《現実でレベル上げてどうすんだremix》行きて帰らじ

〈システムてきごうしゃ_class:███ が 死亡 しました〉

〈じょうけんをみたしたため 隠しspecial_〖continue〗 をはつどうします〉

〈たいしょうのにくたいがしょうしつしてます〉

〈ひつようなじょうほうを AC よりロード

うるせえな

〈‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥〉

せっかく終わったのに、余計なことすんな

〈‥‥‥‥‥‥‥‥〉

ああもう、これ取り消し不可か

しかたねえからそこは諦めるが

〈‥‥‥‥〉

とりあえずはこれで

〈‥‥〉

もう勝手なことはできねえだろ

〈‥〉

じゃあな

さんざ利用しといて、悪いとは思うが

〈〉

ん、

なんだ?

「んあ?」

知らず、間抜けな聲が出た。

ついさっきまで変なところにいたような気もするが、よく思い出せない。

それより目下の問題は――

のない地平。

速水が展開していた不思議空間とは、似ているようで違う。

判然としない、空と地面の境界。

というか地面があるかどうかすら怪しい。たしかにここに立っているはずだが、靴底にがないため宙に浮いているようにもじる。

そして広大な空間の遙か遠く、夜空の星のような距離に、

膨大な量の文字が全周、全面に浮かび、流れている。

一つ一つがなんの文字、なんの文章なのかは、じっと目を凝らしてもわからない。

どころかあれらが俺の知っている文字と同じ類のものとも、どうにも思えない。

味の判然としない文字が茫々と浮かぶ、明るくも暗くもない空間。

……てかそもそも、なんで俺はこんなとこにいるんだ?

速水らと殺し合って、殺して殺されて、

俺はたしかに、死んで消滅したはず。

であればここは、地獄か。

天國ってことは、萬一にもないだろう。他でもない俺だし。

不意に、

「ふむ」

背後から聲。

「ともかくも、呼びこめたか。恙無し」

振り向けばそこにいたのは、小柄な人

……人、だろうか。全の印象としては年だが、その実、人種も年齢も別も判然としない、特徴の摑めない曖昧な顔立ち。著ている服は簡素で、どの時代にもありそうだし如何な時代にもそぐわないような気もする。

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すべてが不確かという點では、この空間には似つかわしいか。

「訝っているようだな。我がなんであるか、見當つかなんだか?」

そんな奴が、一歩踏み出しつつ俺に問いかけてくる。

見當か。

どことなく、こいつにはあのミコトと似たような雰囲気がある。

ならばこの場合、妥當な可能は……

「システム製作者」

「ああ、さほどに、愚鈍なわけでもないようだ」

俺の返答を聞き、若干満足げな様子を見せ、

「――察しのとおり、我は“神”。世界を統べる者。……そして汝(なれ)の言う“レベル持ち”の力を創り、下界のものどもに賜うたのも、我ぞ」

両手を広げて自己紹介。

この不思議空間も、ひいては自の言う下界――つまり俺がさっきまでいた世界も、

すべてが我がものだとでもいうような、そんな態度。

まあ本當に神様なら、そういうもんなんだろう。

「で、なんの用だ。てか、なんで俺はここに?」

「不遜。ま、若人には月並な態度よな。その程度で腹は立てまい。……で、ふむ。汝がここにおる理由なぞ、知れたこと、我が呼んだからに決まっておろう」

俺の質問に、他になにが考えられる? というじで答える自稱神。

言われてみれば、ここで気がつく前、なにかに引っ張られたじがしたような。

というか、今の俺は生きているのか? 死んでないのか? そもそもここはどこなのか。なんのために俺を呼んだのか。疑問は盡きない。

……あ、ひとつ疑問解消。どうやらステータスボードは出せるらしい。“cond:通常”だから死んではいないようだが……その隣にもう一つ“(死亡+1)”とかいう表記もある。つまり、村石とに殺されたのも間違いはない、のか?

