《現実でレベル上げてどうすんだremix》人さんのお友達
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翌日、晝休み。
いつもどおり購買で適當に晝食を買い、教室へ戻って來たところ、
「――おっ、やっとお出ましだね! ささ、早く食べよー?」
自席の周囲が、本來の割り當てでない奴らで埋まっていた。
俺の席は廊下側の壁際、前から四番目。
そこを囲う位置五席に、男二人三人、計五人。
「恐喝か?」
「ヘイヘイ金貸してくれよ~無利子無擔保で――ってナニやらせんのさッ!」
「……」
「無反応! アタシノリ損ッ?!」
返ってきた下手な乗りつっこみは、とりあえず無視。
代わりに席に著き、晝食に取りかかろうとする。購買部謹製、特選ミックスサンド。
「ちょいちょい、一人黙々と食べ始めようとしないでよーつれないなぁ」
「なんか用か? 喜連川」
「あっ、えっと……」
「ちょいちょーい、アタシは無視ですかーい?」
先程から一人賑やかな、俺の前の席に座った子の方はひとまず置いて、おそらくこの集まりの原因だろうその隣の席へと問いかける。
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その子――昨日の不審者つきまとわれ人、喜連川暁未は、
「……その、昨日のコト話したら、みんなも久坂君とお話ししてみたくなったみたいで……で、どうせなら一緒にお晝しようよって話にその、なっちゃいまして……」
かすかに顔を赤らめながらそう答える。
聞けば五人は馴染同士だという。言われてみれば、普段も一緒にいることが多いような。気兼ねなくなんでも話せる間柄だから、気兼ねなく昨日のことも話してしまった、といったところか。
「迷、だったかな? 久坂君がいない隙にその、押しかけたみたいになっちゃったし……」
「別に。その席の奴らが文句ねえなら、俺にゃなんも言えねえな」
「そ、そっか。よかった」
上目遣いに窺ってくる彼。
一方こちらが返すのは、素樸な所。
さして気にならないのは事実だし、そもそも他人の行に、是だの非だの言える立場でもない。
「だから言ったじゃん、久坂君もきっとまんざらじゃないって。1‐Dの筆頭! あけみんとのランチが嬉しくないワケがないッ!」
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「や、やめてさっちゃんっ。ほらっ、久坂君もあきれてるからっ」
「さらにしおりんに、それからアタシ! もー両手に余る花じゃない。よっ! ニクイねダンナ!」
「……」
「うっ!? なんか久坂君にすごい、なんともいえない表返された……ッ」
よく回る口だなと思わず正面へ目を向けたら、怯まれた。なんとももなにも、この顔は素だ。
とはいえ言うだけあって、喜連川と比べても遜ない顔立ちではある。というかこの場に集まった五人とも、例外なく見目が良い。正面の賑やか子とその隣の喜連川は元より、
「とりあえず、お晝食べよ? ゆずちゃん」
俺の左の席に陣取った、この場でいっとう小柄で目力強めな子。
「そうしよう。晝休みは有限だしな」
その後ろ、俺からは左斜め後ろには、べらぼうな男前。
「というか、久坂はすでに食べ始めているな。いつの間にか」
そしてその右、つまり俺の後ろの席には、偉丈夫の眼鏡男といった合。
「ホントにいつの間にだ! んもー一緒にいただきますくらいしてくれてもいーじゃんッ」
「しねえよ。小學生か」
それらを順繰りに見やり、なんともはや壯観だなあなどと思いながらミックスサンドを咀嚼。眼鏡男の言をけた賑やか子に、そうつっこまれつつ。
そういやいつだったか學で「今年の一年はレベル高い。特にD組」などといった話を耳にしたことがあるような。この場合のレベルとはたんに面が良いという意味で、俺のあれとは當然無関係だ。
そう言われるのも、ひとえにこの連中がいるせいだろう。一時教室を覗いていた野次馬も、なにも喜連川だけが目的ではなかったということ。
晝飯の殘りが飲みだけになったところで、
俺はあらためて左向きに座り直し連中を視界に収める。
「で、昨日の話だっけか。……こいつらに」
「う、うん。……」
そうして切り出した俺の言い草に、なにか察したように眉を下げる喜連川。
「……久坂君、もしかしてアタシらの名前わからないの、誤魔化した?」
「人聞き悪(わり)いな。わからないんじゃなくて、覚えてねえだけだ」
「なんも変わんないよぅ、それ!」
そして同じように察し、しかしこちらははっきりと訊ねてくる賑やか子。
とりあえず心外だという態度を取ったら、案の定つっこまれた。當然だ。
「……話の前に、自己紹介から始めた方がよさそう、か?」
「そうしてくれると助かる」
「そ、そうか――とりあえず言い出しっぺの俺から、賀集(かしゅう)景人(かげと)な。あらためてよろしく、久坂」
「おう」
そんなためで、どうしようもない俺のために始まった各々あらためての自己紹介。
最初に名乗りを上げたのは爽やか男――賀集。よもや握手まで求められるとは思わなかったが、その所作があまりにも自然だったので、つい応じてしまう。その一挙一がいまだ同級子の黃い聲を上げさせているのも、思わず頷けてしまうというもの。
「じゃあ流れに乗って、大滝(おおたき)守久流(すぐる)だ」
次いでそう名乗ったのは眼鏡偉丈夫。
「今まで話す機會はなかったが……こうして折角縁が出來たのだから、同じクラス同士、まあ、ぼちぼちやっていこう」
