《現実でレベル上げてどうすんだremix》surpass
◆
眼前の景が理解できず、速水(はやみ)數介(すうすけ)の思考は一瞬、止まる。
そもそも自分は、なにをしているのか。
なんのために、こんなことをしているんだったか。
『――うっし! これでクエストクリアっと』
不意に脳裏によぎるのは、過去の出來事。
『で、めえ……ぁんなんだいきなり、ふざけやがって……っ』
『にしても、街を仕切ってる不良っつってもたいしたことねーんだな。いや、俺が強すぎるってだけなんだろーけど』
『シカト、こいてんじゃッ! ハナシを――ゴッ?!』
『ハイハイちゃんと聞こえてますっつーの。っつーか態度デカくね? アンタ。俺、勝者。アンタら、負け犬。わかってる? そこんトコ』
『ぐっ、ぅ……!』
『そもそもよ、喧嘩負けした不良に存在価値なんかある? 暴力に頼ってるアンタらは、負けた時點で無価値だろ? これからはゴミ以下なのをもちっと自覚して、世間様へのうしろめたさとともにすみっこの方で這いつくばって生きてろよ』
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『ぅぐ……』
“勇者”の力に覚醒してから最初の“クエスト”
〈討伐クエスト_街の悪漢を撃退せよ〉
それに従い、乗りこんだ先で二十人近くに囲まれてしまったが、
結果はさしたる苦もなく、傷ひとつ負わずに完全勝利。
『な、なんじゃあこのガキャ?! は、ハジキが効か――』
『いや、効いてるよ? 剣で弾くとこー、ちょっち腕が痺れるし?』
その後も〈討伐クエスト_悪の結社を懲らしめろ〉でヤクザを襲撃したり、
『なんだね君は!? いったいどこからって……っ』
『やだなぁ、ちゃんとノックしましたよ? 剣(こいつ)でだから開いちゃいましたけど』
〈調査クエスト_代の悪事を暴け〉にて、黒い噂のある政治家の事務所にお邪魔したり――
『――ああもう! またそうやって考えなしにッ』
『メンゴメンゴ! けどそーできるのはトワがフォローしてくれるからだぜ?』
『~~~ッ、知らないわよ! まったくもうッ!』
そうこうするうち、ひょんなことから疎遠だった馴染、トワこと村石(むらいし)永久子(とわこ)が數介と同様に覚醒し、共に行するようになり、
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『……ッ、しゃあねぇ跳ぶぞ! すなは俺に摑まって、』
『え、えと、こうっ?』
『ふぉおお!? 見事ならか――いって!! 切っ先はシャレんなんねーぞトワッ!』
『――フンッ』
次いでやはり疎遠になっていた馴染、(ともえ)やすな――通稱すなもまた覚醒し仲間へ。
『本當に……最近なにやらこそこそしていると思ったら、また妙なことに。……いや、どうも私も、これでお前達の仲間りということのようだが……』
『あらためて、力を貸してくんねーかな? 姉がいれば百人力だ』
さらには疎遠だった馴染の最後の一人、姉こと間(きくま)古乃花(このか)までもが覚醒し、數介達に協力してくれるように。
『――どーも! 突然の訪問すんません。今日は……なんだ? そう! 売りこみに來ました! 役に立ちますよ? 俺達』
そして〈調査クエスト_憲の向〉をこなす中で判明した、警察による“覚醒者”対策組織の裏の立ち上げ。それをけ數介は仲間とともに、こんな風に“対異常分室”に直接乗りこみ――
(――そうだ。俺は“対異”の、今のところ唯一の実部隊員になった)
高校生兼、國家組織のエージェント。
それが數介の、その仲間達の今の分。
くだらない學校。退屈な日々のくり返し。
そんな以前までからは考えられないような、充実した非日常。
勇者というと、昨今では大抵カマセか本筋には絡まない脇役と相場が決まっている。
だから初めのころは正直不安もじていたが、なんのことはない。
要は自分は、そんなお約束(テンプレ)には當てはまらない“例外”だっただけのこと。
“例外”で、“特別”
つまり自分こそが、この世界における“主人公”に他ならないのではないか。
そんな確信を抱いていた數介の前で、
「あ゛――」
ありえないことが、起きている。
宿命のライバルでも、世界のを握る巨悪でもなんでもない、
せいぜいがレベリングのための、ただの通過點にすぎない戦闘(イベント)で、
「まず一人」
大切な仲間が、
あっけなく斃されるという、不條理が。
■
“SP上昇薬100%”を複數本消費しての、【霊召喚】の連続使用。
數の不利を覆すだけなら、わざわざ全員呼び出すまで続ける必要はなかった。
それでもそうしたのは、なんとなくやってみたかったからというのが一番だが――
場の撹のためという、もっともらしい理由も一応。
相手をする數が多ければ多いほど、個々への注意は分散する、というか俺への注意が薄れる。
そうして出來た隙に上手く切りこめたらいいなあ……そんな腹積もり。
ちなみに間を狙ったのは、一番戦い慣れていそうだったから。
攻撃を必中させる【鹿音】は、多のずれや障害を結果的に(・・・・)無視してしまうという、ある種反則じみたspecialではある。
しかしあくまで多(・・)だ。対象が明らかに攻撃の線上にいないなど、どう考えても當たらない場合には【鹿音】は無効となる。
俺も詳しいわけではないが、武道などはこなれた人間ほど無駄なきがなくなるものなのだろう。
