《現実でレベル上げてどうすんだremix》悪だくみ、腹積もり

六月某日。日曜。

その日、喜連川暁未はカラオケ店に來ていた。

それもひとえに、先日ひょんなことから手にれた“アフター5パス”なるものを活用するため。午後五時以降、三時間まで歌い放題という代で、もらった相手は教育実習生の関矢。

『親父がツテでもらってきたんだけど、僕は今そんな暇ないし。期限も次の日曜までだし、せっかくだから、友達と楽しんできなよ』

學校でちょっとした作業を手伝った際に、そう言われお禮にと手渡されたのが簡単な経緯。學校でこういうものを、職員から生徒がけ取るのもどうなのかと、思わなくもなかった真面目な暁未。

『うわーいいんですかせんせー太っ腹ー! けは人のためならずだねーあけみん!』

しかし一緒に手伝った柚がそうはしゃいでしまったので、斷るのも水をさすようで悪いとけ取ってしまった、流されやすい暁未でもあった。

ともあれ存分に歌い倒し、けどあまり遅くならないようにと切り上げた現在時刻は、そろそろ七時半に差しかかろうというところ。

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「――けど殘念だねー、久坂君參加できなくて」

「まあ他に用事あるんなら、無理にはえないさ」

帰りしな、ふと呟いた柚と、それに応える景人。

そう、今日この場に、久坂は參加していない。つまり久しぶりに馴染同士のみ。ついでにいえば守久流も家の事で一足先に帰っており、現狀四人での帰路となっている。

「ところでなんなんだろねー? 用事って」

「というか久坂、ここ一週間ずっと“用事”って言って、先帰ってた」

「そうなのか?」

「ん。すぱっといなくなる」

柚たちの會話どおり、ここ最近の暁未は、放課後以降は久坂とほとんど顔を合わせていない。なんの用事か訊ねても『ちょっとな』と返されるばかりで、だから彼がなにをしているのか見當もつかない。

そもそも久坂に関しては、わかっていることの方がないといえる。

放課後なにをしているのかももちろんだが、なにが得意なのかや趣味はなんなのかとか、そういう個人的な報がいまだ不明だ。

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(好きな食べ……みたいなことさえ知らないんだよね、思えば。ちょっと前から、お晝は購買じゃなくてお弁當になったみたいだけど……)

馴染以外では初めて出來た、男の子の友達。

なのにその人のことをよく知らないのが、暁未にはなんだかし寂しくじられた。

今日一緒に來れなかったこと、今この場にいないこともまた、寂しいといえば、寂しい。

「ぼーっとしてるねぇ。久坂君がいなくてさみしー?」

「?! べ、べつにそんなこと、考えてっ!」

「おおうっ?」

不意に柚に聲かけられ、そのずばり図星を突くような言葉に、思わず大きな聲が出る暁未。

そしてその反応に、柚もまた驚いて聲が出る。

「あ、や、そのっ、寂しいっていうか、やっぱりみんな一緒の方がよかったかなってちょっと思っただけっていうか、えと」

「う、うん、まあわかる。わかるよーそういうの!」

「た、たしかに最近はすっかり馴染んだあるよな、久坂も」

おたおたと言い繕う暁未に、つい気遣うような返しをしてしまう柚と景人。

そんな友人達の配慮に、知らず顔が熱くなるのを自覚し、暁未はなんだか気恥ずかしくなる。

それから思う。

どうして自分はこんなにもうろたえているのだろう、と。

「――あれ」

そんな中、ふとなにかに気づいたような聲を上げたのは栞。

その視線の先には自分達が行く歩道の先を塞ぐようにしてたむろする、なにやらガラの悪い輩。

「……ちょっと遠回りだけど、こっちから行こう」

景人の提案に、無言で頷き脇の路地へ逸れる面々。

絡まれるとは限らないにせよ、用心するに越したことはない。

そうして細い路地を進んだ一行だったが……

「!」

しばらく行くと、再び進路にさっきのような連中。

そちらも避けて別の路地へとれば、

「また――!」

三度、同じような進路妨害。

迂回するたびに細くなっていく路地。

悪態をついた景人も、もちろん他の面々も、さすがに現狀がおかしいことに気づき始める。

「カゲト君! 後ろから――」

「さっきのやつらか……っ」

狀況のさらなる切迫を、最後尾の柚が知らせる。

あのガラの悪い連中が、いつの間にか後ろからついて來ていたのだ。

一瞬だけうしろを見やり、それを確認した暁未がじたのは、恐怖。

加えて思い起こされるのは、久坂と近しくなるきっかけになった、先月のあの出來事。

だけどあの時と違い今この場に彼は、いない。

「ここを抜けて、もうし行けば――っ」

景人の聲で我に返り、気をたしかに持つ暁未。

彼の言うように、あと二つほど角を曲がれば大きめの通りに出て、そこからし行けば番もある。なくとも人目があるところに出れば、追ってくる連中も滅多なことは出來ないだろう。

