《現実でレベル上げてどうすんだremix》厳児くん検証中

今日も今日とて、夏休み。

ここところの俺は、連日例の廃工場へと通っている。〔結界〕が使えるようになり人目を気にする必要もなくなったので、魔法などの超常現象を大っぴらに試せるようになったのが、やはり大きい。

現在も〔錬魔〕というmagicを試している。

これは一言でいえば“magicを質化する”魔法だ。他の魔法との併用が前提の“magicに作用するmagic”という、々特殊な分類といえる。

手順としては、まず〔錬魔〕と念じ、次いで対象のmagicを選び念じる。つまり〔錬魔〕を使う場合は対象の魔法分のMPも必要になるわけで、そこはまあ、そういうものと思ってれるしかない。

そうして〔錬魔〕とともに発したmagicは、まるでのようにふるまう。ったり摑んだりはもちろん、引っぱってばしたり曲げたりも出來る。とくに指定のない場合はゆるめの粘土というか粘度の高い狀というじだが、俺の意志一つで固めたり、形狀を保持したりもできる。

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またわざわざねたりなどしなくとも、者のイメージを形に反映することも可能。

……なんだが、どうもその造形は者の想像力によるようで、つまりそこが貧困な俺の場合、あまり複雑な形狀には変化させられない。

「これはこれで、面白くはあるが」

今も通りがかった貓を再現しようとしてみたが、かろうじて“ねこ”と呼べなくもない形にするのが関の山だった。〔結界〕を素通りして近づき、興味なさげに去っていくそのお手本。出り制限は人間にしかかけていないので、彼(彼?)らはその限りではないのだ。

ちなみに今手元にあるのは、〔魔玉〕を〔錬魔〕したもの。一通り試したが、どうもこの〔魔玉錬魔〕が全magic中最も重く、かつ丈夫そうな印象がある。

というか他のものはやや扱いづらく、たとえば〔火炎〕を〔錬魔〕した時は――

『――あつ、あっつ!』

このように、熱くて持てたもんじゃなかった。當然っちゃ當然だが。

〔雷鳴〕や〔氷結〕も同様の理由で扱いづらく、また〔衝撃〕などは見えない上にちょっと力を加えると破裂するという危険となった。指とかぐっちゃぐちゃになるのは、さすがにもう遠慮したい。

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他に追記として、〔錬魔〕は対象とできるmagicが決まっているらしい。的には上で挙がったもののほか、〔蛍〕や〔治癒〕、意外なところでは〔睡眠〕とか〔瘴毒〕なんかも可能。逆に〔防壁〕や〔障壁〕、〔消音〕や〔幻影〕なんかは不可。まあ“無音の塊”とか意味不明か。

例によって〔睡眠〕や〔瘴毒〕の〔錬魔〕もれがたい危険なのだが(持っていると眠くなったり、気分が悪くなる)、ちょっとおかしな質があったのは、〔治癒錬魔〕

『? ……』

なんかこう、いい匂いがした。

『――うまい!』

まさかと思って齧ったら、食えた。

……いや自分でもなにやってんだと思うが、なんかいけそうな気がしたのだから、しかたない。

ちなみに味はほんのり甘く……なんかこう、昔似た味の駄菓子を食べた記憶があるのだが……思い出せない。ついでに腹なども壊していないので、に害もないのだろう。むしろその後數日ほど、腹の調子がよかったまである。

ともあれ、そんなじで遊んでいる今日このごろ。

魔法以外では【霊召喚】なんかも一日一回、なにが出るかな覚で試している。

ちなみに今日出て來たのは、こいつ。

「ホホホ! サマナーってば造形センスがダメダメホー!」

「サマナー呼びはやめろ。ほんとに」

――status――

name:フロス

age:― sex:M

class:氷の

cond:通常

Lv:80

EXP:― NXT:―

HP: 5/ 5

MP: 5/ 5

ATK:319

DEF:324

TEC:321

SOR:320

AGL:325

LUC:Normal

SP: 2430/ 3240

――magic――

〔弱力〕〔凍眠〕〔永続〕〔停止〕

――special――

【凍息】【氷像】【雪

【氷屬】【脆い】

【寒帯】【隠行】

【冬將軍】

氷の霊、フロス。

本人はフロスホ(・)と名乗りたいらしいが、諸々の懸念に駆られたため、認めず。

姿形はざっくり言えば“手足の生えた雪だるま”。背の高さは俺の半分程度で、ずんぐりむっくり。悪魔的な頭巾はかぶっていない。というかかぶっていたら駄目だろう。本気で。

