《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第7話、雨宿り②

「雨、止みませんね……」

「だな……通り雨だと思ったんだけど」

土管の中から外の様子を伺う。冷たい風と共に大粒の雨が降り注ぐ様は見ているだけで寒くなる景だった。

いや、現にとても寒かった。雨でびっしょりと濡れた服が吹き込んでくる冷たい風によって更に冷え、の芯まで凍えきってしまいそうだった。

これが夏場ならじっとりとまとわりつくっぽさと生溫い風をじるばかりで、気分は良くないだろうが寒さに凍える程という事はないはずだ。しかし今の季節は冬寄りの秋、こんな中で長時間過ごせば調を崩してしまいそうで、何より隣に座っているユキの事が心配だった。ちらっと橫目で見るとユキのは小刻みに震えていた。

「寒いのか? 大丈夫か?」

「えへへ……ちょっとだけ」

はぁ~と息を吐いて小さな手を溫めようとするユキだったが、それもあまり効果がないのは分かっていた。出來る限りユキを寒くさせないようにと風下の方に座らせているが、やはり寒いものは寒いのだろう。

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このまま雨が止まなければ間違いなく風邪を引く。開き直って激しい雨の中、マンションまで走って帰る事も考えたが、その頃には鞄の中までぐっしょりと濡れてしまって教科書やノートまで臺無しにしかねない。ユキも同じ事を考えているのだろうか、先ほどから何か考え込むように黙っていた。

俺達はこのトンネル狀の遊の中で雨が弱まるのを待つしかなかった。

「こんなに降ってくるなんて思わなかったな……」

「ですね……今度からは常に折りたたみ傘を用意しておかないと」

「折り畳み傘か、今度良さそうなのを買いに行こう」

話をして寒さを紛らわせようと思ったが、一向に止む気配のない雨を見るとどうしても憂鬱になってしまう。

そして再び吹き込んできた冷たい風にユキがを震わせたと思うと、「くしゅん」と可らしいクシャミをした。

よく考えてみればユキは俺よりも薄著だ。スカートの下にタイツを履いているとは言え、俺の履いている厚手の制服のズボンよりもずっと寒いだろうし、上に著ているブレザーも心なしか俺の著ている學ランよりも布地が薄いように見えた。

見えただけで実際にそうなのかは分からないが、ともかくこのままではユキが風邪をひいてしまう。何とかしてあげなければならないと思って、俺は頭の中にあった案の一つを行に移す事にした。

「ユキ、これ著とけ」

そう言って俺は自分の上著をいでユキに差し出した。下に重ね著していたカーディガンも手渡そうとすると、ユキは目をぱちくりとさせて驚いた表を浮かべる。

ユキは固まったままき通った青の瞳で俺をじっと見つめた後、ぶんぶんと首を橫に振って答えた。

「だ、ダメです! ワイシャツ1枚じゃ晴くんの方が風邪ひいちゃいます……!」

「俺は下にもう一枚シャツ著てるから。いいから著とけ」

「で……でも……」

ユキもブレザーの下にはカーディガンを重ねているし、その下には白のブラウスを著ている。けれど一番下は俺みたいなシャツではなくの子らしい下著なわけで、それを考えるとやはり俺の方が寒さには強い格好なのだ。

濡れているとは言え上著の學ランで足回りを隠せば直接冷たい風にれる事はないだろうし、カーディガンの方は上に著ていた學ランのおかげで濡れ方も若干マシなはずなので羽織ってもらえれば今よりずっと寒くないはず。