速水や村石では、大きく飛び退かれるような気がした。
だが間であればをひねってかわすか、もしくはけにまわるだろう。
おそらく、必要最小限のきで。
そんな読みが、ひとまずは當たったようで。
余談だがを狙わなかったのは、直接戦闘には加わっていなかったから。ある意味手すきの狀態では、とっさの攻撃にも対処する余裕があるかもしれない。それと基本的に、“レベル持ち”は毆り合うためでない(・・・)力のほうが厄介だから。
「よっと」
そんなわけで、再び跳んでスカラの頭の上へ。
「~~っ」
ちなみに奇襲の間もずっと、ワコは俺の背にひっついたままだった。邪魔にはなってないから別に構わないが、若干背中が溫(ぬく)い。
眼下を見やれば、間がいたあたりにはあのごつい手甲が殘り、落ちている。
「え……え? せんぱ――おねえ、ちゃ、」
呆然と小聲で呟いているのは、村石。
「うそ、噓だよね? このちゃん……っ」
は杖を抱え、涙聲で震えている。
「……………………」
無言で棒立ちの速水。
両腕はだらりと下がり、剣の切っ先も地面(床?)についてしまっている。
「愚かな。戦場(いくさば)で隙をさらすなど――」
それを絶好の機會と捉えたのか、攻勢をかけるのはアスタロテ。
細剣を振りかざし、瞬時に間合いを詰め、
「?! ――ッカ」
しかし次の瞬間には、その背から剣先が生えていた。
いつの間にか突きの姿勢をとっていた、速水によって刺し貫かれたことで。
「うぐ……っ」
「……………………」
暴に剣を振り払い、力した肢を放り捨てる速水。
投げ出されたアスタロテは短くうめき、やがてそのはの粒子となり宙に解けるように消える。
俺の目でも捉えられなかった速度で彼を刺殺せしめた速水は、
「………………ぉぉ」
やがておもむろに顔を上げ、こちらを睨めつけ、
「――おおおおおおおおおおおおッ!!!」
吠える。
同時に発的に膨れ上がるように、そのが発。
ごう! と竜巻のような突風も生じ、それがこちらにまで屆き、足元がぐらつく。
數秒か、いやそんなでもないかくらいの間、その派手な演出は続き、
と風が収まると、その中心には、
「…………」
つんつんした髪形に、防箇所と裝飾の派手さが増した鎧姿になった速水が。
さしずめ切り札、だろうか。見れば剣の形狀も強そうなじになっている。
怒り心頭、といった目つき。
あの様子だと、すぐにでもこちらに跳びかかってくるだろうか。
そう思ったが、
「――」
その場からかき消えるようにいた速水は、
「ぐぬ……っ?」
次の瞬間には、グラ爺の脳天を剣でかち割っていた。
ぼろぼろと、そのが土くれとなって崩れていくころには、
「マジィ?!」
を刺し捌かれたサンショが、驚愕とともに火のとなって消え失せ、
「いたたっ」
かと思えば、上下で真っ二つになったマキがの粒子となって消滅。
白金に輝く暴風のような勢いで、速水が駆け抜け、剣を閃かせれば、
「んもぅっ、がむしゃらなんだからっ」
「ヒ! オイラ、ごーとぅーへるぅ……?」
「グゥ……ッ」
ウン(略)はそっ首を飛ばされ、野太い聲とともにただの水たまりに、
フロスは切り砕かれ雪の小山に、
そしてロイは兜を割られてがしゃがしゃとくずおれ、それぞれ消え去っていく。
速水の勢いはなおも止まらず、
「あ、ムリムリだねこれ」
「グワーッ! ――サヨナラ!!」
「な、なんじゃあこりゃァァァァァ!」
カブをただの木屑に変え、
切られたニンザブロウは、一拍置いてどろんと黒い煙に、
そしてオコシもまた刺されたのちに弾け、ことごとく強制送還されていく。
瞬く間に地上の霊を全滅させた速水は、
「――」
一瞬立ち止まり、
否、踏みこみ、
「――おおおッ!!」
気合とともに跳躍し、こちらへ薄。
スカラを刺し貫かんと突き出された剣を見て、
(こりゃ駄目だな)
防も回避も無駄だろうと判斷した俺は、そのまま跳躍して離。
とはいえやられっぱなしというのも癪なので、
刺し貫かれる寸前のスカラに、〔核〕のmagicを使わせ自させる。
「――!?」
風の間隙に一瞬、速水の驚愕の顔が見える。
「うおっ、高(たけ)え高え」
俺も発の煽りをけていて、思わず聲が出る。
打ち上げ花火のような気分で、思ったよりもずっと上空に放り出され、
「――ぐえ。足じんじん來た」
したことのない滯空時間ののち、著地。
あ、今の衝撃でワコも消滅しちまった。まあ普通の子供か下手したらそれ以下のDEFしかない奴だし、あの高さから落ちたらそりゃ死ぬか。
「……くだらねー反撃しやがって。クソが」
今日何度目かの速水の悪態。
見たところ、たいした傷は負っていない様子。なんらかの方法で〔核〕からは逃れるか、あるいは防ぐかされたのか。炎が邪魔でよく見えなかったから、そのへんはわからない。
目に見える変化としてはもう一つ。
両腕の裝備が、間がつけていた手甲になっている。
仲間の裝備を借りけて、さらなる力を手にしたみたいなじだろうか。
「まー、なんにせよこれであとはお前一人だ。……姉の無念、倍にして返して、久坂厳児」
手甲の上から剣を、ぎりりと音がするほどに握りしめた速水は、
「てめーは確実に、俺が殺す」
そう宣言し、切っ先をこちらへと突きつける。
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