８１．聖都「セプテノ」に到著する賢者パーティー一行

「ここがブリギッテ教の聖地、聖都『セプテノ』か」

俺たち賢者パーティー一行と、臨時で加したローレライ・カナリアは『セプテノ』に到著していた。

宗教都市と言うだけあって、ローブにを包んでいる者や、辻説法などをしている者もいる。

教會や武神ブリギッテをかたどった彫像もたくさん見けられた。

宗教都市らしい信仰にあつい、穏やかな暮らしをする人々の姿がそこには……。

「うおおおおおおお！　どうですか、旅の方、ブリギッテ教に信し、こんなたくましい上腕二頭筋を一緒に作りませんか！？　見て下さいよ、この力こぶのたくましさを！　ふんが！」

せっかくのローブの腕の部分をカットし、自の上腕二頭筋を見せびらかす変態が一人、車上の俺へと話かけてきた。

「やめなさい！　ああ、恥ずかしい！　突然失禮しました、旅の方」

すると、それを見かねたのか、別の信者がやってくる。穏やかな顔つきの青年であり、顔には微笑を浮かべている。

だが、その男の上半はであり、下半はビキニパンツのあられもない姿だ。

「ああ、ブリギッテ神の聖なるかな。ブリギッテ神はおっしゃりました。上半を鍛えたら、下半も鍛えよと。筋を語るのではない。筋が語りだすのだと。それなのに、腕まくりしたときに上腕二頭筋を主張するためだけに筋を鍛えるなど神の教えを冒涜する行為だ。ふうん！」

青年はそういうと、奇麗な歯をらせながら、突如サイドチェストのポーズをとった。

の厚みもさることながら、腕のたくましさや腳の太さもしっかりとアピールしてくる。

「ふむ、見事なS字ライン。キレてるな」

俺は思わず言葉をらす。

「ははっ！　分かりますか、旅の方！　あなたには才能がありそうだ。どうですか、ぜひブリギッテ教に信しては！！　今ならば教會特製のプロテインポーションをおつけしますよ！」

「厚意はありがたいんだが、すまないが、俺には信仰している……というわけではないんだが、先約の神がいてな。いちおうそっちに義理立てをしているんだ」

「そうですか。いえ、々事があるのでしょう、強要するわけではありません。ですが、きっと將來あなたも筋のすばらしさに目覚めることでしょう。その時はぜひ信してくださいね。それでは、聖都を楽しんでいってください、マッスルマッスル！」

気持ちの良い青年は歯をらせると、上機嫌で手を振りながら去っていた。

「ふっ、やはり筋トレしている人間は基本的にテンションが高いなあ。さすが武闘派の神ブリギッテを奉じる聖都『セプテノ』の民は一味違う。なぁアリシア」

俺は同じブリギッテ教徒であるアリシアに話を振った。

だが、

「ご、誤解ですから！？　あんな変態ばっかりじゃありませんよ！　ブリギッテ教は！？　基本的には武を鍛えて大切な人たちを守りましょうっていう教えなんですから！？　いきなりなんで上腕二頭筋なんですか！？　サイドチェストなんですか！？　教會第3位として粛清していいですか！？　というか、なんで自然と會話しちゃってるんですか、アリアケさんはっ！？　キレてるなぁ、じゃないっちゅーねん！」

アリシアは、なぜか自分をあんなのと一緒にするなと必死で弁明を始めた。変になまった言葉でツッコまれる。

更に、

「いやぁ、我はそれほど違和はなかったぞえ？　アリシアも毎日鍛えておるではないか？　実は8(エイト)パックになったのではないかえ？」

「フェンリルさんなんてこと言うんですか！？　それに私のはフワフワですよ！　毎日らかくするためにハチミツ飲むようにしてるんですから！」

「そ、そうなんですね、アリシアお姉様。そんな人知れない努力を……。ボクも頑張らないとッ……！」

「はっ！？　しまった、口がってつい！？」

「儂は強い奴が多そうなこの宗教のことは好きじゃぞ！　人間族もなかなか見どころがあるのじゃ！」

「うう、コレットちゃんの純粋な意見が聖さんつらいっ……！」

どんどん落ち込んでいくアリシアなのであった。

と、そんなにぎやかなパーティーの中にあって、一人沈黙を守るローレライのことが気になって聲をかける。

「どうしたんだ、ローレライ。そういえば君もブリギッテ教徒だったと思うが、し嫌な思いをさせてしまったかな？」

ローレライはこの賢者パーティーに合流してから日が淺い。

なので、俺たちの會話が気に障ったりすることもあるかと思ったのだが……。

「えっ！？　ああ、いえいえ、全然です！　私自はブリギッテ教徒ではありますが、あまりこだわりはありませんので。考えていたのはこの後のことなんですよね。いえ、まさかこんな形で里帰りすることになるとは思っていなかったので、はぁ……」

