《現実でレベル上げてどうすんだremix》今度の勧は正義

防犯という名目で請け負った、喜連川を家まで送るというお役目。

しかしそうしなければならない頻度は、実のところそんなに高くない。たしかに古幸などは部活等で時間がとれないことが多いが、それでも唯一、學校での所屬がこれといってない、志條という存在がいるからだ。もちろんその志條も無理とあれば俺にお鉢が回ってくるわけだが……

「――というわけで、今日はわたしがいるから久坂はフリー。好きにするといい」

その日はそんなわけらしく、俺は一人での帰宅。方向の都合上三人で、となってもおかしくなさそうだが、喜連川と志條はせっかくだから寄り道を、ということらしい。子二人の買いなどについて行く気概が俺にあるわけもなく、だからいつもの帰り道を、いつものごとく一人だらだら。

そうして家まで道なかばといったところで、

不意に働く【警戒】

「……」

【マッパー】を表示。赤い點滅の表示が二……いや三か? 二つは明確だが、一つはそれより弱い。共通するのはそのどれもが、俺からつかず離れずついてくる點、か。

またあの“切り裂きキラー(しろいの)”だろうか?

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いや、三つの點滅が見せる連攜めいたき……あいつにそんなのが出來るとは到底思えないし、なによりらしくない。

「――ちょっといいかな?」

そう考えていると、今度は前から歩いてきた男が聲をかけてくる。

知り合いでは、當然ない。背は高めで、やや貓背。歳はうちの父親くらい……いやもっと若いか? どこかうらぶれた印象のせいか、なんとなく老けこんで見える男だ。

「なに、それほど時間はとらせない。それに、君に危害を加えることはないと約束しよう」

「……」

俺の不審を気取ったのか、男がそんなことを言う。

言うが、なくとも“危害”に関しての真偽は疑わしい。

というか流れからして、目の前の男が三つの【警戒】源と無関係とは思えない。

〈name:車東 高次 class:指揮 cond:通常 Lv:?? HP:???〉

【見る】を使えば、案の定の表示。“class:指揮”と、狀況にも似つかわしいじ。

俺より上の“レベル持ち”再び。

しかも仲間連れ、か。

「嫌だ、というのであれば無理強いはしない。ただ、君にとっても有益……なくとも損はないはずだと、私は考えている」

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レベルで勝り、しかも數の優位もある。にもかかわらず男に対し【警戒】が発しない――つまり敵意も害意も見せないのは、たぶん本當に聞いてしい話があるからなのだろう。

しかも俺に損はないという。

「わかりました。ついて行きます」

「そうか、よかった。穏便に済みそうで、なによりだよ」

し気になったので、とりあえず頷いてみることに。今まで“レベル持ち”といえば、気兼ねなく殺せてしかもEXPが多く得られる相手、という認識しかなかったから、普通に話すのもありかという気まぐれが生じた。

もちろん罠の可能はおおいにあるし、それで死ぬようなこともあるだろう。

けどそうなったらなったで、それはその時だ。

なにを置いても人殺しな俺だ。変に生き延びようとするのもなんというか、厚かましいだろう。

「ではし歩くけど、いいかな? 立ち話ですますような容でもないからね」

「はい」

男に促されるままついて行く。

同時に【マッパー】上の三つの點滅もまた、そのきに合わせるように移し始めていた。

ほどなくたどり著いたのは、とくにどうということのない普通の民家。

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通學路からはし外れた位置にあるそこへ、招かれるままお邪魔する。

ちなみにそのし前、三つの點滅が順次家の裏手からっていくのも【マッパー】で見てとれた。ついでに家の中にもう二人、すでにいるらしいのも確認できている。

玄関、廊下、リビングダイニングと、通された室裝も普通。

罠や待ち伏せて不意打ち、という展開も今のところない。

というか俺がここへ著いた時點で、家にった三つの點から【警戒】の反応は消えていた。

てことは、本當に話をすることが目的なのか。

「……」

座るよう勧められ、ダイニングテーブルを挾んで男と相対。

男が廊下へと続くドア側で、俺はその対面。俺から見て右手のリビングには【マッパー】が表示したとおり、他に五人の人間が思い思いの場所に座ったり、壁に背を預けたりしている。

