《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第11話、大晦日①
楽しかったクリスマスは過ぎ去って、また平和で平凡な日常が戻ってきた。新たな年に向けて殘る僅かな日數で一何をしようかと考えても、雪の降る様子は日に日に激しくなっていって外出する気は失せてしまっている。天気予報で元旦から晴れマークが続いているのが唯一の救い、と言ったところか。
雪の勢いが弱かった日にユキと二人で年末年始に備えての買いを済ませ、今はマンションでのんびりと過ごす毎日が続いていた。
そして今日は大晦日。一年を締めくくる今日というこの日、テレビでは今年一年を振り返った特集番組や格闘技番組、歌合戦などが放送されていて、年末の雰囲気に飲まれている俺にとってこの雰囲気は悪くないものだった。
キッチンから漂ってくる味しそうな匂いへと振り返る。そこにはエプロン姿のユキが立っていた。白いシンプルなデザインのそれは彼の持つ清楚なイメージに良く似合っている。料理をする時に邪魔にならないようにと髪は後ろで纏められていて、彼のうなじが見えるのが妙にっぽくじた。
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一緒に味しいものを食べて年越ししましょうとユキは張り切っていた。俺達の住む地域では、大晦日は食卓に乗り切らない程のたくさんのご馳走を並べるという習慣がある。そしてお腹がいっぱいになっているのに更に年越し蕎麥を食べ、それから除夜の鐘の音を聞く、という贅沢な一日。その習慣に倣ってユキも張り切ってご馳走を作っているというわけだ。
おせち料理を食べる家庭はなく、正月は郷土料理であるお雑煮がメインで、家庭の味であるそのお雑煮をユキから作ってもらえるのを今から楽しみにしている。
今日のご馳走の為に一人で料理を続けるユキの背中を見ていると、俺も何か手伝ってあげたくなったのだが、ユキは俺に年末の大掃除の方を任せると言って、それが終わったらゆっくりしていて下さいね、と言うだけで何もさせてくれないのだ。
正直言ってどの部屋もユキによる毎日の掃除が行き屆いているおかげで、細かな汚れすらないくらいに綺麗だった。大掃除というには心もとないくらい簡単な掃除で終わってしまったし、やる事があまりにないので既にピカピカだった洗面所を念りに磨いてしまった程だ。
それでもまだ手伝わせてくれない、という事はきっと今日のご馳走作りはユキにとって凄く大事な事なんだろうと思い、俺は素直に従う事にした。
家族水らずで過ごす事が多い大晦日。それは俺達も例外ではなくて、ユキと年越しを過ごすのは実は初めてだったりする。そしてそのお互いの初めてが、數年ぶりの再會を果たした一年の締めくくりなのだから、ユキの力のれようも分かるというものだ。
ここまでユキの心を分かっているというのに、手伝ってあげたくて落ち著かない気分なのは俺が年末の雰囲気に飲まれてしまっているせいなのか、今もリビングのソファーに座りながらそわそわとしている。
大晦日のテレビの特番を橫目に見ながらユキの後ろ姿を眺めていた時だった。
「ねえ晴くん、ちょっと味見してもらえませんか?」
ようやくユキに呼ばれたと、返事をした後に俺は喜びながら立ち上がる。おたまを持ってキッチンに立つユキの隣にやってきた。
「どれを味見すると良いんだ?」
「このお鍋です。晴くんのお母様からレシピを頂いたのですが、晴くんの家庭の味にどれだけ近づけられているかなって」
鍋の中に視線を落とすユキの橫顔を見ながら、俺はどんな味なのかを想像する。湯気の立つ鍋の中には豚に人參、ネギにごぼうやこんにゃくが煮込まれていて、味噌の香りが立つ湯気が食をそそる。
「大晦日になるといつも母さんが豚を作ってくれてたな。それを聞いてユキも作ってくれたのか」
「はい。晴くんも喜んでくれるかなって、では一口お願いします」
ユキはおたまで豚をしだけすくって、それを小皿へと分ける。豚の脂がほんのりと浮かんでいて見るからに味しそうだった。差し出された小皿をありがたくけ取って、ふうっと息を吹きかけて冷ましてから口へと含む。優しい甘みのある出とおの旨味が口の中いっぱいに広がる。アクを丁寧に取っていたのか雑味もじず、全がまとまっていてしっかりとコクをじた。
「これ……母さんが作ったのより味い」
「え、本當ですか?」
「確かに母さんの作る豚の味がするのに……それでいて味がもっと深くじるんだ。母さんから教えてもらったレシピ、なんだよな?」
「そうですね。でも、あたしのお家の豚の作り方が自然と混じってしまったかもしれないです」
「なるほどな。母さんの作る豚にプラスして、ユキの家の豚の良い所が合わさったじか」
ユキはアクも丁寧に取るし食材の下処理もきちんとする。レシピに書いていなくとも、そういう面倒な部分をちゃんとやりきるから、やっぱりグンと味しさがアップするのだろう。母さんには悪いけど、俺にはユキの作るこっちの方が好みだと思ってしまう。
何だか嬉しくて俺はつい笑顔になってしまう。
そんな俺を見てユキも満足げな笑みを浮かべていた。
それからまた料理を再開するユキ。味見で褒められたのが嬉しかったのか、ユキは本當に楽しそうにしていて、ずっと鼻歌を歌いながら料理を作っている。
リビングに戻ってソファーに座り、ユキの鼻歌のメロディを聴きながら窓の外へと視線を向ける。ふわりふわりと雪の降る、幸せな大晦日だった。
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