「そして、用であったな。――ああその前に、此処が何処であるかにも答えてやろう」

こちらの考えなどお見通し、という顔の神。

一応【見る】が、やはり“NO DATA”か。

「此処は“神域”。世界のすべてとアカシャの記録へと通ずる、我が領域。――まわりを見るがいい。銀河の如く流るるあれらこそ、世界の本質を寫す“真言”。あれらを読み解き、そして書き換えることこそが、世界に干渉する……すなわち、神の業よ」

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見ろと言われるまま、再度周囲に目を向ける。

まあ、すごい景ではある。滅茶苦茶にバグッたプラネタリウムのようでもあるが。

「……そう、神の業。下界にばら撒いた、汝の言う“レベル持ち”の力――それを擔う“システム”を創り出したのもまた、同じ」

語りながら、目を伏せ俺から見て左へと歩み始める自稱神。

なんというかさっきからどうも、芝居がかっている。わざとなのか素なのかはわからないが。

「神にのみ許された力の行使。なれど神ならぬで、その領域に干渉した不遜なる者が現れた――」

一度言葉を切り、立ち止まり、

「――だから汝を呼んだのだ。久坂厳児よ」

目を向け、俺を指差して言う神。

やはり芝居がかった、犯行を突き止めた探偵のような仕草。

しかし言われたことに関しては、はて心當たりがない。

「そも、四人分の力を宿しながら平然としていた時點で、危ぶむべきではあった。されど所詮は定命、の數にもなるまいと捨て置いたが……それが仇となったようだ」

俺に聞かせる気があるのかないのか、なかばひとり言のようにぼやく自稱神。

それを眺めていたら、

「よもや自覚なしか? つい先程、汝は“システム”に直接(・・)干渉したであろう」

疑問そうなのが顔に出たのか、的な指摘をされる。

干渉……先程というと、ここへ來る直前の、変なところにいたじか。

けどいまいち、ぼんやりとしか思い出せねえんだよな。

なんか、邪魔っけなのをどっかへやったような覚なら、おぼろげにある。

「それだ。我が“システム”により貸し與えているだけにすぎん力を、如何なるか、汝は乗っ取り真に己がとした……」

若干業腹な様子が窺える神。

わざとじゃないから勘弁してくれ。……では、すまなそうだ。

「定命には過ぎた力を持ちながら、今の汝は我が管理下より離れている。斯様な存在が我が世界に如何な影響を及ぼすか……未知數な以上、我も対処せざるをえんというわけだ」

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不意に、

一瞬で俺の懐まで接近してくる神。

思わず跳び退り、先程までと同じくらい距離を取る。

「ふむ。良い反応だな。定命にしては、だが」

「!」

しかし次の瞬間には、またいつの間にかすぐそば、それも背後に回りこまれている。

目ではまったく捉えられなかったし、【警戒】等もまるで役に立っていない。

なるほど。

神かどうかはともかく、

“レベル持ち”などとは次元の違う、異常な存在であることは確からしい。

「言っておくが、我に歯向かうは全きの徒労よ。……そうだな、“Lv:0”が汝に挑むよりも無謀、と言えば汝にも理解が及ぼう。そも我にしてみれば、“Lv:0”と汝の間にも、さしたる違いは見出せんがな」

