《現実でレベル上げてどうすんだremix》異常ことごとく
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現在俺が使える中で、他者に不利な狀態異常を與えるmagicは八つ。
〔睡眠〕〔瘴毒〕〔放棄〕〔曝〕〔影〕〔鈍速〕〔塩柱〕〔停止〕がそれ。
他に〔消音〕、〔不〕や〔倍速〕なんかもcondを変化させるが、これらは一概に不利といえる狀態でもないため、今は除外。あとは〔即死〕なんかも分類としては同じだが、與えるのが“cond:死亡”でなんかが違うので、これも今は考えない。
さて、これらに共通するのは、その否が確率であるという點。
単純な攻撃魔法とは違い、當たれば必ず効果を発揮するわけではない。
なので正味な話、〔火炎〕などより信頼は低い。というか俺が他者に攻撃的な魔法を使うのはまずそいつを殺す場合なので、わざわざ使う理由もないといえば、ない。
それでも持っている以上は、使ってみたくなるのが人(?)。
ということでこれら狀態異常系がどのくらいの功率なのか、検証を始めた。
被検はもちろん、今まで殺した人間を〔蘇生〕して用意する。
そうして數日かけて調べた結果を、以下に記す。
まず最初にわかったのは、Lvが0や1の相手にはほぼ100%功するということ。
いきなり“否は確率”の前提が崩れてしまうが、そう思われたのだからしかたない。
それと“ほぼ100%”といったが、実際には一度も失敗していない。MP量となにより俺の飽きにより、試した回數は魔法一種につき多くてもせいぜい數十回程度。百回とか千回とか、十分な度を得られるほど試したとは言いがたいので“ほぼ”とした。
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では、おそらくは本來の仕様どおり“否が確率”となるのは、どんな場合か。
當然というか、“レベル持ち”相手に使った時だ。
こちらも度を上げようと腐心したわけでもない、あくまで程度の確率だが――
〔睡眠〕と〔瘴毒〕がだいたい功率六割くらいで、
〔放棄〕と〔曝〕は、おそらく半々。
〔影〕はそれよりもうし低く、〔鈍速〕はさらに低い。
そして〔塩柱〕と〔停止〕は、たぶん三割もないと思われる。
ついでにつけ加えると〔即死〕は二割を切るのではないか。
重ねていうが、度はお末。けど俺としてはこれで「こんなもんか」という納得は得たので、これ以上突き詰めることはないだろう。気が向いたら、またやるかもしれないが。
ちなみにこれも當然かもしれないが、相手のLvが高いほど功率は下がっていく……と思われる。こちらも重ねていうが以下同文。
そういえば、各狀態異常の的な効果について説明しておくべきだろうか。
……さっきから誰に語りかけているのかやらという話だが、さておき。
まず〔睡眠〕によって引き起こされる“cond:睡眠”
これは普通に寢るのと同じ狀態という認識で、まあ構わない。以前、魔法による“cond:睡眠”は自然に覚めることがないのではないか、となんとなく思っていたがこれは誤りで、覚める時は覚めるらしい。
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続いて〔瘴毒〕でかかる“cond:毒”
HPが時間とともに徐々に減るという、さもありなんな効果だ。普通の“Lv:0”の人間の場合、そのままなにもしなければだいたい三分ほどで死に至る。どうも割合ダメージとかではないらしく、“レベル持ち”相手だとそれ相応の時間がかかる。つまり有りにいえば、毆った方が早い。
〔放棄〕と〔曝〕は以前にも説明したか。それぞれ“cond:武”“cond:飾”となり、武防が外れ裝備不可になる。海水浴の際、喜連川ら子に今かけたらどうなるのだろうと、ちょっと思ったのは緒だ。
〔影〕はつい最近も使った、きの一切を封じる“cond:影”にする魔法。これの特徴は、影がない場合には無効という點か。真っ暗闇の夜中だと、なにか源を用意する必要がある。
〔停止〕もきを止めるのは同じだが、こちらは“対象の時間を止める”効果。本當に時間が止まったら星の自転とは逆方向にぶっ飛んでいきそうだが、そうはならないのでご安心だ。
ちなみにこれと〔鈍速〕、〔倍速〕は同じ系統の、時間に関する魔法といえる。こちらの二つはそれぞれ、対象の速度が二分の一または二倍になる。
最後に〔塩柱〕
