《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第4話、溫泉旅行⑥
夕食は旅館の提供してくれた海と山の幸をふんだんに使った料理が並べられ、そのご馳走の數々を前にした俺とユキ、深冬さんの3人で刺や天ぷらなどなど數々の味しそうな食事に舌鼓を打ち、その味しさを堪能した。
それからは大浴場に行って立派な溫泉で再び癒やされ、旅館の散策の時に見つけた遊技場で卓球をしたりと、深冬さんが連れてきてくれた旅館を心ゆくまで楽しんだ。ユキは子供のようにはしゃぎ回っていて、彼が喜ぶ姿を俺と深冬さんは微笑ましく見守っていた。
そうして楽しい時間を過ごしているに時間はあっという間に過ぎていき、遊びすぎて疲れてしまった俺とユキは布団にり込むとすぐに眠くなってしまう。小學生の頃のように二人並んでぐっすりと眠りについていて、それを深冬さんは慈に満ちた優しい瞳で見つめていた。
―――深夜。
ふと目が覚める。まだ辺りは暗くて何も見えないが、何故か妙に頭が冴えてしまっている。俺は隣にいるユキに目を向けると、彼は気持ちよさそうに小さな寢息を立てながら睡している姿があった。
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普段ならこんな真夜中に起きたとしてもすぐにまた夢の中に戻るのだが、今日はどうしてか眠れない。
目を閉じても一向に眠る事が出來ず、俺はユキを起こさないように靜かに布団から出ていく。
そのまま部屋の窓際へと向かい、月明かりに照らされた外の風景を眺めた
晝の間は太の日差しで寶石のように輝いていた雪の山々が、今はらかな月ので全く別の顔を見せる。まるで世界に俺達しかいないのではないかと錯覚してしまうくらいの靜寂に包まれていて、どこか神的な雰囲気さえじられた。
そして俺は気付くのだ。外の小さな天風呂の中、空に浮かぶ綺麗な月を見上げながら湯船に浸かる深冬さんの姿に。
彼のは湯によって火照っているのかほんのりと桜に染まっていた。湯で濡れた髪、上気した頬、そしてそっとを湯にかけてでるその仕草に心臓がどきりと跳ねる。
深冬さんはユキにそっくりだ。ただでさえ可いユキが長して、更に大人の雰囲気を纏った姿のようで、気品があって心の底からしいと思える。
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月明かりで照らされた雪景と合わさるように深冬さんがそこにいるのだ。見惚れるな、というのは無理な話だった。
そうして深冬さんを見つめていると――こちらに気付いたのか俺の方へと優しく笑みを浮かべる。
彼はこちらに向かって手招きをしていて、それにわれるように俺は天風呂の方へと向かった。
外は相変わらず綺麗な星空が広がり、時折吹く風はひんやりとしていて気持ち良い。深呼吸をすると新鮮な空気がの中にっていき、の奧まですっきりとするような気がした。
「深冬さん。起きていたんですね」
「ええ。さっきまで眠っていたのですが、何となく目が覚めてしまって」
「奇遇ですね。実は俺も今起きたところなんです」
「ふふ、そうだったのですね。夜遅くの溫泉も良いものですよ、晴ちゃんも一緒にりませんか?」
「えっと……それじゃあ俺は足だけ」
「分かりました。それじゃあ足だけ浸けて、わたしとお話しましょう」
深冬さんはにこりと笑いながら、濡れたタオルで自の頬を拭った。
それから俺は天風呂の縁に腰を下ろし、ふくらはぎの辺りまでを湯に浸して深冬さんの方を見つめる。
「深冬さん、本當にありがとうございました。おかげで今日は凄く楽しかったです」
「いえ、わたしの方こそ晴ちゃんにはお禮を言わなければなりません。ユキがああやって笑顔でいられるのは、晴ちゃんが居てくれるおかげですから」
深冬さんはそう言いながら、何か思いにふけるように靜かな星空へと視線をやった。