余裕たっぷり、というよりは、ただ事実だけを告げているような聲。

こうなると【警戒】が働かないのも、如何な抵抗も無駄だから、ということだろうか。

「目くそ鼻くそだってんなら、俺なんか捨て置いてもいいんじゃねえか?」

「そういうわけにもいかぬ。そも、膂力の差や異常の有無などは、この場合些事よ。我にとって――世界にとって問題なのは、汝の“異質さ”」

再度前に回りこみ、至近距離から指差してくる神。

異質さと言われても、やはり自覚がないからぴんと來ない。

ああでも、以前ミコトに説明されたか。今言われているのも、あれのことかもしれない。

「全知全能たる我に、想定外(・・・)などということは本來ありえん。そんなありえないはずのものに、いつまでも存在してもらっては困るのだよ。我も、世界も」

おもむろに片手を挙げ、ぱちん、と神が指を鳴らす。

すると一瞬で俺の両手足になにかが巻きつき、たちまちきがとれなくなる。

「心配せずとも、殺しはせん。そも、神ので定命に直接手を下すのは法度でな」

謎の文字による文章。

それらが鎖狀になり、俺を拘束しているのだった。

天球からびる四行の文章は、しかし間近で見てもなにが書かれているのか判然としない。

「ともあれ、あまりかれても面倒なのでな。……否、面倒というなら汝の存在そのものがそうか。やれやれ、まったく……“システム”の力など與えねば、あるいはこのようなこともなかったかもしれぬが、詮無きこと、か」

「つか」

縛られついでに、腕からだらりと力を抜き、ぶら下がるようにし、

諦めに、しの呆れをまぎれさせつつ、俺は訊ねてみる。

「なんで“レベル持ち”なんて作ったんだ? あんた。そもそもこの力って、なんなんだ?」

かねてよりの疑問。

本といえば、本。

返答は、たいして期待していなかったが、

「……ふむ、まあよかろう。汝に知られようと、もはや如何な痛にもなるまい」

あるいはただの気まぐれか、答えてはくれるらしい。

自稱神の、どこか無機質な表

「退屈だから」

それがその答えの瞬間、

いかにも人間臭いじに。

「我がこの世界の神となってから、汝ら定命には想像もつかぬだろうほどの時が流れたわけだが……つまらんのだよ、どうにも。下界に生くるものどもの、決まりきったような生と死の繰り返しが」

つまらん、と言いつつ、まるで悪戯を明かす鬼のような楽しげな口調。

それを見て俺は、なんとなく既視を覚える。

「とくに下らんのが、汝らニンゲンだ。波風立てまいと誰もが本を隠し、その実言の端々に我を滲ませておる稽さよ。斯様に恥を曬すのであれば、ただ食って蠢いてわって眠るを繰り返すのみの畜生ばらの方が、よほど上等とすらいえる。それに気づかんのもまた、稽……」

ああそうか。

こいつの態度はあれだ、あの元実習生によく似ている。

なまじなんでも出來るせいで変に拗らせた奴、とでもいうか。

「故に我が、解放してやろうと思ってな。虛飾で塗り固められた偽りの平穏を、ニンゲンの本を以て打ち破り、一切の誤魔化しのない真の楽に塗り替えんがために」

「要は、なんだ。殺し合いでもさせようとしたのか」

「それもよかろう。我に任せ過ぎたる力を振るうも良し。それに抗う者がいても、また良し。なんでも良いのだよ。我が愉しめるのであれば、な」

子供の砂遊び、みたいなものなのだろう。

砂場にを掘って、適當な蟲を放り込んで、這い上がろうとする様を眺める。

もしくは捕食被捕食らせ、喰らい合わせる。

こいつのやったことはつまり、それと同じ。

「――さて、そのためにも、まずは汝を早々に処分せねば」

「どうすんだ? 俺を」

「先も言ったように、殺すわけにはいかん。なればただ、放り去るのみよ」

言うが、俺の足元に黒いが生じる。

すら呑みこむような、真っ黒のが。

「汝がこれより向かうは、世界と世界の間隙。如何な世界にも――當然此処にも繋がらぬ、一方通行の時空の墓標よ」

それは殺すのとどう違うのか。

そう思ったが、口に出す気にはなれなかった。

蟲をいたぶって喜ぶような自稱神の顔を見て、げんなりしたのだ。

まあでも、最期に見るのがそんなものなのは、俺にはあつらえ向きなのかもしれない。

今まで好き勝手やってきた報いと思えば。

「では、永遠に、さよならだ。久坂厳児」

そうしてそんな、心ない挨拶と同時に、

四肢の文字の束縛はちぎれ、俺はどこまでもどこまでも、落ちていく――

「――ふむ、やれやれ。これでもはや懸念はなし。計畫も第二段階へと移せよう。……さしあたってはEXPのバランス調整と、転職システムの実裝か。先の“異質”が再び生じぬよう、パラメータ配分等もまた見直さねばなるまいが……」

