《現実でレベル上げてどうすんだremix》夏★しちゃってるBoy

室町人め―――!!

「ほい來たッ、そー、っれ!!」

弾ける水飛沫。び上がる肢。明るいかけ聲。

「ひゃっ。……も~さっちゃん、ちょっとは手加減してぇっ」

古幸が放った本気めのアタックを、喜連川がけ損ね軽く抗議の聲を上げている。もちろん本気で責めるものではなく、その顔は楽しげな笑みを浮かべているが。

現在、淺瀬でになってビーチバレーもどきの最中。ボールを落とさないようトスなどを繋げていくだけの単純な遊びだが、和気藹々とはしゃぐ様は皆楽しげ。まさに夏の青春の一ページといった景に、俺なんぞがじっているというのもまた、あらためて不思議なじだ。じつに。

「よしっ、次は私からだね――それっ」

「こっちか! オーライ……っと!」

にしても皆、あれだな。ボールのやりとりがこなれているというか、運が得意な奴のきというか。その手の扱いに一番長けていそうな賀集はもちろん、なんとなくどんくさい印象のある喜連川も危なげないじだし。たしか運は苦手でないという話だったか。力がないだけ、みたいなことを以前聞いたような。

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「よっしゃ來た――ああ、っと! ゴメンちょっと上げすぎたー!」

「問題ない。ほっ、と」

「おおありがとー! スグル君さすがの打點の高さッ」

「む、こっち來た。じゃあ次、久坂――」

五人ではおそらく一番軽な古幸は、むしろそのせいかきに遊びが多い。やたら水飛沫を上げたり、跳ぶ際に妙な決めポーズをつけたり。

その甲斐あってか明後日の方向へ行きそうだったボールは、しかし無難に最長の大滝が拾う。

逆に最小柄な志條は、この場では一番きにくいだろう。俺だとせいぜい脛あたりの水深だが、彼の場合は膝までほぼ浸かっている。

などと狀況を眺めつつ、ボールも來たのでとりあえず上げようとし、

「――に加えて、しゅーと」

「ぶばば」

突如顔面になにか喰らわされた。なんだ辛(かれ)え。

視界を潰され見失ったボールが、ぱちゃ、と背後に落ちるのをじつつ。

「……なにしやがんだ」

「ごめん。心臓狙いのつもりだったのに……」

「それはそれで殺意あんな」

どうにか目を開けつつ下手人――志條へ抗議。

こちらへ歩み寄って來た彼の手には、此度の兇である拳銃型の水鉄砲。おそらく、海水り。

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そういえば、浜辺(ここ)へ來た時からずっと持ってたな。使う機會を窺っていた節もあるし。その最初の標的が俺になるとは……うん、じつはなんとなく予想はしていた。

なので志條の本當に反省しているのやら、という詫びにも、とくに腹は立ったりしない。いや、心なしもうしわけなさそうな顔を見るに、悪いと思ってはいるのだろう。

「っつうわけでこれでちゃらな」

「ぶ!」

「しおりんぶっ飛ばされたーっ! というか水量すごッ!」

とはいえやられっぱなしもなんなので、ひとまず水を蹴り上げ志條へ浴びせておく。……々加減を誤ったか波濤のような勢いになってしまい、志條の小柄な軀が若干浮いたようにも見えたが、大丈夫、君は強い子だ。

「え゛っほ! ごっほ!」

「だ、だいじょぶしおちゃんっ!」

「というかなんだ今の……?」

「こっちにまで飛んできたぞ、水……」

むせる志條。駆け寄り気遣う喜連川。

そして立ち位置的にとばっちりをけた男二人は、やや唖然とした様子。

「はっはっは。いや夏の海のいたずらってことで一つ」

「おおっと久坂選手ッ、いつぞやの全然笑ってない笑い聲でよくわからない誤魔化しを!? ある意味挑発ともとれるこの発言、ダウンした志條選手はいったいどーけ取るのかッ!」

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「ノッてないでさっちゃんも友達を心配してっ?!」

先程から実況よろしく喚聲を上げている古幸。その手にマイクのように握られているのは……お前も水鉄砲かよ。絶対隙あらば撃つつもりだな?

「……ふふ、大丈夫あけちゃん」

「しおちゃん?」

「やられたら、やり返す。倍返しには、さらに倍返し!」

「おおーっとここで志條選手ッ、久坂選手へ怒濤の連だァーーーッ!」

「あばば」

不意に不敵な笑いを浮かべた志條。もちをついた姿勢から素早く膝立ちになり、こちらへと集中砲火。矢継ぎ早の水は初撃こそ顔面だったが、以降は配慮なのか辺りを中心に……いやなんか被弾が首に集中してる気がすんだが、どんな嫌がらせだ。

あと古幸、実況ついでにお前も砲火にじってんの気づいてるからな?

