《現実でレベル上げてどうすんだremix》System is the same for all.

けたたましく重い、金屬同士の衝突音。

「ッ?!」

「……」

速水がくり出した斬撃を、俺が槍でけて流した音だ。

一瞬の揺が見てとれるが、しかし作は止まらず二合、三合と続く速水の剣戟。

それらを穂先で、柄で、さばくことで応対。

(速(はえ)えな。やっぱ)

しばし防戦にまわりながらの、心での素直な想。

アスタロテと霊らを瞬く間に葬り去っただけあって、速水の攻撃は速く鋭く、重い。

だが、対処できないほどではない。先程こそ瞬間移かと見まごうたが、あれはいきなりだったからなのもあったようだ。落ち著いてよく見れば防げないほどではないし、なにより攻撃対象が自分であれば【警戒】の覚も助けになる。

防ぎながらしかし、疑問も湧く。

なぜ霊らは一撃で(・・・)やられてしまったのだろう。

HPが1の霊は(鬼だけど)ワコだけ。他の奴らは最低でも二回の有効打をけなければ、倒れないはず。弱點の屬ければその限りではないが、それでも〔反〕や〔城塞〕が働かなかったのは、やはりおかしい。

ふと思いつき、速水をよく【見る】

〈神剣ブレイブハート_ 勇者専用裝備 ARM:160 屬:全 特:貫通〉

なるほど。

さしずめ“あらゆる弱點を突け、防魔法なども貫ける剣”といったところか。

さすが勇者の裝備と心すべきか、そんなんありかと呆れるべきか。

間斷なく続く剣戟。

なかなか攻勢にまわれないのは、俺に武蕓の覚えがないのもあるだろうが、

それより大きいのは、向こうのきの方がわずかに速いから。

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その代わり、膂力ではこちらに分があるようにじる。

いずれにせよ覚としては、彼我にそこまで隔絶した差はない。こちらのLvが10も上の狀態で互角ということは、もし同値だったら競り負けていた可能が高い、か。

速水の背後へ、ちらと気を配る。

村石とは、く様子がない。膝から崩れて泣きじゃくる村石に、が寄り添ってめている形。今加勢されるとさすがに厄介なので、できればそのまま潰れていてしいところ。

一対一なら、拮抗した戦況。

膠著狀態ともいう。【八卦酔】(にしてもつくづくこの名前、もっとなんとかならなかったのか?)でも使えれば力づくでひっくり返せそうではあるが、あれは結構な溜めが要る。こう間隙なく打ちこまれていては使えたものではない。

作で撃てる魔法ならば、隙を作るくらいはできるか。

「――ッ」

そこに思い至るのと同時に、

「っと」

「オオ――」

速水の方に先に仕掛けられてしまう。

ごとぶつけるような上段からの打ちこみ。

それによりこちらの勢を僅かに崩し、生じた隙で振りかぶった速水からの、

「――【一文字斬り(デイブレイカー)】!!」

強烈な橫薙ぎ。

対する俺は後ろへよろめくついでに【回避】しつつ、加えて【防

が、

甲高い金屬音。

「あらら」

柄をかざしてけたせいか、槍が真ん中から真っ二つにへし切られてしまう。

棒と短槍に分かれてしまったそれらを両手に、ひとまず避けた勢いのまま數歩後退る。

「……」

幸いか、追撃はない。

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剣を振り抜いた姿勢のまま、速水は靜止している。

互いに一足では踏みこめないだろう距離。

靜寂は束の間続き、

「……チッ!」

ややあって聞こえる、速水からの舌打ち。

肩に擔ぐようにした剣を、裝に打ちつけとんとん、と鳴らしている。

「――わっけわかんねーなテメー。召喚系ってことは魔法職だよな? なにのなんで俺とチャンバラで張り合えんだか。いや、そもそも武が槍なのもおかしいよな……」

次いで出たのは愚癡と疑問、半々くらいのぼやき。

「なんなんだ? テメエは」

加えて投げかけられるのは、不快と不可解、両方が混じったような問いかけ。

classは一人にひとつという認識だろう向こうからすれば、もっともな疑問か。の違う力をぽんぽん出してくる相手。向こうに回すのは厄介だろうなあ、と我ながら思う。

「白兵戦と魔法、両方に長けたクラスだとでも言うつもりか? ――あっ! まさか“斃した相手の力を奪う能力”とかじゃねーだろーな?! んなモン完全に主人公枠じゃねーか!」