「どれしかたないホ。オイラがゲージツの手本見せちゃるホー。エイホー!」

「あ、おい。勝手にSP使うんじゃねえ」

「ホホホホ! ゴメンホー!」

かけ聲とともにぴょんと跳んで一回転、著地し天を指差すフロス。

そうして発した【氷像】の効果で、どこからともなく落ちてくる氷塊。“任意の形の氷を作る力”――それによって生されたのは等大のフロス像で……おい頭巾かぶってるじゃねえか。いい加減にしろ。

このように、霊というのは俺の力のくせに、しばしば召喚者の意志とは無関係に勝手にく。いちいち指示を出さずとも自律的にいてくれる……そのへんは利點といえるが、痛ししか。

けど好き勝手くのは、こうやってのんきしてる現狀だからだとは思う。差し迫った狀況でふざけるようなことはさすがにないだろう。……たぶん。

「ほんとに邪魔なら送還すりゃいいしな」

「ヒッ!? 殺生なホ! 気さくな相棒(サイドキック)のただの可いおちゃめなホに!」

「……その口調無理ねえか?」

「キャラは創りすぎくらいでちょうどいいんだホー!」

はあ、と〔魔玉錬魔〕をねながら溜息。しかしサンショといいこいつといい、なんでこんな賑やかというか、機嫌な格してるのやら。仮にも俺から生じたものなら、もっと不想だったりしそうなものだが。

(俺のなる願の発とか、そういうんじゃねえだろうな……?)

……。

あまり愉快なじにならなそうな発想を、頭を振って打ち消し、切り替えていく。

そうして自分のステータスボードのmagic欄、その一箇所に目を落とす。

「……そろそろ、試してみっか。こっちの魔法」

「ホ?」

〔蘇生〕

読んで字のごとく、“死者を蘇らせる”魔法。

「聖人認定待ったなしだな」

「キミが聖人なんて、マッポーもいいとこだホね」

いつぞやの宗教おばさんなど目じゃないくらい信者を集められそうな力……そう思えるが、実際はそこまで奇跡験というか、霊験あらたかな力でもない。

まず〔蘇生〕可能な人間は、限られる。

簡単にいえば“者がその死に際を認識した人間”か。

俺の知らないいつかのどこかで死んだような人間は、當然ながら〔蘇生〕不可だ。

また仮に俺がその死に際に立ち會ったことがあっても、“レベル上昇以前に死んだ人間”については、これも〔蘇生〕できない。力が及ぶ範囲は“システム”適用後から――おそらくはそんなところだろう。

他にも“壽命で死んだ人間”は〔蘇生〕対象外など、わりと制限は多い。

要は実質的に生き返らせることが可能なのは……

(“俺が殺した人間”だけか。今んとこ)

必然、そうなる。

ならばさて、検証のために生き返らせる対象は、誰がいいか。

〈name:??? class:大喰 cond:死亡 Lv:53 HP:0〉

〈name:佐々井 霧 class:占星師 cond:死亡 Lv:2 HP:0〉

〈name:利原 若 class:外道 cond:死亡 Lv:0 HP:0〉

〈name:連河 那 class:工作員 cond:死亡 Lv:14 HP:0〉

〔蘇生〕と念じると、こんなメッセージボードが現れる。

見てのとおり、これまで殺した奴らが最近のものから並んでおり、つまりこれが取りも直さず〔蘇生〕可能な対象のリスト。ちなみにこれはいわゆる“待機狀態”であり、実際に〔蘇生〕を発をするまでMPの消費はない。このままボードを消して“キャンセル”することも可能だ。

もうひとつ見ればわかることとして、あの“幽霊屋敷”の元兇は載っていない。要は“不死者”も〔蘇生〕対象外。それをしめすように、前に殺した(滅した?)他の幽霊もリストの中には見つけられなかった。

