《ニセモノ聖が本に擔ぎ上げられるまでのその過程》最終話

たっぷり一分間、凍り付いたように誰も言葉を発しない時間が流れたが、我に返った三人がんだ。

「……なんだって?!神の鉄槌だと?!間違いないのか?!」

「え?!だってそれって……お姉ちゃんが……?ってこと?」

「まさか……いや、でも……ルカ様がそう思う拠があるんだよね?」

……全っ然話についていけない。

多分私関係ない話よねと思って、他人事みたいな顔で黙っていたら、司祭様が『あなたが當事者ですよ』と言って私に向かって神の鉄槌の意味を説明してくれた。

司祭様の話によると、それは聖が持つ神の加護だそうで、聖を守るために天から遣わされる力だという。

教會に殘る記録や伝承には『聖に刃を向けた者に神の鉄槌が下った』という記述がたくさん殘っていて、聖に害をなす者に雷が落ちるというのは有名な話らしい。とはいえ、司祭様も実際に見たのは初めてで、それまではおとぎ話のようなものだと思っていたそうだ。

その神の鉄槌らしき現象が先ほど司祭様の目の前で起きたらしい。

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しかもなんと、私を拉致したあの聖様の手先みたいな人たちの船に直撃して、その船は真っ二つに裂けて川に沈んだというから驚きだ。

「そんな大変なことが起きていたんですねえ……って、なんでその『神の鉄槌』が聖様の仲間に落ちるんですか?あの人たちなんか聖様にやらかしたんですかね?まあやらかしそうな人たちだったですけど」

あまり人を悪く言うのもなんだが、正直あの人たちはアホの部類にる人間だった。よく分からないけどやってみよう!みたいなアホなノリで、聖様に対してもなにかやらかしていてもおかしくない。

そんな風に一人で納得していたら、司祭様が心底呆れたような顔でため息をついた。

「はあ……この期に及んでまだそんな認識とは……。神の鉄槌が彼らに下ったのは、あなたが本の聖だからに決まっているじゃないですか。さっき自分で聖のしるしを見たでしょう。彼らはあなたを傷つけ殺そうとしたのですから、當然です」

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「はああぁ?!何言ってんですか?!」

司祭様がとんでもないことを言い出したので思わずんでしまった。

「セイランが持つ癒しの力、神の鉄槌、そして完璧な形の神のしるし。あなたこそが本の聖であることは疑いようがありません」

司祭様はきりっとした顔で言い切ったけど、その自信たっぷりな態度が逆に噓くさい。

雷が落ちたとか……そんなのたまたまじゃないの……?

なんか目が覚めたら怒濤の展開で、いきなりお前が聖だ!と言われても何もかも噓くさく聞こえてならない。

のしるしとかいうのも、司祭様が言い出すまでこんなあざがあることすら気付かなかったし、神の鉄槌というのもちょっと胡散臭い。

あの信者の方々ちょっとアホだったから、間違って自したとかじゃないかなー。

そんなふうに疑問と疑念でいっぱいだった時、突然私の頭に天啓が降りてきた。

(はっ……!まさか……これは……わがまま聖様に嫌気がさした司祭様が、ニセモノの私をホンモノに擔ぎ上げて、あちらを排除しようという黒い計畫なのでは……?!)

最初っからバリバリ暗躍していた司祭様だもの。それくらいやりかねない……!絶対そうだ?ヤダ私すっごい冴えてる!

どうしよう、期間限定の代理ならともかく、本の聖様にり代われるわけないのに……。無茶がすぎるよ司祭様……。

助けを求めて騎士団長さんと雙子を見ると、三人ともポカン顔で司祭様をガン見していた。

あ、よかった。多分騎士団長さんと雙子がきっと『そんなわけあるか』と言ってくれるだろう。さすがにそんなの騙されないよね!

……と思ってみていたら、バッとこちらに向き直ってパアァ~と顔を輝かせ、三人そろってこうんだ。

「「「やっぱりそうだったか!」」」

まさかの反応に目を白黒させていると、三人は嬉しそうにワイワイと話し出した。

「いやー、そうじゃないかと思ってたんだ。やはりあのはニセモノだったか。何故アレが聖に認定されたのか、不審に思うな」

「よかったぁ~やっぱりお姉ちゃんが本だったんだね!……ってことは、赤子だったアイツを聖として用意した黒幕がいるってことじゃない?教會での聖教育をけさせなかったのも、黒幕が手をまわしていたからと思えばつじつまがあうよ」

「取り巻きがやたらにアイツを囲い込んで隠すのも、考えてみれば不自然だったよね。今回巡禮の仕事から逃げたのも、聖じゃないのがばれると思ったからだよきっと」

三人とも司祭様の話に全乗っかりした!

え?そんなすぐ騙されるとかってある?

……あ、違うか!多分これ、三人が司祭様の言葉の裏にある意図を読んで、分かった上で『それいい案だね!』って司祭様の作った話に乗っかったんだ!

