《現実でレベル上げてどうすんだremix》なんかそういう雰囲気(錯覚)

「お待ちどお……なんだ二人して、その顔」

人數分のコーヒーとシロップにミルク、あとは軽く摘まめるものなども用意して持ってきて、

部屋に戻ると、なんともいえない表をした子二人が、俺の目にる。

「やー、なんと言いますか……」

「……うん、なんか、すごいなと思って。久坂君の妹さん」

「ああ」

ちゃぶ臺の上に広げられていたノートやらを一旦避けさせ、代わりに飲みなどを並べつつ、俺は古幸らの呟きに軽く返事。

そうして座るのは、卓のより空いている方。最初とは対面の位置に著く俺になんとなく言いたげにする二人を、ひとまず無視しつつ會話を続ける。

「顔でも出しに來たか? あいつが」

「そう、だね。釘を刺しに來たというか……」

「釘?」

「な、なんでもないですっ」

「? ノックしねえだろ、あいつ。癖みたいだからまあ、大目に見てやってくれ」

喜連川らの様子が若干おかしいのは、あるいは彌になにか言われたからかもしれない。あいつの言葉は時に剝きの刃なので、慣れない奴は面食らうだろう。

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……あんな不想なのに、人づき合いが不得手というわけでもねえんだよな、彌。なくとも俺なんかよりはずっと世渡り上手というか、いや俺と比べたら下手な奴のがないか。

「……じつは久坂君って、シスコンだったりする?」

「ぶち殺すぞ古幸」

「!?」

「まあ冗談は置いて普通ってか、そんな仲良しってじでもねえんじゃねえかな」

「そう、なの?」

「普段あんま話すわけでもなし。だいたいどこもこんなもん、っつう年頃の兄妹だよ」

「うーん、私は一人っ子だからピンと來ないけど……」

言いながら喜連川が目を向けるのは、なかば本気目の殺意のこもったつっこみにいまだすくみ上がっている古幸の方。

視線をけはっとして、それから彼は答える。

「――あ、ウチ? ウチはたぶん余所より仲よさ目だから、“普通”のサンプルにはならないかも」

「きょうだいいたんだな、お前。末っ子?」

「え? たしかにそうだけど……なーんでそう思ったんですか久坂君っ? こりゃ! スッと目を逸らすでないッ!」

びびびび、とびんたかまそうとする古幸を、おざなりに手で払っておく。なぜと問われればまさにこういうところが、なんとなくそれっぽい印象を與えるわけだが。

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「そういえば、しおちゃんも末っ子だよね」

「またすげえそれっぽいな」

「『また』って! ――あ、ついでに言えばスグル君も、三人兄弟の一番下だね」

「へえ、そりゃ、……へえ」

「景人君も、お姉さんがいるから末っ子といえなくもない……?」

「そか。……ってことは久坂君だけが、唯一のお兄ちゃんなんだ」

流れで判明していく皆の家族というか、きょうだい構

ちなみに古幸は姉、兄の順番で三人、志條は兄、姉の順番でこれまた三人きょうだいだという。

「それにしても……」

ふと、話題の転換を図る古幸。

「――めちゃんこカワイイよね、久坂君の妹ちゃん。ねね、あんな妹さんじゃさ、やっぱ久坂君も気が気でないんでない?」

「?」

「『?』でなくて! 絶対モテるでしょあれ! 『お前みたいな奴に妹はやらん!』とかないの!? あるでしょッ?!」

「なんで俺が妹の際云々に首突っこまにゃならねんだ?」

「アタシあんな妹いたらめっちゃ可がるんですけど? ゼッタイお嫁に出したくないんですけどッ?!」

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「手前は何様だ」

そして徐々に、無暗に白熱していく。

後半のたわ言はさておき、彌がもてるのはご指摘のとおり。しかし何人にも告白されているらしいが、けたという話は思えば一度も聞かない。中には結構な評判の男子もいたというし、一度くらいなら試しにつきあってみても……とかはなかったんだろうか。