「海外にいた頃のユキはちっとも笑いませんでした。笑顔だけ日本に置いてきてしまったように、いつも暗い顔をしていて。何処に連れて行こうとも、何をしてあげようともユキが笑う事は無かったんです」
「え……あのユキが?」
俺の記憶の中のユキ。包帯を巻いていたあの頃、出會って間もない時のユキは確かに塞ぎ込みがちで暗い顔をする時の方が多かった。それでも俺と一緒に遊ぶようになってからは笑顔を絶やさない明るい子へと変わっていった。
治療の為に海外へ行ったタイミングはユキが笑顔を振りまくようになってからだ。その時期と重なるはず、それなのに。
「ユキは昔からそうなのです。明るく振舞っていますけど、心のでは常に孤獨をじていました。だからこそ、ユキにとって晴ちゃんの存在はとても大きいものでした。晴ちゃんと離れ離れになった後、あの子の心は再び閉じてしまった」
「海外にいたユキは……そんな事に」
「はい。けれど包帯を外せるようになって日本へと帰國する事が決まり、あなたとの再會が近づくにつれて変わっていきました。そして一緒に居られるようになった今、あの子はまた笑顔を絶やさない明るい子になった。ユキの冷たい心を溶かしてあげられるのは晴ちゃん、あなただけなのです」
「深冬さん……」
「どうかこれからもユキの事、よろしくお願いしますね」
深冬さんは真剣な表でそう告げると、頭を下げて深く謝の言葉を伝える。
「そうだ、晴ちゃん。せっかく二人きりですし、もっと々なお話をしても良いでしょうか? ユキがいる前では話せないような事です。あまり明るい話題にはならないかもしれませんが」
「構いませんよ。俺なんかで良ければいくらでも付き合わせてください」
「ふふ、ありがとうございます。それでは――」
深冬さんはタオルでを隠しながら、ゆっくりと俺の隣に座り直す。
そして靜かに煌めくき通った冬の星空を見上げながらぽつりぽつりと語り出した。
深冬さんが話すその容は、學式の日にユキと再會して今に至るまで、俺もずっと気になっていた事だった。
「晴ちゃん。ユキを連れて海外に行く前、わたし達の苗字が『甘木』から『白鳩』に変わっていた事、不思議に思っていたんじゃないでしょうか?」
「そうですね、ずっと気になっていました。高校の合格者の中に甘木ユキの名前がなくて、白鳩を名乗ってたユキが誰なのか、再會した直後は気付かなかったりした事もあって……。海外で何かあったんだろうなとか、々と思うところはあったんですけど、それについて聞くのも悪いと思って何も聞けずじまいでした」
「そうでしたか……すみません、隠していたわけじゃないのですが、説明する機會が無かったので」
深冬さんは申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、俺の方を見る。
「結論から言えば……わたし達は離婚する事になって。それで舊姓に戻ったという事です。々とあったのですよ、3年間で」
「……離婚した理由は、聞かない方が良いですよね」
「そうですね、いずれきっと知る機會があるとは思いますが、今はまだ……」
離婚、か。確かに苗字が変わる事なんて結婚か離婚の二つだ。それは想像出來ていた。家族の絆が途切れてしまうような大変な事が海の向こうで起こったのだろう。
「そしてね、晴ちゃんの知っているあの人も、実はユキにとって二人目の父親だったりするんです」
「え……?」
「初めて結婚した彼……ユキの本當の父親はあの子が心が付く前に事故で亡くなって、それからしばらくしてわたしは再婚したんです。大切な人を失って絶の底にいたわたしに手を差しべてくれたのが彼でした。當時の彼は本當にわたしに気をかけてくれたのです。けれど、ユキとの繋がりが無い事も関係していたのかもしれません……ユキにとって大切な父親ではあるものの、その彼にとってユキの治療に思うところがあったようです。お金がかかりましたからね、本當に」
「……」
