《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》79.デリアとプララに先を越される聖さん
2021.3.20修正
79.デリアとプララに先を越される聖さん
俺たちは一路、馬車にて國の東端、ブリギッテ教の聖地『セプテノ』を目指していた。
だいたい半月ほどの旅路になる見込みだ。
コレットにドラゴン化してもらい、飛んでもらえば早いのだが、俺という乗り手を得た彼は『神竜』クラスに昇格していて、とにかく強すぎる。安易にドラゴン化すれば周囲に様々な影響を與える可能が高い。
俺にしても彼にしても、規格外ともなるとこういう常人では理解しえない苦労が発生してくる。
そんなわけで、どうしても必要な場合以外は、こうして一般人と同様の移手段を使用しているのである。
さて、そんな俺たちが馬車でのんびりと街道を走っていると、
「そこの馬車、止まるのですわ!!」
馬車の前に立ちふさがる2つの影があった。
「デリアにプララじゃないか。どうしてこんなところに……?」
者臺の當番である、俺とアリシアがそう言って顔を見合わせていると、つかつかと2人のが近づいてきた。
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そして、
「アリアケ・ミハマ! このデリア・マフィーと正式にお付き合いなさい!」
そう唐突にデリアが、頬を染めて俺に言ったのである。
唐突のセリフに俺は首をかしげるのみだが、
「は……ぁ……?」
一方、隣のアリシアからは地獄よりもなお深い聲が響いたかと思うと、者臺の手すりが一瞬で木っ端みじんとなり、さらさらと宙に舞った。
「アリシア、君は今、素手で手すりを……」
「い、今はそれどころではありません! デリアさん、な、な、な、何をいきなりっ……! わ、私の、私のアリアケさんにっ……!」
何かを言いかけるが、それより早くプララが口を開いた。
「あ、あたしもさ、ちょっち、アリアケにキュンキュン來てんだよね~。どうかな、このあとちょっと二人でしけこまね?」
そう言って、ぐいぐいぐいぐい! とプララらしい強引さで、俺の腕を引っ張ってくる。
「ちょ、ちょっと待って下さい! なんなんですか、本當に!? アリアケさんも振り払ってください! まずは手をつなぐところからゆっくりと始めるのが正式なお付き合いというものですよ! わ、私だってまだなのにっ……! よ、よりにもよって、この二人に先を越されるとかっ……!」
「いや、そう言われてもなぁ」
よく分からない事態に、俺もどうしていいのか困する。
だが、そうしている間にも陣の間で會話は勝手に進んでいった。
「アリシア、あなたは関係ないでしょう? ちょっと黙っていていただけません?」
「そうだよ、引っ込んでなよ、暗聖はさぁ! アンタにアリアケはもったいねーって、きゃはは!」
「な!? な、な、な、な、な、な、な、な……」
アリシアが口をパクパクとさせる。
「ほーら、何も言い返せないではないですか!」
「そうそう、なら、ひっこでるじゃーん♬」
「くっ、くぅううう、い、いきなり出てきて言いたい放題! ア、アリアケさんは、ぜ、全部、わ、私の……私の……。爪の先から髪の一本まで、その全部……ごにょごにょ」
「おほほほほ! 聞こえないですわ~」
「ほらーアリアケー。こんな暗聖ほっといて、いいとこ行っていいことしよーよー♡」
(やれやれ、一どうなってるんだ?)
俺がどうしたものかと頭を悩ませていると、
『ガサコソ』
何事かといった様子で、幌《ほろ》の中にいたコレットとフェンリル、ラッカライが顔を出した。
「なんじゃなんじゃ、旦那様の魅力に勇者パーティーのどもも、まいってしまったというわけなのじゃ? さすが儂らの旦那様なのじゃ!」
「それにしてもアリシアはいつもちと重いのう。小聲になって主様に聞こえとらんから良いようなものの」
コレットとフェンリルがマイペースな會話を繰り広げる。
だが、
「そ、そんなことより、デリアさんとプララさんが攻撃してきましたよ!?」
ラッカライの言葉通り、困してかない俺に痺れをきらしたのか、なんと二人が攻撃を仕掛けて來たのである。
「ああ、もう! 埒があきませんわね! なら、気絶させて連れて行くまでですわ! 私の拳の味、知るといいのですわ!」
「そうそう、は戦爭って言うじゃん! だから奪えばいいじゃん!! 略奪みたいで燃えるじゃん! ってなわけで、ファイヤーボール!!」
「!? さ、させません! 小結界!!」
バチィィィィイイイイイイイイイイイイイ!
アリシアが常人では不可能な凄まじい反応速度で小結界を連続で展開していく。
「連れて行かせませんよ! アリアケさんはわたしと、わたしとっ……!」
「俺とアリシアが何かするのか?」
「黙っててくださいますか!? このボクネンジーン!」
なぜか怒られてしまった。
まぁ、しかしながら。
「黙るのはいいが、とりあえず結界の必要はなくなりそうだぞ、アリシア」
「へ?」
アリシアがキョトンとした瞬間である。
「皆さん伏せて下さい! ええーい!」
バフン! モクモク!
「ひゃあ!? なんですの! これは……すやぁ……」
「白くて何にも見えないじゃん、せっかくのメイクがにじんじゃうじゃ……スピスピ……」
ばたりと二人が倒れて、大いびきをかきだした。
「ふぅ。何とか間に合いましたか。さっすがバシュータさん直伝の投擲用眠り薬ですね」
攻撃中のデリアとプララの顔面に死角から、何か白いパックのようなものを投げつけたが姿を現した。
そして、俺の姿を認めると、パタパタとし大きめの杖を持って駆け寄ってくる。
目の前まで來ると、はきはきと様子で、
「アリアケ様、無沙汰しています。お変わりありませんでしょうか」
そう言って奇麗なお辭儀をした。
緑の髪がふわりと舞う。
そのの名前は、
「ローレライか。久しぶりだな。ベルタ以來だな」
「はい!」
元気よく頷いた。
の名はローレライ・カナリア。
かつて一時だけだが勇者パーティー時代に、一緒に冒険をしたことのある高等回復士だ。先の海洋都市『ベルタ』における魔神ワルダークとの戦いでも、重要な役割を擔ってくれた。
一見、まだ駆け出しといった風を持つだが、その腕前は既に高レベル回復士に至っている。
あどけなさがまだ殘るが、しっかりとした考え方を持った、非常に優秀なである。
「だが、どうして君がこんなところに? それにデリアやプララも」
「はい、実は……。す、すみません、アリアケ様、説明する時間はなさそうです!」
彼はそう言って後ろを振り返り、
「追いつかれました」
杖を構えながらそちらを睨む。
そちらにはいつの間にか、一人、真っ白な、真っ白な髪、真っ白なドレス、深紅の瞳を持つが立っていた。
(いつ近づかれた?)
俺に気配をじ取らせなかった? そんなことが出來るものなのか?
俺の驚きをよそに、その白いは開口一番、
「お恥ずかしいです。あまり見ないでくださいませ、このフォルトゥナの顔を……」
そう言って頬を染めて俯いたのであった。
その瞬間、周囲の溫度が10度ほど下がったようにじた。
まるで悪寒をじたときのように。
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