《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》82.偽裝結婚の演技が出來ない聖さんと、ドラゴン襲來
大幅修正2021.3.19
82.偽裝結婚の演技が出來ない聖さんと、ドラゴン襲來
「ローレライ・カナリア。いえ、ローレライ・アルカノン。ただいま戻りました。お母様におかれましては、相変わらずお変わりないようで」
そう言って、ローレライはやれやれと首を橫に振る。
「驚いたな、まさかローレライ、君が大教皇の娘だったとは」
「本當ですよ、私も初めて知りました!」
俺の言葉に、アリシアも同意した。
「申し訳ありません、アリアケ様、アリシア様。それに皆さま。見聞を広めるために冒険者をしていますからにしていたんです」
そう言って彼は申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
確かに、彼が大教皇の娘ともなれば、冒険者稼業など出來るわけもない。
「ところで話は変わるのですが、お母様」
「何かしら、ローレライちゃん?」
愁嘆場《しゅうたんば》も落ち著き、ローレライがいつもの冷靜さを取り戻して聞いた。
「先ほどお會いしたときに、アリシア様に、『結婚式の日取りは決まりましたか?』といった趣旨のご発言があったと思うのですが、あれはどういう意味なのでしょうか?」
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「う”っ」
先ほど心の同志になった、アリシアがなぜか潰れたカエルのような聲を上げた。
「ああ、それはね、それはね!」
ウキウキした様子で大教皇が話し出そうとするが、
「ひえええ!? 聖さんチョークスリーパァァァアアアアアア!」
アリシアはあろうことか、上司(國教のトップ)に締め技をかけて落とそうとする。
「あははははは! 何ですか何ですか、アリシアちゃん! くすぐったいですよー! こんな往來のど真ん中で~♬」
「化けですか!?」
首を絞められても平然と笑っている大教皇に、アリシアは困しつつ、
「ああ、もう! っていうか、大教皇様こそ何なんですか! あんな手紙をいきなり寄越して! 私とアリアケさんは別に結婚なんてしなっ……!」
そう言いかける。
だが、
(む? アリシアはさっき打合せをしたことを忘れてるみたいだな)
俺は急いで口をはさんだ。
「ああ、その件だがな、大教皇リズレット・アルカノン。俺としては今週中にでも、アリシアと式を挙げる予定だ」
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俺はそう口を差し挾んだのである。
そう、俺とアリシアは聖都に來るまでに打合せをしていた。
アリシアに送られた手紙から、教會に何か起こっていることは確実である。そしてアリシアは教會の序列第3位としてどうしてもその件の解決に向かわなくてはならない。
俺としては世話になっている彼のためにひとぎたかった。
無論、だから結婚するなんてことはさすがにアリシアも嫌だろうし、不可能だが、彼のために方便を使う。要するにいったん相手の策にのって結婚すると言って、教會の真意を探る作戦を立てたのだ。
まぁ、偽裝結婚みたいなものだな。
なので、なぜかアリシアがいきなり結婚の話を、いつも冷靜な彼が、まるでする乙が好きな男子を當てられててんぱって否定してしまうような、そんなリアクションをしたのにはし驚いたのだが……。
そんなわけで俺はとっさに口をはさんだわけだが、アリシアはと言うと、やはり何を言われたのか分からない、といった表で、ポカンとしてから、みるみる顔を赤く……というか、全を真っ赤にすると、
「な、な、な、にゃにを……私とアリアケさんが、け、け、け……けっこここここ、はにゃにゃにゃにゃ!?」
目をぐるぐると回し始めた。
「にゃははは、やはり無理じゃったか。打合せの時の冷靜さで、もしかしてコレいけるのじゃね!? と思ったのじゃが」
「はい、コレットお姉様。やはり無理でしたねえ」
コレットとラッカライが何だか生暖かい目でアリシアの方を見ていた。
(うーん、何がどうして無理なのかさっぱり分からん……)
打合せの時は多早口だったような気もしたが、趣旨も作戦容も完全に了解してくれていたのに。
なぜか、本番では……。
まるで純樸なするのように瞳をうるませて、頬を染めながら俺の方を上目づかいで見ているのだった。
まるで本當に俺が求婚したように……、
「お、驚きました! まさかお二人が結婚されるなんて! ですが、おめでとうございます! アリアケ様、アリシア様!」
ローレライが驚きと喜びの聲を上げた。
「あ、あうあうあうあうあう~」
一方の聖はもはや何を言っているのか分からない。
「あらあら! でも、なんだか聖アリシアの様子は何か変ではないかしら!」
と、アリシアの様子を見て、大教皇リズレットがビシーッと疑問を呈した。
「なーんかてんぱってて、照れてるのとも違うっていう気がして、怪しいわね~。何か証拠を見せてもらえないかしら!」
「ふうむ、証拠と言われてもな」
俺は困する。
と、そんな會話に賢者パーティーの面々が口を開き、
「我としては、やはりここはキスではないのかと思うのだがのう」
「フェンリルよ、それは奧手のアリシアには無理なのじゃ。心臓が発してしまうかもしれぬ。ここはまずハグからでどうじゃろう?」
「コレットお姉様、でもそれも同じくらい心臓に負荷をかけてしまいそうだとボクは思いますので、とりあえず手を握るくらいからでいいのでは?」
「お待ちください、ラッカライさん。それだとまるでお付き合いしたてのカップルみたいで、あんまり説得力がありません。ここは、ええ……」
ローレライは味《ぎんみ》したのちに、
