《現実でレベル上げてどうすんだremix》“幽霊屋敷”
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神社の境脇に広がる雑木林。
その中へ延びる小道をたどり、しばらく行けばそこが件(くだん)の“幽霊屋敷”。
「こ、これはなかなか……」
「う、うん」
「やぁ、こーして目の當たりにすると……ふ、雰囲気あるねぇ……」
間近に見上げ、若干たじろいだ様子の賀集、喜連川、古幸。
二階建ての、個人宅にしては大きな屋敷は、在りし日には立派な佇まいだったのだろう。しかし今は年季がり過ぎて、ただただ不気味。薄っすらと月明かりに照らされているのも相まって、なるほどまさに“幽霊屋敷”の呼稱に相応しい風を醸し出している。
「怖気づいたなら、引き返そうか?」
「笑止(しょーし)! ここまでいかにもなスポットを前にして、背を向けるなんてアタシが廃るッ! 夏といったら納涼ッ、肝試しッ! おいしい青春イベントを前に込みなんてしていられないよぅ!」
茶化すように言うが、なんとなく怖気も混じっているような大滝の聲音。
それに返す古幸も、威勢がいいというよりはどこかやけくそが漂う。
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「久坂はなんか余裕そうだね」
「まんま返したい言葉だな、それ」
そのし後ろで、志條とそんなやりとり。【警戒】の反応はないし、【見る】限り幽霊――不死者に付隨するステータス表示なんかも出ていない。屋敷の中まではまだなんともいえないが、なくとも外から見る限り、危険はないし霊などもいない。
specialがある俺にとってはそれが明白なんだが……ではこのちっちゃいのの余裕の拠は、いったいなんなのか。たんにおばけなんてないさと思っているだけか。
「つかこういうとこって、無斷で這っていいもんなのか?」
「問題ない。このへんはおじいちゃんの土地だから」
「へえそりゃまた。んで、そのおじいちゃんとやらの許可は?」
「……」
「おうこら、目え逸らすな志條」
ふと湧いた疑問を口にしたが、志條から返ってきたのは大丈夫そうで駄目そうな反応。
見れば古幸も気まずそうな顔。つまりここへは大人たちへの斷りなしに、思いつきと勢いでやって來たじか。らしいっちゃらしいが。
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「そ、それでもアタシは行くッ! なぁに叱られたってそれもまた青春の一ページさー!」
妙な思い切りで言い放ち、先陣切って屋敷へと進む古幸。他の面子も、怖じだのあとのことへの懸念だのは見え隠れするが、それでも目の前の“いかにも”さへの好奇心が勝るようで、中にるのはやぶさかでない様子。そんなにしたいか、肝試し。
(しかし、なんつうか……)
今のこの行、若者が馬鹿やって痛い目見る、B級ホラーの導そのまんまじゃねえのかと。
そうは思うが俺も強いて止めようとはせず、連中の後に続いてしまうのだが。
「で、ではでは、おじゃましま~す、よ~……?」
小聲でわざわざそう斷りつつ、ゆっくりと扉を開ける古幸。押し開けるその逆の手にはいつの間にか懐中電燈を構えていて、なるほどお前もともと這るつもりだったな? などとあらためて思ったり。
「わわっ、夜だとホントに真っ暗だねぇ……」
「前に來た時は晝だったからな……うわ、こんなに暗いのか」
侵し、まず古幸が口にしたのは案の定の屋の暗さについて。割れた窓や壁に出來た隙間から、ところどころ月明かりは差すが、それでも視界の確保には到底不十分で。
彼の言をけ、呟く賀集が続いて中へ。それから志條、大滝、喜連川と続き、最後に俺。見れば志條も懐中電燈を取り出していて……用意いいな本當に。
玄関をった正面には階段が見え、吹き抜けになっている上階へと続いている。ドラマなどで見るいかにも舊家の豪邸といったじの造りで、
と、
不意に、
背後で勢いよく閉じる扉の音。
同時に一切のが消え失せ、周囲は完全に闇に閉ざされる。
驚愕に上がる、古幸と喜連川のものと思われる悲鳴。
それが響く間もなく、
「!?」
一瞬のめまいとともに、
周囲と自分、あらゆるものがぐにゃりと歪むような覚ののち――
「っと?」
――気づけば俺は、洋間の中央に一人立っていた。
「……屋敷の中、だよな」
ざっと見まわす限り、部屋の裝は先程までいたロビーと同様。
ただよく見ると、建の荒廃合がさっきよりましになっているような気もする。壁の罅割れから月明かりがもれることもなく、しかしそのわりには、明るくもないくせに妙に視界が利く。
「てか、なんだこりゃ?」
ふと気づいた違和。
部屋には窓があるが、その外の景が“ない”。
窓は一面のっぺりと黒で、まるで墨にでも覆われているかのよう。
「……」
ひとまず近くにあった椅子を引っ摑み、思い切り窓へと叩きつけてみる。
結果、椅子はものの見事に木っ端微塵になったが、窓の方は割れないどころかびくともせず。
明らかに異常。
一つ、溜息。つまりこれは、昨日の鮫頭のと同じようなあれか。見れば【マッパー】表示も“NO DATA”となっているし、なによりここへ來た直後から【警戒】が働き始めたのも鑑みれば、
また新手の“レベル持ち”。
その仕業、か。
にしても昨日の今日とは、またおあつらえ向きというか、偶然が過ぎて居心地の悪ささえじる。
レベルを上げる好機かもしれない一方、この【警戒】の元が俺にとってどうしようもない相手で、逆に殺される可能もあるだろうが……