これは対象を形はそのままに、塩でできた像に変えてしまう。ゲームなんかでいう石化のような扱いなのだろうが……なんで塩なのやら。々に砕いてしまうと“死亡”扱いになるらしく、ほどなく消滅する。塩の結晶なのでそれなりにいが均質ではなく、砕くこと自は俺には容易。普通の人間――Lv:0でも、道などがあればそこまで難しくないだろう。
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これらの他に、霊がそれぞれひとつ程度、狀態異常のmagicを所持していたりする。たとえばサンショなんかは俺と同じ〔瘴毒〕持ちだが、フロスの〔凍眠〕のように獨自の異常をかける魔法持ちもいるようだ。
霊ついでに話を移すが、サンショは他に〔蘇生〕も使える。
〔蘇生〕はその効果だけにMP消費が多く、最大値の20%という割合固定となっている。
このようにMPを食う魔法については、霊を呼んで使った方があるいは安上がりかもしれない。
さらにもう一つ話を移して、魔法のMP消費についてしめしておこうか。
――magic――
〔治癒〕〔蛍〕〔浄化〕〔火炎〕〔雷鳴〕〔氷結〕1
〔賦活〕〔解除〕〔防壁〕〔睡眠〕〔瘴毒〕〔消音〕2
〔醫療〕〔守護〕〔障壁〕〔衝撃〕〔影無〕〔幻奏〕3
〔悠揚〕〔彩〕〔放棄〕〔魔玉〕〔幻影〕〔暗闇〕4
〔天恩〕〔示現〕〔曝〕〔吸魔〕〔影〕〔魔封〕5
〔蘇生〕〔極〕〔城塞〕〔即死〕〔隕星〕〔業寄〕6
〔仮初〕〔製薬〕〔注〕〔収納〕〔念〕〔鈍速〕8
〔獣化〕〔読心〕〔錬魔〕〔替〕〔歩加〕〔不〕16
〔〕〔忘卻〕〔反転〕〔転移〕〔結界〕〔倍速〕24
〔塩柱〕〔自〕〔核熱〕〔復元〕〔反〕〔停止〕32
基本的には、行ごとに右に記した値のMPを消費する。
例外は〔蘇生〕〔収納〕〔念〕の三つか。
〔蘇生〕は上記のとおり。〔収納〕は品の出しれ一回につき1。
〔念〕は“対象を任意にかす”いわゆるサイコキネシスそのままな魔法。これは対象の重さ、そしてかす距離と速度に応じたMP消費となる。
ある日、連日の廃工場通いからの帰宅の折。
彌が珍しく玄関先まで出迎えてきたと思いきや、
「警察?」
その口から出てきた単語に俺はやや面食らい、思わず鸚鵡返しにしてしまう。
なんでも俺が留守の間に訪ねてきて、話を聞きたい様子だったとか。
「兄キ、なんかしたの?」
「いや……」
したというなら滅茶苦茶やらかしているが、言えるわけもなく口ごもるしかなく。
殺しが見した? まずそう思ったが、話によれば訪ねてきたのは生活安全課の刑事だというので、そこは除外できそう。
ならば廃工場への出りを見咎められたか。けど近頃あそこへは向かう際は、魔法で姿を隠している。周辺にひとけがないのも【マッパー】で確認しているし、見られた可能は限りなく低い。
他になにかあるとしたら……それこそ五月の件までさかのぼるか。
喜連川らと近しくなってしまったきっかけ。不審者を殺したあとでお巡りさんに聲をかけられたのが、かろうじて思い當たる俺と憲の関わり。
あの時じつは怪しまれていて、俺が知らぬ間に警察がいていたとしたら……
「……」
「兄キ?」
「や、なんでもねえ」
「ん」
なんとなく妹の頭をぽん、とひとつ手で押さえるようにし、それから自室へと向かう。
そして思う。用があるというのならいっそ、こちらから出頭してみようか、と。
翌日俺は、Q県警察署前にいた。
ただしそれに気づく人間は、おそらくいない。現在の俺は〔消音〕+〔影無〕狀態。ここへ來る途中ので使ったそれらが、俺の存在を限りなく観測不可能なものにしている。
昨日の“出頭”というのは言葉の綾で、別に自首しようという気になったわけでなく。
どころか警察の聴取をけに來たのですらない。せっかく便利な力があるのだし、それを活用して一方的に報を得ようという蟲のよい算段だ。
ではいざ公権力へ潛捜査――というところで、はたと止まる足。
正面玄関は自ドアだが、はたしてこのまま開けていいものか。
ガラス戸の向こうに見える何人かの警察職員。
ここで俺が普通にれば、彼らが見るのは勝手に開く自ドア。
普通に不合と思ってくれればそれでいいが、もしなにか怪しまれたら。
というかそもそもこの狀態、自ドアは反応するんだろうか。重知なら問題ないが、赤外線とかだと、どうなんだ? ……警察施設にるのがはじめてだからか、変にいろいろ用心してしまう。
そこへちょうど、署へろうとする人がやって來る。
渡りに船と、その人と一緒に俺も署へ。第一関門突破(大袈裟)。
掲示やらを頼りに、生活安全課の場所を探して向かう。
もちろん人にぶつかったりなどしないよう、ほどほどに気をつけて。
今の俺は無音明というだけで、存在そのものが消えたわけじゃない。られれば當然ばれるし、あるいは空気のきなんかでも不審に思われるかもしれない。
