《現実でレベル上げてどうすんだremix》悶々乙
一時間前にも一話投稿しています。
よろしくおねがいします。
◇
「……」
「――」
“幽霊屋敷”の廊下を、久坂のあとに続いて歩く柚。
もっとも、ここが本當にあの“幽霊屋敷”なのか、疑わしいところはある。った時より建の裝がましになっているし、窓の外は墨を塗りたくったように真っ黒だし――
なにより先程から起きているおかしな現象。
煙のように消える寫真。それと連するように開くドア。
そして見知らぬの人の、思い出の追験のような幻覚。
不安を覚えずにはいられない狀況。
それでも柚がどこか平気でいられるのは、斜め前を歩く男の子のおかげか。
久坂厳児君。
このおかしな狀況で唯一出會えた、ここに來たメンバーのうちの一人。
(にしても、な~んでアタシなのかなぁ……)
浴姿の背を眺めながら、つい柚は考えてしまう。
たとえば、ここにいるのが自分でなく、親友であったならば。
きっと嬉し恥ずかしドキドキの、格好のシチュエーションになっただろう。そもそもここへ來たこと自、そういう風に仕向けようという魂膽が、柚にあったのは事実。
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はっきりと聞いたわけではないにしろ、
はたから見ればわかりやす過ぎるほどわかりやすい親友――暁未の心の。
それを後押ししてやろうという柚の目論見はしかし、予想を超える超常現象によって、こうしてもろくも崩れ去り、
しかもそのうえ、本來暁未がついた方がいいポジションに、自分が居座ってしまっている。
これにはどうにも、柚も決まりの悪さを覚えずにはいられない。
(けどまさか、あのあけみんがねぇ……)
次いでその心に浮かぶのは、もう何度目かの慨。
容姿ゆえに幾度となく異に言い寄られ、そのせいもあってか軽く男不信の気もあった暁未。
そんな彼が異に惹かれるのも意外だったが、その相手が目の前の男子であったことは、柚にとってはもっと意外だった。
いってはなんだが、久坂には想というものが欠片もない。
教室でもいつもむっつりとしていて、話しかけられても最低限のけ答えしかしない。
ゆえにか腫れにるよう……というのはやや言いすぎだが、クラスでも積極的に関わりたがる者はいない狀態だった。暁未に至ってはむしろ、そんな彼を怖がっている節すらあったはず。
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それが今や、一緒に旅行にまで行くようになる仲に。
久坂の人柄にしても、不想と思われていたのとは裏腹に……
(や、不想は不想だね。――いやいや、けどもちろんそれだけじゃなくてッ)
心の中で誰にともなくいいわけをしつつ、柚は続けて思う。
想がないのはたしかだが、かといって完全につれないかというと、じつはそうでもなく。
遠巻きにすれば近寄りがたいが、話してみると意外と気安いというか、とっつきやすいというか。
たまに(柚に対してはわりと頻繁に)つっけんどんな態度を取ることもあるが、それもあくまで友達同士のじゃれ合いの範疇といえ――
(うん、じゃれ合い。――うん? じゃれ合い? だよね……?)
