《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第5話、バレンタイン④

――翌朝、俺はキッチンに立っていた。

こうして俺が早起きして朝食を用意するのはとても珍しい。

いつもならユキに起こしてもらって、そのまま朝のルーティーンにるのだが、今日は早めに設定したアラームによって自分で起きて、普段ユキに任せていた洗濯やら朝食の用意やらをやっていた。

スマホでレシピを確認したので無難ではあるが味しいものが作れたはずだし、晝の弁當も力をれて割と良いじのものが出來たと自畫自賛しつつ、二人分の弁當箱をランチクロスに包んでいる時だった。

「わーー!?」

という驚くような聲がユキの部屋から聞こえて、バタバタという足音と共にユキが部屋から飛び出す姿が見えた。普段なら絶対に見る事が出來ないような寢癖を頭に付けて、慌てふためくユキの姿というのは実に新鮮である。

「ど、どうしよう……ね、寢坊……寢坊しちゃった……!!」

あわあわとリビングにかけられた時計を見ながら、急いでキッチンに向かおうとするユキは俺を見つけるなり目を丸くした。どうやら俺が早く起きている事に驚いているようだ。

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「おはよう、ユキ。ちょうど起こそうと思ってたんだ」

寢坊と言っているが學校に行く時間はまだ先で、たっぷりと支度に時間をかけてもまだまだ余裕があるくらい。俺が普段ユキのする朝の仕事を全てやっておいたので、ユキが慌てる事は何もないのだ。

「は、晴くん……?」

目が合うとユキは口をぱくぱくとさせながら驚いていて、そして寢起きの不格好な自分の姿を見られている事に気付いたのか、顔を真っ赤にしてしまう。ぼさぼさの髪を手ぐしで整えながら、恥ずかしそうにもじもじと俯いてしまった。

「晴くんが……あたしより早く、起きてて……どうして?」

「ああ、昨日は寢落ちしてたし。よっぽど疲れてるんだろうなと思って。あの様子じゃ寢坊しそうだったから先に起きて、朝の用事は全部済ませておいたよ」

「うぅ……ごめんなさい……」

「別にいいじゃないか、いつも頑張ってるんだから」

「で、でも……こんなだらしない所、晴くんに見せちゃうだなんて……」

「そうか? 可いと思うぞ? そんなユキも見れて役得だなぁって思ってるわけだし」

「か、かわいい……? こんな髪もぼさぼさなのに……」

「ああ、めちゃくちゃ可いぞ、ユキ」

「うう……晴くん、今それを言っちゃうのは、ずるい……」

恥ずかしそうに両手で前髪をりながら、ちらりと上目遣いでこちらを見てくるユキ。普段しっかり者の彼が寢起きだとこうも子供っぽくなるとは思わなかった。彼があどけなく恥じらう姿というのはなかなかに破壊力が高いもので、朝から悶絶してしまいそうになる。今日は早起きして本當に良かったと思った。

「とりあえず、顔を洗ったら朝食にしよう」

「う、うん……」

「ちなみに今日の朝食はご飯に卵焼きとほうれん草のおひたしと味噌。あとデザートにリンゴな。多分大丈夫だと思うけど、もし口に合わなかったら遠慮なく言ってくれ」

「す、すごく味しそうだと思う……!」

「そう言ってくれて嬉しいな。それじゃ、行っておいで」

ユキはこくりと頷くと、いそいそと顔を洗いに行った。

俺はその間に食卓の準備を済ませておく。テーブルに料理を盛り付けた皿を並べていき、最後に炊飯から白米を盛った茶碗を持ってきた。

準備を終えるとちょうどユキが戻ってきたので、二人で向かい合って座り手を合わせた。

「い、いただきます」

「はい、召し上がれ」

まずは箸を手に取り、おかずの一つに手を付ける。最初に卵焼きを口にれるとふんわりとした食と甘みが広がり、続いて味噌をすする。し濃いめの味付けだがそれが朝食にはぴったりで、本當に上手く出來たなと自分を褒めながら、朝食を頬張るユキの方を見つめた。

