《ニセモノ聖が本に擔ぎ上げられるまでのその過程》

「家族と、あなた自の安全は私が責任をもって保障します。巡禮の期間が延長になる場合もありますが、その時は延長した分報酬を追加しましょう」

「ありがとうございます、これからよろしくお願いします」

キラキラしい司祭様は、売りにできそうな完璧な笑顔をおしげもなく振りまいて、私とがっちり握手をわした。がっちり握られ過ぎて判で切った指がちょう痛かった。

***

家族には『出稼ぎに行ってくる』と伝え、もらった前金を渡した。

ちびたちの面倒を母一人で見きれるか心配だったが、なんと司祭様が『母を付けますからご心配なく』と先読みして言うので、家族は私との別れをまったく惜しむこともなく『ありがとういってらっしゃい!』と大賛で送り出してくれた。

てっきり私は、中央の聖都から送り出されて巡禮に行くところから替え玉の仕事を始めるのかなと思っていたら、すでにそれは本の聖様が済ませていると聞いて、今日何度目か分からない『馬鹿なの?』と心の中でんだ。

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様は華々しいイベント大好きだから、出発のパレードだけやると言って、ゴッテゴテの聖コスチュームで山車に乗って王都三周もしたらしい。どうでもいい聖報だけが増えていく。

そして聖様は、送り出されたその足で新婚旅行の船に乗って行ってしまったそうだ。

だからもう最初の巡禮先へすぐにでも向かわないと不自然だから急がないといけないと言われ、馬で司祭様が馬でぶっ飛ばして巡禮隊の元へ私を連れて行った。が痛い。

「あなたが替え玉というのは、他の巡禮についてくる護衛の者たちには知らせていません。教會関係者でも私を含めたごく數の者だけで計畫したことですので、正がばれないよう気を付けて、普段はこのヴェールを常にかぶって仕事をしてください。私がそばについていますので困ったときはフォローしますから」

「私はずっと黙っていても大丈夫ですか?私、聖様らしい話し方とかわからないんで、ちょっとでも口をきけばばれちゃうと思うんです」

「大丈夫ですよ、聖様は口が悪かったですから、々口調が荒くても誰も不審に思いません」

「はあ、そうですか……って、聖様なのにどうやったら口が悪く育つんですか。下町にでも放り込まれたんですか」

「ああ、格が悪いんで口も悪く聞こえるんですよ。まあとにかく大丈夫ですから」

この人聖様のこと大嫌いだよね。

「あ、ホラ、本隊に合流しますよ」

くだらない聖報を聞き流していると、いつのまにか目的地にまで來ていたらしい。遠目に國旗を掲げた一団が見えた。

鎧姿の騎士が十名ほど、その先頭にひときわの大きな赤髪の騎士で、一番偉そうな紋章つけた人。その左隣には魔師の裝をまとった年が二人、不機嫌そうな顔で立っていた。年二人はそっくりなので雙子のようだ。

ん?本隊これだけ?なくね?見た限りが一人もおらんのだけど、フツー聖様のお世話係とかで侍さんとかもいるはずだよね?イヤ別にお世話されたいわけじゃないが、一応設定的にさ。

私は司祭様に『ほかには?』と訊いてみたが、以上のメンバーが巡禮隊だと言われ私は唖然とした。

様はの子だよね?フツー侍さんやらお付きの母さんとか同行するんじゃないんですか?男しかいないんだけど、しかも鋭なのか知らんが國家行事だというのにこの人數ってどうなの?通りすがりでこのご一行見かけても『魔討伐隊かしら?』としか思わないよ?

私がびっくりして固まっていると、司祭様がこそっと耳打ちしてきた。

「聖様のお気にりの者は全て新婚旅行に連れて行ってしまったので、侍なども本隊には殘っていないのです」

はあ、ソウデスカ。じゃあまさかこのメンバー、聖様と仲の悪い人たちの集まりとかじゃないよね?

「あーやっと聖様捕まえてきたんだ。おっそいよルカ様。もうさ、新婚旅行とかばっかじゃないの?國の稅金で食べてんだから、まずは働けっつーの」

「聖様だけ?あの頭悪い取り巻き連中は置いてきたの?まあゴチャゴチャうるさいだけで役に立たない奴らばっかだから居ないほうがいっか。ねえ、もう首でもつけとこうよ。逃げないようにさ」

かわいい顔した雙子がしゃべりだしたと思ったら口の悪さが半端ない。そしてやっぱり仲悪いメンバーじゃないですかーヤダー。

赤髪の偉そうな騎士さんは無言で私を睨んでいるだけだけど、なんか人殺しそうな顔しているのでこちらも不穏極まりない。

「すみません、捕獲に手間取りました。ですが聖様も心をれ替えて公務に勤しむと約束してくれたので、もう心配ありませんよ。ファリルもウィルもあまり不敬なことを口にしないように。誰が聞いているか分からないですからね」

「「はーい」」

あらまあ司祭様のお言葉にはいいお返事ですね雙子ちゃん。

どうでもいいけど、司祭様の名前がルカ様で、雙子がファリルとウィルなんだね。覚えておこう。

そして司祭様が『すぐに出発しましょう』と言って、私に停めてある馬車に乗るよう促した。

なんか特別仕様の牢獄みたいな箱馬車。外側から鍵がかかるようになっているって、おかしいよね?

これ、どう見ても罪人の移送用じゃない?え?ホントにこれに乗るの?一応、聖様の巡禮ってれ込みで各地を回るんだよね?おかしくない?

これに乗ったら斷頭臺に連れていかれるんじゃないかと不安になったので、乗るのをためらっていると、赤髪偉そう騎士さんがボソッと、

「足の腱を切ればもう逃げられないよな……」

とこれまた不穏極まりない言葉を発したので、の速さで馬車に飛び乗った。

後から典雅な所作で司祭様が乗り込んでこられたので、この狀況はどういうことかと恨みを込めて司祭様を睨んだが、にっこりと破壊力抜群のキラキラスマイルで返されて終わりだった。

ただ、『騎士団長、言葉を選んでくださいね』と一応ちっちゃく注意していたけど、注意の仕方が間違ってる。つーかあの人騎士団長だったのか。ちょう偉い人なのに不穏がすぎる。

『ガチャン』と明らかに鍵のかかる音がして、馬車はちゃかぽこと軽快な音を立ててき出した。

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