《現実でレベル上げてどうすんだremix》買い食いもくもく

廃工場からの帰り。

ついでに晝飯になにか買っていこうかと思い、アーケード街の方へ寄り道。……もちろん〔〕+〔獣化〕狀態は解いて、元の姿でだ。ついでに出來ればさっきの記憶ごと〔忘卻〕させてしまいたい気もするが、それでまた同じことをくり返したら世話ないので、耐え忍ぶ。

アーケードにり、さてなにを買おうかと考えていると、

「あ、久坂」

「おう」

志條にばったりと出くわす。

……つい先程まで阿呆なことをやっていた手前、知り合いに會うと妙に気まずい。向こうは俺のやっていたことなど知りもしないにもかかわらず、なぜだか。

「こないだはごめん」

「?」

「風邪で、行けなくて」

「ああ、別に気にするこた――いや、出來ればいてくれてた方がありがたかったか……?」

「? 久坂?」

「や、なんでもねえ」

志條に謝られ、知らず件の勉強會でのことが頭に浮かぶ。來られなかった三人のいずれかでもいれば、おそらくあんな狀況には陥らなかっただろう。けどその責任がこいつにあるはずもなく、俺は言ってもしかたない言葉を打ち消す。

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「こんな暑いのに、おでかけ?」

「お互い様だろ。……まあ、ちょっと、暇つぶしだ」

「ふうん。わたしは、おじいちゃんちに行ってきた帰りなんだけど」

「孝行か?」

「そんなじ。道場なの。おじいちゃんち」

そう言いつつ、小脇に抱えたスポーツバッグをしめしてみせる志條。そういえばそんな話を、以前聞いたような聞いてないような。道著かなにかでもっているのだろうバッグは大き目で、小柄な彼が抱えているとよりそう見える。

「久坂は、これからお晝?」

「ああ。なんか買ってから帰ろうと思ってな」

「なに食べるかは、決めてる?」

「いや、歩きがてら決めっかな、と」

「じゃあ、ついてきて」

たぶん、どこかの店にでも案してくれる気なのだろう。言うなり返事も聞かずに歩き出してしまう志條だが、もし俺がついて行かなかったら、どうするつもりなのか。

まあ、行くか。毎度のことながら、俺自に強い希などはないのだし。

そうしてアーケードを進むこと、しばし。

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「こんにちは、おばちゃん」

「あら栞ちゃん、いらっしゃい! 哲秀(てっしゅう)さんとこからの帰りかい?」

「うん」

たどり著いたのは総菜屋。屋の併設らしいその店はひとつ路地をったところにあり、なるほどただ漫然と歩くだけでは通りすぎてしまっただろう。

顔見知りらしい店の人と、気軽に挨拶をわしている志條。

いかにもそれらしい恰幅のよいその相手が、こちらに気づいたのでとりあえず會釈。

「あら、あらあら見たことない男の子連れちゃって! 彼氏さん?」

「違います」

「違う。高校の友達で、久坂」

店の人の指摘を、即座に否定。

志條もまたほぼ同時に同様にし、それから紹介のために俺の名もつけ加える。

にしても、友達か。

「あらそう? せっかく高校生になったんだから、のひとつでもしたらいいのに」

「わたし、そういうのよくわかんないし」

「うふふー、そうは言うけど、突然ビビッと來るものだからねぇ、そういうのは!」

「ふうん」

店の人の青春推奨にも、志條は気のない返事。というかもう意識の八割くらいは、並べられた総菜の方に行っている様子。

とはいえ俺も似たようなものだった。暑いせいかさほど腹が減ったつもりもなく、加えて夏に揚げ? という気もしていたが、しかしこうして目の當たりにし、匂いに揚げ音にと五を刺激されると、もうここで飯を調達する以外は考えられず。

「久坂、焼きそばパンもあるよ」

「や、だから特別好きってわけでもねえんだが……」

などとやりとりしつつ、「気が合いそうだけどねぇ……二人とも気より食い気なじだし」などという店の人の呟きを聞き流しつつ。

そして々迷いつつも、買う決めて金払い、晝飯を獲得する俺と志條。

「久坂」

ふと、店を離れようとしたところで、志條に呼びかけられる。

「?」

「ここから久坂の家って、結構離れてるよね」

「まあ、そうだな」

「お晝、今すぐにでも食べたくない?」

「歩きながら食うのか?」

ふるふる、と首を振る彼

それから「こっち」と手招きい――

「……」

「……」

導かれるまま歩いて、ほどなくたどり著いたのは近場の公園。

その木のベンチで、並んで座り、黙々と晝食を摂る二人。

(なんだろうな、この狀況)

食べながら、思う。

俺と一緒に飯食っても楽しいことなどないだろうに、わざわざった志條の意図とは、なんぞや。

まあたぶん、深い意味はないのだろう。顔を合わせた手前無視するのもどうかと思った、とか。

手元へ意識を切り替える。俺が総菜屋で買ったのはメンチカツサンド。サンドというが、形態はほぼハンバーガ。屋の副業なだけあってか、正直いってなかなか味い。確かなうま味の挽きと千切りキャベツに染みたソース、ほんのり効いた辛子。それらの共演。

「そういや、志條はそれ、なに買ったんだ?」

「コルドン・ブルーサンド」

「なんだその強そうなの」

ふと隣の食っているものが気になり問いかければ、返ってきたのは未知の名稱。

なに? コン、ドル……?

「コルドン・ブルー。叩いたおに、ハムとチーズを挾んでつけて揚げたやつ」

志條がつけ加えて言う料理の詳細も、また強そうだった。主にカロリー的に。

つかこいつ、前から時々思っていたが、結構がっつり食うよな。子としてもかなり小柄なうえにけっして太ってもいないのに、摂取分はどこへ消えているのか。あ、さっき言ってた道場とやらか?