あるいは“殺害履歴”とも呼べるリスト。

高さとしては四、五段のそれは意志一つでスクロールでき、

〈name:中田 広気 class:未覚醒 cond:死亡 Lv:1 HP:0〉

〈name:杉川 養二 class:未覚醒 cond:死亡 Lv:1 HP:0〉

〈name:林 一 class:未覚醒 cond:死亡 Lv:1 HP:0〉

〈name:谷部 良彥 class:未覚醒 cond:死亡 Lv:1 HP:0〉

最下段、最も古い履歴。

つまりは最初に殺した先輩方。思えば隨分と前のことにじる。つか名前初めて知ったかも。

「ん? “未覚醒”に“Lv:1”……?」

ふと目につき疑問を覚え、し考えてその理由に思い至る。

『キミが殺したその四人、どうも覚醒前の“システム”該當者――つまりキミの言う“レベル持ち”だったようだ。そして適応されるはずだったclassはそれぞれ、“戦士”、“魔師”、“僧”、そして“盜賊”』

連中も“レベル持ち”だったという、ミコトの言葉が思い起こされる。つまり誰も殺していない該當者の場合、こういう表示になるわけか。

となると“レベル持ち”とそうでない人間は、明確に見分けられることになる。

もはや確認のしようはないが、俺も連中を殺す前は“Lv:1”だったのだろう。

そういえば、

俺の本來の“class”は、いったいなんなのだろう。

今の俺のmagic、specialは、こいつらの力を得てしまった結果だという。

ならば必然、“そうならなかった場合”の、元の俺のclassもあると考えられる。

というか今持っている力のどれかは、こいつらによらない俺の力かもしれない、か。

「……まあいいか」

し考え、別にたいした問題でもないかと思い直す。

力が誰由來だろうと、使う分には別に関係なし。

そもそもこの“レベルによる力”、誰由來かというならその“製作者”由來が正しかろう。

そんなことより今は〔蘇生〕だ。

誰に試したもんかといえば……

「こいつらでいいか」

そのまま今見えている、最初に殺した先輩方にでもしておこう。下手にLvが高い奴を蘇らせて、変に抵抗されても面倒だ。

と、そうだ。念のため〔結界〕の條件をし書き換えて……

あらためてリスト最下段、一番初めに殺した奴に、〔蘇生〕を発

同時に眼前にまばゆいが生じる。ちょうど人間大のそれが徐々に人型をなしていき――

「――う、あ?」

ややあってそれは完全にあの先輩方のうちの一人の姿をとる。そういえば死が消えたのにどう蘇るのかとも思っていたが、そうか。普通にこう、なにもないところから再出現するのか。

「……あ? なんだ、これ? ここ、あの廃工場か……? なんでここにいんだっけ……ってかなんかだりぃし、あちぃ! なんなんだぁ……!?」

あたりを見まわし、うろたえた様子の先輩。次いで鬱陶しげに學ランの上著をいでいる。五月に殺され、以降ずっと消滅していた先輩。向こうからすれば季節がいきなり飛んだようなものだし、當然の反応といえば、そうか。

「――あ、おめぇ! そーだ、おめーがなんか來て……おい、他のヤツらはどこ行ったんだ?! なんで俺しかいねーんだよ、おい!」

ようやくというじで、こちらの存在に気づく先輩。

狼狽を苛立ちで誤魔化すように、威勢よく俺へと詰め寄ろうとしたので、

「〔影〕」

「?!」

魔法でその足を止めてみる。

〔影〕――いわゆる狀態異常系。にょにょにょっ、と黒い紐のようなものが地面を走り、ずびずばっ、と先輩の影をいつけるようにする。

「ぐっ……んだよ、これっ、なんでか……っ!」

歩く途中の姿勢で、ぴたりと止まる先輩。

必死の形相でもがこうとしても、指の一本さえかせない様子。

「ホーホ! いきなりエグいホー、サマナー! 普通なら絶対筋痛になる姿勢ホね」

「ああっ!? んだよそのヘンなの?! 著ぐるみっ……?」

「ヘンなポーズのヤツに言われたくないホ! ホホホー!」

そこへ近づき、その顔を覗きこむように下から見上げて笑うフロス。……いや笑ってんのか? 聲はそんなじなんだが、適當な造形の炭をりつけただけのような目と口がくことはないので、はっきりとはいえない。強いていえば、常に笑顔っぽくはある。

そんなフロスに今更のように気づき、面食らっている先輩。

しかし、なんとなく魔法できを封じたわけだが……

……うん、そうだな。

この際先輩を実験臺に、いろいろと試してみるのもいいかもしれない。

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