「まあいいや。賀集、トス」

「この狀況でそっちも続けるのか?!」

「そしていきなり試合再開! はたしてこの水浴びもえたまったく新しい球技の勝利の栄はいったい誰にうぎゃーーーッ!?!」

「さっちゃーん?! く、久坂君容赦なさすぎ――わわっ、私までっ!?」

ひとまず拾ったボールを上げ、ついでに無差別に水を浴びせ場をひっかき回しつつ、

俺も珍しくはしゃいでいるのかもしれないと、そんな風に思うのだった。

ボール遊びだか水遊びだか、なんだかわからないはちゃめちゃからしばしのち、

「ああ……、……うああ」

やや沖合にて、俺は仰向けに浮いていた。

のっけからし羽目を外し過ぎたからか、ちょっとのんびりしようということで一同意見が一致。そして現在、子は浜辺で砂遊びに興じ、賀集と大滝は軽く遠泳に出て――

そして俺はなにをするでもなく、ただ水面に浮いている。奴らのいずれかにざることも出來ただろうが、なんとなくそうはせずに。どんな集団にいても放っておけばいつの間にか一人になるのは、ほとんど習といっていいのかもしれない。

「にしても……人いねえよな」

岸辺を眺めつつ、ぼんやりと思う。水も砂浜も綺麗で、遠淺で波も穏やか。まさに海水浴にはうってつけというじなのに、観客らしい姿はそれこそ俺らくらいしか見あたらない。

とはいえ人でごった返す中にいたいわけもなく、文句などあろうはずもない。そのへんは喜連川らも同意見だろうと思われる。普通の海水浴場だと、派とかわらわら呼び寄せそうだ。

眺める先では志條が砂を盛り、古幸がその砂山の裾に手を突っこんでおり、そしてその様子を喜連川が膝立ちで眺めている。『ゴージャスな城を建造するのだ!』と古幸などは息巻いていたが、しかし高校生にもなって砂遊びというのも、どうなんだ?

けどこういう場では思い切り心に返る方が、むしろ正解なのか。なくともただ浮いているだけの俺より、夏を満喫しているじなのは確かというか、それこそ文字どおり建設的というか。

けどこうして、見目のいい子の水著姿を拝めている時點で、俺も充分夏を満喫している気もする。現狀ここからだと遠すぎるうえに波にも揺られるのであまりよく見えないが、それでも先程まではたしかに、惜しげもなくをさらしそのを躍らせる彼らを、俺は間近にしていたのだ。

喜連川は、やはり流石というか、さもありなんというじだった。どこをとってもけち一つつけられない、まさに均整の取れた肢。おまけにらかそうで、白い。著ている水著も白なので見ていて眩しいくらいだった。日焼けしたら悲慘なことになりそうだが……そのへん対策くらいはしてるか、たぶん。

古幸は運部なだけあってか、無駄のない機能という印象。とくに部がこう、空力的に優れてそうというか、うん。揺れたりなどの無駄なきも一切なかったな。その代わりでもないだろうが、運量が多いのだろう下半は思いの外的で、ぶっちゃけていうと結構すけべだと思いました。

意外といえば、一番は志條か。全ほどよいづきで、はばかりなくいえば男好きするじ。なまじ小柄だからそのへん余計にそう見える上、若干危ういじさえする。加えてらしい意匠の水著という、意外の二段構え。なんかこう、渋滯気味だな要素が。

そんな奴らと、こんなところに。

あらためて、いい分だなと、我が事を他人事のように思う。

こんな妙な立場になったのも、もとを正せばレベルが上がって変な力を得たことありき。

「……【マッパー】」

なんとなく思いつき、【マッパー】とついでにステータスボードも表示してみる。

周囲が海だからか、ほぼ単の表示。しかしよく見ると沖の方ほど合いが濃くなっている。つまり地上で高低差――標高が示されるように、洋上などでは水深の報も得られるわけだ。

あと、し前に気づいたことだが、【マッパー】での人間の位置表示機能。あれの範囲が以前よりも広くなっていた。前は四十メートルくらいだったはずだが、今は八十メートルちょっとと倍増である。レベル上昇が関係していることは、まず間違いない。

レベルといえば、六月のあの一件以來変化はない。誰かを殺すことも他の“レベル持ち”に出くわすこともない、じつに平和なひと月ちょっとだった。

(いや別に、積極的に人殺したいわけでもないが……)

海水をゆるゆると掻きながら、思う。機會があれば、レベルを上げてみたいのは確か。しかしその“機會”がこの先訪れるかというと、なかなか容易ではない気もする。

現在のNXTは13。だからといって普通の人間を十三人も殺そうという気には、さすがにならない。“レベル持ち”を見つけて殺す方が効率がいいとわかった以上、そうでない人間をわざわざ大勢殺そうとも思えなかった。

しかしわかってはいたが、“レベル持ち”の存在はかなり希だ。何度か人通りの多いところで【見る】などを使って探してはみたが、いまだ果は上がっていないこともその証左。槍男や宗教おばさん、そして“車座”との出會いは、つくづく僥倖だったのだなあ。

(無いものねだってもしゃあねえけど……、……と?)