「……だな」
こちらは握手は求めてこなかったが、言うように接點もなかった同士なのだから、むしろその方が普通といえる。下手によろしくしないあたりも一歩引いた距離があり、そのへんもこちらとしては気楽な相手か。
「はいはーい、次アタシ! 古幸(ふるさち)柚(ゆず)! あけみんとしおりんの親友で、陸上部! そんなじでよろしくぅ!」
「“!”が多い」
「思わぬつっこみ來たッ?!」
逆にこちらは一貫して馴れ馴れしい賑やか子、古幸。こいつは大いつもこんな調子なので以前から嫌でも目にり、その度に俺とは一切縁なく學校生活を終わるだろうなと思っていたが、塞翁が馬というか。
「むむむ、これはなかなか見込み以上かも? ――うん! なんだか久坂君とは上手くやってけそうな気がする!」
「そりゃ、気が合わねえな」
「……なんか久坂君、アタシにだけ當たりキツくない?」
阿呆なかけ合い。つい応じてしまうのがこいつの言うとおりな気がして業腹だが。
そんな様子をじっと見つめる視線が、視界のはしに。
「……」
「……」
この場で、いや教室全でも最も小柄な子が、その発生源。
「……志條(しじょう)、栞(しおり)」
「おう」
「よろしく」
「おう」
左の席から靜かにそう名乗った目力子、志條。こっちもこっちで、古幸とは正反対の個だ。だからって気が合いそうかというと、そこは首を傾げるところ。そもそも俺と気の合う他人など――いや考えても仕方ねえか、これは。
「――あのっ」
「?」
「わ、私もその、自己紹介した方が……?」
「昨日電話で聞いたな」
「うっ……で、でも私だけしないのもなんだし、やっぱりするねっ」
最後に左斜め前の席から、そんな問いかけ。
別にどちらでも構わないし、したいようにさせておこう。
「喜連川(きつれがわ)暁未(あけみ)です。それと昨日は、本當にありがとうございます!」
そう改めて名乗り、重ねて昨日の禮も述べる。
彼の屈託ない笑顔に俺が返したのは、
「……あいよ」
なんともおざなりな返事。
自分でもどうかと思うが、一度固まってしまった自の質は、やはりそうそう変えられない。
「ヨシ! それじゃ改めて、レッツ聞いてみましょー昨日の一部始終ッ!」
「……構わねえが、なに話しゃいいんだ?」
々の回り道を経て(俺のせい)本題へと立ち返る。切り出す古幸の元気の良さに若干辟易しつつも、そもそも話すような――話せるようなことがあるのかと思い、ひとまずはそう返す。
対する答えは左斜め後ろの席、今の視點では、左前から。
「とりあえず聞きたいのは、久坂視點での話……かな? 暁未からも話は聞いているけれど、その後どうなったかとか――というかまず、その不審者がどうなったかについては聞いておくべきか」
「ん……」
どことなく真剣な様子の賀集に問われ、軽く唸る。どうもこうも不審者は俺に殺され、あまつさえすらこの世から消えているのだが、當然それを正直に話すわけにもいかない。
よって誤魔化す。喜連川が走り去った直後、巡回中の警が偶然通りかかり、それに揺した不審者が過剰に抵抗し、危険を所持していたこともあって無事お縄。適當に話した結果、そういうことになった。
「じゃあ、別に不審者をぶちのめしたわけじゃないんだ」
「意外と発想が騒だな志條」
「……けど、警が通りかかったのは偶然だったんだよな? もしそうじゃなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「別にどうもこうも、考えなしだったな。どうにかなんだろ、っつう」
こっそり不穏な志條につっこめば、続いて賀集のそんな指摘。レベル上昇による能力の向上がある以上、普通の人間なら苦も無く殺せるだろうという見込みはあったが、そのへん知らない外野からすれば、たしかに俺は無謀な行をとったようには見えるか。
「もしかして久坂君、ケンカとかちょー強い? なんか古武の使い手! 的な」
「無(ね)えよ漫畫か」
「それでもあえて危険にをさらした、か」
「そんな大層なもんでもねえ。たんに楽観してただけだ」
古幸の妙な期待を切って捨てれば、今度は大滝に妙な心をされる。共通するのはどちらも誤解という點か。俺の行、ひいては俺という奴になんらかを見出したいのだろうが、生憎とおそらくそこには、なにもないと思われる。
ふと目につくのは、もうしわけなさそうな顔の喜連川。
「ごめんなさい……私のせいで、本當に危ない目に」
「気にすんな。結果無事だったんだから」
「でも……」
憂いに目を伏せる喜連川を見て、俺は思う。睫すっげえなこいつ。爪楊枝とか乗りそう。
と、不意に、
「ふっふっふ……皆の衆!」
不敵な微笑みとともに割り込んできたのは古幸。
その大仰さに、俺は素直にぶん毆りたいと思った。
「言葉だけでは誠意が足りないっ。謝の心は、やっぱりカタチにッ!」
「謝の、」
「かたち……?」
その言いの唐突さに、賀集と喜連川が友人の言葉を鸚鵡返しにしている。馴染みの奴らでさえ首を傾げるのなら、當然俺などにその発言の意図を読めるはずもなく。
はたして次に飛び出す臺詞は――
「――というワケで、みんなで久坂君に何か奢ろう! いやいっそ今度の休み、パーッと遊びにでも出よう! 決まりィ!!」
こんなもの。
「……」
面倒臭(めんどくせ)えことになったな。
やはり素直に忌憚なく、俺はそう思ったのだった。
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