デコピンなどは冗談でなく、結構本気で痛かったりする柚ではあるが。
さておき。
それらの久坂のふるまいも、おそらく悪意からくるものではないのだろう。
意地や格が悪いとか、そういうのではなく、
要するに彼は、不用なのだろう。
不用さゆえに人との接し方を測りかね、その結果があの普段のぶっきらぼうさなのではないか。
そんな風に、柚には思える。
(それはそうと……)
二階の廊下を行き、再び階段のある吹き抜けまで戻ってきたあたりで、柚はまた別のことを考える。
とはいえそれもまた久坂のことなのだが、
いわくこの狀況にあって、この男の子の“じなさ”はいったいなんなのだろう? と。
(じないっていうか、ぜーんぜん怖がんないよねぇ……)
肝だめしの言いだしっぺであるにもかかわらず、柚自は正直なところ、幽霊などのオカルト的存在をさして信じてない。理數系教科が得意など、存外合理的な思考の持ち主である彼は、この狀況もじつはただの夢なのではないか、と半分以上は思っていたりする。
たとえ不可解な狀況でも、夢ならば実害はない。
しかしそうは思えど、やはり恐いものは恐い。
夢だから平気と思うのも、「だったらいいな」という願がそうさせている面も、多分にある。
一方で久坂はといえば、どうか。
どうもなにも、やはりまったく怖がっている様子はない。怖がらないだけでなく、これまで起きたいくつかのおかしな現象に対してもじず、どころか驚いてすらいないようにも見える。
こういう狀況に“慣れている”ようにすら、見える。
格好つけの強がりでは、明らかにない。
そもそも彼は、なにかに“怖がる”ということがあるのだろうか。
(……正直ちょーっと憎らしいけど)
自分だけがあたふたしているようでやや腑に落ちないこともない柚ではあるが、
それでも目の前の男の子の、この“なんでもなさ”には、
ある種の頼もしさも、じずにもいられなかったりして――
(――! だ、駄目ダメ……ッ)
ふと湧いてくるを、慌てて頭を振り打ち消す彼。
以前から折にれて生じてしまうその想いは、
きっと自分のためにも、なにより親友のためにも、ならない。
そう思い、柚は気持ちを落ち著け、頭を切り替える。
気づけば階段もロビーも通りすぎて、一階の廊下に差しかかっている。こちらは先に來たとは違い、玄関から見て左にびる方向。その先の突き當りがおそらく、三度目の「かちゃり」という開錠の音、その音源。
前を行く久坂は、一応というじで目につくドアは一通り開けようと試している。
今もまた、ロビーから數えて二つ目のドアに手をかけたところで――
『……、ぅう、う……』
不意に、
その向こうからかすかに、くような聲が、もれる。
「!」
「――ッ!」
久坂がノブをひねろうとした手を止め、
柚はというと、から引きつった音をもらしてしまう。
『うぅ……んん……っ』
二人がきを止めたことで、よりはっきりと聞こえるドアの向こうのうめき。
まるでうなされているようなそれは、しかしどこか聞き覚えのあるもので――
「――あけみん!?」
気づいた柚は、思わず聲を上げドアへとすがりつく。
心つくかつかないかのころから一緒にいる親友の聲を、彼が聞き間違うはずもなく。
「喜連川、なのか?」
「間違いないあけみんだよ! あけみん! そこにいるの?! 大丈夫! ねえッ?!!」
柚がくと同時に脇に引いていた久坂。
その彼への返答もそこそこに、柚は懸命にドアを叩き、その向こうへ大聲で呼びかける。
次いで遅れて、ドアノブにも手をかけ必死にひねろうとする。しかしやはり、ドアが開く気配は一切ない。ノブは溶接されているかのようにかず、そもそもドア自も、まるで一枚の壁のようにびくともしない有様。
「どけ」
そこへ不意に、脇から久坂の聲がかかる。
なんとなくただならぬ雰囲気をじた柚は、素直に手を放しドアから退く。
直後、
ごがあ!!!