進む先のT字路には、見たところ人影もない。このまま妨害されることなく進めば――

「っ?!」

そう思った矢先、T字路右から一臺のバンが現れ、前方に急停車。

ほとんど塞がれる進路。それでも左右に逃げる隙くらいはあるはずと四人は路地を抜けるも、

その隙すら塞ぐように、ぞろぞろと現れるならず者ども。

おそらくはわざと隠れていたのだろう。

かすかなみを抱かせたのち、絶へ突き落すために。

「――よう、男」

おもむろに開いたバンの助手席。

そこから現れた強面の男が、そう聲をかけてくる。

「あー……なんか聞いてたじのヤローじゃねぇが……まぁいい。おとなしく乗れや。下手なマネすんなよ? いちいちおとなしくさせんのも、めんどくせぇからな」

守久流を一回り大きくしたような格と、どこまでも剣呑な気配。

それに呑まれ暁未は全がどうしようもなく、慄く――

「――じゃああらためて、今日の流れを確認しようか」

“レベル持ち”集団“車座”のアジトである民家の居間。

集まった皆の前でそう口火を切るのは車東。

ここ一週間で何度目かの、彼らの會合の始まりである。

ところでこの民家、元はあの“英気の泉”の代表が住んでいたものだという。

とはいえそれもまた、あのおばさんが本來の住人を殺して奪ったものらしいが。

「言っても、そんな複雑なことはないがね。市議の方へは番場君と連河君と、それから私。そしてそのドラ息子の方は、座間と瑞野君、あと佐々井君で當たってくれ」

車東の指示をけ頷く面々。どうもこうして面と向かって指図することにより、車東の持つなんらかのspecialが発するらしい。【編】下の人間は、“指揮”の命をけることにより各パラメータに補正がるとかなんとか。

「ちょうど今日、息子の方は準備してた企てを実行に移すようだ。なにやらごろつきを大勢集めているらしいけれど……まあ座間一人でおつりが來るくらいか。社會のゴミの一掃も出來て、むしろ一石二鳥のタイミングといえる」

「……」

なんでもないことのように言う車東と、黙ってそれを聞いている座間。

印象だが、とっくに箍が外れている車東に対して、座間にはなんとなく割り切れなさが見え隠れしている。人が集まれば、その思が人それぞれなのは當然かもしれない。

「なーダンナ、今からでも配置換えしません? ほら、ゴミ掃除ならオレの“発破”のが適任じゃないスか!」

「んー、けどバランス考えるとこの分け方以外ないっていうか。それに適任という話なら、わかりやすい“脅し”が出來る君こそ、こっちが適任だから」

「あー、それはそッスね確かに。いやーたまにゃ大勢バーンと派手にブッ飛ばしたかったんスけどねぇ」

愚癡るように意見した番場が、しかし車東に指摘されるとあっさりと引き下がる。にしてもやはり、こいつ一人だけ明らかに他の面子とが違う。それこそ破落戸そのものというか。どういう経緯でこの“正義の味方”に仲間りしたのやら。

「ともかく、座間班は息子を確保次第こちらに合流。そのあと親子共々必要なことを吐かせてから、まとめて処分、というじで。……瑞野君も今日でようやく、友人の無念を晴らせることになるな」

「……そう、ですね。ええ。ようやく――」

車東に聲をかけられ頷く、瑞野という眼鏡人。どうも関矢実習生と因縁があるらしく、先程から恐いくらい真剣な表をしている。おそらくこの場で最も張り詰めているのは、彼か。

「占いの方はどうかな? 佐々井君」

「……。……運命に変化は無い。全て終わらせるなら、今日が最良」

車東のお伺いに答える、佐々井という。ほとんど予言のような力を持つせいか、彼は“車座”でも扱いが丁重なじだ。たんに一人だけ飛びぬけて若い、というのもあるだろうが。他の面子が人な中、彼はどう見積もっても中學生くらい。小學生ということは……ないと思う。たぶん。

「OK、上々だね。――では行こうか、皆。連河君番場君、頼んだよ。座間班も、健闘を」

かくしてき出す“車座”一同。

座間、瑞野、佐々井の三名は車でアーケード街方面へ。

そして連河、番場、車東組は各々徒歩で高級住宅街へと、それぞれ標的の元へと向かうようだ。

さて。

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