波に揺られぼんやり漂っていると、

ふと出しっぱなしの【マッパー】に、妙なものが映りこんだような気がした。

いや、気のせいではない。

表示のはしがまるで切り抜かれたかのように、黒い。

「……あれ、か?」

黒い表示の実際の位置へふり向けば、そこは大きめの巖場。浜辺からも遠くに見えたもので、今はし泳げば近づける距離。ぼうっとしているうちに、どうやらずいぶんと流されていたらしい。

しかしなんだってあの巖場だけが黒い表示なのか。これまで【マッパー】の表示といえば線と點、あとは濃淡のみだったので、真っ黒な箇所はやはり異質に映る。

まるでその場所だけ、報が取得できていないかのような。

「……」

巖場の側面は、ほとんどが切り立った崖のようになっている。

しかし外周を泳いでいくと、巖壁に橫が空いているのが見つかる。海に面して口を開け、人が余裕でくぐれる大きさのった先はそのまま巖場の部に続いているらしく、

なんというか、「って來い」と言わんばかりというか。

「うん」

に近づくと、巖がになって浜辺の方は見えなくなる。

それを確認し一人頷き、俺はさして深く考えず、巖場の部へと這っていくことにする。

「おっ、おかえりぃカゲアンドスグ!」

「なんだよその蕓人みたいな……というか、え? なに作ってんのそれ」

遠泳から帰って早々、困した様子を見せる景人たち。

彼らの視線の先、柚たちの前に鎮座するは、それなりの大きさの砂の造形

「待ってね~、もう仕上げの段階だから。――あ、完したら寫真撮らなきゃ!」

「撮るの?! ……いやそれどうみてもうん――」

「シャラップ! お城だよぅ! 巻貝をモチーフにしたメルヘンなお城!」

「なぜよりによってそれをモチーフに……」

「気持ちはわかる」

「あはは……」

続く柚と景人のやりとりに、なんとも言えない表で呟く守久流と、しみじみ頷く栞。

制作工程をはたから見ていて、時折仕方なく手伝いもした暁未はというと、ただ笑うより他なく。

が獨特なんだよね、たぶんさっちゃんは。の時も結構、突飛なもの作るし……)

最大限好意的な解釈を頭の中でする暁未。その脇で、通りかかった地元の小學生らしき聲が「あ、おねーちゃんたちもう出來た? でっかいうんこ」とそれはもうはっきりと問いかけてきたり。

「ちがいますーうんこじゃないですぅ。もーわっからないかなぁこの蕓が!」

「さっちゃんっ、そんなはっきり口にするのは……っ」

「まあ巻き糞はともかくとしてだな」

「なにおう!?」

「久坂はどうした? まだ戻っていないのか?」

守久流のぞんざいな言いに食ってかかろうとした柚。

しかし続く言葉にはたと止まり、それから周囲をきょろきょろと見回す。

「こっちには來てないけど。というかてっきり、男子の方に行ってると思ってたけど……」

「俺たちの方にも來てないから、ここにいるかもとも思ったんだけどな」

巡る視線は徐々に沖の方へ。

そんな柚につられてか景人も呟きながらその視線を追い、暁未以下他三人もまたそれにならう。

「わたしが見た時は、あのあたりをぷかぷかしてた」

「私も同じ……かな。もうちょっとあの、巖場の近くだったかもだけど」

「俺が最後に見たのもそのへんだなあ……」

まばらに泳いでいる人影は見えるが、そのどれもが久坂ではない様子。もしかして潛っているのかも、などと暁未が考えていると、背後から砂を踏む足音。

「あ、おとうさん」

「うん。そろそろ涼しくなってくる頃合いだから呼びに來たんだけど……どうしたんだい? みんなで海の方眺めて」

足音は栞の父のものだった。引き上げようと呼びかけに來た彼は、一様に海を眺めているの皆を見て不思議そうにしている。

そんな父親へ、久坂が戻っていない旨を簡単に説明する栞。

それをけ、その溫厚な顔立ちがしだけ難しそうな表に変わる。

「どうかしたの?」

「……いや、考え過ぎとは思うんだけど、去年あの辺りで一度、スキューバをやってた若者が一人、行方不明になったて聞いててね」

「! それって――」

「けど今とは時期が違うし、その日は結構の流れがあったとも言ってたから。そもそもそんなこと、このあたりでは何十年と起きてなかったはずなんだけどね……」

志條親子のやりとりに、そこはかとなく不穏な空気が流れる。

「久坂君……」

ざわめくへ知らず手をやりつつ、ついその名が口からこぼれる暁未。

久坂にはおそらく“不思議な力”がある。

それでも不安を覚えないわけにはいかない彼だった。

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