《現実でレベル上げてどうすんだremix》いろいろともてあます
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ぼんやりと、
「……」
先程までのことを、俺は思い返す。
ライフセーバー的お兄さん(地元の消防団の持ちまわりなのだそうな)に連れられ浜辺に戻ったところで、やはり當然というのか、此度の旅行の保護者でもある志條夫妻にも、俺はお叱りを頂戴した。勝手な行で目の屆かないところへ消えたのだから申し開きは立たず、ゆえに甘んじて靜聴。
にしても志條夫妻、ふんわかしているようで意外と手厳しい。いや、怒鳴りつけるとかそういうことはしないけど、こう、靜かにおっかない。そのへん、うちの親父を彷彿させる。
いなくなった先でやっていたのが殺し合いだと知ったなら、さらに叱られるだろうかと、ふと思う。……どうだろう、別の意味でなら叱られるかもしれない。つまり、冗談言ってるとけ取られて。ましてよくわからない鮫的な化けを相手取っていたとなれば、冗談以前にただただ意味不明だろう。
にしても結局あれは、なんだったんだ?
これまで知られていなかった新種――はさすがに無理があるか。鮫人間までならまだぎりぎりいけそうだが、頭に磯巾著生えてるのはもう駄目だろう。そのうえで水の謎エネルギィも放っているのだから、なおさらだ。
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レベルの影響で変質した人間――が、一番ありそうな可能か。奴さんの“大喰”というclass、あのあたりが怪しいところか。“喰ったものの力を得る”specialとか、いかにもありそうではないか。
鮫頭の死とともに、消えたと変容した巖場。
その変化に誰も気づかず騒ぎもしなかったのは、なんだか妙なじだった。おそらく奴さんの力かなにかだったのだろうあの空間には、周囲の認識を誤魔化すような効果も付隨していたのだろう。たぶん。このあたりのことを昔から知っているはずの志條父が、なんの反応も見せなかったのがいい証拠か。
「――ん」
そんなことを考えていたら、いつの間にか寢っていた。
俺が浜辺に戻ったところで、本日の海水浴は一旦お開き。あとの時間はのんびりしようということで、銘々旅館へと引き上げた。俺もそれにならって割り當てられた部屋へと戻り、座布団枕にして寢っ転がっているうち――今に至る。
眠りからは覚めたが、さてこのまま起きようかどうしようかと、目をつむったまま考える。起きてもいいが、引き続きごろごろぐだぐだしていたい気もする。
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にしても、なんかこう気溫が高いような、妙な暖かさをじるような。
そう訝って開いた目には、至近距離に大寫しの喜連川の顔。
「――……」
どこかぼうっとしたような表の彼は、
俺が起きたのに気づくと、心なし潤ませていたような両目を大きく見開き、固まる。
寢起きでぼんやりした頭で、俺もまた同様にけず。
「……」
「……」
しばしそのままの二人。
明かりの點いていない室は、窓から差し込む夕日のに染まっている。
間近の喜連川の顔も、また同じ。
こんな距離でもやはりというか、けちのつけようもない容貌。見事なもんだ。
「――ぁのっ、」
「とりあえず、近い」
「あうぅっ!?」
なにか言いかける彼の、その額をひとまず指一本で押しのける。
息がかかる距離での會話は、お互い落ち著かないだろう常識的に。
それからを起こし部屋の中を見まわし、次いで端末を確認。思いのほか寢っていたようで、結構な時間が経っていた。
「賀集と大滝は?」
「ぅう~……うぅ、これ、思った以上に痛い……さっちゃんのリアクションって、大袈裟でもなんでもなかったんだ……」
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室には俺と喜連川だけで、同室の他の面子の姿はなく。どういうことかと疑問を口にするが、返ってくる答えはなく、そばにいる喜連川は額を押さえて悶えるだけ。言われてみればそういえば、古幸にも以前同じことをやっていたか。まあ本気でないだけ勘弁願いたいところ。
本気だったら今なら頭蓋に空くだろうな、間違いなく。
「うん、まあ、で、他の面子は?」
「よ、容赦ないんだね久坂君って誰にでも……。……その、そろそろお夕飯だから、もうみんな集まってて、久坂君がまだ起きてこないから、私が呼びに、ね?」
「ああ」
さておき、どうも手間かけさせたようだった。夕飯、時間的にも頃合いか、たしかに。
同時に猛烈に腹が減ってくる。
でなくて、空腹をあらためて自覚した、という方が正確か。
ならばいざ晩飯と、やおら立ち上がろうとしたところで、
