《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第5話、バレンタイン⑥

バレンタインの騒がしさは放課後まで続いた。

人のない所で男會しチョコレートを渡す姿や、あいつらあんなに仲良かったか? というような組み合わせの男が笑顔を浮かべながら手を繋いで下校する姿やら、チョコレートを全く貰えずに嘆く男子、友チョコを換して仲睦まじく雑談に花を咲かせる子達などなど――。

今日しか見れない生徒達の浮かれた様子を眺めながら、俺は正面玄関の靴箱の前で人を待っていた。

待っている相手はもちろんユキ。

今日も彼と一緒に帰宅する予定なのだが、例のチョコレートを晝休みの間に配りきる事が出來なかった為、放課後も男子生徒達を集めてチョコをせっせと手渡ししている。

放課後になっても行列を作る様子に、ユキの人気は本だなと再確認しつつ、俺はマフラーを巻き直して校舎を出た。空を見上げるとポツポツと雨が降っている。吐く息は白く染まる程に寒いが、積もっていた雪が徐々に溶けていく様子を見ると、しずつだが春が近付いてきた事をじられるのは嬉しいものだ。

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鞄の中にユキと一緒に買った折りたたみ傘があるのを確認しつつ、ユキが來るのはいつ頃になるだろうかと腕時計を見つめると後ろから聲をかけられる。

「雛倉くん、こんな所でどうしたのかしら?」

振り向く先に居るのは生徒會長――鶴ヶ峰 時雨だった。

「あ、生徒會長……」

「なんだか浮かない顔してるわね、何かあったの?」

「いえ……ちょっと、待ってる人が居まして……」

「待っているのはユキさんかしら。毎日一緒に帰っているみたいだものね」

「ですね。今日はバレンタインで忙しいみたいで、まだ教室に殘ってるみたいなんです」

「生徒會でも話を聞いたわよ。なんでも男子にたっくさんのチョコレートを配ってるらしいわね」

「ああやってチョコレートを周りから頼まれるのって初めてだったみたいなので……し張り切り過ぎたみたいですね、ユキ」

「あら意外ね。ユキさんなら毎年バレンタインになると大変かと思っていたのに」

「まあ去年までは海外にいましたしね。日本のバレンタインって獨特らしいですし」

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「あーそれ聞いた事あるわね、アメリカだと男からに、しかも義理はなくて本命のみとか何とか。ところで雛倉くんはもらったの? チョコ」

「え、俺は……」

鞄にっているのは秋奈からもらったチョコレート。それを秋奈と親しい生徒會長に伝えると、からかわれてしまわないかと思っていたら。

「あら、秋奈さんから貰わなかった? あの子、チョコレート絶対に渡すって意気込んでたのに」

「なんだ……知ってたんですね、生徒會長」

「相談されたのよ、年上の意見を聞きたいって。私の意見が役に立ったかは分からないけれど、その様子だとちゃんとけ取ったみたいね。うんうん、良いわね―青春ってじ」

「青春って……。生徒會長はあげたんですか、チョコ」

「ええ。生徒會の役員のみんなにね、もちろん友チョコだけど」

「なるほど、生徒會長も大変そうですね、々と」

「あら、反応薄いわね」

「いやぁ、俺そういうの疎くて」

「ふぅん……そうなのね、確かにまあ他の男子と違って雛倉くんって子からのチョコに執著しなさそうだし。納得といえば納得ね。今日の男子ってみんなお腹の空いた狼みたいな目をしてたのに、雛倉くんだけいつも通りなじがするもの」

「まあ他の男子ってバレンタインにもらえるチョコの數を競ってたり、一個もらえるかどうかで命懸けな所ありますもんね……」

「そうそう、朝からみんな殺気立ってて本當に大変な一日だったわ。だから雛倉くんみたいな子は好、という事でこれを進呈するわね」

生徒會長のポケットから取り出された明な小袋。その中にったチョコレートは手作りらしく丁寧にラッピングされている。差し出されるままにけ取ると、生徒會長はニッコリと笑みを浮かべて言った。

「生徒會のメンバー以外であげたのは雛倉くんだけだから、そこのところよろしくねー」

「あ、ありがとうございます。でも良いんですか? 生徒會と無関係な俺なんかに……」

「こういうのは気軽に渡すものだから、そんな深く考えなくて大丈夫よ。それじゃあ私は帰るからまたね」

生徒會長は傘を開いて颯爽と立ち去っていく。生徒會長からチョコを貰えた事に驚きつつ彼の後ろ姿を見送った。

「さて、あとはユキが來るのを待つか」

昇降口で生徒達が下校していく姿を眺める。

男子の手には俺とユキがラッピングしたチョコレートがあって、それをもぐもぐと歩き食いしながら喜ぶ姿があった。喜んでくれて何よりである。昨日の晩にやっていた作業の容を思い出しながらその達に浸る。けれどあの様子だとユキはまだ教室でチョコレートを配っているんだろうなと、彼が來るのはまだまだ先になりそうだった。

