《現実でレベル上げてどうすんだremix》ひとでなし

「俺は人殺しだ。――お前がさっき見たもの、その験は幻覚でも白晝夢でもなく、実際に起こったこと。実際に、俺がやったことだ」

斷定的に、なるべくはっきりと、俺はそう事実を告げる。

互いに両手をばしてもれられないくらいの距離にいる、喜連川にはもちろん、

向こうの植えこみのに隠れている古幸にも、しっかり聞こえるように。

あいつが後ろからこそこそついて來ていたのには、【マッパー】で気づいた。

だからこれもいい機會と考え、まとめて知らせておいてやろう。

本當に、なんて奴だと自分でも思うが。

「……ぅ、噓。なん、どうし、て」

「噓じゃない。んでなんでかっつうのは、あそこから出るのに一番確実な手段だったから」

両目を見開き、口元を手で押さえ、

かろうじてそれだけらす喜連川。

そんな彼の方向――からし斜め下に手をかざしながら、俺は続けて言う。

「さて喜連川。たぶん察してるだろうが、俺には変な力がある。――たとえば、こういうのとか」

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そして言い終わる間際に、〔火炎〕を発

「!? ――っ」

火球は喜連川のすぐ脇を通り抜け、地面に當たって燃え砕ける。

それに驚いた彼が、びくりとをすくめる。

話をするにあたって、実演しておいた方がより実しやすいだろうという配慮。

……配慮かどうかは、怪しいか。ただでさえ愕然としているらしいところに、混の追い打ちをかける形なのだから。

ちなみに【マッパー】で見る限り、公園にもその周辺にもひと気はなし。周囲に木も生えてるので、さっきの〔火炎〕を第三者に目撃された可能はない、はず。

だから今俺の力を目の當たりにしたのは、喜連川と古幸の二人だけ。

「で、この力の出処なんだが……お前ゲームとかやる?」

「え? ……えと、あんまり?」

「俺もあんまり。けどRPGというジャンルくらいは知ってる。お前はわか、――ん。なら話は早い。要は、それだ」

「それ、って……」

唐突な話題転換に、ぽかんとしたような喜連川。

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あるいは俺の意図に気づいたが、それを理解するのを拒んだのかもしれない。

「敵を倒すと、経験値を得てレベルが上がる。あれと同じことが、俺に起きた」

「――」

「俺のこのおかしな力は、そうやって得たものだ。敵、というか人間を倒す――殺すと、レベルが上がって魔法とか覚える」

「そん、な……」

なんにせよ、俺は構わずそう言い切って、言い聞かせる。

むとむまいと、理解させる。

「五月のこと、覚えてるか? 俺がお前らとつるむようになったきっかけ」

「それは、……うん。當たり前、だよ」

「あれ、不審者は捕まったって話したが、本當は俺が殺した」

「ッ――」

「けど別に、あれもお前を助けるためってわけじゃない。ちょうどよくレベルが上がるとこだったから、利用させてもらっただけ。だからお前があの件で謝とか、恩をじる必要はないし――もちろん死んだ奴に対して、お前が気に病むこともない。全部俺の都合で、勝手にやったことだからな」

「…………」

はしからはしまで、勝手な獨白。

聞かされる方も堪ったものではないだろう。

けど殘念ながら、俺はこういう奴だ。

徹頭徹尾、自分のことしか考えられず、

誰のためにもならない。

人間社會にとって異もいいところで、

だからこいつらみたいないい奴らが関わっても、損しかしないだろう。

「…………」

しばし、無言でうつむく喜連川。

その表は日傘に隠れて、ようとして知れない。

同様に、話を聞いているだろう古幸の顔も、では窺いようもなく。

木々の間を、風が通り抜ける。

いよいよ正午を回ろうという時間の、晩夏の熱気を含んだ風。

「……私を、」

ややあって、その風に乗って屆く喜連川の聲。

弱々しくもよくる、いつもの彼の聲質。

「私も、殺すの? だから久坂君は、その話を……?」

「ああ」

言われて、

し呆けて、頭をかく。

考えてもみなかったことだった。

今それに気づいて、自分でし驚いた。

自分が“レベル持ち”だと知られても、損しかない。

“レベル持ち”とは、どうあろうとも人殺しだ。だからこれまでもなるべく他人に知られないようにしてきたし、さっきも元実習生をわざわざ生き返したりはしなかった。

そのあたり徹底するなら、喜連川も古幸もさっさと殺すべきだろう。

「殺さない」

だが気づけば俺は、そう口にしていた。

「! ……私が久坂君のこと、誰かに話すかもしれないのに? それこそ、警察とか、」

「さっき見ただろ? 俺が、つか、“レベル持ち”が殺した奴は、なぜか消える。なんも証拠が殘んねえから、取り合ってもらえるかどうか」

殺さなくてもいい理由を、並べ立てるように。

「あとはあれだ。記憶を消すっつう手もある」

「!?」

「そういう魔法が、俺には使える。――実際口にすっと本當、馬鹿げた力だ……まあ、つまり、なんだ。俺にはわざわざお前を殺す理由がない」

レベルも上がり切ってるからうま味ねえしな――と、

これはさすがにあんまりな気がしたので、口にせず。

不意に、

「久坂君は、」

「ん」

「……どうして久坂君は、そんな話を私に?」

差していた日傘をたたみながら、喜連川が問いかける。

あらわになった彼の顔は、案の定というか、泣きはらしたような目元をしていて。

「――あんなの全部見間違いだって、暑くてぼーっとして、幻覚でも見たんだろうって……そう言ってくれれば私っ、信じたのに! そういうこともあるんだなって……ぜんぶ、全部おかしな、悪い夢だったんだなって思えたのにっ! どうして、そんな……ッ」