目が見えない人とかいたら気づかれるかもな、とか思いつつ、魔法の効果時間も考慮して適宜かけ直しつつ、ほどなく目的の場所へ。
「――じゃあ、さっそく行きますか? 先輩」
「ああ。また外出されちゃかなわんからな。々早いが……都合や迷を考えてもいられんし」
廊下からって早々、それらしい會話が聞こえてくる。三十代くらいと、それよりし若そうな男の二人組。ちなみに現在、大出勤通學とかの時間帯。俺が出かけるのを見越して早めに訪ねてくるのを、さらに見越してかなり早めにここへ向かった甲斐はあったか。
先輩と呼ばれた男が今ちょうど立ち上がった、その席の機の上が目につく。
そこにいくつか広げられた資料、
そしてそのあと二人について行き、道中で盜み聞きした會話。
それらによれば、現在Q県警生活安全課は失蹤事件の捜査に追われているという。
そしてその失蹤者とは十中八九“レベル持ち”に殺された者達だ。俺に殺された奴らはもちろん、槍男や宗教おばさん、あるいは“車座”に殺された者もふくまれると思われる。
車に乗りこみ、おそらく俺の家へと向かった二人の刑事。
それを見送りつつ俺は、なんとももうしわけない気持ちになる。
絶対に見つかりっこない失蹤者の捜索。
その徒労たるや、いまだ社會に出ていない俺には計り知れない。
思えば俺の勝手な行は、どれだけの人間にどれほどの迷をこうむらせているのだろう。
……そう反省のひとつでもすれば殊勝なのだろうが、
この期に及んでも俺にはやはり、そこまで深刻になれもしない。それを自覚。
多もうしわけないとは思えど、あくまで多。
心からの謝罪とか、贖罪とか、
そういう気に一切ならないのは、我ながら本當にどうしようもない。
その代わり、というわけでもないが、
かねてより考えていたことを、そろそろ実行してみようかと、俺は決める。
〔忘卻〕という魔法がある。
その効果は文字通り“記憶を消去する”というもの。なんとなく狀態異常っぽいじでその否も確率だが、これをかけてもその対象に“cond”の異常は現れない。
ただ、記憶を消す。
いうなればこれは、狀態異常というより〔火炎〕等の攻撃魔法に近いのかもしれない。
脳に損傷(ダメージ)を與える魔法。
しかもそれは、〔治癒〕等では治らない不可逆の変化だ。
記憶の消し方は、二通りから選択できる。
一つは、ある時點から時點までの、時間的に連続した期間の記憶。
そしてもう一つは、ある事柄とそれに関連する記憶すべて。
要は考えていたこととは、俺が今まで殺した奴の解放。
殺した人間を〔蘇生〕し〔忘卻〕をかけ、“俺に関する記憶”を消してしまおうという目論見。
そうすれば殘るのは、ただの行方不明者。
失蹤期間はもちろん、“俺に殺されたこと”もふくめて記憶を喪失した狀態の。
罪滅ぼしとは到底いえず、どころか自己保極まる行でさえあるが、これで警察の負擔をしでも減らせるのならとも、ほんのしは思っている。
ただし全員蘇らせるつもりはない。
まず“レベル持ち”は除外。下手に放り出して、どこぞで力をつけられてまた殺し合いになるのも面倒だ。一度殺した相手からはEXPは得られないようだし、骨折り損は勘弁願いたい。
あとは喜連川に付きまとっていた不審者も、蘇らすと余計な面倒が生じそうなので除外。
もっと面倒を生みそうな“切り裂きキラー(しろいの)”も、當然論外だ。
つまり〔蘇生〕するのは、先輩方と宗教おばさんの手下ということになるか。手下中年達はおばさんがいなければ無害だろうし、先輩方も俺を覚えていなければ絡んでこないだろう。というか正直、心底どうでもいい。
ともあれ警察署を訪ねたその日から、早速俺は解放運に従事することに。
手順は単純。
市の適當なひとけのない場所で、〔蘇生〕のちに〔睡眠〕、〔忘卻〕をかけるだけ。
あとは対象が寢てる間に、俺はその場を離。〔蘇生〕者は土地勘もないだろう街はずれで目覚め、かつ自力で家なりに帰らねばならなくなるだろうが、そこまでは俺の知ったことではない。
MP量もあるので全員一度に解放は出來ないが、むしろその方がいいともいえるか。時間も場所もばらけさせて〔蘇生〕すれば、狀況のほどよい撹になりそうだ。……結局、警察には余計な混を振りまくことにもなりそうだが。
なお、廃工場は〔蘇生〕場所から除外する。捜査とかで人が來たら邪魔だし。
となると先輩方からは、俺に加えて廃工場の記憶も消しておかねばならないか。來たら邪魔だし。
そうして始めた解放運を、俺は十日ほどかけて終わらせた。
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