《現実でレベル上げてどうすんだremix》久坂イリュージョン
さて、なんやかんやで數分かののち。
「! ――! ~~~!!!」
「ほいほい、と」
苛立たしげに剛腕を振り回す鮫頭と、その周囲でうろちょろする俺が、の広間にはいた。
まあ、なんのことはない。
要は力で敵わない相手と、まともに打ち合う必要はないのだ。
たしかに鮫頭は、膂力でも質量でも俺を圧倒している。その筋力ゆえか腕を振る速度も驚異的だが、しかしなんというか、畜生だからか、作自はかなり雑で見切りやすい。それこそ避けることに専念すれば、【警戒】や【回避】の覚に頼る必要もないくらい。
加えて鮫頭は足が遅いうえ、どうも歩行に不慣れな印象もある。さらにはそのでかい図が災いしてか小回りが利かず、ゆえに足元を走り回れば、向こうはしょっちゅうこちらを見失う。
「〔魔玉〕」
「?! ~~~!」
だからこんな風に、隙をみて脇腹にmagicを叩き込むことも可能。
〔魔玉〕――MP消費4の攻撃魔法で、〔火炎〕等よりも一回り大きく、真っ黒な弾が飛ぶ。
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現狀最も威力の高い魔法での攻撃手段であり、速度もそこそこ。死角から近距離でならばまず避けられないだろう、そんな攻撃。
巨をぐらつかせる鮫頭――そんな様子からも、この〔魔玉〕の威力は窺い知れる。
ちなみに攻撃魔法の比較だと、〔火炎〕<〔雷鳴〕≦〔氷結〕≦〔衝撃〕<〔魔玉〕というじで効いているように見けられる。さもありなん、といったところか。
ついでに他の魔法についても試してみたが……
〔睡眠〕、〔瘴毒〕、〔影〕、〔魔封〕そして〔鈍速〕は、どれも効果が出なかった。これらは相手に不利なcondを與える魔法――いわゆる狀態異常系というやつで、レベルが上の相手に効かないというのはまあ、やはり順當なところなのだろうか。どれも試したのは一回だけだから、數撃ちゃあるいは効くのかもしれないが。
他に〔放棄〕、〔曝〕という狀態異常系もあるが、こちらは試していない。効果が“武ないし防を外させ、裝備できないようにする”というものなので、意味がないだろうと斷じたため。相手全だし、素手だし。
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ところで、magicについての補足を一つ。
攻撃魔法などは、たとえば手で直接を投げる場合よりは、かなり適當な狙いでも當てられる。
かといって、まったくの適當ではさすがに駄目だ。対象を視認し、おおまかに狙いをつけ角を決める――おそらくそれが、最低限の當てるための條件。それさえ出來ていれば、たとえばちょっとした障害なんかがあっても、魔法はそれを避けて対象まで飛んでくれる。
けどそんな最低限の條件も必要なく、魔法を當てる方法があった。
それが【マーカー】。魔法を使う際【マーカー】対象者を思い浮かべれば、視認も狙いも関係なく、きちんとそいつに魔法が飛ぶ。
「〔雷鳴〕」
「!?」
今もまさに、鮫頭の上には青の逆円錐が浮いていて、そちらも見ずに放った魔法がきっちりと命中している。
この【マーカー】と魔法の併用。特筆すべきは魔法の飛び方だろうか。普通に撃った場合その軌道はせいぜいゆるい弧を描く程度で、だからその範囲にしか屆かないが……
「〔氷結〕」
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「?!」
【マーカー】対象者には、たとえ逆方向に撃とうがUターンしてでも魔法は當たる。さすがに壁などで隔たれて線自が通らなければ無理だろうが、ともかく、なにがなんでも當ててやるという意地すらじるくらい。
ちなみに攻撃を必中させるといえば【鹿音】も思い浮かぶが、あれはmagicは管轄外らしい。【鹿音】が適応されるのは直接毆ったりを投げたりの、を使った攻撃に限られる。
ともあれ、単発の魔法をちまちまと當ててはいるが……あまりこう、そこまで堪えた様子もない。なくともこのままでは、殺し切るまでに日が暮れそうではある。
ひとまずこのへんで、趣向を変えてみようか。
「〔暗闇〕」
「!?」
というわけで次の一手は〔暗闇〕。
狀態異常系のような字面で、黒い靄の塊が飛ぶという発現のしかたもそれらしいが、