まあ“試し”とか、あまり不義理なのも気が進まなかったんだろう。真面目な奴だし。

「ナリヤさん、って言ってたよね? ね、字はどう書くの?」

「將棋のるに彌次喜多の彌」

「たとえっ。……けどふむなるほど、彌ちゃん、か。それで、ご趣味のほどは?」

「……なに企んでんだ?」

喜連川もまた興味津々に話に乗ってくる。そちらの問いは無難なので正直に答えるが、なにやら含みがありそうな古幸の方に対しては、質問に質問で返しておく。

「心外なッ。アタシはただめちゃんこでたいだけ――ッ!」

「あ、もしかしてそっちの趣味……」

「あーりまーせんー! というか久坂君、アタシのこの目が不埒なコト考えてるように見えるッ?」

ずいっ、と出てきっ、と睨みつけてくる古幸を、ひとまずそのまま見返す。

とはいえそんなことしても他人の心などわかるはずもなし。〔読心〕使えば別だが、今日はなんとなく魔法とか使わない日と決めている。てか変な効果出るしな、あれも。

見つめ合ううち恥ずかしくなったのか、先に古幸の方が顔を赤らめ気まずげに目を逸らす。もっとみせろ運部。

「そっ、そういえば!」

不意に、喜連川の割りこむような聲。

「久坂君のお母さんも、すっごい綺麗な聲してたよね? あの、前に電話した時に聞いたんだけど……」

「ホント!? つまり母にしてあの娘あり? そこんとこどーなの久坂君ッ?!」

話題はなぜか、我が母親へ転換。

前の電話というと、五月の不審者の時の帰りか。たしかにあれはうちの母親が最初に取ってたな。

てか古幸もそうだが、表からして喜連川も結構食いついてきてるな、この話題。

「どうって……ああそういや」

「なになにっ?」

「昔近所の子供に『魔だ!』っつわれて泣かれて、へこんでたな、うちの母親」

「~~人かどうか微妙にわかりにくいエピソードッ!」

どう答えようか考えていたら、ふと思い出した昔話。それに対してのつっこみは、古幸から。

種を明かせば、うちの母親もまた無意味に人だ。ただし々きつめの顔立ちを、當人は気にしているようだが。

「そのお母様は今、ご在宅でいらっしゃらない?」

「いらっしゃらない。買いだかなんだか……帰ってくんのも、たぶん夕方くらいだろうな」

「じゃさじゃさ、アルバムとかないの? 家族寫真とかさッ?」

「なんなんだお前のその探求心」

を尊ぶのは心の栄養なの! あけみんしおりんの親友やってるのも半分くらいはそのためなんだからッ!」

「そうだったのっ?!」

親友の大膽な癖の告白に、驚愕の喜連川。まあ古幸も表からして、半分くらいは冗談で言っているのだろうが。つまり半分、真に迫っている。

つうかだなんだ言うならお前も十分そうだろうが。鏡でも眺めてろ。

「ともかくそーいうわけだからさ? 妹ちゃんをアタシに紹介してくださいよお兄ちゃん☆」

「次お兄ちゃんっつったら千切るぞ」

「どこを?!」

「あ、あの~久坂君? 私もちょっと、彌さんと話してみたりしたいかなって……だめ、かな?」

「……」

なんというか、やたら食い下がってくるな、こいつら。

しかし思えば彌、昔から妙に人のある奴だった。とはいえ無暗に好かれるのも善し悪しだろうし、羨ましいという気持ちはまったく湧かない。むしろ愁傷様か。

「はあ。つか、親しくしたけりゃ勝手にすりゃいいじゃねえか。いちいち俺を通そうとせんでも」

「それは……」

「……ねえ?」

別に彌は蕓能人でもないし、俺もその代理人というわけでもない。友達づき合いしたいならいくらでもすればいいし、わざわざ俺を挾んでやりとりする必要もない。

そう思って指摘すれば、なにやら歯切れ悪い反応の二人。

それを見てひとつ、ぴんと來る。

「ああ。お前ら彌にびびってんのか」

「――!?」

「そそ、そんなこと……ッ」

図星らしい。

慌てて取り繕う二人へじっと視線を注げば、

「だだだだってなんか、妙なオーラがあるんだもん! それこそ學當初の久坂君の話しかけんなオーラと同等、いやそれ以上のッ!」

「~~っ」

「なんだそりゃ」

目を潤ませて訴える古幸と、こくこく頷きそれに同意する喜連川。言いたいことはたしかにわかるが、しかしそのうえでなおお近づきになりたいというのはなんというか、倒錯してないか?

「ほら、ライオンとか見ると正直モフりたいじゃん? でも絶対危ないじゃん? そんなじ」

「じゃん? っつわれてもな」

妙なたとえ話に、思わず溜息。ライオンといえば彌、の映像とか番組とか、よく見てるような。わりと真剣な表で、じっと。同族意識? なわけねえか。

よしなし事を頭からうっちゃり、卓上にノート等を並べなおす。

「およ? もう休憩終わり?」

「十分だろ。時計見ろ時計」

「えっと……わ、結構経ってたんだねっ」

というわけで、勉強再開。

俺の指摘に自分の端末を確認した二人も、経過時間に軽く驚きつついそいそと準備を始める。

それから三十分ほどのち、

(阿呆か、俺は)

己の迂闊さに呆れる俺、一人。

「……」

「……」

その両脇、至近距離には喜連川と古幸、またしても。

俺が逆側に移したことで三者とも等間隔くらいに戻っていたはずなのに、気づけばこの有様。

著するまでの所要時間が半分になっていることからもわかるように、二度目の詰め方は二人とも正直いえば骨だった。

とはいえこの現狀は、重ねて思うが明らかに俺の迂闊による。詰める二人が鬱陶しいというなら、そもそも休憩を挾んだ段階で俺だけ勉強機の方に移っておけばよかったのだ。そうしなかった理由は……うん。ただのうっかりである。