時計の針が進むにつれて段々と寒さがに染みるようになってきた。外は本格的に暗くなってきて、降っていた雨も徐々に雪が混じってみぞれに変わっていく。

部活に勤しんでいた生徒も下校時間が近くなってきたのか帰っていく姿があって、それも徐々に途絶えていって下校する生徒もなくなった。

暗くなった空を眺めながら、もうそろそろかなとユキの事を考える。

小學生の頃はこうして昇降口で待っていると、後からやってきたユキが俺にチョコレートを渡してくれる。

今年はユキから小學生の頃のようにチョコをもらえるのか、もらえるとしたらどんな風に俺に渡してくれるだろうか。包帯を巻いていた頃は恥ずかしそうに耳まで赤く染めていたけれど、たくさんの人にチョコレートを渡した事で慣れてしまって、クールに無表のまま渡してくれるのだろうか。どちらにせよ、ユキからチョコレートが貰えるのかが問題だった。

昔みたいに、一緒に帰ろうと聲をかけてくるのを待っていよう。

そう思って靴箱に寄りかかりながら廊下の方を見ていると、昇降口に向かって歩いてくる一人の生徒の姿があった。

白いに整った目鼻、さらりとした長い白銀の髪。遠くから見ても見間違えようもない、ユキだった。

俺を見つけるなり花が咲いたみたいにぱあっと表を明るくさせてこちらに駆け寄ってくる。その姿はまるで飼い主を見つけて嬉しくてたまらない犬のようで思わず頬が緩んでしまう。

「お待たせ、晴くん! やっと終わりましたー!」

「お疲れ様。全部配り終えたんだな」

そのまま勢いよく抱きつかれるかと思ったのだが、彼は俺の前に立つと尾を振る子犬のような顔つきでこちらを見上げてきた。その様子があまりに可らしくて、頭をでたくなってしまう。

ちらりと周りを見て昇降口に誰も居ない事を確認した後、俺はユキの頭に手をばした。ぽんっと軽く乗せた手の下でユキはくすぐったそうに目を細める。さらりとして指通りの良い髪をゆっくりとでると気持ち良さそうに手へすり寄った。ユキが貓なら今頃ゴロゴロとを鳴らしていただろうなと、そんな事を思う。

しばらくユキの頭に乗せた手で遊んでいると、彼は頭をたくさんでられて満足したのかし照れた様子で俺の顔を見上げた。

「え、えと……晴くん。寒い中、ずっと待っててくれてありがとうございます」

「どうって事ないよ。ユキからもらったマフラーのおかげで、暖かいしさ」

そう、誕生日プレゼントとしてユキがくれたこのマフラーのおかげで寒くはない。むしろ心はポカポカしているくらいだ。

「真っ暗だし帰ろうか。雨も降ってるし」

俺が折りたたみ傘を取り出して、外へと歩き出そうとした時だった。

「ま、待って!」

後ろから袖を引っ張られる。振り返ればユキは顔を俯かせて、何かを言いづらそうな様子でもじもじとしている姿があった。何だろうと首を傾げていると、意を決したように顔を上げて彼の青い瞳が俺を覗き込む。

「晴くん……これ……」

震える小さな手を差し出す。彼が握っていたもの、それは男子生徒達に配っていたチョコレートとは別のもの、赤いリボンの裝飾がされた可らしい箱が彼の手にあった。

まさかと思って見つめていると、その視線に耐えきれなかったのかユキは目を逸した。

「あ、あたしからの……バレンタインチョコレートです」

「ユキ、用意してくれてたんだな」

今年のバレンタインはたくさんの人からチョコレートをねだられて大変だったはずだ。夜遅くまで準備して間に合うかもギリギリな狀況で、それでも俺の為にこんな可らしい箱まで用意して、丁寧にリボンまで巻いてくれている。

その事だけでの奧が熱くなって、自然と笑みが浮かんでくる。

「小學生の頃を思い出すな」

「え?」

「あの頃もさ、バレンタインの日になるとこうやって靴箱の前で毎年渡してくれた。渡そうとする時、目を逸らして耳まで真っ赤にしてさ、あの頃のまんまだなって。でもそんな顔をしてたのは初めて知った」

俺にだけ見せてくれる特別なユキの表。包帯を巻いていない今だからこそ、その顔をこの目に焼き付ける事が出來る。

「ありがとう、ユキ」

「晴くん、ハッピーバレンタインです」

満面の笑顔を浮かべるユキからチョコレートを渡される。このチョコレートだけじゃなく、今ユキの浮かべている可らしい表も、俺にとってとろける程に甘いプレゼントだった。

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