顔を洗った後でもまだ眠そうに目をっているユキは本當に珍しい姿で、それがなんだか微笑ましくて可いく見えてしまう。

「ふぇ……」

今まで聞いた事のないような気の緩んだ聲をらすユキ。何処か幸せそうで、それでいてふやけたような表。青い瞳はとろんと微睡んでいた。まだ半分夢の中にいるのか、ほっぺたに米粒がついている事にも気付いていない。

「ほらユキ。ほっぺたにお米ついてるぞ」

「え、あ……」

指を差して教えてあげるとようやく気付いたようで、ユキは慌てて手でほっぺたを押さえた。頬に付いているお米を取って、そのまま照れを隠すように俯いてしまう。

こんな無防備なユキの姿は隨分と久しぶりなような気がする。小學生の頃、包帯を巻いていたユキは俺に隙だらけな姿をよく見せていたものだ。そんな隙だらけの所も可くて、彼の面倒を見る為に世話を焼いていたのを覚えている。

けれど包帯を外して高校生になって再會したユキは、常に凜々しく振る舞っていて隙を見せる事はなくなった。その姿はまさに人々の理想を現したかのような完璧過ぎる存在で、離れ離れになっていた3年間で立派に長したものだと心していた。

そして今俺の目の前でもじもじとしているユキだが、その様子は包帯を巻いていたあの頃そのままではないかと思いながら、つい笑みが溢れてしまう。

「は、晴くん……朝ごはん、すごく味しい……」

「どういたしまして。喜んでくれたなら何よりだよ」

「そ、その……朝から本當にごめんなさい、晴くんに迷をかけてるみたいで……」

「迷だなんてとんでもないよ。ていうか、なんか小學生の頃に戻ったみたいな気がしてさ」

「え……」

「いや、ゆるゆるのユキを見るのって久しぶりだから。小學生の頃は良く寢ぼけてる時もあったし、今の気の緩んでるじが何だか懐かしい気がして」

「いつもは……その、晴くんに良い所を見せようって、気を張っているのですが。その、寢起きでつい素を……」

「ん? 素……? なあ、その言い方だとゆるゆるな今のユキの方が本當のユキで、普段のしっかり者なユキは格好つけてるだけって事に――」

俺がそう言いかけた途中で、ユキは慌ててそれを遮った。

「!? ま、待ってください! ち、違います……いえ、違わないけど、こっちの話なので気にしないでください!」

「いや気になるんだけど」

「き、聞かないで下さい……!」

「どうして?」

「うう……だって恥ずかしいから……」

ユキは真っ赤にした顔を両手で覆う。耳まで赤くなっているのが可い。

つい口がってしまったんだな。

隠している本音を聞いて、こうして恥じらう姿を見て、やっぱりユキは包帯を巻いていたあの頃のままなんだなとしみじみ思う。學式の日に再會した時から、俺に良い所を見せようと家でも學校でも上手に隠してきたんだろう。

だからこそ、こうして包み隠す事のない本當のユキを見れるのは特別なじがあって嬉しいものだ。もしかすると本當は毎朝起きたばかりのユキはこんなじで、俺を起こすまでの間に気持ちを切り替えて凜と振る舞う為の準備していたかもしれない。

毎朝ユキと同じ時間に起きれば、ゆるゆるの可いユキが見れるというのなら早起きを習慣にするのも悪くないかなと思った。

「晴くん……本當に、ありがとう」

「どういたしまして」

両手の隙間から見えるユキの表、顔を赤くしながら幸せそうに微笑むその笑顔がとても可らしくて、俺は手をばしてそっと彼の頭をでる。バレンタインの朝から良いものが見れたとがいっぱいになりながら、ユキと一緒に朝食を味わうのだった。

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