勝手な推測でいきり立つ速水だが、あながち間違いともいえないかもしれない。元はあの先輩方の……なんだったか? とにかく四つのclassの複合らしいし。

けどなんにせよ、そのへんいちいち説明してやる義理はないのは確か。

喋ってる不意を突くように、

左手に持った槍の柄の方を【鹿音】込みで投擲する。

村石の方に。

「んなっ?!」

驚きに聲を上げる速水の脇を飛び抜けた柄は、

「――ッ!!」

しかし村石には當たらず。

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かたわらのが展開したらしい、なにやらおどろおどろしい魔法の壁だかに遮られ、

弾かれ、回転しながら明後日の方向に落ちる。

「……っざっけんなよ!! テメエ!!!」

速水、激昂。當たり前か。

「戦意のない相手を狙うとか、見下げ果てたヤローだなッ! こんな、――こんなヤツに姉がッ、くそ、クソッ、――クソがぁっ!!!」

剣を振りかざし、遮二無二突っこんでくる。

短くなってしまった槍だけでけるのは、ちとつらいか。

そう判斷し、〔収納〕から取り出したのはいつぞやの戦利品、鮫歯刃。

左手に持ち、それから両手の刃を差するようにしてける。

「――! んなチンケなナイフと折れた槍なんかで、俺の、俺達の怒りをけきれるものかよッ! 死ね! 死んで地獄で、姉に詫び続け、」

「なら、生き返しゃいいのか?」

「ッ?」

速水のびを聞いて、ふと思いついたままに口にしてしまう。

あ、一瞬の怯み。

踏ん張って押し切り、弾き飛ばしてみる。

「っぐ! ――っな、今おまえ、なにを、」

「いや、〔蘇生〕すりゃいいんじゃねえかな、と。つかあんたらは持ってねえのか? そういう力」

話しながら、思い至る。〔蘇生〕かそれに準ずる力を持っているのなら、すでに使っているだろう。そうしないということはそういうことなんだろうと思い、続けて訊ねてみる。

返事はない。

固まったように黙りこむ速水ら。

耳の痛くなるような靜寂が、しばし不思議空間に降りる。

「なに、言って、……んな力、あるわけ、」

「あんたらが金際俺に関わらないなら、生き返すのもやぶさかでない。どうする?」

ややあってから返ってきたのは、猜疑的な反応。

疑うなら実演してみせようか、とも思ったが、とっさに思い直して渉に切り替える。

言いながら、なかなかの落としどころではないか、とか思ったり。レベルが上限に達した俺は、もう人を殺す必要もそのつもりもない。殺されそうになればその限りでもないだろうが、なくとも速水らにそうするつもりがなくなれば、こちらもいちいちちょっかいかけたりしない。というより元來、関わりのない相手だ。

なんにせよ、向こうが頷いてくれればこれで手打ち――

「ナメんなッ!!!」

――とはならないらしい。そうか。

「人間が他人の生き死にをどうこうできるワケがねーし、しちゃいけねぇんだ! だから命は尊いんだろうがッ! んな悍ましい取り引きを持ち出した時點で、テメエはヒトの道を踏み外したバケモンなんだよッ!!!」

斷言しつつ、先程よりも荒々しい勢いで切りこんでくる速水。

力のこもった剣が、けた俺の足をずりずりと後退らせる。

「第一、テメーが本當に蘇生の力を持ってるとして――そうやって生き返したヤツは、本當に元の人間と同じヤツなのか?! 一度死んだ人間が……完全に消滅した人間を再構築できるとして、それが元と同一の存在だと、言い切れるのかッ? テメーはぁッ!!」

猛攻をけながら、速水の言になるほどたしかに、とも思う俺。

たとえばSFに出てくるような、対象を一度完全に分解する類のワープ裝置とか、あるいは沼男……だったか? あのへんの話と似たような危懼を、速水は抱いているのだろう。

実際そこんとこ、どうなんだろう。

俺に殺された被害者に試した〔蘇生〕。なくとも見た限りは、生き返した人間は死ぬ前と寸分違わぬ……とは、言い切れねえな。別に普段からの付き合いもない、よく知らない奴らなわけだし。