と、凄まじい音と衝撃と振。
びくりと全がすくみ、
やや遅れて、久坂がドアノブ付近を思い切り蹴ったせいなのだと、柚は気づく。
「やっぱびくともしねえな」
蹴破られなかったドアを前に、しかし久坂は半ば予想どおりというじでそれだけ呟く。
その脇でしばし呆然としてしまう柚。久坂の意外なパワフルさを、これまで何度か目にする機會はあったが、今のはそれらと比べてもし……尋常でないのではないか。気のせいか、ドアどころか屋敷全が揺れいたように柚にはじられたが……
『ぅ、く……っ』
「!」
親友のきに我に返り、再びドアにすがりつく彼。
しかしそれ以上、どうすることも出來ない。
不可解な力に守られたドアが、こちらとあちらをまるで別世界のように隔ててしまっている。
「……アタシの、せいだ」
その事実に、どうしようもなく湧いてくるのは、後悔。
「面白がってこんなとこ來ようなんて言ったせいで、アタシ、あけみんを苦しめてる……。……ホント、しょうがないよね? アタシ。調子に乗って、みんなに迷かけて、わかってるのに、いつも……」
のに留めていた思いが、溢れるように口をついて出てしまう。自ら蒔いた種なのに、愚癡を聞かされる久坂も迷だろう。言ってしまってからそう思い、今度は自己嫌悪に陥る柚。
「……あ、ははっ、バチが當たったのかな? うん、どうしよっか? もしこのままずっと閉じこめられたままだったら……ずっと、出られなくて、あけみんもこのままでッ、あ、アタシのせいで……っ」
無理におどけてみようとしても、駄目。
どころか変にを刺激してしまったせいか、余計なものまで目から溢れそうになる。
ツン、とする鼻の奧。
あ、まずい。と思い、知らず伏せられていた顔を無理に上げ――
「――って、あれぇ!? ちょっと待って久坂君ッ、置いてかないでぇッ?!!」
いつの間にか廊下のはしまで進んでいた久坂に気づき、慌てて追いかける。
こぼれそうになっていた涙も、これには引っこまざるをえず。
「あ? なんだ古幸、どうかしたか?」
「どうかしてたよ! 乙の揺れるココロをせつせつとさらけ出してたよッ! めてとは言わないけどせめて聞いててッ?!」
そばに行き、しれっと問いかける彼につっこみ、それから膝に両手をつく柚。
本當に、ちょっとつれないのはわかっていたけれど、本當に……っ。
「……もうっ、いいんだけど――って待って、よくない! あけみんあのままでいいのッ?」
などと思いつつも一旦落ち著こうとし、しかしはたと気づいてまた慌てる彼。
対する久坂の返答は、
「いいんじゃねえ? どのみち今はどうにも出來ねえし」
「い、いやそうだけど……でもあの、苦しそうだったし……」
「つまり生きちゃあいるわけだ。生きてんならとりあえず、どうとでもなる」
なんとも、あんまりといえば、あんまりなもの。
唖然とする柚を見かねたのか、久坂は頭をかきながら言う。
「……別に喜連川を見捨てようってんじゃねえよ。ただこの狀況をどうにかしてえんなら、元を絶つのが手っ取り早いんじゃねえかな、やっぱ」
「元ってやっぱり……寫真のあの、の人?」
「だろうな、たぶん」
たしかに言われてみれば、なるほどと思える彼の考え。
同時に柚は、し驚く。
(解決する気、だったんだ。久坂君はこの事態を、たぶん起こったその時からずっと……)
あらためて、思う。
久坂はやはり、この狀況にまったく“じていない”。
そしてその平靜さで、この事態をなんとかしようとき続けている。
恐怖と揺、それにしの非日常で浮ついていた自分とは、心構えが本から違うのだと、柚はそう思い知ってしまう。
(ただじないから安心があるんじゃなくて、久坂君のそういうところにきっと、アタシは……)
ああ、これはもう、
本當に、どうしようもない。
いくら親友に悪いと思えど、その親友が現在進行形で苦しんでいたとしても、
やはり柚は、
自分の中にもある初めての気持ちを、どうにも抑えられそうには、なくなっていた。
「たぶんついでに、その元のいる場所ももう近いんじゃねえかな。――それこそこの、扉の向こうとかな」
頬の熱さに、もしかしたら顔が赤くなっているかもしれないと、柚は危懼する。
しかし久坂はドアの方を向いており、彼を見てはいない。
ほっとしたような、し殘念なような。
「――ッ、……えっと、どうしてそう思うのかな?」
また浮ついている気持ちをどうにか切り替え、あくまで自然な會話に努める柚。
「そりゃ、……あれだ、勘」
「……ふふっ、勘って……もうっ、肝心なトコで頼りないなぁッ」
「ほっとけ」
いつものようなノリに戻って、ようやくしだけ張が解れたような気がする彼は、
口では茶化しながらも、心ので目の前の男の子に謝する。
同時に気を、引き締める。
惚れた腫れたは、この事態が解決してから。
一緒に無事に出られるだろう、親友かつ好敵手(ライバル)になってしまった彼とも、當然向き合いつつ。
次話からはまた、二十五時間後の投稿です。
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