などと思っていると、

「食べてみる?」

ずい、とこちらへ突き出される強そうサンド。

どうも視線を向けていたのをしそうと捉えたらしい。

まあたしかに、興味がないといえば噓にはなる。

「ん」

はよ食え、といわんばかりに腕をもう數センチ突き出す志條。目前に迫る、齧ったあと。

……こいつは本當に、こういう頓著が全然ないな。し面食らうが、向こうが気にしていないというのなら、こちらもとくに気にはすまい。

「あぐ」

というわけで、一口もらう。

……うん。聞いて想像したとおりの味。もちろん不味くないというか、にハムにチーズにという組み合わせが、不味くなろうはずもないというか。

「おいしい?」

「――ん、悪くない。いや良い」

「じゃあ、あ」

「?」

「ギブアンドテイク。あー……」

想を問い、それにこちらが応えるが早いか、

今度はそう言って、開いた口を俺へと向ける志條。

本當に、頓著ねえなこいつ。

「むぐ」

なかば呆れつつ、俺は志條の口元へメンチカツサンドをぐい、と押しつけるようにする。

それに一瞬、目を白黒させた彼だったが、

「むぐぐ……んく。……ちょっと多かった、けど、うん。やっぱりメンチもおいしいね。さすが丹澤(たんざわ)店」

どうにか咀嚼し、飲みこみ、呟く様はどこか満足げ。

……あるいはこいつ、こうして異なるメニューを楽しむために俺をったのではあるまいか。

「けどもらいすぎちゃったし、もう一口いる?」

「……いや、いい」

「そう?」

などというやりとりも経つつ、

その後は特段話すこともなく、各々食事を片づけていく二人。もくもく。

ほどなく、俺の手元は包み紙のみに。

隣を見れば志條もほとんど同時に食べ終えたらしく、そのままベンチを立ち解散――

「――ところでさ、」

と思いきや、座って前を向いたまま、唐突な呟き。

どうも雑談でも始めるつもりらしい。浮かせかけていた腰を再び落ち著け、一応聞く姿勢に。

「久坂って、妹がいるんだってね」

「ああ。喜連川かどっちかに聞いたのか?」

「昨日、二人に。すっごい可かったって、はしゃいでた。寫真撮らせてもらえばよかったって」

「それは……止した方がいいんじゃねえかな」

聞かされた話に、知らず溜息。本當、ずいぶんと気にられたようだな我がは。

ついでに、奴らが彌に寫真をお願いした場合を想像する。

『は? なぜですか?』

……うん。推して知るべしな反応。

おそらくはただの確認でそう言うだろうあいつに、機嫌を損ねたと思った喜連川らが恐々とする……そんな有様がありありと想像できる。おおよそは目つきのせいで、よく知らない者からは誤解をけやすい我が妹である。

「で、勉強會がどうだったかも、その時聞いたんだけど――」

てっきり志條も妹が見てみたいとか言い出すかと思ったが、ただの話の導だったようで。

続いた彼の言葉は、

「――話してる時のあけちゃん、なんかちょっと、変なじだったなと思って」

こんなもの。

同時に真っ黒の貓目が、こちらへと向く。

「ゆずちゃんもなんか、おんなじようなじで……久坂のこと話してる時とかが、とくに」

「……」

「でも、」

「?」

「楽しそうではあった。なくとも、悪いじじゃない」

言って、再び前を向く志條。

相も変わらぬ、変化に乏しい表ではあるが、

「あけちゃんは、変わったと思う」

、無な奴でないことは、さほど長くないつき合いからでもわかる。

そこがただ不想なだけな俺との、最大の相違點だろうか。

「ゆずちゃんも、ちょっと変わった気がする。どこがどう、っていうのは上手く言えないけど……でもたぶんそれも、悪い変化じゃないんだと思う」

「……」

「久坂が、変わったきっかけなんだよね」

「……そう思うか?」

「うん。だから丹澤店を紹介したのは、そのお禮」

「さよけ」

「わたしのいち推し」

そう言ってふ、と志條は、目だけで笑う。

こいつに笑顔を向けられたのは、思えば初めてかもしれない。

「変わった、っつうんなら、」

「?」

「俺も同じかもな」

ふと、口をついて出た言葉。

思えばし前――中學から、高校りたてのころくらいか――の俺は、わけもなく無にいらいらとすることが多かったように思う。それこそこれといった理由もなく、他人に、周囲に、なにより自分に、無意味に苛立ちを募らせ、ひたすらに鬱屈していた。

あの最初の人殺しは、だからその挙句ともいえる。

だがそれで“レベル持ち”となり、

常人から逸した力を手にれてからは、以前ほど苛立ちをじることもなくなった。

大抵の人間を無駄に凌駕する暴力。法も倫理も、簡単に無視できる異能。

それらを得て、かえって他人へ苛立ちを覚えなくなったのは、わりと皮めいている。どれだけ腹に據えかねる奴がいても、殺そうと思えば指一本でも出來るとなると、さして思うところもなくなるというか。

簡単に人を殺せる力を得たことで、むしろ俺の気は穏やかになった。

まったくもって、悪い冗談としか思えない。

……てかこれ喜連川とか、今までの話の流れ全然関係ねえな。

「……久坂も変わったってこと? あけちゃんとか、わたしたちと友達になって」

「え? ああ、まあ……、……かもな?」

案の定、志條は俺の呟きをそんな風に捉えてしまう。

俺も否定すればいいものを、なんとなく流れで頷いてしまう。

「――そ」

それを聞いて志條が、短くそう返す。

やはりというのは、よくわからない。つくづくそう思う。

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