つまり今の俺には「わからない」としか言えない。

言ったところで事態は好転しそうもないから、言わないが。

「簡単に殺して、生き返せばいいとかぬけぬけ抜かすようなテメーこそが死ぬべきなんだよ! “勇者”として不殺(ころさず)貫いてきた俺だが、それを曲げてもテメーは今ここで――」

「そういやさ、」

怒りまかせの猛攻に加え、よくまわる口で罵倒も放ってくる速水。

その臺詞の途中、ふと浮かぶ疑問。

「――?」

「や、人を殺さずにレベルを上げれるんだよな? お前」

「……そうだが?! だから俺はテメーとはちが」

「けどそんなら、“最初”はどうしたんだ?」

最初に會って話を聞いた時も、じつはしだけ気になったこと。

それを口にした途端、ぴたりと速水のきが止まる。

「なにを……」

「なんとか、っつうspecialでEXPを稼げるんだったか。いつ覚えたにせよそれは、早くとも最初に(・・・)レベルが上がった時のはずだ。その最初ん時も速水、お前は

人を殺さずに、すんだのか?」

思ったままに口にした疑問。

それをけた速水の顔が、あからさまに変わったのが見てとれる。

先程より幾分冷えたような、沈黙。

「すーちゃん……?」

「數介、アンタ――」

そのせいかと村石のか細い呟きでさえ、はっきりとこちらに屆く。

あの様子だとあっちの二人は――おそらくは間も、本當に人殺しの経験がないのかもしれない。速水が特殊能力を覚えたあとなら、最初のレベル上げもそれによってせるだろう。

ではその、速水は?

『――あっれぇ~? 速水クンじゃないッスか~! なぁにやってんのオマエこんなトコで?』

……うるせぇ。

『まぁまぁまぁ、そんな邪見にすんなって! オレらとキミの仲じゃんか。ほれオレらと一緒に行こーぜ? ……來いよ、いーから』

やめろ。

『ハイまたまた速水クンの負けぇ~! んじゃ罰ゲーム――っとぉ!!』

『オイオイオイ痛がりすぎだろ速水クゥン? それじゃまるでオレらがいじめてるみたいじゃんよぉ~?』

やめてくれ。

『あ、三回目からは追加の罰ゲーム。お友達料二倍な』

『なんだその顔? オメーが持っててもどーせきっしょいオタグッズにしか使わねーだろ? オレらが有効活用した方がよっぽどケーザイまわるっつーの』

『アハハ! 意識たけー!』

やめろ、これ以上俺に――

「――思い出させるなぁっ!! あ゛ああああああああああああッ!!!」

今日何度目かのぶち切れ。

突如濁ったびを上げたかと思えば、速水はまるで地団太踏むように剣を滅茶苦茶に地面に打ちつけ始める。

奇行はしばし続き、

「ッハァッ――! ハァ――! ハァ――ッ!」

ややあって止む。

両腕はだらりと下がり、しかし興が冷めやらないのか、速水は肩で息をし続けている。

それもまたしばし続き、

「――死んで當然なんだよあんなヤツら!!」

再度激昂し、大上段に構えて突撃してくる。

同時に出た言葉は、俺の問いへの答えであり。

「そうさ! 俺はただ生きる価値のねぇカスをこの世から消し去っただけ!! むしろこれも正義の執行、その一環だ! 第一テメーにそれを責められるいわれはねーんだよ! 俺よりよっぽど人殺してるテメーにはなぁッ!!!」

