《ニセモノ聖が本に擔ぎ上げられるまでのその過程》1
ちょっとアホっぽい話が書きたくなったので、勢いで仕上げました。
うまい話には裏がある。
そんなことは當たり前のことで、変な儲け話とか都合のいい話は疑ってかかるべきだ。
そんなことは分かっている。
分かっているけど、裏があるとしてもそれにすがらずにいられないほど、切羽詰まった狀況という時もあるのだ。
「ほ、本當に聖様の格好をして國を回るだけでいいんですよね?生贄にされたり最後口封じに殺されたりしませんか?」
「神アーセラに誓ってそのような非道な行いはしないと斷言します。ただし、國中を回り聖地を巡禮するので二、三年は家に帰れないことを覚悟していただく必要があります。途中で辭めることはかないません。それでもよろしければ」
「……それで、報酬の半分を前金でいただけるんですよね?家族のの安全も保障してくれる、と……」
「ええ、下の妹さんをよこせと言っていた商人ともこちらで渉して、二度とそのような話を持ち込めないよう我々が後ろ盾となりますので安心してください」
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「そ、そうですか……それが本當なら有難いです……」
「じゃあ、お引きけいただけるということでよろしいですね?こちらの契約書に判をお願いいたします」
そう言って男は完璧なアルカイックスマイルで、小型ナイフを遠慮なく私の指に突き立て判を押させた。
(ああああ契約しちゃったよどうしよう。こんなものすごくいい條件の仕事がノーリスクなんてあるわけないよなあ。でもほかにお金のアテもないしどうしようもないよなあ)
ダラダラと冷や汗を流す私を、目の前の男はお綺麗な顔で悠然と眺めていた。
***
私の名はセイラン。七人兄弟の長で、現在村の教會で小間使い&日雇いシスターとして働いている。
日雇いシスターというのは、私がほんーのーしだけ、癒しの力があることが分かったので、本のシスターが中央から派遣されてこないド田舎の教會で、おじいちゃん神父さんに頼まれて時々(別時給をもらって)癒しの真似事などをしている。
小間使いが本職で、シスター業は必要に応じてやる日雇いなのだ。
癒しの力がある!と私が神父様に認められた時、村の人たちは皆、無くした腕がにょっきり生えるとか、死んだ人が生きかえるとかそういうのを期待していたようで、実際私ができるのが、腰痛とかり傷が治るという程度だと知ると、あんまり役に立たねえな……と言ってがっかりしていた。
それでもこの田舎ではまあまあ重寶されるので、私の給料で七人の弟妹と病弱な母を養ってきたのだ。
ちなみに父親は、真正のクズってやつで、母と子どもをこさえるだけこさえて、母が末の弟を妊娠中に旅蕓人のに一目ぼれをして家族を捨てて家出してしまった。
母もなんであんなクズと七人も子どもを作る気になったのか激しく疑問だが、ともかくそういうことで我が家は子だくさん貧乏で、私の稼ぎでなんとか食べていけているという狀態だったのだ。
まあ、それでもすぐ下の弟も來年からは家職人の家に働きに出ることが決まっていたし、このまま私も健康に働いていられればなんとかやっていけると思っていたのだが……。
ある日、悪趣味な金丸出しといった格好のデブな商人が我が家を訪れ、『オタクの父親が、借金のカタに娘を売ったのでもらいに來た』と、契約書片手に言い出したので、私たちは大混に陥ったのだ。
どこぞで生き延びていた父親は、ろくでもないところに借金をしていた。
払えるあてもなく困り切った父親は、苦し紛れなのか知らないが、昔に捨てた家族を思い出したらしく、借金のカタにウチの末娘を差し上げますと提案し、酔狂なことにこの商人が買うことにしたらしい。
ちなみに私じゃなくて下の妹を指定したのは、父親が家にいた頃から私は働かない父をガンガン説教していたから、生意気で可くない姉は売れないと判斷して、素直で可い下の子を指名したそうだ。ほんとにクソだ。
そんな行方知れずの父親が勝手にした売買契約なんて無効だ!と私たちも抵抗してみせたが、契約書は正式な手続きを踏んでわされたものだから、借金を払うか妹を売るかのどっちかしかないと言われ、私たち家族は追い詰められてしまった。
お金なんて我が家には全然ないし、だからと言って年端も行かない妹を差し出すなんてできるわけがない。
試しに『私じゃダメですか?』と訊いてみたが、おデブ商人が私を上から下までチラ見して、『ダメ』と一蹴されてしまった。失禮だろゴルァと思ったが今はそんなことを言っている場合ではない。
また一か月後に來るから、その時に妹を差し出すか、借金全額耳をそろえて返すか選べと言って、おデブ商人は帰って行った。
どうしようもなくなって、私は無理を承知でおじいちゃん神父さんにお金を貸してもらえないか頼みに行った。
だが、清貧という言葉がぴったりなおじいちゃん神父さんは、貸してあげたいけどお金がないんだと申し訳なさそうに言った。
おじいちゃん神父に斷られたらもう頼るアテがない……と絶していたら、ちょっと待ってとおじいちゃん神父さんはしばらく考えたあと、『もしかしたらなんとかなるかもしれない』と言って、どこかへと連絡してくれた。
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