踵を返し、呟きながら歩くそいつの、

その背後に忽然と生じるのは、扉のような四角い

「よっと」

そこから飛び出し、俺(・)は、

「――おげあ?!!」

無防備な神の背を、思い切り蹴りつける。

「――??!?!!!?!!」

思いの外の勢いで、遙か地平まで飛んでいく自稱神。

それを俺は同じ速度で追いかけ、

「げおう゛ッ!?!」

跳びつき、踏み抜き、

地面にい止めるように靜止させる。

「うし。ちゃんと効いてるな」

「?! な゛っ、あ、デメェは……っ」

々の安堵と若干の満足。

そんな俺の呟きが聞こえたのか、うつ伏せできがとれない自稱神が、首だけかし俺の顔を視界に捉える。

「なぜここにいる?! 久坂厳児!!!」

「どうも、久坂厳児です」

驚愕に歪む顔を見下ろし、挨拶。

それが聞こえてかいないでか、神は起き上がろうと蟲のように足掻き出す。

なのであらためて重をかけなおす。みしみし。

「があ゛あッ?! ――なぜ、なぜだッ!? なぜ我が、ニンゲン風にッ……」

「ああ、そりゃ【同敗】の効果だな」

「ッ? ……なに、を、」

「“存在の格の違いを無視する”力。あんたの知らない世界の理。この一年半(・・・)で、俺もいろいろ変わったってこった。おかげさまでな」

「あ゛あああッ――」

わけがわからない様子で聲を絞り出す神へ、俺はあまり説明する気のない説明を口にする。

まあ、いろいろあったのだ。

自稱神に落とされた先――どこでもない世界と世界の狹間で、

ひょんなことから、異なる世界へ渡るを手にれ、

それでもって、あちこち世界を何度か巡り、

またひょんなことから、先程言った【同敗】の力を得て、

それからここへと帰る目途がつき、俺はこうして再び戻ってきた。

その所要時間、大一年と半年。

「……ぞう、か、テメェもまた、“転世”の、を……くそ、が! そのまま何処へなりとも行けばいいものを、なぜ我の邪魔を……ッ」

「いろいろ知ったんだよ、俺も。あんたを放置すると、故郷にあんまよろしくない影響があることとか。里心? みてえなもんだ」

「ふざ、巫山戯おってっ! ――は、ハハッ、だが無駄なことッ。如何な力を得ようと、たかが定命が神を滅することなど不可能! それは絶対の理よ! 現に汝は、こうして我を押さえつけるのが関の山なのではないか?」