明らかに落ち込んだ様子でローレライがため息をついた。

彼の故郷はここだったのか。

だが、ずいぶん落ち込んでいるようだが、なぜなのだろう？

聞いてもいいのだが、いきなり立ちった話をするのもよくないかもしれない。

そう思って、いったん別のことを考えることにした。

それはもちろん、あの白いフォルトゥナのことだ。

あの白いフォルトゥナや勇者一行との戦闘から1週間。

あれ以來、彼らの襲撃はない。

（それもそうか）

あの戦闘は、おそらくフォルトゥナにとっては意外な結果だったと、俺は分析の上、結論を得ていた。

彼自は余裕なフリをしていたが、実質的にこちらには被害が一切なかったし、むしろローレライが仲間に加わり、支援力が盤石になったすらある。もともと大聖は回復もできるが、実は前衛も出來るので結構忙しい立ち回りだったのだが、回復が二人いれば、かなり彼の負擔は軽減されるであろう。

（結局のところ、フォルトゥナたちは俺たちにダメージを與えるどころか、俺に策を全て破られることで、逆に俺の賢者パーティーの力を増強してしまった）

そして何よりも、

（彼たち自の報を俺に與えてしまった）

これが大きい。正不明の敵には打つ手がないが、一度接し言葉をわし、矛をえれば、大なり小なり報が手できる。報があれば、俺レベルの戦略家ともなれば相手の攻略方法を幾つも思いつくことは容易だ。

（あちらが用意した戦力を見ても、こちらにある程度ダメージを與えられる算段だったんだろう。そういう意味では、彼の余裕は欺瞞(ぎまん)。心では相當焦っていたことが容易に推察出來る）

俺でなければ見破れなかったろうがな。

ふっ、と軽く微笑む。

（まあ、なくとも、彼の思っていた計畫とは乖離(かいり)した結末だったに違いあるまい）

とはいえ、

「撤退は見事だったがなぁ」

そこはバシュータを巧く使っていた。

彼や、むろん俺のような優れた支援職であるポーターは、パーティーの完全な敗北を回避すると言う點で、パーティーの死命(しめい)を握る最も重要な役割を擔っている。バシュータやその數段上のレベルの俺がどれほどパーティーの未來を決めることになるか、よくわかる戦闘だったと言えるだろう。

と、そんな分析をしていた時である。

「ああ！　帰ってきたんですね！　聖アリシア！」

そう言って馬車に駆け寄ってくる存在がいた。

日よけのためか非常にツバの広い帽子をかぶり、地面にまで屆きそうな金髪をばした、アリシアと同じかし上くらいに見えるである。

そして、俺たちの馬車の近くまで來ると、開口一番、

「結婚式の日取りは決まりましたか！？　もう私ったら楽しみで楽しみで！」

そう大聲で言ったのだった。

ここは往來のど真ん中。

そこにいた全員が俺たちへと視線を向けて注目した。

そんな中でアリシアは顔を真っ赤にしつつ、

「やかましいですよ！　大教皇様！　こんな往來でいきなり何言ってるんですかー！」

そうび返したのである。

大教皇。

そう、ならばすなわちの名は、大教皇リズレット・アルカノン。

ブリギッテ教のNo.1にして聖都『セプテノ』の行政區長。

そして……、

「おおっと、しかもそこにいるのは我が娘じゃないですかぁ！　もう、帰ってくるならそう言いなさいよお！　ちゃんとごちそう作って待ってるのにぃ！」

娘？

その言葉に、

「もう、だから嫌だったんですよね……」

そうため息をつきながら、そのはいつものふわふわとした緑の髪を揺らしつつ、

「ローレライ・カナリア。いえ、ローレライ・アルカノン。ただいま戻りました。お母様におかれましては、相変わらずお変わりないようで」

そう言って、やれやれと首を橫に振ったのだった。

ありがとうございます！

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https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/series/detail/yuusyaparty/

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