【見る】限り、全員が“レベル持ち”。

そのうち俺よりレベルが高いのは、目の前の男の他にもう一人。ここへ來る前に離れて俺を窺っていた、【警戒】対象のうちの一つだった。

「さて、まずは名乗っておくとしようかな。私は車東(しゃとう)。この集まりの、一応代表みたいなことをしている」

話の切りだしは自己紹介から。自を車東と名乗った対面の男は、卓に両肘をつき手を組んだ姿勢をとり、じっとこちらを見據えている。

「話というのは、ほかでもない。君も我々の一員――“車座(くるまざ)”の仲間に加わらないかということ。つまりは、勧さ」

そうして次いで、端的に本題を述べる。

とな。

「君ももう察していると思うが、私らは皆、“力に目覚めた者”同士。……そしてそれはおそらく君も同様、だろう?」

否定しても仕方がないので、一応頷いておく。

にしても、おそらく、か。こちらが“レベル持ち”――向こうの言う“力に目覚めた者”だという確証が、あたかもないかのような口ぶり。【見る】かそれに準ずる力は持っていないのだろうか。

いや、口ぶり自がはったりな可能もあるか?

「人を殺せばレベルが上がる、あたかもゲームじみた力……君はどう思う? どうして私らは、こんな力に目覚めたのだろう。“人殺し”という業を負ってまで得る力……いったい、なんのための力なのか……」

俺のふわっとした疑問を余所に言葉を続ける車東。

なんのために、か。

たしかに俺も、時々レベルについて考えることはある。けどそれはどういう原理でおかしな超常現象が起きるのか、とかの方向がもっぱらで、その意義とかは、思えば今まで頭に浮かばなかったな。

興味の外だからか。

「私の考えは、こうだ。“人並外れた力を得たからには、それに相応しい果たすべき責任があるはず”」

こちらの答えを待つようなこともとくになく、車東は自らの見解を口にする。

「我々の責任。――端的に言えば、私らは“正義の味方”をやっている」

そうして出てきた単語の、日常からの隔絶

正義の味方、か。

「君くらいの年頃ならば、二度三度となく思ったことくらいあるはずだ。とかくこの世は救いがたい連中が多い、と。恵まれただけの生まれに胡坐をかく者……弱者を平気で踏みにじり、恥を恥とも思わぬ亡者ども……。そういった連中を闇に葬るのに、私らの力ほど都合のいいものは無い。――つまり我々は、そういう法が裁かない、もしくは法で裁けない悪を狩る“正義の味方”さ」

最後の方はしおどけた調子で、一旦言葉を締めくくる車東。

反面、その目に戯れのはない。本気で信じているのだろう。自分の“正義”を。

誰にとっての“都合”なのかとし引っかかったが、まあ、つっこむほどではないか。

「この街に來たのも、なにを隠そうそれが目的……標的の一つは、“英気の泉”」

こちらが聞きに徹しているのを見てとり、説明を続ける車東。

なにやら聞き覚えのある単語が出てきたが、なんだったか……ああ、あの集団か。

「代表である迎田(むかえだ)紗絵(たえ)は、我々と同じ力を持ちながらそれを私のままに振るう亡者だった。洗脳めいた力で富裕者を信徒化し、金を吐き出させていたことなどは調べがついている」

以外にもそんなことをしていたのか、あのおばさん。調べというのは、十中八九specialなどを使って、だろう。それが出來そうな人間をこの場の中から、先程【見る】で得た報でもってなんとなく當たりをつける。

「狩るに足る悪だ。……いや、だったというべきか。我々がこの街に著いた時には、すでにその拠點はもぬけの殻だった」

確信めいた視線が、正面から俺を捉える。

「――やったのは、君だね?」

「……」

「ああ別に、それについてとやかく言うつもりは、私にはない。まあ、先を越されたという思いはたしかにあるが、それで君を咎めようなどとはさすがに思わないさ」

それは問いというよりは、確認だった。こちらの行をある程度把握している、という態度。

続けた言葉にも獲を橫取りされた歯さなどは見られず、そこはかとない余裕がある。

數の、あるいはレベルの優位、か。

「それより重要なのは、君が相応の実力者であるという事実だ。単獨で“英気の泉”を殲滅せしめ……あの“切り裂きキラー”とも対等に渡り合えるという、ね」

「それも、知ってるんですか」

「ああ。かの殺人鬼の向もまた、我々の関心のうちの一つだからね。この街に來たついでに捜索を行い……その最中に鉢合わせたのさ。君とやつがやりあってるところに、ね」

さらなる指摘に、今度は俺の方がつい確認。こちらは実際に見られてもいたらしい。ありえることだとはまあ、思っていたが、どのみちあの時の俺に周囲を気にする余裕などなかった。げに厄介な白いの、である。