それは初めて見るかもしれない、激しい口調。

怒りか、悲しみか、失意か。

いや、全部か。

「悪い」

「あやまら、ないでっ、あの時も今日も、私はあなたに助けられた……それは、変わらないもんっ。変質者の時も……今日だってきっと、あのままだったら私、酷い目に遭ってたんでしょ?」

つい口をついて出た、おざなりな謝罪。

それをけた喜連川が、いやいやするように首を振って言う。

けど、それも束の間。

「そんなつもりはないって言ったけど、でもやっぱり久坂君は、きっといつだって助けるんだよ。だって――」

顔を上げ、斷定的に。

あるいはそれは、彼なりの抗弁か。

「――だって久坂君は、優しいもん」

泣き笑いの表

そこにあったのは目の前の相手への――俺への信頼。

「あなたは本當は、いつだって誰かに気を遣える人。呆れたふりしながら、困ってる人には手を差しべて……みんなでワイワイするの、ホントは苦手でもちゃんとつき合ってくれて……」

目を閉じ、日傘をに抱くようにする喜連川。

の想いを込めるような、そんな仕草で、

「……そんなあなただから、」

再び開いた目の、まっすぐな視線。

限りなく綺麗な、強い

「私は、喜連川暁未はあなたを、好きになりました。久坂厳児君」

強くまっすぐな、言葉。

「…………」

しばしなにも、返せない。

正直、戸った――というのも大きいが、

それ以上になんというか、圧倒された。

なぜか、とし考えて、気づく。

たぶんこれが初めてだからだろう。

他人からこれほどまでに強いを、好意を、真正面から向けられたことが。

単純に、驚いた。

俺なんかを本気で好いてくれる人間が存在したことを、あらためて実して。

だが、

「悪いが俺は、その好意には応えてやれない」

「――ッ!」

なんであれ俺の返答は、はなから決まっている。

喜連川の告白をけ、実したことがもう一つ。

たしかに戸い、驚きはしたが、

それだけだった。

嬉しいとか心が躍るとか、はたまた嫌悪が湧くとか、

そういうの揺れは、やはりというのか一切なく。

そしてこれはもちろん、喜連川だからという話ではない。

誰の、どれだけの好意であろうと、

俺にはなにもじられず、

だからそれに見合うものも、なにひとつ返せはしない。

つまるところ、俺は、

人間の中で生きていくことに、本的に向いていないのだと思う。

「どうしてそんな話をって、さっき聞いたよな。俺が救いようもなくどうしようもない奴だって、はっきりと知ってもらおうと思ったからだ。喜連川、お前みたいな……お前らみたいないい奴らは、俺なんかと関わるべきじゃない」

「そんな……そんなのっ、でもッ!」

「最初っから、きっぱりと拒絶しとくべきだったんだろうな。これもひとえに、適當こいて流されるままにした俺の責任だ」

せめてもの、人としての禮儀。

「だから、悪かった」

喜連川をまっすぐ見據えたあと、深く頭を下げて言う。

「許されるとは思わねえし、許してくれなくて構わねえが、一応けじめとして、謝っとく」

結局これも、勝手といえば勝手な行為。

相手がむとむまいにかかわらぬ謝罪。

それに呆れられたか、憤られたか、あるいは深く傷つけられたか。

「ッ――」

たたっ、と駆けだす喜連川の足音が、ほどなく遠ざかっていく。

一拍置いて、

「――」

こんどはだだだっ、とこちらへ駆ける足音。

「ッ!!」

「いってぇ」

背後からの、古幸の跳び蹴り。

それを俺は、避けず防がず甘んじてそのける。

それでもまともにはけぬよう、大袈裟につんのめってはみせたが。別にまったくなんの痛にもならないが、向こうが足を痛める可能はある。そうしなければならないほどの差が、俺と彼にはあるのだから。

「~~~ッ!」

顔を上げると、古幸がこちらをふり返りながら、いーっ、と歯をむき出しにしていた。

すぐに前を向いて、さすがの足で走り去っていく彼は、喜連川を追ったのだろう。【マッパー】もそれを示して……

「いや」

ひとつ頭を振って、彼らにつけていた【マーカー】をすべて解除する。

これもある意味けじめ。

もはやあいつらとはどんな形であれ、無関係の方がいい。

さて、と俺もこの場を去ろうとして、

「おーい、青春に浸ってるトコわりーんだがよ、」

不意に橫合いからかかる聲が。

「ちーっと俺らにつき合ってもらうぜ。久坂厳児クンよ」

見ればそこにいたのは同年代くらいの、男一人と三人。

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