苛烈な剣戟に加え、苛立ち混じりの罵り。

いや別に責めたつもりはないし、資格がないのも重々承知だが。

しかし言い草からして、案外こいつの最初の殺人も、俺と似たようなじだったのだろうか。

あるいはこいつは俺なんかよりも、よっぽど辛い目に遭ったのかもしれない。

そしてたとえ過去に人を殺していようと、今は立派にあろうとしているのだろう。

であれば俺も、甘んじて殺されるべきか。

……とはやっぱ、思えねえな。殘念ながら。

別に命が惜しいわけでもないが、

それでも抵抗できるうちは、無抵抗に殺されるのもなんか、違う気がする。

そう思ってしまうあたり、やはり俺は度しがたい存在なのだろう。

「クソッ――クソ!! 防ぐんじゃねぇ! 避けんじゃねぇよ! 姉を殺したくせに、のうのうと生きてんじゃねえよぉッ――!!」

度しがたいついでに、仕込み(・・・)の効きも実する。

先も示したが、別に俺に速水を咎めるつもりはない。けどこいつはなにやら最初の殺しにこだわりがあるようだし、それを指摘すれば揺をえるのではないか、そう目論んだだけ。

そしてそれは有効だったようで。

速水の剣は先程までより明らかに余計な力がり、きが全的に雑になっている。

この調子で下手に大技でも出そうものなら、すなわちそれは大きな隙に繋がるだろう。

「いい加減、くたばれ! 【十文字斬(グランドクロ)……」

このように。

剣戟の流れを無視したような、無理のある大技の発

「――」

その隙を見てとり、俺は、

無駄話の間に溜めておいた【八卦酔】

それ込みの槍の穂先を、上段から速水へと叩きこむ。

「!?」

が、速水もさるもの。技を中斷してのとっさの回避。

それでも完全には避けきれなかったようで、

「――ッがぁああッ!!?」

「あら」

ちょうど裝の隙間に切りこむ形で、穂先は右腕を肩口から切斷。

飛び散る鮮

「いやああああああああああああッ!!!!」

それに呼応するように、絹を裂くような凄まじい悲鳴。

村石のものだ。見れば両目と口を限界まで開いた表で、半狂の様子。

同時に、突如、

ぽつぽつぽつと、無數の黒い影が地面に現れ始める。

「いけないっ、すーちゃんッ!!」

次いでの聲が屆いたかと思うと、くずおれた速水が怪しげな煙を殘して消え去る。

いや、転移か。速水は消えたわけではなく、今はの下で介抱されている。

ふと気づいて、視線を上へ。

白と黒の鳥の群れ。

そう見えたが、違う。

村石の持っていた、三日月形の雙剣か。

それらが俺を取り囲むように、おびただしい數浮いている。地面に落ちているのは、その影。

次の瞬間、一斉に回転しはじめる無數の刃。

「――死ね外道!! 數介と先輩を、おねえちゃんをよくもぉッ!!!」

宣告するようにび、腕を振り下ろす村石。

それを合図に、刃は猛然と俺めがけて飛來。

完全包囲の攻撃。

逃げ場はない。

……いや〔転移〕があるか。“視認範囲に転移する”magic。

さっそく発してみるが、

「?」

不発?

そういえばなにか、いつのまにか周囲が煙って……?

「……っ!」

漂い、流れてくる煙だか霧。

その発生源は、。速水を抱える逆の手、握られた杖の先端の目から、あたかも涙のようにれ、それは流れてきている。

魔法を封じるのか、あるいは発を阻害するとかか。

そう思い至る間に、無數の刃はいよいよ俺へと刺さる寸前。

「ぐ」

無駄に足掻いて、何本か弾いて、避けて、

しかし結局避けきれず、一本目が左腕に刺さった時點で、

そういえば【警戒】の覚がまったくないなと、いっそ暢気ともいえる気づきが、ふと。

そうか。対処しようのない危険には、【警戒】は無意味なのか。

わかったところでこれも無意味だな、とも思ったり。

二本目が右腳、三本目が右腕。

刺さる本數が増えるごとに、灑落にならなくなる痛み。

いよいよ、どうにかしねえとやべえが……

HPにしろMPやSPにしろ、回復薬の予備はまだまだあるが、それらは全部〔収納〕の中。そちらも當然のように発しないので取り出せず……うん、一本くらいポケットにでもれとくべきだった。

ふと、出しっぱなしのステータスボードが目にる。

“MP:0”

