《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》29.エルフ種族を救う
29.エルフ種族を救う
~エルフ長ヘイズ視點~
「ああ、何でこんなことに・・・」
私は目の前の景に絶した。
突然の山崩れによって、エルフの里は大きなダメージを負っていた。
「エルフ長様、指示を‼ ほとんどの者が逃げ出せましたが、家ごと飲み込まれ逃げ遅れた者もおります!」
「! そ、そうだな! 急ぎ我々総出で土砂を取り除くのだ!」
「で、ですが、この量の土砂を取り除くには人手も力も足りません!」
「っ・・・!」
部下たちが困の聲を上げていた。
部下たちの指摘はもっともで、大量の土砂が民家を押しつぶしていた。
すぐに救出しなければ、押しつぶされた者たちは救い出す前に窒息死してしまうだろう。
(どうすればいいんだ・・・)
がカラカラに乾くのをじた。今押しつぶされている家は、最近赤ん坊が生まれたばかりのリンスロットの家だった。自分の親友の家でもある。その新しい命が最悪の形で奪われようとしている。
「何でだよ。あのアリアケっていう男を閉じ込めりゃ解決だったんじゃなかったのかよ・・・」
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「やはりエルフ長には霊の加護が宿っていなかったのでは?」
「さよう。エルフが自然災害に飲み込まれるなど前代未聞じゃ・・・」
「おい、よせ、こんな時に。聞こえるぞ」
同胞たちの聲が聞こえて來た。
いつもならば威厳を保つために叱責すれば済む。
だが、今は彼らのその言葉一つ一つが真実だと痛した。
「私はエルフの長になどなるべきではなかった。このような事態を招いてしまった」
思わず涙が流れた。
しかし、それすらも大自然の前では甘えでしかないことを知る。
「エルフ長お逃げください!」
「えっ」
呆然としていた私は反応が遅れた。
「第2波が來ます! は、早く!」
第1波の土砂崩れで、地盤が化していたのだろう。山崩れが再び発生し、山を飲み込みながら流れ落ちて來た。
その量は第1波の比ではない。それはエルフの里を丸ごと飲み込むだろう。
「終わりだ」
私は絶して目を閉じた。
できるならば同胞全てに謝りたかった。無能な長ですまなかった、と。
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そして・・・もう一人。
「アリアケ殿の言葉に耳を傾けるべきであったのだろうな」
今ならば分かる。あの方の言葉は全て我らエルフを慮《おもんぱか》ってのものだった。ならば、これは自業自得なのだろう。
土石流は目前に迫った。
そして、その奔流は間もなく私を押し流した。
・・・はずであった。
「何を勝手に諦めている。お前はエルフの長なのだろう」
その言葉は私の前から聞こえて來た。
「ならば、最後まであがいてみせろ」
私はその時、神が降臨したのかと本気で信じたのだった。
~アリアケ視點~
「≪時間停滯≫≪重力作≫≪衝撃吸収≫≪斥力発生≫。以上のスキルを≪合≫し、≪範囲≫スキルで≪連続展開≫する」
俺はエルフの里を優に飲み込もうとする土石流を前に、淡々とスキルを使った。
「す、すごい・・・」
「何が起こっているんだ・・・土砂が・・・」
「山崩れが元に戻っていくぞ!」
俺のスキルによって第2波の土石流が押し戻されて行った。
「原理は簡単で、土石流全の流れを遅くしながら重力を反転させる。一方で重力を反対方向へも発生させ、流れを逆転させただけだ。もちろん、それでもまだ危険は0ではないので念のため衝撃は殺してある」
「簡単な訳ないじゃろ!! 旦那様以外の誰にそんな真似ができようか!!」
ついてきたコレットが隣でつっこんでいた。
「ありえない」
里のエルフたちも目を見開いていた。
「い、今のは本當に勇者パーティーを追放された役立たずポーター、アリアケがやったというのか・・・?」
「し、信じられない。何かの間違いだ。こんな奇跡のようなことができるなんて!」
「ああ、スキルの合・・・しかもそれを連続展開だと⁉ 聞いたことないぞそんなもの!」
エルフの男たちが何やら混していた。
しかし、俺の元にエルフ長のヘイズが近寄って來た。
こいつだけはどこか落ち著いていた。
そして、
「大賢者アリアケ殿!!」
そう言って俺を睨み付けると・・・。
がばっと、いきなり土下座をした。周りのエルフは驚くが、そんなことは些事だとばかりに口を開く。
「本當にすまなかった! そして、ありがとう! 里はあなたのおかげで救われた! 多くの命が助かった!」
心からの謝の言葉であった。