「あの!」
「?」
それを呼び止めるような喜連川の聲。
なにかと思い向き直れば、
「――あ、えと、……」
なんとも要領を得ない反応。
なにか言い淀んでいる、というより、どう言ったものか彼自もわかっていないような様子。
「……あのねっ!」
やがて意を決してというじで、伏せた目をこちらへまっすぐ向ける喜連川。
しかし同時に、
ぐおごごご。
「――!?」
「うお」
近年稀な大きさで鳴る、腹の蟲。
驚いて二の句を継げなくなる彼と、自ら出した妙なる調べについ聲が出る俺。嘆である。
「……」
「……」
「……なんだ、話あんなら、飯食ってからでいいか?」
「え? あ、えと……ううん平気! その、たいしたことじゃないからっ。うん」
「そうか」
ややあって、そんないわく言いがたいやりとりをわしたのち、
お互いなんとなく無言で、部屋を出る俺と喜連川だった。
夕飯の獻立は、バーベキュー。
しかも素人目にも本格的な。旅館前の庭に並べられた網、鉄板。盛沢山の魚介、、野菜……いやはやなんとも豪勢で、恐れります。
「なあに、自分も兄さんも好きでやってるようなもんだから、遠慮なく食ってくれりゃあいい。明日の分の英気を養う意味でもな! ハハハ!」
なんだか悪いようなことを口にした俺に、極道面の旅館オーナー志條叔父が壯絶な笑顔でそう返してくれる。頭に手ぬぐいを巻き、炭火の加減や材の焼き加減を見るその様は……うん、凄く的屋っぽいとか、言わぬが花か。
隣ではまな板の上の塊を、志條父が切り分けたりなどしている。けど手にしているのが包丁ではなく、いやに実戦的な形狀のナイフなのは……キャンプ用品、だと思いたい。
なぜだか剣呑な印象をける志條兄弟の、その補佐のような役割に賀集と大滝がついている。
「……なんでカメラ向けてるんだ? 久坂」
「や、お前らのエプロン姿って、學校の奴らに高く売れそうだなあと」
「やめてくれ」
「冗談は置いて、手伝いあんなら俺も起こしてくれりゃよかったのに」
いい合の音と匂いを立てるや魚介やらを寫真に収めつつ、ふと思ったことを呟く。一人だけ寢起きで上げ膳の分では、やはり微妙に落ち著かない。
「一応、俺たちも一度は起こそうとしたんだけど……」
「ああ。まったく起きる気配がなかったな。泥のようだったぞ」
俺のぼやきに、顔を見合わせてそう返す賀集と大滝。どうやらすでに手間をかけさせていた様子。もうしわけねえ。思えば古幸なんか、こういう寢坊助をいの一番にからかってきそうなものだが……
「……、……」
「~~~っ」
見ればし離れたところで、その古幸は喜連川と話しこんでいる最中だった。容はわからないが、古幸はなにやら楽しげに、そして喜連川はし恥ずかしげにしている。
「……暁未となにかあったのか? 久坂」
「?」
「いや、やっぱなんでもない」
不意に賀集に訊ねられ、しかしすぐに取り消される。
なんだろう。馴染同士の間で、言いかけてやめるのが流行ってるのか。
「あけちゃん、ゆずちゃん、そろそろ焼けるって」
「あっ、うん!」
「おっとこうしちゃいられねぇ!」
子二人を志條が呼びに行き、なんやかんやで晩餐は始まり――
「おっとばったり! 男子組もお風呂ー?」
――食べ終わり部屋に戻ってし休憩を挾んだのち。
そろそろ風呂にでも行こうということになって用意して部屋を出てみれば、ちょうど廊下に出たところで、同様らしい子組と鉢合わせ。
「見てのとおりだよ、柚。せっかくだし、みんなで行こう」
「みんなで、一緒に」
「……おい。おい久坂、そういう意味で言ったんじゃないから」
「――」
「『そうだったのか』みたいな顔をするなっ」
途中賀集にヘッドロックをかけられつつも、風呂までの廊下を歩く。
一階へ降り、バーベキューをやった庭に出る方とは反対方向へ廊下を進む一行。庭の方では大人組が、まだ呑んでいる頃合だろうか。
「ここのお風呂たしかに天はあるけど、ふふーん、混浴はないのでーす! 殘念でしたー久坂君」
「ああ殘念。すげえ殘念だ、うん」
「……ごめんなさいアタシが悪かったです。だからほんのしでいいからもっとこう、をこめて?」
などとやりつつも、風呂前まで到著。
當たり前に男で分かれ、所で準備し、風呂の洗い場にてを清め……
「おおう、絶景かな」
さっそく話に聞いた天風呂へ出てみる。巖を組んで造られた湯船には、もうもうと上がる湯けむり。その向こうにむ海原と、頭上には暗み、星の瞬き始めた夜天。本格的な客のりは明日から――つまり貸し切り狀態というのもあってか、気分はすっかり、夏のお大盡(意味不明)。
「……さて、方向的に、湯はあっちのようだぞ賀集」
「だから! なんでそんな呼びかけをするんだっ? 俺に!」
一緒にやって來た賀集と大滝へとふり返り、とりあえず俺は左の塀の向こうを指し示してみる。そちらから上がる湯気の下には一糸まとわぬ喜連川たちが……今はいないはず。【マッパー】を見ればわかる。