この魔法はそもそも人間……生やを対象にすることが、通常できない。
〔暗闇〕の対象となるのは、任意の位置――空間的な座標。
とはいえ地球が自転公転している以上、絶対的な空間座標というわけでもないのだろうが……
効果は、著弾點からだいたい半徑一メートルの球狀に“不可視の領域を展開する”というもの。
展開された領域は、外からは真っ黒な球に見え、中にれば本當になにも見えなくなる。
「……?!」
現狀だと俺が外で、鮫頭の頭部が中。今の鮫頭は俺からはまるで黒くて丸い被りをしているように見え、そして向こうさんは突然周囲が真っ暗になったようにじているだろう。
しかし先にもしめしたように、〔暗闇〕の効果はその著弾位置にしか働かない。
「――!!」
なのでしけば領域から抜けるのは容易。直徑二メートルという範囲は、人間生を捉えるには々心許ない。相手が巨ならば、それはなおさら。
黒い球を避けるようにき、忌々しげにこちらを睨めつける鮫頭。
「!?」
「見てびっくり、か?」
「――」
「……」
だがその目に映った俺の姿が三人分(・・・)だったからか、驚愕した様子を見せる。
向こうさんの視界を奪うのと同時に、仕込んだ二つの魔法の効果だ。
「はっはっは。これで三対一だぞう」
「――」
「……」
散開する俺達(・)。左右の俺はそのまま左右へ。真ん中の俺は、槍を抱えて突っ立ったまま。
それをけ困気味にきょろきょろ視線をさまよわせる鮫頭だが、
「~~!」
まずは手近なところとばかりに、正面の俺を剛腕で叩き潰す。
「どっこい、はずれ」
「!?」
その作の隙を突き、左の俺が槍を突き立てる。
脇腹を刺されく鮫頭。しかも正面の俺を叩き潰したが無い(・・・・・)からか、怒りと同時にわけがわからないといった様子も見せている。
鮫頭の前に平然と突っ立ったままの、正面の俺。
その正は〔幻影〕で作った、ただの立映像だ。
〔幻影〕――簡単にいえば〔幻奏〕の視覚版で、効果は“任意の映像の投影”。
ただしこれも〔暗闇〕同様、位置を対象とする魔法なので、他の俺のように走り回らせることは出來ない。ただの映像ゆえに攻撃させるなども、もっての外。
「~~! ~~!!」
「いや無駄無駄」
苛立ち任せかもう一度二度〔幻影〕の俺を薙ぎ払う鮫頭だが、それも當然空を切るだけ。その隙をもう一回くらい突けるかと思ったが、々位置が悪かった。
正面への攻撃が無駄とわかれば、標的は殘りの俺へと移るだろう。
「~~~!」
「ちょこまか」
「――」
その追撃を、數を頼みに逃げに徹する俺達(・)。もともとはしっこさではこちらに分があるうえ、的が二つに増えたことで向こうさん、ますますこちら側を捉えきれなくなっている様子。
〔幻影〕と違い、俺本と同等の機力を見せるもう一人の俺。
こちらの正は〔仮初〕の魔法。効果はそのものずばり“者の分の作”。
〔仮初〕で作った分は、〔幻影〕のような見てくれだけではない理的な実を持つ。
本との相違はまだ細かいところまではわからないが、なくともったじや重さなどは寸分違わぬように思えた。
ただしなにもかも同じというわけには、やはりいかないようで。
一番の相違は、〔仮初〕の俺が“攻撃能力を一切持たない”という點だろうか。
〔仮初〕は半自的に作する。俺が“走れ”と念じれば走り出すし、“逃げ回れ”と命じれば勝手にそのようにする。
なので“目の前の相手を毆れ”と念じてもそのとおりにするのだが、たとえ〔仮初〕に毆られても、相手にはなんの痛手もない。られたくらいはするがそれだけで、ステータス上のダメージも、當然0。
また〔仮初〕はmagicが一切使えず、攻撃に類するspecialも持たない。出來るのはせいぜい【防】と【回避】、あとは【警戒】も、一応できているらしい。加えて喋れないし、おそらく自立意思もない。他者に能的な働きかけが出來ない人形、とでもいおうか。
要は基本的に、囮として使う魔法だ。今夜は俺とお前でダブル厳児だなんて真似は、殘念ながら無理だ。
「!? ~~~~~!!」
それでも畜生頭を翻弄するには、十二分に事足りている。
〔仮初〕に気を取られた隙に本の俺が攻撃。これをくり返すことで徐々に傷が増えていく鮫頭。攻撃できるのが片方だけだとばれないように、時折互いに錯し、どちらがどちらかわからないようにもしつつ。
(見たじ気づいちゃいなさそうだけど――っと?)
