《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》11 『雪』
…………。
ん?
なに黙ってんだって?
わり。
今回の話はちょっと々考えちまってよ。
早速、聞いてくれよ。
ものすげー昔の話よ。
とある村に若いにーちゃんとおっさんの親子がいたわけ。
二人は冬の山に狩りに行くんだけどよ、途中で吹雪いてきて小屋に逃げ込むわけよ。
で、そこで二人で休んでると、いきなり若いねーちゃんがって來るわけ。
んでよ、おっさんの方に息を吹き掛けると、おっさんはたちまちのに凍ってしんじまうんだ。
で、は次に息子のニーちゃんの方へ近づくのよ。
にーちゃんが殺されると思った瞬間、はこんなことを言うワケ。
「私は雪だ。お前も殺そうと思ったが、お前はまだ若いから許してやろう。その代わり、今日あったことを誰かに話せば、お前を殺すことになるぞ」
ってよ。
見逃してもらったにーちゃんは、一人生き延びるわけ。
でよ。
それから數年経ったある日、にーちゃんの家にが訪ねて來るのよ。
それがまた人のねーちゃんでよ。
お互いにすっかり惹かれ合うわけ。
ほどなく二人は結婚して、子供にも恵まれて、幸せに過ごすんだよ。
でもよ。
ある夜、にーちゃんが嫁に、數年前にあった雪山での出來事を話すんだよ。
「昔、雪山で雪に出會った。今考えると、お前はあの時の雪に似ているなあ」
ってよ。
そしたら、は急に顔を変えてよ、正を表すわけ。
「あれほど人に話してはならんと言ったのに。仕方がない。私はお前を殺さねばならない」
そう。
嫁は、あの時親父を殺した雪だったのよ。
でもよ。
雪は結局、にーちゃんも子供も殺さず、姿を消したのよ。
それから2度とにーちゃんの前に姿を見せず、雪山にも現れなかったそうだよ。
この話聞いてよ。
俺ぁ、しばらく考えたよ。
するとよ。
もしかしたら、雪には何か“掟”みてーなもんがあったんじゃねーかって気がしてきたのよ。
雪には雪山にってきた人間を殺さないといけない“掟”があった。
だからおっさんを殺した。
本當は息子も殺らないといけなかった。
でも、雪はにーちゃんに一目惚れしてしまって、それが出來なかった。
でよ。
數年経って、雪はにーちゃんのとこに會いに行った。
本當はそんなことしちゃいけねーと思いつつよ。
心に勝てなかったんだな。
結局、二人は出來ちまう。
で、しばらくは幸せに暮らすのよ。
過去の出來事を隠しつつ。
でもよ。
にーちゃんに雪山での話をされたときよ。
ついに雪は隠してきた罪の重さに耐えかねて、自分の正を明かしたんじゃねーかな。
そこにはよ、掟も糞もなかったと思うんだよ。
単純によ、雪山の出來事を口に出された以上、もう一緒にはいられない、と雪は考えたんだよ。
そして、にーちゃんの前から消えた。
もしかしたら、自ら命も絶ったのかもしれねー。
……でもよ。
俺は思うんだよ。
にーちゃんの方も、途中から全部分かってたのかもしれねー。
ってよ。
嫁は雪じゃないのか。
そう気付きながらよ、にーちゃんは嫁を嫌いになれなかったのかもしれねー。
それは心底雪に惚れていたからかもしれねーし、子供のことを想ってのことかもしれねー。
俺ならどうか。
ユミが自分の家族を殺した仇だったらどう思うか。
……駄目だぜ。
頭がついていかねー。
ほんと、バカな自分がけねーよ。
とにかくそうやってよ。
二人はお互いに真実(ほんとう)から目をそらし続けて暮らしてたのかもしれねー。
たまらねえけど、そういう結婚生活よ。
そんでにーちゃんは、その歪な生活に終止符を打つために、あえて「雪山の出來事」を雪に話したんじゃねえのかな。
俺ぁ、馬鹿だからよ。
この二人が幸せになる道はなかったのか、って考えちまうのよ。
誰が悪(わり)ぃのか。
誰も悪くねーのか。
それとも全員が悪ぃのか。
悪ぃなら、どれだけ悪ぃのか。
頭の足りねえ俺には分からねーんだ。
ただよ。
間違いのない人間なんていねーってことと。
惚れたはれたのことはどうしようもねーってこと。
そのくらいは分かるぜ。
頭がいい奴なら、二人がどうすればよかったのか、教えてくれんのかな。
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