(この覚……昨日よりも【警戒】の度合いが弱いような)
どうも【警戒】の先にいる存在に、鮫頭ほどの危険をじないような気もする。
しかしなくとも、こうして俺を強制的に移させる力は持っている。
この狀況も“先手を取られた”といえるだろうし、油斷していい相手でないのも確か、か。
(そういや、他の面子はどうなったんだろうな)
【警戒】がしめすのはここより下方。
この場にいない他の連中をふと気にしつつ、ひとまずここを出るかと部屋に一つだけあるドアへ向かい、開き、
「ぎゃわ゛ぁああああーーーッ!!!」
廊下に出た途端、鉢合わせた古幸に悲鳴を上げられる。
「うるせえ」
「いだぁッ!? ……よ、よかった久坂君か。――あ゛? 待って、よくないッ。またッ、デコピンの衝撃があとから來てッ、あああ゛ぁ……ッ!?」
「とりあえず元気そうでなにより」
「~~ホンットにッ、も涙もないねキミは……!」
思わず指で弾いてしまったが(【手加減】併用)、それだけ騒げる余裕があるなら問題なかろうと斷じる。
次いで【マッパー】を今一度注視。表示は相変わらず真っ黒だが“NO DATA”が消え、代わりに古幸の分の【マーカー】が出ていきている。ただし尺を変えても他の面子の表示は出ず……つまりこの狀況で【マッパー】から得られるのは、視界にった報だけか。
本來【マーカー】対象者はその位置を覚でなんとなく摑めるのだが、この狀況のせいかそれも上手く働かない。さっきドアを開けるまで古幸の存在に気づけなかったのも、そのせい。
あるいは他の連中、飛ばされたりなどせずに直接殺されている可能もあるか。
「……」
「久坂君、どしたの……?」
古幸が訝る中、廊下の床を見やって俺はひとつ思いつく。
そこらに転がっている木屑や小石、それらにつけられるだけ【マーカー】を付與。
結果、付けられた數は十一。【マーカー】を限度數の十六個以上付與しようとすると、“古いものから解除しなければならない覚”が生じる。それがないということは、つまり他の連中に付けたものはまだそのままなはずで、とりあえず“レベル持ち”に殺されて消滅した可能は排除できる。
「ね、ちょっと、」
「古幸も、気づいたらどっかに飛ばされてたじか?」
「え? うん。なんかクラッとしたと思ったら、いつのまにか、あっちの部屋にいて……」
訊ねられ、答えながら古幸が指差したのは廊下の突き當りにある扉。そこまでの途中にもいくつかドアがあるが、それは俺が出てきたドアの並びになっている部屋のものとなる。
「他のドアは開けたか?」
「ううんっ、とりあえず廊下をまっすぐ來て――てか開けられるわけないよ! なんか出そうだし、現に久坂君が出てきたしッ!」
「んじゃとりあえず、全部開けて見てまわるか」
「ナンデッ!?」
「いやそうしねえと、他の連中探せねえだろ」
「……、――そうだった! そうだよねッ? みんなはぐれちゃってたんだったッ!」
古幸とそんなやりとりをしつつ、直近のドアへと向かう。
このまま連中を探しがてら、この狀況の元を目指すとしよう。【マーカー】の位置は摑めなくとも【警戒】の覚は健在なわけだし、その元を探して目指せばいい。
magicやspecialをさらすことになりかねないのは、懸念といえば懸念か。おそらくすでに知っているだろう喜連川はいまだそのへんつっこんでこないが、他の連中、とくにこの古幸はそうもいくまい。今以上に余計な興味を持たれること請け合いだ。
とはいえそのへんも、誤魔化す目途は一応立っている。
思うようにいくかは実際試すまで不確定だが、まあ大丈夫だろう。
そんないつもどおりの、投げやり気味な楽観とともに俺はドアを開け――
~~~
書斎に立ち、本の背表紙、その表題一つ一つを味していく。
そんなわたくしの名を、廊下から呼ぶ聲。
はっとしてドアへとふり返れば、視線の先には凜々しく佇む彼の姿。
し呆れ顔で笑いかける彼。それをけ、知らず熱くなる頬。
それは次に読む本を選ぶのに夢中で、彼の來訪を出迎え損ねた気恥ずかしさのせい。
――いいえ。それだけでないことくらい、わかっている。
一番はやはり、彼に會えたから。
彼への想い。あらためて自覚したその気持ちに、どうしようもなく高鳴る。
ややあって、どちらともなく互いに歩み寄るわたくしたち。
彼がわたくしの肩を抱き、わたくしもまた彼にれて、
そうして二人はゆっくりと近づき、そして――
~~~
「!? な、なに今のッ?!」
――途端、出し抜けに聲を上げる古幸。
「? なにって、なにが」
「え? あ、あれ? 久坂君……?」
訝ってふり返り訊ねるが、しかし返ってきたのは呆けたような呟きだけ。
とりあえずそっちは放って、部屋にりざっと周囲を眺める。閑散としているのは最初の部屋と同様だが、こちらは壁の一面が本棚で占められている。とはいえ中はほぼ空で、數冊が打ち捨てられるように置かれているだけ。
ふと、古幸が俺を追い越すように脇を通り過ぎ、その本棚の方へ。
置かれていた數冊のうちの一つ。ちょうど真ん中あたりにあったそれを手に取り、開く。
「これって……!」
驚きに聲を上げている彼。
いったいなんだと思いつつ橫からその手元を覗けば、
開かれた本の上に、一葉の寫真。
寫っているのは、見知らぬ男。
それがどうかしたのかと思う俺へふり返り、その表を見てとったのか、
「あ、あのね、久坂君――」
古幸は先程自分が見たものについて、語りだす。
想ありがとうございます。
お褒めの言葉でも批評でも、なんでもお気軽にどうぞ。
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