《ニセモノ聖が本に擔ぎ上げられるまでのその過程》9
「司祭様、次の予定はこの辺を歩いて回るんですよね?」
「ええ、出會う人には挨拶をして歩けばよいだけです。せっかくの才能ですから、癒しを求められたら応じても構いませんよ。聖の存在を知らしめるための巡禮なので、友好的な姿をみせてください」
ここでまた、裝を著替えて歩きやすい服に変える。ボタンが外せないのでそこだけ仕方なく司祭様に頼んだので、やっぱり恥に耐えながら著替えさせられた。
外に出ると、騎士団長さんが何食わぬ顔で部下たちと立って待っていた。そして彼らの護衛付きで私は村を歩いて回ることになったのだが、別に誰も聖様の訪れを期待していなかったようで、出會う村人は通りすがりのお年寄りばかりだ。
どうもこんにちは神教のほうから來ましたと言ってみても、お耳が遠い方ばかりで通じない。
もうめんどくさくなったので、『どっか調子悪いとこないすかー』と聞いて、腰が痛い膝が痛い歯が痛いなどの答えが返ってきた人に、お祈りをして回った。
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まあ一応は治るので痛みが軽減するから、お祈りをした人々からは、『ありがとうねえ』と言われ、ポッケにってた豆とか干し芋とかを私にくれた。
それをボリボリと食べながら、またその辺をウロウロして、見つけた人に聲をかけては癒しをかけて廻った。
うん、代役の仕事としては上出來なんじゃないか?とちょっと調子に乗りながら村の中心部まで近づいたところで、ちょっとした集會所のような場所が見えてきた。
お、誰かいるなと思ったが、そこにいる數名の村人たちは、怖い顔でこちらを睨んでいた。
無難に挨拶をこなしたいものだが、なんか村人たちの顔が怖い。
だんだん近づいて行って、よく見てみると、なんと彼らもまた卵を持っているではないか!なんなの?もしかしてこの地方は卵投げ祭りとかあった?
すると、私がなにか言う前に後ろから先ほどの年らが猛ダッシュで男たちの元へかけて行った。
「ダメ!卵ダメ!食べだからって怒られる!」
「今すぐ卵を隠せ!殺されるぞ!アイツまじでやべーんだって!」
いや殺しませんけど?
とはいえ年らは食べおもちゃにしちゃいけませんって説教がちゃんと伝わったみたいでよかった。だが、男たちは年らの言った言葉が気に食わない様子で、イライラしているようだった。
「ハァ?お前らなに懐されてんだよ。やっぱガキはダメだな」
「大方、高い菓子とか食わせて手懐けたんだろ。あの教會のやりそうなこった。おい!聖様よォ!俺たちの村は神教なんか信仰しねーからな!」
「無理やり押し付けてきた宗教なんか誰が信じるか!俺らを洗脳しようったってそうはいかねーからな!」
そう言って男たちは卵を持った手を振りかぶってきた。いかん!これではまた卵が割れてゴミになってしまう!彼らを止めるために私は聲を張り上げた。
「やめなさい!食べを末にすることは許しません!そんなに何かを私になげたいのなら、泥団子でもなんでもいいでしょう!なぜわざわざ食べられる卵を無駄にするのですか!」
よし!今度はちょっと聖っぽいしゃべりだったんでないの?イケてたよ私!
「はっ、だったら泥団子なら聖様に投げていいってえのかよ。なんだソレ、聖様アピールのつもりか?聖だから甘んじて泥も被りましょう~みたいな?あーやだやだ、そういう見えいた広報活要らねえんだよ」
「いえ、甘んじて被るなんて言ってないですよ。あのねえ、『泥団子を投げてつけていいのは、泥団子を投げつけられる覚悟のある者だけだ』って教訓を知りませんか?もちろんあなた方も私に投げる以上は、その覚悟があるとみなしますよ。
そしたら私だって投げる権利がありますからね、正々堂々と遣り合いましょう。じゃ、泥の投げ合いやるんですよね?どうします?そっち陣営は何人でやります?」
「???……ちょ、何言ってんのか……。え?聖様は、泥団子を投げられてもいいってえのか?それより陣営ってなんだ……?」
「だから決著がつくまで投げ合いましょうと言っているんですよ。えーと、じゃあ私のほうは……年二人はさっき卵をゴミにした罰で私陣営ね。死ぬ気で働いて?
騎士団長さんもなんか私に詫びたいとか言ってたからこっちにってください。んで、そちらは三人でやるんですか?味方を増やしてもいいですよ。うちは數鋭でいきますからねー。あ、司祭様は審判でお願いします!ここ!線引くんで!私こっち側がいいです!」
「審判をやるのは構わないんですがそもそも泥団子を投げあう行為にルールがあるんですか?勝敗の基準は?」
「最後まで立っていた者がいた陣営が勝ちでしょう。細かい判定は司祭様がルールブックでお願いします。ホラ年!まずは弾(泥団子)をどれだけ用意できるかで勝敗が決まるんだからすぐく!泥の確保!そして型!そっち陣営も、もう試合は始まってますからね!このままだとそっちは秒で負け決定ですね!」
「えっ?えええ?!負け?!お、おい!俺らも行くぞ!」
こうして、仁義なき泥試合の火蓋が切って落とされたのである。
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