「だからと言って彼を責めるつもりはありません。むしろ彼の気持ちを汲んであげられなかった事を後悔しています。そして何より……ユキに対してです。あの子には辛い思いをさせてしまいました。あの子がどれだけ傷ついたのか、考えるだけでもが痛みます」
深冬さんは目を伏せながら、寂しそうな表でを噛み締める。
深冬さんが再婚するまでの経緯も離婚するまでの事も、ユキがどんな思いで過ごしてきたかも俺は知らない。だけど俺はユキが決して不幸だとは思わない。俺の前で屈託のない笑顔を見せてくれるユキ、彼が幸せでないはずがないのだ。
「深冬さんは悪く無いですよ。ユキが笑顔を絶やさないで居てくれるのは俺と一緒にいるからだけじゃない、深冬さんが一杯ユキを支えてくれていたおかげなんだと思います。今日みたいに溫泉旅行に連れて行ってくれたり、俺達の生活の為に盡力してくれたり、ユキが笑顔で居られるようにって惜しみなくを注いでくれているおかげなんだと思います」
「晴ちゃん……」
「だからどうか自分を責めたりしないで下さい。俺だってユキを笑顔にさせられるよう出來る限り支えていきたいって思っています。まだ高校生で出來る事はないかもしれない、けれど……これからもその出來る限りを盡くしていきたんです」
俺の言葉を聞いた後、さっきまで固かった深冬さんの表がふわりと和らいでいく。
「晴ちゃんがそう言ってくれるととても安心します。以前にも言いましたが、あの子にとって一番の幸せは晴ちゃんの傍にいる事。どうかこれからもユキをよろしくお願いしますね。それがあの子の母親としての、わたしの願いなのです」
「はい、任せてください」
深冬さんからの願い、それは俺にとっての願いでもあった。
ユキの傍にずっと居たい。彼を笑顔にしたい、それが俺の一番の幸せで、ユキにとっても幸せな事で、深冬さんの願いでもある。
俺達の想いは同じだった。
「お話を聞いてくれてありがとうございます、晴ちゃん。日本に帰ってきてからずっと抱えていたものが、ふっと軽くなったような気がします」
「いつでも頼ってください。深冬さんが言ってくれれば俺だけじゃない、父さんや母さんも力になってくれるはずです」
「心強いです、とても。では……そろそろ寢ましょうか、明日は朝早いですから」
「そうですね、深冬さんもゆっくり休んでください」
「はい。もうししたら溫泉から上がって、わたしも寢るつもりです。それでは、おやすみなさい。晴ちゃん」
「おやすみなさい、深冬さん」
言葉をわした後、俺は湯船から出て足を拭いて部屋へと戻っていく。
窓の外の深冬さんは再び夜空を見上げる。彼は幸せそうな微笑みを浮かべながら靜かに瞳を閉じる。
その姿を背中に、俺はユキの眠るベッドの方へと歩き出す。
そこには俺が起きた直後と変わらず、ぐっすりと眠っているユキの姿がある。あどけない顔で眠り続ける彼の元へ歩み寄りながら、俺はそっと手をばしていく。彼の頬にれながら、優しくでるように指をらせていった。
指先に伝わってくるらかな、溫もり。ユキはくすぐったそうにを捩りながら、むにゃむにゃと寢言を口にする。
「はる……くん……」
夢の中でも俺と一緒に居るのか、眠りながらふにゃりと口元を緩ませていた。
そんなユキの仕草が可らしくておしくて、俺は自然とその頭をでてしまう。起こしてしまわないように、ゆっくりと、優しく。
深い深い夢の中、俺にでられて気持ち良さそうにしているユキの顔はとても幸せそうで、この寢顔を守ってあげたいと、彼を幸せにしたいという気持ちが強まっていく。
彼の隣で橫になりながら、俺はユキのを抱き寄せた。
腕の中に収まる華奢で小さな、そして伝わる溫に心地良い安心を覚えつつ、瞼を閉じてそのまま意識を暗闇の中に委ねていく。
願わくば俺の夢の中にもユキが出ていますように、そして二人で一緒に笑い合えますように。そんな事を思いながら、俺は微睡みの中でユキを抱きしめたまま、夢の世界に落ちていくのだった。
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