「お互いを『ダーリン』『ハニー』と呼び合う。これでいかがでしょうか?」
おー、と俺とアリシアを除くメンバーから心の聲と拍手が巻き起こった。
「さすが我が娘、天才ね! さあ、証拠を見せてもらいましょう。大聖アリシア。大賢者アリアケ! さあ、早く。ああ、あの聖アリシアちゃんが『ダーリン』だなんて! ハァハァ……」
「一、どういう狀況なんだ……」
なぜか、いつの間にか恥プレイを強いられているような気がする。
なかなか俺がこう追い詰められることはないのだが……。やはりや結婚とは奧が深い。
(まあ、なぜか俺は、アリシアに『ダーリン』と呼ばれるのに特に抵抗がないのだが)
誰でも良いというわけではない。
それが何だか俺には初めてじる、不思議な覚であった。
まあ、そんな想はともかく、呼び方で偽裝結婚がバレないのであればやむを得まい。
「いいな、アリシア?」
「へっ!? はええ!? 良いとは!?」
相変わらずアリシアはお目目をぐるぐるしながら、普段はしい真っ白なを、今は全ピンクに染めている狀態だ。しかし、これ以上怪しまれるわけにもいくまい。
「ハニー、どうしたんだ、顔が真っ赤だぞ?」
「は、はええええええええ!?」
アリシアが変な聲を出した。
「ん? どうしたんだ、ハニー?」
俺の言葉に、
「にゃ、にゃんだか夢が急にかなってて訳が分かりません!? これはにゃんなんでしょうか!? なんですかこれ? どういう狀況ですか!? えっ!? えっ!? はえええ!?」
やれやれ。俺は首を橫に振る。
「結婚するんだから、ハニーと言うのは當然だろう。さあ、お前も俺のことをダーリンと呼んでくれ」
「そ、そんな、アリアケさんのことを、そんな風に、言うなんて……」
「俺が夫ではいやなのか?」
「い、嫌なわけないですぅ! む、むしろ本懐と言いますか、小さい頃からの夢と申しますか、家は庭付きの一戸建てで子供は3人くらいでゴニョゴニョ」
「なら、ほら、言ってみろ。別に何度も言わなくていい。一言いえば、リズレットも納得するだろう」
俺の言葉に、アリシアは目を潤ませて、おずおずとした様子で、
「ダ、ダーリン……」
そう言って俺の服の裾をつかんで、さっと俺の後ろに隠れたのであった。
それは小さなころ、リットンデ村で馴染だった彼が、何か恥ずかしいことや失敗があった時に、俺の後ろに隠れる仕草のままであった。
「ふむふむ、聖アリシアがあそこまで言うのですから間違いはなさそうですね! いや、おめでたい! そして我が教會にとっても最大の福音です! ようこそ大賢者アリアケ・ミハマ! ブリギッテ教會はあなたを歓迎しますよ!」
大教皇がテンション高めに言った。
いちおう納得したようだな。
と、し安心していると、ローレライが口を開いた。
「ところで、素樸な疑問なのですが、アリシア様以外もアリアケ様に、その、アレなをお持ちだと思うのですが、アリシア様を尊重されるのはなぜなのですか? いえ、これは純粋な疑問なのですが」
アレな?
俺は完全に理解不能で首をかしげるばかりだが、他のメンバーには完全に伝わっているようだ。
まったく、陣の會話というのは、男には全くもって難しいものだなぁ。
「そういう誓約を結んでおるのじゃよ。アリシアが一番出會ったのが早いから、一番手なのじゃ。順番制になっておるのじゃよ」
「それゆえ早くくっついて行ってもらわねば自分の番が回ってこぬのよ。まぁ我は膝の上でぬくぬくさせてもらえれば文句はないのだがの」
「まあ、ボクもそれほど焦っているわけではないですが、とりあえずそういう誓約をしていまして……」
「なるほど。そうだったんですね」
ローレライは納得したと頷いてから、
「と言うことは私は二番目なのでしょうか?」
「「「…………え?」」」
彼の言葉に、他のメンバーが虛を突かれたように聲を上げた。
「出會った順番でしたら、私が二番目ですので」
「えーっと、待て、待つのじゃ。いちおう儂が二番手で……」
「出會った順番ではないんですか?」
「う、うむ! えーっと、『総合評価』なのじゃ!」
「そうだったんですね、分かりました」
ローレライは承知したとばかりにうなずいた。
一方のコレットは、何か決して油斷できない対象を見つけたかのように、まじまじとローレライを見ていた。
まぁ、目の前で一何の相談がなされているか、さっぱり分からんのだが……。
なくとも俺には余り関係のない話だろう。
それはともかく、
「で、なぜ俺とアリシアを結婚させようとしたんだ?」
俺は大教皇に探りをれてみた。
「そうですね、それはしかるべき時と場所でお話しましょう。なくとも、こんな往來で話す容じゃないですからね!」
きっぱりと拒絶されてしまった。
「やれやれ、これはなかなか……」
事態は結構込みっていそうだな。
俺は天の直で事態の深さの本質を察する。
そして、とりあえず面倒くさそうだなぁと嘆息した。
俺がいかに萬能であろうとも、別にそれで手間暇がなくなるわけではないからなぁ。
と、そんなやりとりをしていた時である。
「ゲシュペント・ドラゴンの襲撃だ!!! あと10分で接近遭遇! 聖地『セプテノ』第1種戦闘態勢!!!」
神兵たちの警告が聖都へと鳴り響いたのであった。
「説明の手間が省けたみたいね」
「やはり闇が深そうだな……。やれやれ」
テンションの高いリズレットの橫で、一方の俺は呆れたように肩をすくめたのだった。それにしても、ゲシュペント・ドラゴン。コレットの同族か。
そんなことを考えていると、し遠くでローレライとラッカライが、
「アリアケ様はさすがですね。突然の出來事にもまったくじられません」
「まあ、先生ですからね~」
そんな會話をしているのがし耳にった。
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