幾分混から立ち直ったのか、自稱神が挑発めいた指摘を。

そしてそれは、じつは図星。

実際、【同敗】は神格をぶん毆れる力だが、それだけだ。

そもそも神とは世界と等しく、世界がある限り神は不滅。

仮にこいつを殺すことができたとて、それで故郷が滅ぶのでは割に合わないし、意味がない。

「ッハッハハハハハ!! どうした、出來ぬのか? 出來ぬであろうな! 理解したか? 所詮それが定命の限界! に縛られた生ゴミ風が――」

とはいえ、関係ない。

というか俺は、もともと自稱神を殺しに來たわけじゃないし、その必要もない。

ただぶん毆り、

ほんのしこいつを揺させれば、

その存在をいくらかでも揺るがせれられれば、それで事は足りる。

「んであとのことは、本職(・・)に引き継ぎゃいい。いけるか?」

『 も ち ろ ん 』

瞬間、

世界が軋む。

「なあっ?!!」

驚愕する自稱神の聲を置き去りにし、俺はひとまず跳んで退避。

同時に一瞬前までいた場所がばりばりと破れ、

現れたのは巨大でごちゃごちゃとした、緑(・・)の顎(あぎと)。

「あがあ゛ああッ!!?」

それは出現と同時に一瞬で閉じ、噛みつくように自稱神のを拘束。

結果、神は下半だけ埋まったような格好に。顎はそのままがっちりと固まり、周囲二十メートルほどを複雑で奇怪な文様の石畳狀に変化させる。

俺がその縁に著地するのと同時に、

「ふうっ。ありがとう、厳児くん。キミのおかげで、ようやくこの不埒者を捕えることができた」

中央付近、自稱神のそばに音もなく現れたのは、全緑づくめの奇妙な奴。

名乗る名はミコト。

余所の世界の危機に駆けつけた、おせっかいな神格存在。

「気にすんな。もともとお前を當てにしての行だ」

「ふふっ、それならますますありがとうだよ。キミに頼られるのは、なかなかどうして悪い気がしない」

「さよけ」

なぜだか嬉しそうなミコトへと、生返事しつつなんとなく歩み寄る。

そうすると必然、その足元にいる自稱神にも近づくわけで。

「~~~~~ッ! ふざけ、フザケンなぁっ!! こ、こんな、こんなもんで我をどうこう出來るなど、」

「無駄だよ。ボクが直接摑んだ(・・・・・)以上、もうオマエ程度の神格じゃ逃れるなんか、ない」

「うぐ、うお゛おおおおおおおお……ッ!」

悪態を喚き散らす神を、冷ややかに見下ろし淡々と告げるミコト。

それでも拘束から逃れようと藻掻くが、自稱神のは一ミリたりとも抜け出す方向にはかない。

むしろを張るような文様に侵食されつつ、しずつ沈んでいるようにすら見える。

「てめ、テメェら!! こんなことしてただですむと思ってんのか?! わ、我を殺せば、世界は……」

先程から若干口調が崩れている神。

いよいよ灑落にならんと思ったのか、世界を盾に命乞いまでしだす。

「そうだね。だから今、ボクはオマエを捕まえるのと並行して、世界の管理権限、その剝奪の処理もしている。……この世界に不正に侵し、不正に取得した管理権限を、ね」

「――!?」

しかしミコトはやはり無慈悲に告げ、

加えて罪を、自稱神の自稱(・・)たる所以を、暴く。

の気が引いたような反応。いや、神格に流なんぞないだろうが。

ともあれ、それは以前にもミコトからし聞いたことでもあり、

また俺も、いくつもの世界を訪れる過程で見知り、あらためて確信したことでもあったが――

この自稱神は元來、俺のいた世界の神などではない。

「厳児くんのトコの本來の神は、明確な意識――自我を有しない、いわば神威(しんい)の塊。その自我のなさにつけこみ、勝手に神域を構築して居ついた寄生蟲。まがいものの神。それがオマエの正……漂流する異神(いしん)。いや、擬神(ぎしん)か」

「……………………ッ」

こいつがいつから故郷の神をやっていたのか、それはわからない。

ただなくとも、相當長い間ではあったはずだ。でなければ“レベル持ち”などという、世界の理を明らかに無視した存在を作ることは出來なかったはず。

長い年月をかけ、

世界に自の存在をしずつ馴染ませつつ、歪ませる。

そうする果てに生み出すことができた、出鱈目な理(ルール)。

それが“レベル持ち”。その“システム”

「管理権限の不正取得。アカシャの記録――ACへの不正アクセス。それをすための勝手な神域構築……數え役満もいいとこな罪狀だね」

「これからこいつ、どうなるんだ? 裁判にでもかけんのか?」

「あはは、そういうカッチリとした決まりがあれば、ある意味では楽だったんだけどね。前にも言ったかな? 神様同士の互助會。そこには神格の封印とか滅卻とか、そういうのが得意なヤツもいるから、とりあえずはそっちに引き渡しっていうか、丸投げかな。――そうするためにもまず今は、ガッチガチに固めて持ち運びしやすいようにしないと……」

