《ニセモノ聖が本に擔ぎ上げられるまでのその過程》

それから數日して現れたのが、司祭の裝をまとった明らかに分が高いと思われる、えらく整った容姿の男だった。

國の中央にある教會総本部から來たといい、田舎者からしたら雲の上のような存在のお人だった。

この田舎には農夫ばかりなので、男と言うのはゴツイじゃがいもみたいな見た目が當たり前と思っていた私は、最初この人を見たときに、あまりにしく手も白魚のように白く綺麗だったから、男か別すら分からなかったくらいだ。

そして、生まれて初めて聞くなんかすごそうな肩書を名乗り始めたので、私は危うく失神しかけた。

でも明らかに平民(の最底辺)と分かる私にも、その人は丁寧な口調で話してくれたので、やっぱり聖職者はみんな人間ができているなあと心の中で心していた。

おじいちゃん神父はどうしてこの人を呼んだんだろうか?この天上人がお金を貸してくれるのか???と疑問いっぱいだったが、話を聞くとそうではなかった。

教會本部で破格の仕事があるから引きけてくれないか?という人材募集のお話だった。おじいちゃんお仕事斡旋してくれたみたい。

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イヤイヤ、働いてお金貯めるとかそんな時間的余裕はねえんですよと言いかけたが、男はそれを見越したかのように、報酬の話を先にしてきた。

報酬を聞くととんでもない額で、これならクソ親父の借金どころか、末の弟まで全員學校に行かせてやって人するまで食べるに困らないくらいの金額だった。

なんでこんな田舎者の小娘にそんな仕事を紹介してくれるのかと不信いっぱいだったが、どうやらその仕事の條件に當てはまる人がなかなかいなくて困っていたらしい。

アッシュグレーの髪に青い目で、長が五尺くらいの若い。そしてなんらかの魔法を使える屬を持っていることが條件だった。

魔法の力は神様からのギフトと呼ばれ、力の強さと屬はそれぞれだが、持って生まれる人はそれほど珍しくない。

なんでもいいならいくらでも見つかりそうな気がするが、案外なかなか條件に合う人が見つからなくて困っていたそうだ。

そんな時、見た目が合致していて、その上癒しの力という珍しい屬を持った私が見つかったので、連絡をけた司祭様は急いで駆けつけてきたそうだ。

癒しの力と言ったって子供だましみたいなモンですよ?と言ったのだが、それでも條件にぴったり當てはまっているらしく、最初に提示された報酬に上乗せして、私がいない間の家族の生活と安全を保障してくれるとまで言ってくれた。

ここまで好條件を提示されて引きけない理由がない。

あまりのおいしい話に、疑いを持ちつつも私はこの仕事を引きけてしまったのだ。

***

契約書をわしてから、ようやく詳しい仕事容を詳しく説明してもらえた。

まあ、要は『聖様の替え玉』をやるお仕事だった。うん。だいたい察した。

この國では神アーセラ信仰が國教とされていて、その神のお言葉を聞くことができるという聖が存在している。聖様は前任の聖がご逝去されると、次の聖様が生まれるといわれている。

今代の聖様は、今年で十五歳になる。ようやく公務に就ける年齢となり、聖都でのお披目を終えた後、國中の教會を訪れる予定になっていたのだが……。

なんか聖様、世話係の男とイイ仲になっちゃって、十五になったんだから結婚すると言い出し、周囲の反対を押し切り本當に結婚してしまったらしい。

それはまあいいのだが(良くはないが)、結婚したんだから新婚旅行に行くと言って、勝手に船を手配し海外旅行に行ってしまった。

でもどうやら本當の理由は、この後控えている『國中にある教會を巡禮する』仕事が嫌で逃げ出した、ということだそうです、ハイ。

僻地まで悪路を馬車でゴトゴトなんて無理無理無理とびまくった聖様を誰も止められず、新婚なんだからハネムーンに行くんだもんと言ってゴリ押ししたそうだ。

イヤイヤ、そこは仕事なんだから頑張れよ!と至極真っ當な注意を教會側もしたようだが、生まれた時から聖として上げ膳據え膳チヤホヤチヤホヤされて育った聖様は、信じられないくらいわがままっ子に育ってしまったそうだ。

昔は教會の権力が強く、新たな聖様の育は教會で経典にそって正しく行われていたそうだが、今代の王は舊態依然とした國の在り方を改革していくと稱して、聖様の育もやり方を勝手に変えてしまい、結果出來上がったのが今のわがままっ子らしい。

誰かに行を制限されるなんてまっぴらごめんだ、そんな仕事知ったこっちゃないと言い殘し、彼を支持する取り巻き達と共に旅立っていってしまった。……とその総本部からいらした男は憂いを含んだ表で語った。

もうね、どっから突っ込んだらいいのやら。

王様って馬鹿なのかな?

子どもの躾を誰もしなかったのかな?

つーか聖様の生活費全般は國民の稅からり立っているってのに、聖の仕事をしないでどうする。そしてそれを誰も窘められなくてどうする。

逃げ出す聖様を中央の偉い人は誰も止められなかったのは馬鹿としか言いようがない。

心の中で偉い人たちを罵倒しまくったが、そんなことはおくびにも出さずに契約條件についてだけ聞くことに専念した。

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