「だ、だが・・・」
ヘイズはあわせて疑問を口にした。
「なぜ我々のような愚かな者たちを助けてくれたのだ。あなたの言葉に耳を傾けもせず、しかも牢に閉じ込めたような我々を・・・」
はぁ、と俺は嘆息する。
「別に助けたわけではない。たまたま災害が発生して、俺に襲い掛かって來たから、自分のを守っただけだ」
「は? た、助けた訳ではない、ですと?」
「そうだ」
「旦那様、じゃが、そなた封印牢からここまで全力疾走せんかったか? ≪危険察知≫スキルが反応した! とか何とか言って」
「言ってない」
「あの、セラもアリアケ様がそのようなことを言って全力ダッシュをしていたのを見た気がするのですが」
「知らんな」
アリアケは表も変えずに首を振った。
「これほどの偉業をなしたというのに、なんという殊勝なお方だ・・・」
俺たちの下らないやりとりを見て、なぜかヘイズは再び深く首《こうべ》を垂れた。
「改めて謝罪を。大賢者アリアケ殿。勇者パーティーを追放されたと聞き、あなたを侮った発言を多々してしまったこと。私の人生で最大の誤りだ。あなたはまさに大賢者にふさわしい実力と見識を備えた、勇者一行にふさわしい・・・いや、勇者パーティーを実質的に導いて來た存在なのだろう・・・。今ならばそのことが確信できます。・・・ですが、なぜ勇者パーティーがあなたのような賢人を追放したのか、理解に苦しむばかりですが・・・。ともかく、私は自分の不明を心から恥じ、そして全エルフを代表し、ここにお詫び申し上げる。大賢者アリアケ殿、すまなかった。そして、また全エルフを代表しお禮を言いたい。本當に助けてくれてありがとう」
≪エルフの謝罪≫。それは滅多にみられないものだ。
そしてそれ以上に、≪エルフの謝≫。それは本當の意味でエルフが心を許した時にしか見せない行為と言われている。
「だが、まだ終わっていないぞ。第1波で押しつぶされた家からエルフたちを助け出さねばならん。時間がない」
「その通りだ。それで余りにも厚かましいお願いだが、頼むアリアケ殿。我々に力を貸してくれ。エルフ長として正式に大賢者アリアケ殿に助けを請いたい。この通りだ」
深く頭を下げた。
しかし、
「斷る。俺一人の力ではどうせ間に合わん。お前たちが総力をあげて救出しろ」
俺はにべもなく首を橫に振った。
その答えに、周囲のエルフたちは、
「もっともだ・・・。だが、俺たちひ弱なエルフでは・・・」
「風魔法では土と一緒に、押しつぶされた民家ごと吹きとばしてしまうだろうし・・・」
俺の答えにエルフ長、セラ、それに他のエルフたちも絶に表を染めた。
「ふーむ、そう言われてもな・・・。俺に出來ることと言えば、この辺り一帯の土砂の重力を10分の1程度にすること。そして、今まさに押しつぶされている者たちの力が減らない様に回復し続ける事。あとはお前たちの筋力を100倍にすることくらいだ」
「は?」
「何だって?」
エルフたちが戸った聲を上げる。
「お前たちが言ったんだろう。土砂を押しのける力が無いと。それに押しつぶされた者を助ける時間が足りないと。なら、俺ができる支援としてはこれくらいだ。さすがにこれ以上は面倒見切れんぞ」
そう言いながら俺はスキルを発し始める。
「≪範囲》スキル発」
「≪自己回復促進(強)≫発」
「≪重力10分の1≫発」
「≪筋力強化(強)≫発」
「は? えっ⁉ す、すげえ! 非力な俺たちがマッシブに⁉」
「見ろ! この前腕二頭筋を!」
「見てくれ、こんな大巖だってこの通りだ! これでひ弱とか言われないぞ!」
何やら微妙なところでが巻き起こっているようである。
「それにしてもすげースキルだ・・・」
「それにアリアケ様は俺たちのために駆けつけて下さったんだぞ」
「第2波から助けてくださった。まさに我らの救世主様だ」
「勇者パーティーを追放になったっていうのは・・・じゃあ」
「勇者パーティーの方が馬鹿の無能だったんじゃないか? こんな大賢者を追い出すなんて!」
「そうに違いない! むしろ先代勇者との盟約をないがしろにしたのは、大賢者を追放した勇者パーティーの方だったんじゃないか!」
「ああ、きっとそうだ! 無能勇者どもめ!」
「くそ! 間抜けな勇者パーティーどもめ! もし會ったら一発毆ってやりたい!」
散々な言われようである。
そんな悪口雑言を口にしながらも、彼らは素早く手をかした。
と言っても、軽くなった土砂を、筋モリモリマッチョマンのエルフたちが撤去するのに、そう時間はいらなかった。
そして、押しつぶされた民家からは、エルフたちが無事に救出されたのである。
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