《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》90.観とドラゴン

2021.4.9修正

2021.4.19修正

90.ドラゴン観

~アリアケ視點~

俺とアリシア、フェンリルは三人で聖都「セプテノ」の街へと繰り出していた。

アリシアはさすが大聖というだけあって、地理に詳しく々な場所に連れて行ってくれる。

歴史のある大聖堂や聖人が奇跡をおこなった跡など、珍しい場所をたくさん見せてくれた。

だが、一番目立つのはやはり聖都の中心にそびえたつ教會本部棟であったりする。

なぜか煙突のように細長いフォルムは、聖都のどこにいても目にった。

(どうして、あんな建にしたんだろうな?)

普通、教會と言うのはある程度建の形が決まっている。

だが、ブリギッテ教の総本山は見たことのない異形といって良い形の建なのだった。

ところで、フォルトゥナの件やゲシュペント・ドラゴンの襲來などの事件がある中でのんびりしたものと言われそうな気もするが、俺にとっては世界の危機が降りかかることや、実際に世界を救うことは日常茶飯事なので、別段気にならない。

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むしろ、いちいち気にするようでは俺の様な役割を果たすことは出來ないだろう。

勇者ビビアにも早く俺の位置の百分の一で良いので、追いついてしいと期待している。

さて、そんなじで三人で楽しく聖都観にいそしんでいたわけだが、し疲れたので屋外にある酒場に立ち寄ることにした。

ブリギッテ教は飲酒をタブーにしていない。

というか、むしろブリギッテ神は酒の神でもあったりする。

なので、そこら中にオープンテラスの酒場があるのだ。

しかし、

「ぬ!? 貴様はアリアケ・ミハマか!?」

「? ああ、シャーロット王じゃないか」

そう、聖都を焼き盡くそうとした絶世の(ドラゴン)が、なんと一人で、酒樽《さかだる》を何個も転がし、飲んだくれていたのである。

往來の人間たちも、彼がシャーロット王であることは理解しているようで、慌てて逃げ出すか、あるいは酒場の片隅でこまっている様子だ。

「ここで會ったが百年目よ! 大賢者アリアケよ! ここで勝負するのだ」

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ガオオオンとシャーロットはほえた。実際に口から炎が出ている。

なるほど、これはコレットの母親だ。

何だか仕草がそっくりだぁ。

「ちょっとちょっと、アリアケさん何をのんびりしてるんですか! 相手はゲシュペント・ドラゴンの王様なんですよ!」

「ああ、すまんすまん」

マイペース過ぎるのも悪い癖だな。

そんな風にやはりのんびりと反省しつつ、

「勝負と言っても、正式な試合はまだ先だったはずだが?」

「なに、別にそういう戦いばかりが勝負ではあるまい」

シャーロット王はニヤっと笑うと、

「酒の飲み比べよ! そなたも男ならば、まさか逃げはすまいなぁ!」

とんでもないことを言い出した。

見ての通り、彼の周囲にはすでに酒樽が幾つも転がっている。

「おいおい、シャーロット王とやら、主様がいかに超人とはいえ、さすがにそれは無理が過ぎるのではないかえ? ドラゴンに酒で勝てなどとはのう……」

フェンリルが眉を寄せてそういう。

その言葉に、アリシアは何とも言えない憐憫《れんびん》の視線をシャーロットに向けて、

「やれやれですねえ」

とだけ言う。

フェンリルはそのアリシアの微妙なリアクションに小首をかしげる。

「ふはははははは! では戦わずして逃げるというのか、人の救世主よ! 大賢者よ! しょせんはコレットを娶《めとる》るではないのう!」

やれやれ。

俺は呵々大笑(かかたいしょう)する絶賛酔っ払い中のシャーロット王に嘆息しながら、

「王よ。王からのいを斷るなど無禮なことは出來ません。正直得手(えて)ではなく、苦手と言って差《さ》し支《つか》えない若輩ではありますが、ご相伴にあずからせていただきます」

俺はそう言って彼の対面へと腰をおろしたのである。

そんな俺の態度に一瞬呆気にとられるシャーロット王と、

「主様! こんな酒樽を幾つも空にする化と飲み比べなどしては、ただではすまぬぞえ!?」

「おいおい、アリアケ様がシャーロット王と飲み比べをするみてえだぞ……」

「ああ、って言っても、王様に言われたから仕方なくってじだ」

「だな、酔いつぶされて終わりだろう。苦手って自分で言ってるからな」

そんな聲が聞こえてきた。

まったくその通り。俺は酒が苦手なので、余り飲みたくないのだが……。

と、そんな風に思って心ため息をついていると、アリシアが隣に來て、

「ほどほどにしておいてくださいよ、アリアケさん」

そう言って俺の荷を預かってくれた。

「ああ、ありがとう。君にはいつも助けられるな」

「……そ、そんなことありませんよ」

そう呟いてから離れた。

「わーっはっはっはっは! 王の酒宴に招かれて斷らぬ度量だけは認めてやろう。ふははははは! もし俺に飲み勝てば、我が財寶を何で(・・・・・・・)もくれてやろう(・・・・・・・)! ぬわっはっはっはー」

「お手らかに」

キン!