つまり、あれか。この攻撃、HPのみならずMPも減らしてくるのか。本當、ご丁寧だな。なんで最初からこのやらなかったんだろうな、この攻撃。

さらに気づく。五本目の刃が刺さった時、補助効果が一つcondから消えるのに。

そっちも打ち消すか。なんとまあ。

六つ、七つと容赦なく突き刺さる刃。

今の俺には〔城塞〕も〔反〕も、いつの間にかワコがかけてくれていたらしい“死亡時に対象を蘇生する”magic――〔回天〕も殘っていない。

ひとつ、この狀況をひっくり返せるとすれば“指定の時點に戻る”〔復元〕の魔法だが……事前にかけておかねばならないそれを、今思いついてもどうしようもない。後悔先に立たず。

気づけば折られた槍は手元になく、

鮫歯刃も今、柄を砕かれ水飛沫となって消滅していっている。

MPに加えSPも盡き、

HPも、そろそろ盡きる。

骨】で“致死ダメージを一度なら耐えられる”が、

通り過ぎてもなお弧を描いて戻ってくる、この無數の刃の前ではそれも無意味だろう。

まあ、うん。

さすがに死ぬか。これは。

むしろ俺なんぞは、もっと早くに死ぬべきだったんだろう。

こいつらの言ったことは、いちいちもっともだ。

増えていく傷。

足元に広がる溜まり。

「うっ、……ううっ」

こちらに手をかざしたまま、やけにつらそうにしている村石。

たぶん、そうか。

無抵抗の奴を傷つけ続けるのは、良心が咎めたりして苦痛なのだろう、普通は。

「もういいよっ、とわちゃん!」

それを察したのか、が村石を止めようと抱きつく。

まあ止めようが止めまいが、このままほっとけば俺は普通に死ぬが。

「やすな……」

「とわちゃんが人殺しになること、ないよ。――だからあとはすなが、私が、やるから……っ」

止めを買って出る。別に期待はしていなかったが、見逃すつもりはないらしい。

村石が力し、腕を下ろすのと同時に、無數の刃は一斉に消える。

俺に突き刺さっていた分も消えたため、栓を失った傷口からはどっとが。

による凄まじいめまい。もう死んだも同然だろこれ俺。

「……〔古の太(ソル・ニゲル)〕」

杖を抱えて唱える

その頭上に出現する、青黒く燃え上がる巨大な火の玉。

スカラなんか目じゃねえ大きさ。も殘さないつもりか。いやどうせ消えるか。

「やぁっ!」

気合いとともに撃ち下ろされる火の玉。

もはや立っているのがやっとで、避けようという気さえ起きない。

そういや速水がうなだれたまんまほっとかれているけど、あっちの治療とかしなくていいのか。

どうでもいいこと考えてるな。

実際の速度よりもやけにゆっくりと迫る、不吉な太のような青黒。

ふと、

現狀とは全然関係ない、昔のことを思い出す。

もうどこにあったかも覚えていない、どこかの公園。

に登って遊ぶ俺――ぼく。

それを見上げながらついてまわる母親――おかあさん。

そんなしんぱいそうにしなくても、ぼくはおちたりしないよ。

また、別の記憶。

街の科學館。

親戚が働いている場所なのもあってか、たびたび父親――お父さんに連れてきてもらったっけ。

妹――彌も一緒だった。

お父さんとははぐれてしまった。

原因はなんだったか……はぐれたということしか覚えていない。

不安そうに、腕にほとんど抱きつくようにしてくっついてくる彌。

このころの彌は、今よりずっと恐がりだったな。

だから大丈夫だと、心配ないと聲をかけながら歩き、お父さんを探し――

いろいろなことが思い出される。

今はもういない、あいつらと馬鹿騒ぎした小學校時代。

思い出したくもない中學時代は、しかし先生(センセイ)と知り合えた時期でもあったか。

それから高校に上がって、

人を殺して、

レベルが上がって、変な力を得て、

そのせいもあって、妙な流れで喜連川らと近しくなって……

なんだかんだ言いつつ、やりつつ、

案外それなりに楽しんでいたかもしれない。俺も、また。

まあ、それらすべても、

これで終わり。

「――」

青黒い太に呑まれる俺。

一切の慈悲なく焼かれる

死に際して意識を失う、その覚はあまりにも――

気持ち悪かった。

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