というか、とっくに私がニセモノだとバレていた前提で話が進んでいるんだけど……ひょっとして最初っからみんな知っていたの?だったら一生懸命聖様のフリをしていた私の苦労を返してほしい。

なんか々騙されていた気分で、一人で『ぐぬぬ……』となっていた私のことなどお構いなしに彼らはどんどん話を進めていく。

「あのには早々に退場してもらわなくちゃ。お姉ちゃんが座る椅子にいつまでも居座られては迷だからね」

「偽のくせに散々僕らを苦しめてくれたアイツには、相応の罰をけてもらわないと。お姉ちゃんを傷つけた罪もしっかり償わせるから」

「職務放棄はまだしも、取り巻きを使っての殺人教唆……。それでも王が許すと言ったらもう俺は従うことはできない。いっそ政変もやむを得ないだろう」

「王がこの件に無関係ではないだろうが、誰か裏で糸をっている者がいて、王は黒幕の言う話にうまく導されている、というのがおそらく正解だろうな。

であれば、新たな聖を教會が認めたとしても黒幕は王に認めさせないだろうから……場合によっては早めにご退場いただくしかないな」

なんか私そっちのけで難しくて不穏な話で盛り上がっているけど、ちょっと待ってほしい。私はその聖れ替え案に一度も同意してないので勝手に話を進めないでほしい。

私はワイワイと楽しそうな四人に待ったをかけた。

「ちょっとちょっとちょっと……どんどん話が進んでいるみたいなんですけど、一旦待ってもらっていいですか?あのー私、巡禮で代役務めるだけの契約で仕事けているから、それが終わったらウチに帰るつもりなんで……。その後の聖役のお仕事はお斷りしたいんですけど……」

そこまで言ったところで、四人が同時にぐるんっ!ってすごい形相でこちらを向いたので、『ひっ……!』と小さくび聲をあげてしまった。

「……は?帰る?僕らを置いて?お姉ちゃんは僕らのお姉ちゃんになってくれるって言ったでしょ?それなのに、置いてくの?そんなわけないよね?お姉ちゃんはあのと違って、噓つかないもんね?」

「ずっと一緒にいてくれるって言ったのに、やっぱり仕事が終わったらバイバイ?そんなの許せるわけないんだけど。じゃあ、帰るところが無くなればいいのかな?それとも約束を守るのとどっちがいいかな?」

「俺を置いていくんですか?!もうこの椅子は必要ないと?!別の椅子がいいと仰るんですか?!俺以外の椅子に座るなんて許せるわけがないでしょう!」

「セイラン……私たちが先ほど誓いを立てたのをお忘れですか?この先なにがあっても私はあなたのそばに居ると誓って、あなたは『分かった』と言ってれてくれたではないですか。それなのに、仕事が終われば家に帰ると?

殘念ですが、誓いというのは覆せないんですよ。それに私は未婚のあなたのをみてしまいましたから、妻に迎えなくてはをした罪人になってしまいます。私を罪人にするのはあなたの本意ではありませんよね?」

四人が距離を詰めてきて一気にまくしたてるし、何よりみんな顔がめちゃくちゃ怖いんで私は半泣きになってすぐ謝った。

「え?……え、えーーーっと……ごめんなさい?私が悪かったです……?」

「では、我々と共に來てくれますか?セイラン」

「お……お給料がちゃんと出るなら……」

「もちろんです。何不自由ない生活を保障します」

「僕らこう見えても高給取りなんだよ!まかせて!」

「僕ら司祭様より金持ちだよ。僕らと一緒に暮らそう?」

「俺は生涯あなたの専屬椅子兼護衛となるから、今後なにがあってもの安全は絶対保証する!」

怒濤の如く四人に詰め寄られて、全方向からいろんなことを言われ目が回った私は、気付けば、聖役のお仕事を続投することで話がついていた。

私の答えに満足した四人は立ち上がって、『じゃあ帰りましょう』と満面の笑みで私に手を差しべてきた。

「王都に帰ったらまず騎士団の再編だな。あののシンパを徹底的に炙りだしてやる。忙しくなるぞ」

「お姉ちゃんが本だと名乗りをあげたらあのの取り巻きが絶対に何か仕掛けてくる。やられる前に潰さないと」

「まずは教會で聖認定をけようよ。でもさ、王が認めないと考えて早めに手を打っておいたほうがいいんじゃない?」

「ダレンの言ったように、政変もやむを得ません。王がただの傀儡であったとしても、神の意思を踏みにじったのです。欺かれ続けた教會も、もう現王に従うことはできないでしょう。あちらの出方によっては、戦爭になるかもしれませんね……」

不穏な話を四人はとてもいい笑顔で話している。というかその不穏な計畫で私が聖様役で働かなきゃならないんだよね?それなのに完全に蚊帳の外で話が進んでいくのはどうしてだろう?

―――うまい話には裏がある。

でもこんな裏が待っていたなんて、誰が想像つく?

とりあえず、お給料の相談をしないとなあと、私は彼らの會話を聞き流しながらそんなことを考えていた。

***

―――――――その後、新婚旅行に出かけた聖様の船が戻ってくることはなく、現王は突然神を病み、側近と共に靜養地へ送られ政から離れてしまったため、予想されていた新舊の爭いが起こることはなかった。

船旅から帰らないまま聖の認定を外された元聖はどこに行ったのか。

新天地で新しい生活を始めたんだろうとか、難破したのかもとか々な噂が飛びったが、どれだけ行方を捜しても手がかりのひとつも見つからず、結局真相は分からずじまいだった。

おわり

これにて完結です!

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最後まで読んでくださってありがとうございました。

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