「といっても実際鉢合わせたのはそっちの――そう、連河君。彼一人だったから、すまないが加勢などはしてやれなかった」

「私はあそこに割ってれるほど、強くはないので。その代わりといってはなんだけど、人払いはさせてもらったわ。お節介だったのなら、」

「いや、助かったと思います。正直」

あれだけ(白いのが一人で)騒いでいたのに他の目撃者が出なかったのは、そういうことらしい。

車東が目線で示したのは、リビングの壁に背を預けていた

〈name:連河 那 class:工作員 cond:通常 Lv:14 HP:44〉

そちらを見遣りつつ、一応頭を下げる。それをけ意外そうに目をまるくする連河だったが、それも一瞬で軽い會釈ののちに視線は逸れる。俺もそれ以上は気にすることなく、卓の方へ向き直る。

「――ともかく、私は君の力を買っている。力無き正義ほど無意味なものはない……その點でいっても、君は我々の仲間に加わるのに、十二分の資格を持っているといえる」

ともあれ車東、ひいては車座? だったかの俺への評価は、どうやら主にその力へのものらしい。

けど彼らは、俺の力をどこまで把握しているのだろう。

白いのとのやり合いを見られていたのなら、なくとも〔醫療〕や〔治癒〕――自己治癒が可能であることは知られていると見ていい。けどそれ以外、とくにspecialに関しては、傍から見てわかるものではないはず。加えてあの時、俺は攻撃魔法をほとんど使わなかった。唯一使った〔衝撃〕も、見ただけでそれとわかるものかどうか。

「どうだろう? 君のその力、貸してはもらえまいか?」

それでも見て把握できた分だけでも十分との判斷なのか、あらためて俺を仲間にとう車東。

「やはり難しいかな? ――であるなら我々の……というより、私の仲間に加わる上でのメリットをひとつ、君に提示しようじゃないか」

「メリット?」

「ああ、メリット。――私の持つ力の中には【戦果賦與】というのがある」

次いで彼がしめしてきたのは、こちら側への利。

「知ってのとおり、EXPは殺した當人しか得ることは出來ない……しかし私の【編】下に加われば、その中の誰が殺しても【編の全員が、一律にEXPを得ることが出來るようになる」

「それは等倍とかではなく?」

「ああ。得た分がそのまま、全員にさ」

たしかにそれが本當ならば、上手い話ではあるのかもしれない。

俺一人では決して出來ないレベルの上げ方。

だが、

「せっかくですが、仲間に加わるのはやめておきます」

用件が勧であるとわかった時から、俺の答えはそれ一択。

「……理由を、聞いても?」

理由か。

いくつかあるが、やはり一番大きいのは――

「集団行が苦手なので」

「…………」

結局これに盡きてしまう。

本當は許されるのであれば、ずっと一人でいたいのが俺という奴だった。

それはもうあの時から、ずっとそう。

「そういうわけで、」

「待った! ……これは君が仲間に加わってから、明かそうと思っていたことだが」

それで話は終わりと席を立とうとしたが、意外にも車東は慌てた様子で俺を引き留めにかかる。

まあこの際だしと、とりあえず座り直して聞くだけ聞いてみる。

「“関矢(せきや)大道(たいどう)”。……君も名前くらいは聞いたことがあるんじゃないか? Q市市議會議員の一人で、次期市長に最も近いとされる男……そして、我々がこの街を訪れた最も大きな理由――つまり、本來の標的さ」

そうして明かされたのは、このQ市における彼らの本來の目的。

肩書きから漂う大。そこからも彼らの意気込みが窺えるが、けどなぜ今その話を?

「名前でピンと來ないかい? 関矢(せきや)大海(ともみ)。君が通う県立Q北高校、そこに赴任している教育実習生は、その関矢市議の息子さ」

そういえばそんなのもいたなと、言われて気づく。うちのクラスにつきっきりというわけでもないから、ほとんど接點のない相手だし。しかし思い返せば、たしかにぼんぼんそうな雰囲気はある。

「黒い噂の絶えない市議だが、息子も息子でなかなかの下種だ。おもに絡みでいくつも問題を起こし、そのたびに親父にぬぐいしてもらっているという。お偉がたの圧力を恐れて憲もきにくいらしいと……まあ、ありそうな話さ」

あんな優男然としててその実放者というのか、現実にいるんだなそういうの。

もちろんその話が本當なら、だが。

「わかるかい? つまり君の近な人間も、被害に遭わないとも限らない」

「……」

「その危機を未然に防ぐことも、君なら可能。そして我々は、その助力を惜しまない」

向けられる車東の目は、真剣そのもの。

先程も見たそれは、己の“正義”を確信する者の目。

「一緒にすんだ。我々の手で、誰もし得ない“正義”を――!」

ここぞとばかりに訴えかける“正義の味方”

その真摯ないに、俺の返す答えは――

「せっかくですけど、ごめんなさい」

やっぱり変わらなかった。

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