何より寒さでを震わせるユキをこのままにしてはおけないと、俺はけ取るのを渋り続けるユキの腕の中に、上著とカーディガンを無理やり押し込んでいた。

「ユキがそれ使わないって斷っても俺は著ないから」

「晴くん……もう、どうしてあなたはそんなに優しいのですか……」

ユキは困ったような笑顔を見せてそう呟いた後、観念したのか小さくため息をつく。

腕の中の學ランとカーディガンをぎゅっと抱きしめて、それからゆっくりとカーディガンに袖を通し、足の周りに學ランを被せた。

ユキはし恥ずかしそうに俯いていたが、やがて顔を上げて微笑みながら俺を見つめる。

その頬はほんのりと赤らんでいて、そんな彼の頭を俺は優しくでていた。薄著の俺に冷たい風がぶつかるが、彼を心配させたくないと我慢する。が寒さで震え上がるのを堪えながら、にこりとユキに笑ってみせた。

「どうだ、しはマシになったか?」

「はい、あったかいです……ありがとうございます。でも晴くんが……」

「大丈夫さ、そんな寒くない。それに帰ったらすぐシャワー浴びるよ」

「それが良いです。あ……そうだ、良かったら今日はあたしが晴くんのお背中を……」

「い、いや、それはまた今度にしてくれ」

「冗談ですよ。今日の夕飯は溫かいお料理で晴くんをあっためます」

「お、楽しみにしてる。の芯から熱くなるやつで頼むよ」

「でもその前に――今の晴くんをあっためますね」

「え?」

首を傾げたのもつかの間、隣に座るユキが俺の方へと腕をばす。彼は俺の首に手を回して抱きついてきて、突然の事で俺は反応出來ずに固まってしまっていた。

雨の音だけが響く中、數秒ほどの沈黙の後、今置かれている狀況を理解して聲を上げる。

「ユ、ユキ……?」

「晴くん、あたしはそんな鈍じゃないのです。寒いのに我慢して、寒くないふりをしてるって気付いてます」

俺のに顔を押し付けるようにしているせいでユキの顔は見えないが、その言葉と口調は俺を咎めるようなものではなく、むしろ俺を心配している様子だった。

「晴くんはいつもそうです。あたしの事を想っていつもを張って守ってくれようとします……だけど、それで晴くんが風邪をひいてしまったら意味がないのですよ? だからもっと自分の事も大切にして下さい」

はそっと俺を見上げる。青い瞳は不安そうに揺れていて、それが本當に俺のを案ずる想いから來ているものなのだと分かった。

そして首に回していた腕を解いて今度はぎゅっと俺の手を握る。冷え切った手に溫もりが伝わってくると同時に、どれだけ俺のが冷たくなっていたのかもユキには伝わってしまっていた。

「ほら……こんなに冷たくなっています。あたしの事をもっと頼って下さい、晴くんにばかり無理はさせられません。小學生の頃みたいに……晴くんから守られているだけじゃダメだって、あたしだってちゃんと分かっています」

「ユキ……」

握られた手から伝わるユキの溫がじわりと広がっていく。彼の気持ちに応えたいのに上手く返事が出來なくて、俺はただ名前を呼ぶ事しか出來なかった。

するとユキは繋いでいた手を離し、再び腕をばして俺を抱きしめた。さっきよりも強く、けれど痛みをじさせない程度に加減された力でぎゅっと。耳元で聞こえる彼の吐息がくすぐったくて思わずいでしまうが、ユキは決して離れずに俺のを溫めようと必死にを寄せる。

「晴くん、大丈夫です。絶対に風邪なんてひかせませんから……」

その囁き聲が中に染み渡るように、心の中にまで響いてくる。そしてユキの溫もりをじながら、俺も彼を引き寄せていた。

「ありがとうな、ユキ」

を抱きしめながら俺もまた彼の耳元で囁いた。降りしきる雨と吹きすさぶ風は冷たいけれど、こうして寄り添っているだけで不思議とその寒さを忘れてしまう。

ふと視線を空に向けると、いつの間にか雲間からは青空が覗いていた。雨の勢いは弱まっていき、吹いてくる風もしずつ穏やかになっていく。

それでもユキの溫もりを手放したくなくて、もうしこのままでいたいと彼を抱き締め続けた。

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