不意に、
「……――――――――!!!」
咆哮。
同時に鮫頭の周囲に迸る、水飛沫のようなあれは、衝撃波か?
「あ、やべ」
「――……」
その範囲にいた〔仮初〕が、水の衝撃波を喰らって消滅してしまう。
〔仮初〕のHPは1しかなく、ダメージが通るならどんな攻撃にも一撃しか耐えられない。
そうなれば向こうさんが標的とするのは、
「……!」
當然、殘った本の俺なわけで。
「……――!」
ごとこちらを向き、なにやら大きく息を吸い込むような格好になる鮫頭。
おそらくは大技の予備作か。増大する【警戒】の覚から、そう當たりをつける。
(なら一か八か)
一つ俺は思いつき、駆けだし、思い切り跳躍。
飛びこむ先は宙に浮いた、いまだ効果時間の切れていない〔暗闇〕の領域。
ずぼっとり、その勢いのまま上部からすぽんと抜け出る。
「――――!!!!」
その飛び出たところを狙い澄ましたかのように、いよいよもって放たれる鮫頭の大技。
轟音。
膨大な力の奔流。
「――」
中に響き渡るほどの衝撃と共に、鮫頭の大技は一瞬で〔暗闇〕上部の俺の姿を飲みこみ、
あとにはなに一つ、殘らなかった――
(――なんつってな)
などと、頭の中で一人おどけてみたりする。
そんな俺がいるのは、鮫頭の真上。
跳び上がり、〔暗闇〕を通り抜け、その勢いのまま天面に槍を突き刺し、ぶら下がっている。
「…………」
大技の反か、あるいは俺を仕留めたと思い気を抜いたのか。
直下の鮫頭は、大口を開けたまま微だにしない。
ならばと俺は反をつけ、槍を引き抜き落下。
(【鹿音】、【倍支繰】……)
その最中、念じて二つの特殊能力を発し、
「ほっ」
「!!?」
振り下ろし、落下の勢い、特殊能力の効果。
それら込み込みの槍の一撃を、奴さんの首元へと突き立てる。
骨か髄か、いろいろなものをぶちぶち千切りつつ、
「っせ」
「?! ――」
駄目押しで力を込め、槍を振り抜けば、
鮮。
ごろりと落ちた鮫の頭。
「うあ、ぺっぺ」
ほぼ同時に著地し、返りに辟易した俺がその場から飛び退くのに遅れて、
「――……」
頭を失くした巨が、ぐらりと傾ぎ、倒れた。
種明かしは、次回に。
【書籍化】斷頭臺に消えた伝説の悪女、二度目の人生ではガリ勉地味眼鏡になって平穏を望む【コミカライズ】
☆8/2書籍が発売されました。8/4コミカライズ連載開始。詳細は活動報告にて☆ 王妃レティシアは斷頭臺にて処刑された。 戀人に夢中の夫を振り向かせるために様々な悪事を働いて、結果として國民に最低の悪女だと謗られる存在になったから。 夫には疎まれて、國民には恨まれて、みんな私のことなんて大嫌いなのね。 ああ、なんて愚かなことをしたのかしら。お父様お母様、ごめんなさい。 しかし死んだと思ったはずが何故か時を遡り、二度目の人生が始まった。 「今度の人生では戀なんてしない。ガリ勉地味眼鏡になって平穏に生きていく!」 一度目の時は遊び呆けていた學園生活も今生では勉強に費やすことに。一學年上に元夫のアグスティン王太子がいるけどもう全く気にしない。 そんなある日のこと、レティシアはとある男子生徒との出會いを果たす。 彼の名はカミロ・セルバンテス。のちに竜騎士となる予定の學園のスーパースターだ。 前世では仲が良かったけれど、今度の人生では底辺女と人気者。當然関わりなんてあるはずがない。 それなのに色々あって彼に魔法を教わることになったのだが、練習の最中に眼鏡がずれて素顔を見られてしまう。 そして何故か始まる怒濤の溺愛!囲い込み! え?私の素顔を見て一度目の人生の記憶を取り戻した? 「ずっと好きだった」って……本気なの⁉︎
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