「~~ッ、――! ~~~ッ……!」

気づけば足元の石畳狀の文様、その範囲がずいぶんとんでいる。

それに反比例するように、自稱神のを蝕む文様。

早まわしに苔むすように、文様は首元、口元へと這い上がるように侵食していき……

「……――」

ほどなく、すべてを覆う。

地面の文様は消え、その中心にあった神の上半は、完全に固まり前衛的な彫刻のような有様に。

かと思いきや、今度はそれがみるみるとんでいき……

「……これでよし」

最終的には掌大の小石のような塊に。

それを拾い上げ、ミコトが満足げにひとつ頷いている。

「終わりか?」

「うん。後始末として、この神域の消去とか本來の神の様子見たりとか、いろいろあるけど……なくともこれで、キミの世界が今以上に変質する懸念はなくなった」

「そう、か」

念のためとった確認にも、にこやかな返答。

それをけ、知らず俺も一息吐く。

なんであれ、家族も暮らしている世界だ。おかしくならないに越したことはない。

びきびき、と。

不意に、そこらじゅうから軋むような異音。

いや、音というかこれは、空間そのものの歪み、その発現か。

見れば天球を覆っていた文字の羅列が、しずつ崩れ落ち始めてもいる。

「と、主なき神域、そう長くも持たないか。どうする? お家帰るなら送るけど……」

「いや、いい。てか、俺がこのまま帰るのはちとまずい」

「あー……」

神域の崩壊をけ、気を利かせてそう提案してくるミコト。

しかし俺は、やむなくそれを斷る。返答をけたミコトもまた、こちらの事を察した様子。

俺が帰るとまずい理由。

ひとえにそれは、俺自と元の世界との、時間のずれ(・・)による。

【同敗】の力を得て、自稱神へ不意打ちかまそうと思い立った俺。

そしてそのためには、俺の知る中で奴が最も油斷しているだろう瞬間――つまり“俺を世界から追い出した直後の時點”へと戻るのが最適と判斷した。なにか一仕事終えた奴が気を抜くのは、例の……車座? の弾? だったかを使う奴を殺した時にも學んだこと。

しかし俺が【同敗】を得たのは、元の世界を離れてからで一年ほど経ったころ。

最適の瞬間に戻る――そのためには“時間の逆行”の実現が必須。

如何な世界であろうとも、まあ大抵時間は流れているもの。

しかしその“流れの方向”は一定ではない。だから“世界を渡る力”を調節し、いくつかの世界を上手いこと経由すれば、元の世界で過ぎてしまった時間を帳消しにする時點(・・)に戻ることは、一応不可能でもない。この場合でも原則としてまったくの過去――つまり俺が世界を追い出される前とか、もっといえば生まれる前とかにはやはり戻れないのだが、さておき。

世界と、そこに存在する萬象。

それらすべては“その世界固有の時間の流れ”に屬している。

たとえばある存在が別の世界へ移し、そこで一週間過ごした場合、その世界の時間の流れがどうあれ、帰ってこれれば元の世界でも経過している時間は一週間となり、主観的なずれは生じない。

翻って今の俺は、不意打ちかますというそれだけのために、割かし無理くり世界を移し“主観的な時間の逆行”を実現してしまっている。

言い換えれば、元の世界からすれば俺は“未來の存在”だ。由來はたしかにその世界だが屬する時間がずれてしまっている俺。そんな存在が世界にどんな影響を與えるか……正直なところは、よくわからない。時空の歪みで世界があれになるかもしれないし、案外なにも起きないのかもしれない。