あえてあらためてしめすが、今は夏。

ゆえに喜連川も古幸も季節をじさせる裝い――有りにいえば、薄著。右隣の喜連川は白い肩がむき出しだし、左隣の古幸は加えてほどよく日焼けした太もむき出しだ。

その素が、折にれて俺にれる。

れるかれないかの距離ではしのじろぎでそうなるのはしかたないだろうが、それにしたって頻度が高い。加えて筆記のために卓上に置かざるをえない右腕を、時折喜連川のものと思われる吐息がくすぐる。最初は冷房の風かとも思ったが、涼しくないし、むしろ若干生溫かいし。

「……」

「んー……」

こんな狀況にもかかわらず、左右の両者ともに普通に勉強を続けているのだから恐れる。

……それとももしや、俺が意識しすぎなのだろうか? 子同士ってわりとよく抱きついたりなんだりしているし、ならばこの狀況もその延長で、二人ともとくに含みなどないとか。

あるいは、冷房が寒いからとか? 子の方が男より、が冷えやすいという話だし。

現狀俺としては、人口度のせいでむしろややむっとするくらいだが、寒いというなら設定溫度を上げるのもやむなしか。

そう思い、さてリモコンはどこに放ったかと視線をかせば――

「……」

喜連川と目が合う。

まるでし前からこちらを窺っていたような、そんな様子で。

すぐにでも逸らされるかと思ったが、しかしその視線はいまだ俺を捉えて離さず。

しかしあらためて、もう何度目かの想だが、こうして間近で見ると本當に顔が良いなこいつ。整いすぎてておっかねえ。そんな妙な心もあってか、こちらもつい視線を切る機會を逸する。

「――っ」

するとおそらくは恥からか、喜連川の様子がし変わる。

ほんのり赤い頬。それよりもうし赤い耳。気持ち潤んだような両目。

このまま見てたら泣き出すんじゃねえか。そんな風にも見える。

などと思っていると――

「!」

「――」

今度は左から。

あぐらをかいている俺のに、なにかが置かれる

なにかっつうか間違いなく、古幸の手だ。じろぎとか偶然れたとかではない、明らかに自発的な行。その証拠に手は反的にひっこんだりはせず、むしろ微妙にでるようにしていてすらいる。

つうか、

なんだこれ。

學校で評判のに両側から挾まれ、

一人とは至近距離で見つめ合い、

もう一人からはでられる。

事実だけ客観的にしめすと、余計に意味がわからなくなったような気も。

どう対処したもんか。

普通に前向いて、手を払うなりすればいい。

そうは思うが、さすがに俺でもそれはしどうなんだ、とも思わなくもない。

かといって妙案が浮かぶわけでもなく。この手の経験などないのだから當たり前だ。

というかこれ、本當にその手の(・・・・)狀況なんだろうか。喜連川はたんに俺と同様、目を逸らす機會を逸しただけかもしれないし、古幸もなんとなく手を置いているだけ……いややっぱ無理あるわこのきじゃ。

二人が俺になにやら思うところがあることくらい、気づいているのは以前もしめしたとおり。

とはいえ、それをはっきりと口に出されたことは、しかしいまだ一度もない。

そんな狀態で的な行に及ぶのは……なんかいろいろすっ飛ばしてねえか?

あるいはこれは、こっちから聞けという遠まわしな要求だろうか、まさか。

深く考えすぎな気がする。

本當はたいして悩んでなどいないのに。

つくづく思うが、

俺のこの、他人からの好意に対する無さは、いったいなんなのか。

敵意や悪意や害意なら、同程度かそれ以上の同質のものを返せるというのに。

これが一般的に好ましいものを向けられるとなると、どうにもいまいち、ぴんと來ない。

損な分。

――そう思えるほど嘆いてもいないのが、またなんとも。

不意に、

がちゃ、と。

「……………………」

例によってノックなしで開く扉。

そこから顔を出す妹、久坂彌さんの睥睨。

「っ!?」

「ッ?!」

「……」

驚き、ばっと離れる子二人。

ろくな反応もできず、結果かない俺。

しん、と冷えた時間が幾許か。

やがて、のち。

「……いっそ出かけてようか? 私」

「変な気いまわさなくてよろしい」

にはあまりやられたくない気遣いだった。

彌の言葉は喜連川らにも効いたようで、見れば両者とも赤面しきり。

「てかなにしに來たんだ? 彌」

「……別に、なんとなく」

げに不可解なるは、どもの中、とか。

また想いただいておりました。ありがたいことよなあ。

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