杯を鳴らし、お互いに杯に酒を注ぐと、まずは一口、ぐいっと飲み干したのであった。

「なははははははは! いい飲みっぷりではないか! 人間! まだ行けるのであろうな!」

「ええ」

俺は頷きつつ、

「もちろんですよ」

そう言って、久しぶりの酒の味をの奧で味わったのである。

~3時間後~

「ちょ、ちょっと待て、人間よ! お前……お前……」

「どうされましたか、王よ」

ざわざわ……。

周囲は騒がしい。

最初遠巻きにしかいなかった酒場の者たちや往來の人間たちは、今やシャーロット王と俺の飲み比べのテーブルの周りを囲んで、ずっとはやし立てているからだ。

いや、俺たちの飲み比べが始まってしばらくすると、どんどん人が増えてきたように思う。

「シャーロット王! 勝ってくだせえ! あんたに全財産かけてんだ!」

「お、俺もだ! ああ、シャーロット王!」

「馬鹿が! アリアケ様を信じなかったむくいだ!」

「そうだそうだ! いやぁ、それにしてもこんな名勝負が見られるとはなぁ!」

周囲は沸き立つ。

無理もないだろう。

なぜなら、

「大賢者アリアケよ! お前は化か!? 人のでこの俺よりも酒をたしなむというのかぁ!?」

本気で驚き、目をまん丸にしているしい王が、さすがに酔っ払いはじめているらしく、真っ赤な顔でどなった。

一方、

「まだまだ、始まったところではないですか、シャーロット王。一番きついのを、せいぜい酒樽10個ほど空けただけですよ?」

「お前ののどこにったというのだ!? というか、苦手と言っていただろうがっ!」

ダンッ! と。

理不盡だとばかりに、王が機をたたいた。

あ、確かに言ったな。ただ、

し誤解があったようですね、失禮しました」

俺はそう言って素直に頭を下げる。

「ご、誤解……?」

はい、と俺は頷きつつ、

「お酒を飲むとどうしてもトイレが近くなる。それがどうにも苦手でしてね。落ち著いて話が出來ないでしょう」

「なっ……、なっ……」

シャーロット王が威厳も何もない、可らしい顔で口をあんぐりと空けた。

こうやってい表をすると、本當にコレットと似たかわいらしさがある。

ただ。俺はし時間を気にしつつ、

「シャーロット王よ、すみません。まだまだお付き合いするべきなのでしょうが、実はまだ幾つか行くところがあるのです。今日は『引き分け』ということでいかがでしょうか?」

俺はそう提案する。

実際、俺たちは観の途中で、最終的には教會本部にも行かねばならないからだ。

だが、

「引き分けは認めぬ」

シャーロット王はプイっと首を振った。

うーん、困ったな。

やはりドラゴンの王ともなれば、引き分けなどは認められないらし……、

「お前の……。いや、アリアケよ、そなたの勝ちである」

「……へ?」

今度は俺が呆気にとられる。

「まだまだ勝負はついていないと思いますが……」

その言葉に、シャーロット王は獰猛《どうもう》に笑いつつ、

「わははは! どこまでも紳士な男だな、そなたは! そこもまた良い! なるほどさすが我が娘は男を見る目が……って、いや、うん、まだダメだぞ。全然、俺はそなたを認めておらぬのじゃからな!」

は一人で何やら笑ったり不機嫌になった後、手元の一杯を一気に飲み干すと。

「大儀であったぞ、アリアケよ! そなたの勝利を俺は忘れん! 見事な竜殺しであった! わはははは!」

はそういうと、本當に上機嫌といった風に酒場を出て行ったのである。

周囲には空になった酒樽が數十と……。

「お、おい、これって……」

「あ、ああ。すげえ寶石だな……。拳くらいあるぞ……。それが2つ」

どうやら酒代と、あとは、

「アリアケさんへのご褒でしょうかね?」

「俺は楽しく飲んでいただけなのだがなぁ」

別に寶石なんぞいらんのだが。

そんな俺とアリシアののほほんとした會話に、

「アリシアは我の知らぬ主様をよく知っておるようよなぁ」

そう言って、フェンリルがし頬を膨らせていたのであった。

「最初から主様が勝つと知っておったわけよな?」

「まぁ、長い付き合いですので」

そこはかとなく、誇らしげにアリシアがを張った。

さて、

「店主、寶石の一つはシャーロット王からの詫び代だろう。騒がせてすまなかったとな。せいぜい、集まったこいつらに振る舞ってやるといい」

「へ、へい! かしこまりました、アリアケの旦那様!」

「さ、さすがアリアケ様だ!」「賢者様のおごりだぞ!」「ああ、シャーロット王に勝ったアリアケ様のおかげで今日はただ酒飲み放題だ」

「おいおい」

俺のおごりでもないし。

別に勝ってもいないのだがな。

とはいえ、そんなことをわざわざ言うのも野暮というものか。

「ふっ」

大騒ぎになってしまった聖都で一番大きな往來から、俺たちは気づかれないうちにこっそりと退散したのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます!

第1巻は発売後、大人気で即重版しました!

Web版から大幅加筆修正・増量しています。

気になる方はWebだけでも大丈夫ですが、無料『試し読み』だけでもどうぞ! 買ってもらえたらもっと嬉しいですが、どちらでもどうぞ!

https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/series/detail/yuusyaparty/

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