塀に近づき、観察。高さはなかなかのもので、取っかかりになりそうな箇所も當然ない。おまけに手前が生垣になっているので、これを登ろうと思う奴はまずいないだろう。
「容易に上がれそうにはない、か」
「待て久坂。本當に覗くつもりじゃないだろうな?」
「なら逆に聞こう。賀集には覗きたいという気持ちがまったくない、と?」
「ふむ。一本取られたな、カゲよ」
「取られてない!」
もっとも、今の俺なら一跳びで越えられるだろうが。そんな風に思いつつ、男三人で阿呆なやりとり。こんなことを言っているが、俺も覗くつもりは頭ない。興味がないわけでもないが、どうもそれは、違うような気がする。
〔消音〕や〔影無〕もあるし、やろうと思えばやりたい放題できるだろう。
でもそれはなんとなく、気が引ける。どういうわけか、人殺しよりも。
「まあほら、言うだけならただだ。さあ白狀なさい賀集君、あなたの滾る想いを」
「くっ、やめろ、ヘンなテンションで肩を組んでくるなっ。というか久坂やっぱ力つよ! どうなってんだコレ、ビクともしない……っ!?」
妙な思考の誤魔化しついでに、引き続き阿呆な言いで賀集に詰め寄ってみる俺。
その指摘どおり、今日の俺はいろいろと変なじに決まっているかもしれない。こういうのを旅の恥はかき捨て、と言うんだろうか(たぶん違う)。
「晩飯の時もめちゃめちゃ食ってたからな。やはりそのへんに訣があるんだろうか」
「ホントねー。すごい食べっぷりで、見ててアタシも驚いちゃった」
そんな様子を腕組んで眺めつつ大滝が呟き、それにざって頷くような古幸の聲。
古幸の聲?
「!?」
「!?」
「!?」
「やほやほ~、お三方!」
見上げれば塀の上には、肩まで見えている彼の姿。
賀集も大滝もそして俺もさすがに、面食らう。
「お前が覗くんか」
「ふふん、なーんかアヤしい會話が聞こえてきたからねぇ。覗かれる前にいっそ覗いてやろ――って、ちょおっ?!」
次いで呆れてつっこむ俺を、してやったりな顔で見下ろしていた古幸だったが、
急になにかに気づいたように、顔ごとおもいっきり目を逸らす。
「な、なぁ……ッ」
「七?」
「ちっがう! なんでっ、前隠してないのって!!」
どうも俺が完全なる(ら)であることに揺したらしく、それを指差ししめしてくる。
といってもこちらを見ていないせいで、指の先は微妙に明後日の方を向いているが。
しかしいや、なんでって。
「風呂なんだから、そりゃぐだろ」
「でもっ、カゲト君はちゃんとタオル巻いてるじゃん!」
「大滝も全なる(ら)だぞ」
「そうだけどッ……んん違う! 見てないからね、はっきりとはッ!!」
至極真っ當な答えを返すも、古幸の揺はいや増すばかり。とはいえ現狀に限っていえば俺(と大滝)に非はないというか、むしろ被害者ともいえるわけで。
あとたしかに直視はしてないが、それでも時折ちらちらこっち向いてねえかお前。揺で視線が泳いでいる、という範疇以上に。
「しかし、湯船にタオルをつけるのはマナー違反だからな」
「ああ。だから賀集の方こそ間違っている、とも言える」
「……なんか、こういうノリだと妙に息が合うな、お前ら」
頷き合うまる出しの二人と、それにつっこむまる出してない一人。
どこかのんきな男衆に業を煮やしたように、真っ赤な顔のまま古幸が訴えてくる。
「別に今はつかってないじゃん、三人とも! っていうかいい加減もう前隠してって!」
「いやお前が引っ込みゃ済む話だろ」
「……――だね! おっしゃるとーりですッ!」
そんな彼へ、まっとうな返し再び。
しばし固まり沈黙した後、今更思い至ったかのように聲を上げる古幸。
あんま慌てると肩より下も見えるぞ。俺はそれでも一向にかまわないが。
ともあれ、そそくさと引っ込もうとする彼だったが、
「わあちょッ!? なんであけみんも登ろうとしてんの?!」
「え、あう、ええーと……な、なんか楽しそうだなー……なんて?」
「カワイく小首を傾げてないで――わあ待って、今來られるとアタシが降りられなくなるしッ、そもそもこれあけみんにはムリだから! アタシだから登れたようなもんで――……!」
なにやらばたばたしだす塀の向こう。その後しばし古幸の後頭部が塀の上に見えていたが、やがてそれも引っ込み、そして喧噪も遠ざかっていく。
「……」
「……」
「……なんつうか、男逆だろ」
ややあって自然と口かられたのは、一連の出來事の所。
そんな俺の肩を、どこか労うように叩く賀集と大滝。
その言外の意を汲み、俺もまた二人に続いて天風呂へと浴。
あとはしばし夜の海と星と、そして湯加減を満喫する三人だった。
サモナーさんが行く
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