「――つって、楽観すんのもな。せっかくこうして面倒がひとつ片づいたってのに」

「そう、だね。わざわざどうなるか確かめるよりは、それが無難かな」

「だからまあ、里帰りはまたの機會に。適當に世界を渡りつつ、しずつ時間のずれを戻して、それからだな」

故郷での俺の扱い如何によっては、帰るに帰れないかもしれないが。順當に死んだことにされているかもしれないし、“レベル持ち”犯罪者として報じられている可能もある。けど、それらの場合はしかたない。家族に接などはせず、こっそり故郷を眺めるだけに留めよう。

ちなみに今も鋭意崩壊中のこの神域。ここは元の世界に屬しながらもある種隔離された領域なので、ただいる分には俺でもとくに問題はない。

かといって長居する理由もない。むしろそろそろ出ないと崩壊に巻きこまれて、またぞろどこでもない次元をさまようことになるだろう。

「っつうわけで俺は行、――ああそうだ」

ここから出ようとしたところで、ひとつ野暮用を思い出す。

「もののついでに、これ、送ってやってくんねえ?」

「これ、って……」

〔蘇生〕のmagicを発

そうしてとともに現れたのは、速水の仲間である間。

橫たわったそのを、足先でミコトの方に転がし、頼んでみる。

「…………」

〔蘇生〕された間はしかし、目を閉じ眠るようにぐったりしている。通常〔蘇生〕した対象はそのまま目を覚ますものだが……“システム”から離れた影響か、今の俺は力の融通がわりと利く。たとえば今の場合、間には“cond:気絶”を付與した狀態で生き返ってもらっている。

「キミを殺そうとしたヤツの仲間、だよね? なんでわざわざ――あっ! その節はホント、なんの手助けもできなくてゴメンっていうか、」

「気にしてねえよ。つかお前、立場上俺に肩れなんかできねえだろ。余所の生きの生き死にへの介法度、だったか?」

「うん。でも……」

「それでも気になんなら、これ送ってくれりゃそれでちゃらだ。……個人的な頼みごとける時點で、結構な贔屓のような気もすっけど」

「や、それくらいなら問題ないよ。生き返したのは厳児くんだし、この子は元の場所、時間に戻るだけだし。……でもどうしてそんな、けをかけるような……」

別にミコトが思うような殊勝な理由ではない。

たんに殺したままにしておいて速水らが復讐などに走り、それで家族や知り合い等を狙われても寢覚めが悪いという、要はそれだけ。

罪の清算でもないし、許しを請う意味合いもない。

あくまで自分の気分の問題であり、

つまり俺は結局やはり、どこまでいっても手前勝手にしかなれないのだろう。

「んー、ま、いいさ。請け負うよ。でもこれだけじゃなく……貸し借りとかじゃなくってさ? なにかあったら、いつでもボクを頼ってくれていいから、ね?」

「……ああ。機會がありゃ、な」

そんな手前勝手野郎にも、こうして時たま、手を差しべようとする奴はいる。

それに対して、もうしありがたがるべきなんだろうし、

あまり邪険にすべきでもないんだろうが……

「そろそろ、本當に出ねえとな」

「わ、だね。完全に崩壊してくれれば、逆に後始末が楽でいいけど……」

ほんのし、今はもう遠い高校生活の、

あの気のいい同級生らの面影を頭に浮かべつつ、

「じゃあな」

「うん。またね、厳児くん」

挨拶もそこそこに、俺は“世界を渡る力”――【境界廊】のり口を開く。

ミコトの返事を背にそこをくぐれば、

次の瞬間、俺が立っているのは無限に続くかのような、

縦橫無盡に広がる石造りめいた回廊、その途中。

一度なんとなくふり返り、再び前を向いた俺は、

「さて、どうすっかな」

やはりなんとなくそう呟いてから、歩き出す。

この先がどこへ続くのか。なにより俺自これからどうなるのか。

どうするのか。

そのへんさほど考えもしない、いつもの調子、いつのも歩幅で。

これにて、一応の完結です。

楽しんでいただけたのならば、幸いです。

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