分からない事があると隣の席のユキと前の席の秋奈がすぐに助け舟も出してくれるし、いつも二人は俺に優しく聲をかけてくれる。

これからは家だけでなく學校生活でもこうして幸せな毎日が送れるだなんて、今なら他の生徒達席が何処の席が良いかどうかで騒いでいた理由も良く分かるというものだ。席替えの重要さを思い知った。

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そしてそんな幸せな學校での一日を堪能している時に気付くのだ。

以前に席が隣だった子生徒が、席の離れてしまったユキにスマホでメッセージを送っているようで、休み時間に何度かやり取りしている姿を見た。

そんな姿を眺めながら俺は自分のスマホに登録されている連絡先の一覧に視線を落とす。

俺とユキは同じ屋の下で暮らしている。通學する時も帰る時も一緒で、お晝の時間だって屋上に行って二人で弁當を食べるような関係だ。更には席まで隣になったのに、俺はまだユキとスマホの連絡先を換していなかった。

常に一緒にいる事もあってスマホで連絡を取る必要はなかったし、用事があれば聲をかければ良いから、わざわざスマホを使うまでもない。ユキも俺に連絡先を聞こうとはしてこなかったし、あまり興味も無さそうに見えていた。

こうして席まで隣になったのに、ユキの連絡先を知らないなんてどうかと思えて、その瞬間にどうしても彼の連絡先が知りたくなっていた。學當時から多くの生徒がユキの連絡先をしがっていたけれど、俺はそれを遠目で見るばかり。ユキと一番仲良くしているはずの俺が連絡先を知らないだなんて、なんというかもったいない気がしてくるのだ。

ユキから連絡先を聞き出そうと張り切ってみたのだが『なあユキ、そういえば連絡先って換してなかったよな? 教えてくれないか?』ただそう言うだけで良いはずなのに、から出かかっているその言葉が上手い事出てこない。

ここまで仲が良いのに今更連絡先を聞くのか、と。むしろユキとの近い距離が俺にとっての大きなハードルになっていた。

結局は晝休みに弁當を食べている時もそれは言い出せず既に放課後になっていた。

俺とユキは夕焼け空で染まるオレンジの通學路を、肩を並べて一緒に帰っている。彼は優しい笑みを浮かべながら俺を見つめていた。

「ねえねえ晴くん。今日の席替え、隣になれてほんとに良かったですね」

「あ、ああ。びっくりしたよ、俺も窓際の最後尾を狙ってたけどさ。ユキと隣の席になれるなんて夢にも思ってなくて――ていうか世話になってばかりで悪いな。今日も英語の授業で助けてくれてさ。訳文こっそり教えてくれただろ、あれまじで助かったよ」

「せっかくの隣の席なので。授業で分からない事があれば休み時間の最中にも聞いてくださいね。あたしが教えられる事ならどんな事でも教えますから」

「そう言ってくれて嬉しいよ。家でも學校でも、世話になってばかりで悪いんだけどさ」

「悪くなんてないです。晴くん、もっともっとあたしに頼ってくださいね」

微笑むユキを見つめながら思う。

マンションでは家事から何から全てやってくれるユキ。學校でもこうして力になってくれる。俺の世話を続けてくれるなかで、それでもユキは學力を一切落とす事なく優秀な績を殘し続けている。家事が終わった後は部屋でずっと勉強しているんだろうか。何処まで頑張り屋なんだろうか、この子は。

部屋の向こう側にユキの本當のプライベートな姿があるのだが、一何をして過ごしているのか。恥ずかしさもあって彼の部屋を訪れた事は一度もない、ユキの部屋は俺にとって特別な空間のように思えて、足を踏みれるのを躊躇していた。

そしてスマホで連絡を取れたら気兼ねなく隣の部屋のユキにも聲をかけられる。何とか勇気を振り絞ろう、それしかない。

「なあユキ。ちょっと話があるんだけどさ」

「晴くん、どうしました?」

「ほら。マンションではさ、今のところ一度もユキの部屋に行った事無いよな。話をするのは俺の部屋かリビングだし」

「そうですね、あたしが晴くんのお部屋に行く事はありますけど。遊びに來ても良いんですよ?」

「いやそれが……話したい事があるけど、なんていうかな。やっぱりの部屋って特別なじがあるしさ、それで我慢する時があるんだ」

「そうだったんですか? どんな事でも良いので気にせず聲をかけてください。話したい事があれば、いつだって來てくれて良いんです」

「いや部屋で忙しそうにしてたら悪いからさ。それで一つだけお願いがあって」

俺はそう言いながらスマホを取り出した。

「そ、そういう時にスマホで気軽にメッセージを送れたりしたら、便利じゃないかなって思うんだけどどうだろう? 連絡先とか今まで換してなかったし、ユキが良ければ……なんだけど」

本當はユキの連絡先を知りたかっただけだったが、単に連絡先を教えてしいとは言えなかった俺。けれどこうやって理由があるなら何とか聞ける。今日ずっと知りたかったけど、ようやくそれを口に出す事が出來た。

「ほ、ほんとですか? 良いんですか? 晴くんのスマホの連絡先を教えてもらっても」

「良いんですか、って全然良いんだけどさ。あれ、どうした?」

ユキは俺のスマホを見つめながら目をきらきらと輝かせていた。

「あ、あたし実は……ずっと晴くんの連絡先を知りたくて。でも晴くん、あんまり興味がなさそうだったから聞けなくて。だから晴くんがそう言ってくれて嬉しいんです」

「え」

ユキも一緒だったのか? 俺の連絡先に興味がないんじゃなくて、本當は俺とスマホの連絡先を換したかったけど言い出せなかっただけだった?

は慌てた様子で鞄の中から白いスマホを取り出して、畫面をタッチしてメッセージアプリを開く。俺と連絡先を換すると彼は眩しい笑顔を見せた。

「ありがとうございます、晴くん。これでいつでもお話出來ますね。あ、あの、どんな事でも良いので、お伝えしたい事があったら連絡してくださいね。楽しみに待ってます」

ユキは登録された連絡先をずっと眺めていた。家に帰る最中ずっと、大切な寶を抱く子供のようにスマホを大切にする彼の姿が、俺にはどうしようもなく可く見えていた。

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